仕事人

社会にはいろいろな仕事があるよ。気になる仕事や仕事人をたくさん見つけよう!

大阪府に関連のある仕事人
1968年 生まれ 出身地 大阪府
奥脇おくわき まなぶ
子供の頃の夢: 天文学者
クラブ活動(中学校): テニス部
仕事内容
社員が働きやすいしょくをつくり、会社がけいえい理念に沿ってはってん・成長していけるように、みんなで協力できるかんきょうをつくる。
自己紹介
いろいろなものにきょうを持ちます。こだわりが強く、そういうところを見せないようにしていますが、つい細かいことにもこだわってしまいます。人と話すのは苦手ですが、思いがいっしょの人とは楽しくごせます。休みの日はモータースポーツやアニメ、ドラマなどをテレビでよく見ています。

※このページに書いてある内容は取材日(2023年12月05日)時点のものです

「働きやすさ」を一番大事にしている、ITシステム開発の会社

「働きやすさ」を一番大事にしている、ITシステム開発の会社

わたしは、大阪府大阪市にある「ゆうげんがいしゃおくしんシステム」で社長をつとめています。当社では、ぎょうぎょうかいぜんをしたりサポートをしたりするためのITシステムの開発や、ぎょうぎょうせい機関などのホームページせいさくを手がけています。2000年のせつりつ時から「働きやすい会社」にすることを一番大事に考え、ITシステム開発会社としてはめずらしく「100%自社内で」開発を行っています。
つうじょう、ITシステム開発会社では社員がきゃくぎょう内に席を置いて開発するケースが多いのですが、おくしんシステムではそれをしていません。わたしは、働きやすい会社には、時間と場所にしばられない働き方がけつだと考えており、おくしんシステムでは「残業をゼロにすること」と「どこでも仕事ができる」ことを目指したしゅうぎょうそくを整えています。他社にじょうちゅうする場合は、じょうちゅう先のぎょうしゅうぎょうけいたいに合わせて働くことになり、これらの目標が達成できなくなるため、全社員が当社のしゅうぎょうそくの中で働けるよう、全員が自社内で開発を行っています。
おくしんシステムのメンバーはわたしふくめて12名。そのうち3名に身体しょうがいが、7名にせいしんしょうがいがあります。せいしんしょうがいになんびょうあわった人もいます。この話をすると「しょうがいしゃやとうためにつくった会社」だとよく言われますが、まったくそんなことはなく、いっぱんの会社をつくり、いっしょに働ける仲間づくりをしていったら、結果的にしょうがいのある人がえていったというのがじっさいのところです。

「働く力はあるのに働く場がない」人をようし、力をはっしてもらう

「働く力はあるのに働く場がない」人を雇用し、力を発揮してもらう

会社のせつりつ当初はさんも少なく、ずっと仕事をもらえるしょうもありませんでした。つうじょうさいよう活動を行うにはむずかしいじょうきょうの中、「時間と場所にしばられない働き方」というポリシーにマッチしていて、「働く力はあるのに働ける場がなくてこまっている人」をやとえたらたがいに“Win-Win(ウィンウィン。自分も相手も、そうほうとくをする形になること)”ではないかと考えました。そこで、目的に合う人がいそうなせつだんたいめぐったうちの一つが、しょうがいしゃしゅうろうえんせつでした。
外に出るのはむずかしいけれど、システムけいの仕事ができる人に来てほしいとお声がけしたところ、その3年後にわたしの話を覚えていてくれたしょくいんの方がれんらくをくれました。けいずいそんしょうによる身体しょうがいのあるだんせいがいて、プログラミングを学んでいるので、ざいたくきんでもだいじょうなら実習をしてみてほしいと。そこで実習をて2006年にようしたのが、最初の社員となったふくです。その後にやとった社員もほとんどがそうした形で、しゅうろうえんせつからの実習をて入社しています。げんざいはシングルマザーの社員も2名おり、当社で働いている者はみな何かしらのじょうかかえながら、力をはっしています。

にっぽうのコメントや対話で社員の様子をあくし、ぎょうをコーディネートする

日報のコメントや対話で社員の様子を把握し、業務をコーディネートする

わたしの主な仕事は、きん管理や会社としての大きなほうしん決定などのけいえいぜんぱんと、会社全体のぎょうをコーディネートすることです。たとえば、おくしんシステムではげんそくとして残業ゼロをじつげんしていますが、残業をなくそうとすると、一番いそがしい時期のぎょうりょうをもとに人を配置する必要があります。そうすると、いそがしくない時期には、各社員に多くの空き時間が生まれてしまう。その時期に、みんなの行動をこうりつする方法に集中的に取り組んでみたり、急に仕事が入ったときでもすぐ取りかかれるような仕組みをつくったりするなど、空き時間を今後の仕事に生かしていくためのせんりゃくてきな部分を考えています。ほかにも社員とのべつ相談で、働きにくいと相談を受けた部分のしゅうぎょうそくを変えたり、きんのバランスを見て、お金をかける分野やせつはんだんしたり、クライアントからのクレームなどのたいおうをしたりするのがわたしやくわりです。
また、社員が毎日記入するにっぽうにコメントも返信しています。自社開発のぎょうにっぽうシステム「Cactus(カクタス)」とせいしんしょうがいがある社員用のにっぽうシステム「SPIS(エスピス)」で社員とコメントをこうかんし、メンバーそれぞれのじょうきょうを共有しています。それ以外でも、日々の様子を見ていて気になることがあれば、朝礼後に少し会話をしたり、せいしんめんふくめて大きく体調をくずしていると感じた社員とは面談をして、じっくり話を聞いたりもします。
さらに、わたしがしなくてはならないもう一つの重要な仕事が、えいぎょうです。というのも、げんざいおくしんシステムで手がけている仕事は、「えいぎょう」の結果というよりは、自然と集まってきたものがほとんどだからです。実は、わたしは仕事の時間の約半分をおくしんシステムの社長業にあて、残り半分をCSR活動(ぎょうが負う社会的せきにんに関わる活動)や、しょうがいしゃように関するNPOの代表理事などだんたいの仕事に使っています。そうした活動をしているうちに、ごえんがあったぎょうだんたいからITシステムに関わる相談をいただくことがえ、結果的に当社の仕事の約3分の2をめるようになりました。げんじょうはそれで回っているものの、けいぞくして仕事をもらえる仕組みにはなっていません。えいぎょういまだに当社の課題であり、ちょうせんを続けているところです。

社員が働きやすいかんきょうをつくるため、オリジナルのせつやルールをどうにゅう

社員が働きやすい環境をつくるため、オリジナルの設備やルールを導入

社員が働きやすいかんきょうをつくるため、さまざまな取り組みを行っています。たとえばしょのトイレの入り口は、車いすを利用する社員も無理なく使えるようだんをなくし、ドアも引き戸を手作りしました。会議室や作業用のつくえは、下に車いすが入る高さのものを用意しています。また、体調をくずした社員が休めるベッドや、けいずいそんしょうのある社員がベッドを使うときのためのリフトもじょうしています。
発達しょうがいやせいしんしょうがいのあるスタッフに対しては、とくせいに合わせた仕事上のルールやせいをつくっています。せいしんしょうがいのある社員には、しょないで週1回、さらにわたしと月1回、体調や作業の仕方を話し合う「かえり」の時間をもうけているほか、仕事への集中のしすぎをふせぐために10時20分と15時20分から必ず約10分のきゅうけいを取ってもらうルールもつくりました。一つのことになやみすぎてしまうとくせいの人もいるので、仕事で30分なやんだらそれ以上は一人で考えず他の社員に相談する「30分ルール」というものもあります。また、「苦手なことはしない」をぜんていに、しょうがいのえいきょうでできない・やりたくないことはしんこくしてもらって、できる人がたんとうするように仕事をっています。
労働かんきょうでは、最初の社員入社時からざいたくきんをOKにし、人によってしゅっきんを週2、3日に調整しています。体調が悪いときには短時間きんができるせいや時差しゅっきんの利用ものうにしました。これらはげんざい行っている取り組みの一部ですが、必要なサポートは人によってことなることから、新しい社員が入ったときには、社員どうしがたがいに自分のしょうがいやはいりょしてほしいポイントを全員の前で説明する「しょうがいプレゼン」としつおうとうの時間をもうけ、はいりょしてほしいことを全員がたがいにかいし合い、てきせつなフォローをし合えるようにしています。

せつせいも、じょうきょうに合わせて変える。トライ&エラーがおもしろ

設備も制度も、状況に合わせて変える。トライ&エラーが面白い

ほかに、ためしてみたけれど上手に生かせなかったせつせいもたくさんあります。たとえば、仕事中にどうしてもねむってしまうとくせいがある社員に、耳元にそうちゃくすると頭がコックリしたしゅんかんにそれをけんしてしんどうするという、ねむぼう用のツールを用意しました。しかし、しばらくはこうがあったものの、すぐに本人がれて、器具がしんどうしても起きなくなってしまいました。次にをバランスボールに変えてみたのですが、これもれると器用にバランスを取りながらねむってしまい……。今はつくえの高さを自由に調整できるものにして、ねむくなったらつくえを高くし、立って仕事をする方法がうまくいっています。
また、メール作成に時間がかかるという社員用に「チャットGPT」というツールを取り入れています。これは、生成AIとばれるもので、まるで人間のようにぶんみゃくかいし、会話をすることができ、新たな文章やアイデアも生成できます。メール作成の場合、伝えたい大まかなないようを入力すると、すぐにてきせつな文面を出力してくれるのです。
仕事中、ふいにどうはげしくなって体調をくずしてしまうという社員には、みゃくはくじょうはかれるスマートウォッチをきゅうしました。以来、どうへんを感じたらすぐすうを見て、それほど上がっていなければ「気のせいか」と冷静になれるし、上がっていたらちゃんと休むというはんだんがしやすくなったそうです。
はいりょのポイントはじんかんきょうによって変わるので、以前のじょうしきのまま同じサポートを続けていてもうまくいきません。わたし自身が新しいツールをためすことも好きで、健康器具や新テクノロジーのイベントなどに行って、良さそうなものがあればすぐどうにゅうし、スタッフにためしてもらっています。日々トライ&エラーのかえしですが、それがまたおもしろくもあります。

せいしんしょうがいのある人が安定して働き続けられるように開発したにっぽうシステム

精神障がいのある人が安定して働き続けられるように開発した日報システム

にっぽうシステム「SPIS(エスピス)」は、「せいしんしょうがいのある人が安定して働き続けられるかんきょうをつくりたい」という思いから、当事者の社員といっしょに開発しました。かれらが落ち着いて仕事を続けるには、日によってことなる本人のじょうたいを、自分自身や周りの人がかいしたうえでたいおうすることが欠かせません。そこで、しょくで体調や気持ちのじょうたいを伝えるツールを開発しようと考えたのです。
とくちょうとして、利用者ごとに日々のじょうたいを入力するこうもくを選べるようにし、その日のじょうたいすうで打ちこめるようにしました。たとえば「不安になりやすい」というとくせいがあるなら、「不安に感じたか」「どくかんがあったか」などのこうもくせっていして、その日その日のすうを入力してもらいます。SPISでは日々のすうがグラフ化されるため、本人も自分の体調や心のじょうたいの変化をかえることができますし、それを上司や外部えんしゃが見れば、第三者もじょうたいに“波”があることをあくできます。目では見えにくい心のじょうたいを分かりやすく表すことで、周りのてきせつたいおうをサポートするものです。当事者がしょくに定着するうえでいかに役立つツールにできるか、が開発の大事なポイントでした。
目的はあくまで安定的に働けるしょくかんきょうづくりなので、SPIS自体を広めたいとか売り上げにこうけんさせたいという気持ちはまったくありません。むしろ他のるいツールが登場したり、こうしたノウハウの部分が広がっていったりしたらうれしいです。同じ目的で、SPISを使ってくれている会社どうしの交流会などもかいさいしています。SPISをどう使うかは、しきによってせんばんべつです。さまざまな使い方をおたがいに見て、しょくごとにせいしんしょうがいのある人が安定して働ける方法を考えてもらえたら、それにしたことはありません。じっさい、使い方のはばは広がっていて、しょうがいがある人にかぎらず、心が弱ってしまった人のしょくふっに役立てられたり、新人教育のために使われたりもしています。

日々、自分に何ができるかを考え、トライする

日々、自分に何ができるかを考え、トライする

社員のサポートやSPISに関わる取り組みなどがうまくいっていることを感じられるしゅんかんは、わたしにとってかけがえのないものです。こうした、かったるせいかいがなくめいかくな成果が見えにくい仕事へのモチベーションをたもっていけるのは、サポートや取り組みをけいぞくして良い方法や事例をやしていくことが、わたし自身のよろこびになっているからです。せいしんや身体がどんなじょうたいでも、それぞれが力をはっできる仕事にけ、仕事をしているしゅんかんに幸せだと感じられるかんきょうづくりをして、みんなが働くよろこびを感じられる世の中にしていきたい。最初は身の回りのせまはんからでも、そのための活動を続けていくことで、少しずつ広げることはできるはずです。
わたしの仕事と活動の究極的な目標は「ダイバーシティ&インクルージョン」(ねんれいせいべつこくせきとくせいなどさまざまなちがいをそんちょうし、みとめ合い、とくせいが生かされているじょうたい)がじつげんされた社会づくりと「世界平和」です。いずれも大きすぎる目標のため、きっとどうしたってたどりつくのはむずかしいでしょう。それでも、自分には何ができるのかを考え、トライし、少しでもこうみとめられたと思えるしゅんかんがあれば、やりがいになります。
しょうがいしゃよう」はむずかしいことではありません。当事者がそれぞれのしきに合った“働ける力”をそなえているのなら、かんきょうづくりさえすれば、じつげんできます。じっさいけいえいしゃのシビアな目で見ても、おくしんシステムの社員はらしい働きをしてくれています。そうした方と働くためにしきわたしたち仕組みをつくる側の人間ができるサポートは、さいだいげんかんきょうせいをしくすことだと思います。

だれかといっしょに目標に向かっていく大変さとおもしろさを、わかいころに味わった

誰かと一緒に目標に向かっていく大変さと面白さを、若いころに味わった

小学生のころは、ひたすらおちゃらけていた子どもでした。中学校では生徒会長をつとめ、学校行事などのうんえいに関わるうちに、他者とだんけつしてさまざまなことに取り組むおもしろさに気づきました。みんなといっしょに活動すると、自分一人では成しえない大きなことができて、周りの人を笑顔えがおにできると体感したのです。高校ではコンクールで日本一を取れるくらい有名なすいそうがく部に入部し、仲間といっしょに目標に向かってやりくことのしんどさとおもしろさ、達成感を味わいました。
一方で小学校から、「自分はなぜ生きているのか」をずっと考えている、少し変わった子どもでもありました。当時は「結局のところ、その答えは分からないだろう」という気がしていましたが、いつの間にか自然と「自分が世の中にできることを考えて取り組む」ことこそが、わたしの生きる道なのではないかと考えるようになりました。子どものころから続くそうした思いが、今の仕事や活動とつながっているように感じます。

だれとでも仲良く」ならなくていい。でも、「きらいの輪」の中にもっと多様なそんざいを入れてほしい

「誰とでも仲良く」ならなくていい。でも、「好き嫌いの輪」の中にもっと多様な存在を入れてほしい

わかいころが、人生のすべてを決めるわけではありません。この時期にこんなんなことがあっても、生きていくのに一生こまるというわけではありません。わたし自身も、周りの人たちと物事の感じ方が全然ちがうと思っていましたが、そうしたがいかんや人と全然話せなかったりしたけいけんも、きっと社会人になったときには生きてきます。むしろ、わかいうちにさまざまなことをして、広い意味で自分のきらいを知ることができると、後々、生きやすくなるのではないでしょうか。みなさんには、今とずっと同じ感覚・じょうたいのままで大人になるわけではないことを知っておいてほしいです。
わたしはダイバーシティ&インクルージョンのじつげんを目指していますが、これは別に「みんながだれとでも仲良くなる」という意味ではありません。人間、だれでも好きな人がいれば、きらいな人もいるのが当たり前です。ただ、その「きらいの輪」の中にもっと多様な人々を入れられるようにしてほしい。無理に合わせることではなく、いろいろな人たちがいることをかいしながら、自分に合う人と合わない人をはんだんして社会で生きていくことこそが、重要なのだと思いますから。

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取材・原稿作成:渡部 彩香(Playce)・東京書籍株式会社/撮影:合田 慎二