※このページに書いてある内容は取材日(2019年01月10日)時点のものです
会社の強みになる“新しい技術”を開発する
世界最大の斜張橋をつくるには
1つ目の「斜張橋」のプロジェクトについて,まず斜張橋というのは,塔から斜めに張ったケーブルを橋げたにつなぎ,支えるという構造の橋です。塔と塔の間の長さを「支間長」というのですが,現在,世の中にあるコンクリートでつくられた橋の中で最大の支間長は約500mです。この支間長を800mまで伸ばした場合,どのような課題が出てくるかを見つけ出し,そしてその課題を解決していくことで,世界最大のコンクリート橋を実現する方法を研究しています。研究の内容は,最も合理的な橋げたの形状を詳細に考え出し,その形状に対して安全性の検証を行っています。
支間長を長くすることができれば,より大きな川や谷にも橋を架けることができますし,工期を短縮することができるかもしれません。また,この研究によって生まれた新しい技術は,今後会社の強みとなって会社を支えていきます。
普段の研究は,まずは自分で考えた構造で橋を設計してみるところから始まります。橋の形状をモデル化できる最新の数値シミュレーションを使って問題が出てくるか検証する,という作業を繰り返しています。支間長が長くなることで,橋げたへの力のかかり方が大きくなり,揺れ方も大きく異なります。また,大きな橋は風の影響も強く受けるため,揺れが大きくなる傾向があり,その揺れに対して必要な強度を保てなければ橋自体が崩落したりする危険性も出てきます。風に対する安定性を確認する実験は大がかりになるため,大学の研究室と一緒に実験をしたりもします。
このプロジェクトは5年計画のプロジェクトで,今,3年半が経過したところです。あと1〜2年ほどで,一度結論を出す予定です。
3Dレーザースキャナーとソフトを用いた測定システムを開発
私が手がけている2つ目のプロジェクトは,3Dレーザースキャナーと専用のソフトを使い,橋梁などの大きな構造物を立体的に自動で計測するシステムの開発です。橋梁など,大きなものを作る建設の現場では,建設する節目ごとに,完成した部分が設計図通りの形にできているのか,計測して検査する作業が必要です。ただ,これはどんな大きさのものでも,人が1か所ずつメジャーで測っているのが現状で,その間は他の作業ができません。
3Dレーザースキャナーは,立体物にレーザーをあて,レーザーがあたっている部分の位置を計測することができる機械です。人の手が届かないような場所にあるものも,この3Dレーザースキャナーを使えば,形状を測ることができます。自動で計測データを取ることができるので,計測に必要な人手も時間も少なくて済み,工期の短縮にも役立ちます。
今は,どうやったら屋外で使っていても誤差を少なくすることができるか,より使いやすいものにできるかというのを試行錯誤している最中です。また,この技術が完成すれば,設計図などが残っておらず,どのように作られているのかがわからない古い構造物に関しても,形状を知ることができるようになります。最新の技術を使うことで,過去の構造物のメンテナンスにも役立つ可能性があるのです。
他の部署にも「開発技術の効果」をわかってもらう
システムの開発には実際の橋梁建設現場でのテストが不可欠です。月に1回程度は自社が施工している現場で計測をして,今開発しているシステムが使えるかどうか確認をしています。屋外だとどうしても風や雪などの影響があり,また,現場ごとに計測する場所の状況が異なります。そのため,正しいデータを得ることが難しく,そういった厳しい条件でも正確に計測するにはどうしたらいいか,試しては修正していくということを繰り返しています。
テストは実際に動いている現場で行わせてもらうので,現場の人たちの協力が不可欠です。そのため,私たち開発者が説明をして,現場や社内の他の部署にも開発技術の効果をわかってもらうことがとても重要です。開発技術の効果をきちんと説明する力も,とても大事なスキルであると,開発を通して思いました。苦労のかいもあり,この測定システムに関してはほぼでき上がっており,今は細かい修正をしている段階です。
今,楽しく勉強中
今,人生で一番楽しく勉強をしています。今の部署が立ち上がったのが2015年の4月で,そのタイミングで私は設計部から異動になりました。設計部の仕事では,施工にかかる期間や予算などの条件がすでに決まっており,今まである技術や知識を使って設計をする,という仕事の進め方が多かったです。
ところが今の部署では,基本的には「自分で研究を進めていく」必要があります。そのためにはたくさんの知識が必要で,勉強しなくてはいけないことがとても多いです。たとえば斜張橋の研究では,斜張橋の設計はしたことがない状態でスタートしました。斜張橋に関して,今,他社や海外にはどんな技術があるのかを調べたり,橋の技術に関する研究論文を読んだりして,橋の知識を増やしています。また,レーザーを使った自動計測技術の開発に関しても,一から知識を得るところから始まりました。3Dスキャナーで計測したデータを解析するソフトウェアについては,外部の協力会社さんと一緒に開発を進めたのですが,話し合いを進める上でも自分自身で理解をしておく必要があるため,ソフトウェアに関しても勉強する必要がありました。
でも,もともと「気になることについて考える」ことは好きな性格のため,楽しく学ぶことができています。ソフトウェアなどの分野はあまり社内でも関わっている人間がいないこともあり,今では他部署から相談を受けることもあります。そういうことがあると,モチベーションが上がりますね。
“初めて”に関われるという喜び
研究開発を続ける中で,疑問や問題点に突き当たることもあります。しかしいろいろな知識を得て疑問点が1つずつクリアになり「わからなかったところがわかる」ようになる瞬間があります。このときの達成感はものすごく大きいです。悩んだ末だからこそ,自分の中でのやりがいにつながりますね。
また,以前,上司に言われたことで印象に残っているのが,「『世界一』や『日本一』というものは,いつか塗り替えられてしまう。けれど,『世界初』『日本初』など“初めて”という記録は,絶対に塗り替えられることはない」ということです。今,自分自身が新しい技術開発に携わっているということは,そういう“初めて”のものをつくり出すことに関われているということです。そのこともまた,日々の原動力になっています。
ただ,研究という仕事は通常の設計などの仕事とは違い,短期的な「とりあえずここまでが目標」というゴールが見えづらいところがあり,自分が進んでいる道が正しいのか悩むこともあります。
今の部署では毎年,研究論文を書き,学会で発表もしますが,これが1つの節目・目標にもなり,その目標に合わせてプロジェクトを進められます。書くことで研究してきた内容の整理にもなり,頭の中がスッキリします。
疑問点をそのままにしておかない
勉強をしていく中で,「理解するのに時間がかかる」ということは当然あります。でもどんなに時間がかかったとしても,疑問点をそのまま残しておかないように努力をしています。もともとの基礎知識がどれくらいあるかにもよると思いますが,私が今関わっているのは「これまでに経験したことがない分野」の技術が多いです。ちょっとでも疑問点を残したままだと,本質的なことがわからないまま進んでしまって,あとあと大変になることも多いはずです。
入社したばかりのときは橋梁の建設現場の現場監督からスタートしたのですが,そのころでしたら闇雲に動いて覚えていく,という方法もできました。でもその後,設計部に異動し,だんだんと任されることが多くなりました。そのとき,わからないことは多いけれど「“何がわからないのか”がわからない」ということで困ったことが何度もありました。多分それは,私自身の知識,勉強不足も影響していたのでしょう。そこから「もっと勉強をしよう」「疑問点は残さないようにしよう」と思うようになったのです。
自分の計算で「橋ができる」という驚き
最初に興味を持ったのは,橋などをつくる「土木」ではなくて「建築」でした。高校生のときに見ていたドラマに,「建築設計事務所」が出てくるものがありました。それがすごくオシャレに見えて,素敵だな,と憧れたのがきっかけでした。でも大学受験で志望校,志望学科を決めるためにいろいろ調べているうちに,土木の分野を知り,いろいろな人の生活を支える仕事だ,ということがわかってきました。そこから土木のほうに興味を持ち,自分には向いているのかもと思い,土木工学科を志望しました。
もともと理数系の分野が好きだったこともあるのですが,大学では構造力学の授業が面白かったですし,どんどん土木の分野を好きになっていきました。また,実際に橋梁関係の会社で働いている社会人の方が講師になる授業があり,その中で橋の設計と構造計算をすることがありました。そのとき,「この計算でこの橋ができちゃうんだ!」とちょっとびっくりしましたね。そこから少しずつ橋に興味を持ち,いつか橋の設計に携わりたいな,と思うようになりました。
いろいろなことを経験し,感じたことを覚えておいてほしい
できる限り,いろいろなことを経験して,それで得たことを忘れないで覚えておいてほしいなと思います。知識でなくても,“感じたこと”でもいいと思います。友達と遊んだり,スポーツしていて一番になったことを覚えていたり。ある程度大きくなったら,海外に行くなどの経験もいいと思います。何かを感じ取ったということは,その後の自分の人生で選択をしなければいけないときの判断材料となります。材料が増えればそのときの選択肢が増え,その先の可能性も大きく広がります。大きく広がった可能性の中から,いつか自分自身を奮い立たせるような何かに出会えるのでは,と思います。
また,みなさんは「土木」という分野のことをあまり知らないかもしれませんが,今,みなさんがいつもの生活を送っていられるのは,土木の技術があってこそです。橋や道路,鉄道,上下水道など,みなさんが日常的に使っているものは土木の技術で作られています。また,海外でもインフラを整えるのに日本の技術が使われていることは,とても多いですよ。まずはそういうことを知ってもらい,そこから土木に興味を持ってもらえれば,と思います。「人と生活を支える」という仕事ですから,とてもやりがいのある仕事ですよ。