仕事人

社会にはいろいろな仕事があるよ。気になる仕事や仕事人をたくさん見つけよう!

岐阜県に関連のある仕事人
1980年 生まれ 出身地 神奈川県

寺田(てらだ) 幸代(ゆきよ)
子供の頃の夢: 建築士
クラブ活動(中学校): 写真部
仕事内容
木の皮から,紙をつくる。
自己紹介
物事にはハッキリ白黒をつけたい性せい格かくです。おもしろいことを自分で発見するのが好きで,作品づくりやイベントなど,思い付いたらすぐに行動したくなります。

※このページに書いてある内容は取材日(2018年09月09日)時点のものです

古くからの伝でん統とうを受うけ継つぐ美み濃の 和紙

古くからの伝統を受け継ぐ美濃和紙

私わたしは,美み濃の和紙の産地である岐ぎ阜ふ県けん美み濃の市しで,紙すき職しょく人にんとして働いています。紙すきとは,紙の原料となる木の皮から,手作業で紙をつくることを言います。紙の原料となる木には,コウゾやミツマタ,ガンピなどがありますが,私わたしはその中でもコウゾを使用しています。 紙すきの作業にはきれいな水が多量に必要なため,長良川や板取川などの美しい川が流れる美み濃の市しは,紙をつくるのに最さい適てきな場所です。美み濃の和紙は,全国にある紙の産地の中でも1300年以上の歴史をもち,日本最古の紙の1つとして,奈な良らの正しょう倉そう院いんにも保ほ管かんされています。昔から高級障しょう子じ紙がみとして評ひょう判ばんが高く,ちょうちんや和わ傘がさ,うちわなど,さまざまな工芸品や日用品に使われてきました。手すきならではの柔やわらかく温かい風合いをもちながら,強くて長持ちするのが特とく徴ちょうです。 また美み濃の和紙には,和紙に染せん料りょうで色を付ける「染そめ」や,紙をすく途と中ちゅうで水をかけて小さな穴あなを開ける「落らく水すい」などの技ぎ法ほうを施ほどこしたものなど,とてもたくさんの種類があり,それぞれに専せん門もんの職しょく人にんがいます。私わたしはその中でも,障しょう子じ紙がみを専せん門もんにつくっています。職しょく人にんが行う紙すきの技わざは,薄うすくて美しい紙をつくり上げます。その技ぎ術じゅつは世界にも認みとめられ,2014年には美み濃の和紙の中でも「本ほん美み濃の紙し」という種類の和紙が,ユネスコ無む形けい文ぶん化か遺い産さんに登録されました。

コウゾの皮をほぐし,紙をすく

コウゾの皮をほぐし,紙をすく

紙すきは,まず材料となるコウゾの皮を仕入れ,水に浸つけた後,ソーダ灰ばい(工業用無水炭たん酸さんナトリウム)を入れたお湯で煮にていきます。私わたしの工こう房ぼうでつくっている縦たてが約65cm,横が約97cmの紙を100枚まいすくのに,コウゾを約4kg使用します。皮が柔やわらかくなったら,流水の中で,紙すきに向かない硬かたい部分やゴミをていねいに取とり除のぞきます。ここまでに1週間ほどかかります。 その後,木づちでたたいたり機械にかけたりして,繊せん維いをほぐします。細かくなったコウゾ,水,そしてトロロアオイという植物の根をすり潰つぶしてつくった粘ねばり気けのある「ねべし」という液えき体たいを,「漉すき舟ぶね」という容よう器きに入れて混まぜます。コウゾと水だけだとコウゾが下へ沈しずんでしまいますが,ねべしで水にとろみを付けることで,コウゾがまんべんなく水と混まざるようになります。紙をすくときは,この液えきをすくう「簀す桁けた」という道具を使います。美み濃の和紙のすき方は,縦たて揺ゆりにゆったりと横揺ゆりを加える「流しすき」という方法です。均きん一いつに紙がすけたら,100枚まいほど重ねて上から押おし,水を絞しぼります。最後に1枚まいずつ天日で乾かん燥そうさせ,破やぶれや傷きずがないか確かく認にんして完成です。 紙すきはとても工こう程ていが多く,昔は家族の分業で行っていました。私わたしはすべての作業を1人で行っているため,一週間に100枚まいくらいの紙しかすけません。また,ねべしは熱に弱く,暑いとねばりがなくなってしまうため,夏よりも冬の方が紙すきに向いています。そのため,10月~3月が最も忙いそがしい時期になります。

1つ1つの作業に心をこめることが大切

1つ1つの作業に心をこめることが大切

ベテランの紙すき職しょく人にんは,「紙を見ただけで,すいた職しょく人にんやその職しょく人にんが紙をすいたときの心の状じょう態たいが分かる」と言います。紙すきの仕事はほとんどが手作業のため,簀す桁けたを揺ゆらす動きが少し変わっただけでも,紙の表ひょう情じょうや雰ふん囲い気きが違ちがってくるからです。そのため紙をすくときは,いつも精せい神しん統とう一いつをして作業に集中し,1枚まい1枚まいに心をこめて行うようにしています。もちろん紙をすくときだけでなく,どこか1つの工こう程ていでも手を抜ぬくと,後で必ず余よ計けいな手間がかかったり,不良品が出たりしてしまいます。すべての工こう程ていをていねいに行うことが必要です。 また紙すきの作業は,意外と重労働です。今は力に任まかせるのではなく,調子をとりながら水の波を扱あつかうコツをつかんでいるので,1日に100枚まいという数の紙をすくことができていますが,慣なれてくるまでは作業が辛つらく感じました。均きん一いつな薄うすさの紙をすくために,重たい簀す桁けたを縦たてに横にと休むことなく揺ゆらす作業がとても大変で,上半身には自然と筋きん肉にくがつきました。力仕事も多いですが,ねべしのように粘ねばり強づよく,諦あきらめずに続けていくことが,職しょく人にんとして大切だと感じています。

和紙を使って,良さを感じてほしい

和紙を使って,良さを感じてほしい

私わたしにとって和紙は作品ではなく,日にち常じょうで使ってもらうものです。私わたしがつくっているのは障しょう子じ紙がみなので,お客さんは障しょう子じにするために購こう入にゅうされる方が多いんです。紙を購こう入にゅうしてくれたお客さんが「使いやすくていい紙だ」と言ってくれたときは,とてもうれしい気持ちになります。 また,最近は,和紙にあまりなじみがない若わかい世代の人にも使ってもらえるように,和紙でつくったクッションやバッグ,ピアスなどもつくっています。紙はすぐに破やぶれてしまうと思われるかもしれませんが,手すきでつくった和紙は洋紙に比くらべると,薄うすくても強く,長持ちします。さらに,和紙の上にこんにゃくの粉末と水を混まぜたものを塗ぬると,防ぼう水すい効こう果かが加わって,少しの水がついても破やぶれることがありません。パルプを主原料にして,薬品で白く漂ひょう白はくされた紙と違ちがい,本物の和紙は日光が当たるとさらに美しく白さを増ます性せい質しつもあります。 和紙は,細かくして水に溶とかせば,「すき返し」といって何度もすき直してリサイクルできます。植物でできているので,いらなくなったら土に返すこともできる,とてもエコな素そ材ざいです。和紙を暮くらしの道具としてもっと身近に感じてもらうために,和紙を使ってお面やうちわをつくるワークショップなども積極的に開いています。

常つねにより良い紙を求めて,腕うでを磨みがく

常により良い紙を求めて,腕を磨く

紙すきの仕事は,「できたと思ったら腕うでが落ちる」と言われるほど,常つねにいい紙づくりを目指して,一生勉強を続けていかなければいけない仕事です。私わたしが紙すき職しょく人にんを志こころざしたときに弟で子し入りした師し匠しょうも,もうすぐ90歳さいになりますが,いつも「毎日勉強,毎年1年生」と話し,これまでに最高のものができたと思ったことはないと言います。伝でん統とう工芸の職しょく人にんは腕うでを磨みがき続けて,自分にとって最高のものを生しょう涯がい追い求めていくものなのだと思います。私わたしは,そうしたところにおもしろさを感じています。 手すき和紙の場合,紙の品ひん質しつをそろえるのが難むずかしいところです。和紙の材料は自然のもので,温度や湿しつ度どなど,手すきをするときの環かん境きょうによって状じょう態たいが変化するため,同じように作業をしても1枚まいとして同じものができることはありません。また,手すき和紙には,すいた人の性せい格かくやすいたときの状じょう態たいまで紙の表ひょう情じょうとして表れます。私わたしの場合は自然と硬かたい紙になってしまうことが多いのですが,そんな中で,できるだけ同じ品ひん質しつの紙をすくために,基き本ほんとなる技ぎ術じゅつをしっかりと身に付けて,1枚まい1枚まいをていねいにつくっていかなければいけないと思っています。

師し匠しょうに弟で子し入りし,工こう房ぼうを持った今も修しゅ行ぎょう中

師匠に弟子入りし,工房を持った今も修行中

私わたしは高校を卒業後,職しょく業ぎょう訓練校で建けん築ちく設せっ計けいを学び,設せっ計けいの仕事に就つきました。しかし,30歳さいのときにものづくりの仕事がしたいと思い,子どものころから好きだった“紙”をつくる職しょく人にんを目指しました。全国にある紙の産地で紙をつくる工こう房ぼうを見て回った結果,美み濃の市しにある「美み濃の和紙の里会館」に紙すきを学べるコースがあることを知り,そこで勉強をしながら,弟で子し入りできる師し匠しょうを探さがしました。 京都府などには紙すきを学べる学校もありますが,美み濃のでは師し匠しょうのところへ弟で子し入りするのが一いっ般ぱん的てきです。しかし,最近では職しょく人にんが少なくなり,弟で子しを受け入れてくれる工こう房ぼうもなかなか見つからなくなってきています。私わたしは32歳さいのときに今の師し匠しょうに出会い,5年間の修しゅ行ぎょうを経へて,2017年に自分の工こう房ぼうを持つことができました。 美み濃の和紙には,美み濃の機械すき和紙,美み濃の手すき和紙,そして大だい子ご那な須すコウゾを使い,伝でん統とう的てきな製せい法ほうでつくられる本ほん美み濃の紙しがあり,私わたしは現げん在ざい,美み濃の手すき和紙をつくっています。本ほん美み濃の紙しをすくためには,10年以上の修しゅ行ぎょうが必要なため,私わたしは独どく立りつをした今でも師し匠しょうのもとに通って,本ほん美み濃の紙しをすく技ぎ術じゅつを習っています。

紙を集めること,ものを生み出すことが好きだった

紙を集めること,ものを生み出すことが好きだった

私わたしは小学校くらいのころから,紙を集めるのが大好きでした。そのときは和紙に限かぎらず,便びん箋せんやおりがみ,きれいな柄がらの紙など自分が気に入ったものを集めていて,それらを使ってものをつくることも好きでした。そのため,30歳さいでものづくりの仕事を目指したときにも,自分がやりたいことは何かと考えた際さいに,すぐ頭に浮うかんだのが紙に関わる仕事だったんです。子どものころから自分が集めて大切にしていたものを,大人になった自分がつくっているというのはとても不思議な感じがしますが,今は自分が欲ほしいと思う紙をつくれることが何より楽しいです。 また,やはり子どものときからひとりで黙もく々もくと何かを生み出すことが好きで,建物をつくる建けん築ちく家かや,お話を書く小説家などに憧あこがれていました。中学校のときは写真部に所しょ属ぞくし,自分の好きなものを撮さつ影えいすることを楽しんでいました。幼おさないころからコツコツとものをつくるのが好きだったからこそ,今の仕事でもあまりストレスを感じることなく,続けていられるんだと思います。

気になることは,まず体験してみよう

気になることは,まず体験してみよう

職しょく人にんの仕事は,“自分に合うか合わないか”よりも,“好きかどうか”という観点の方が大切なように感じます。好きなものであれば,「よりいいものをつくろう」という気持ちが芽生えます。義ぎ務む感だけではなかなか続かない仕事なので,その気持ちはとても大切です。もし自分の好きなことや気になることを仕事にしたいと思ったら,まずは直ちょく接せつその仕事を見たり,話を聞いたりすることが必要だと思います。その仕事が自分の思いに合っているかどうかは,やってみないと分かりません。行動あるのみだと思います。 紙すきの仕事でいえば,私わたしが美み濃の和紙を最初に学んだ「美み濃の和紙の里会館」では,初心者でも紙すきを体験することができます。私わたしの工こう房ぼうでも,「自分の作品に美み濃の和紙を使いたい」「紙すきを体験したい」という海外のアーティストを受け入れていて,日本の伝でん統とう工芸を知ってもらう取り組みも行っています。最近,美み濃のにも若わか手てが増ふえてきているので,和紙に興きょう味みがある人は,ぜひ体験してみるところから始めてみてください。

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私のおすすめ本

妹尾 河童
世界中のタクアンを食べ歩いた感想が書かれた一冊です。もともと筆者が建築家として出していた本が好きで興味を持ちましたが,タクアンというマニアックなものを人知れずとことん調べているところが,紙すきを追求する自分の姿勢とも似ていて,とてもおもしろいと思いました。何か新しいものに出会いたい時に,ぜひ読んでみてください。
宮部 みゆき
昔から本を読むのが好きでしたが,中でも推理小説が一番好きです。宮部みゆきさんの本は,いろいろなところに話が展開するのに,最後はその話が1つにまとまり,「ここにつながるのか!」と読んだ後にスッキリ感が味わえるのが魅力です。この本は,超能力をもつ少年と雑誌記者の出会いから始まる推理小説で,ちょっと現実逃避したいと思う時にピッタリです。
取材・原稿作成:船戸 梨恵(クロスワード)・岐阜新聞社 /協力:株式会社 電算システム