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株式会社セルフウイング
代表取締役社長

平井 由紀子

  • 【このページに書いてある内容は取材日(2015年12月15日)時点のものです】

起業しやすいのに起業できないというジレンマ

日本人は,もともと起業家精神に溢れていると思います。しかし,物質的にも精神的にも豊かであるため,そうした精神を発揮する機会が訪れなかったのかもしれません。こうした中で,起業家精神は必要で,それは子どものころから訓練して身につけるべきものではないのかと考え,大学と共同で小学校・中学校・高等学校向けの授業プログラムを開発し,2000年の創業から10年近く,学習効果を検証しました。
2000年ごろは,会社に関するさまざまな制度改正が相次ぎ,いわゆる「ベンチャーブーム」がおこりました。起業しやすい状況が生まれましたが,その後起業する人は継続的に増えませんでした。そこで私は,このジレンマをどのように解消できるか,さらに具体的な方策を考えたいと思うようになりました。そして,以前から取り組んできた基礎研究も踏まえ,考えを事業化し実現させようとしました。そして,私が思い描くようなプログラムを事業として提供している会社がなかったため,私自身が起業しようと思うに至りました。「こういう仕事がやりたい」という思いが先にありましたので,自分で何とかしようと行動したのです。

起業家教育実践のためのプログラムを提供

私はこれまで,日本全国の小学校,中学校,高等学校等に向けて,さまざまなプログラムを提供してきました。そして,地域の商工会や国,地方公共団体,大学,企業などが,地域の活性化と後継者の育成や地場産業を育てるための人材育成をしたいと,プログラムを使ってくださいました。プログラムを行う際には地元の方を講師として迎えます。あわせて,プログラムを一緒に手助けくださる方々も募ります。子どもたちの保護者が参加してくださることも多いです。そういった方々には,プログラムの目的や子どもたちとの接し方などをお伝えし,理解していただきます。事前準備を丹念に行い,当日子どもたちにプログラムに参加してもらいます。そして,運営の仕方やプログラムの効果は研究成果としてまとめ,公表しています。
通常のプログラムは合計24時間程度の構成となっています。参加したり,しなかったりという子もいますが,2,3年毎年通ってくれる子もいます。1日だけの参加でも得られることはあると思いますが,是非継続的に参加してもらいたいです。そして就職して会社に入ったら,新規事業が起こせるようになってほしいですね。新しいことを考え出し,それを形にできる力がつけられる,そんなプログラムを今後も開発していきたいと思っています。

先生や講師,関わる大人には高いコミュニケーション能力が求められる

プログラムの中で,講師やサポーターといった大人は子どもたちにあれこれ教えるのではなく,子どもたちが自ら考え行動することを後押しするよう徹底します。プログラムを終えると,自分たちで参加した,自分たちで作ったという気持ちが強く残るので,子どもだけでなく関わった人全員が「参加してよかったね」と言って終わります。
さらに,高いコミュニケーション能力が大人には期待されています。例えば,自分たちが企画した商品を地域で販売するというプログラムを行うとします。物を販売するにはマーケティングの知識なども必要となってきますが,子どもたちに「マーケティング」と言っても伝わりませんよね。マーケティングの概念や要素を,子どもたちにも分かるよう説明できるような力が必要不可欠なのです。そうした大人たちと共にプログラムを経験した子どもがやがて大人になって,次世代を担う子どもへ教える立場になったとき,同じように接してくれると良いなという期待も持っています。

会社員,起業家両方経験して気づいたこと

私は民間企業,しかも日系企業と外資系企業それぞれに勤務した経験があります。起業してまず感じたことは,働き方を自由に選べることは,長い職業人生を送る上で大きな魅力であるということです。家族に何かあったときはすぐに駆けつけてあげられる,場所にとらわれず仕事ができる。日本にはこうした柔軟さがもっとあると良いと感じますね。一方で,お給料については大変なこともありました。会社員のころより良い時もありますが,そうでないときもありました。
働き方についてよく小学生たちと一緒に考えるのですが,「みんなが大人になった時に,職場に外国人が一人もいないということはないでしょう。もしくは半分ロボットかもしれませんね」と話します。時間やお金だけではなく,働くことそのものについて考えるきっかけも,起業家教育を通じて提供することができるのではないかと思います。

失敗を恐れないことを伝えたい

失敗があっても大丈夫だと思えるようになって欲しいです。私たちのプログラムは,たくさんの失敗や不確実な出来事が起こるようになっています。雨が降ってしまうかもしれないし,そもそも興味を示してもらえず買ってもらえないかもしれない。設計したものができないかもしれない。そういう時にどうやってチーム力で突破するか。自分の得意と他人の得意がわかっていれば,人と人との組み合わせ次第で突破できるということをまず体験してもらいます。こうしたことを,普段の学校生活の中で実体験してもらいたいと思っています。また,科学教育などと関連付けながら授業を行うことも有益だと思います。
先生をはじめとする学校関係者の方々とのプログラム作りをしていて気づくのは,先生方の能力は非常に高く,当然ですがコミュニケーション能力も素晴らしい方々ばかりであるということです。しかし,忙しすぎて起業家教育に積極的に参加してくださる先生は,まだまだ少ないです。
起業家教育というと,起業家になるためだけの教育と思いがちですがそうではありません。その子どもが,何が好きで何が得意なのかをよく見極めて指導する機会にもなりますし,学校の内外問わずいつでもどこでも実践できるものです。子どもたちの持ついろいろな知恵や経験が活かせる環境を作り,彼ら・彼女らが一人の自立した人間として,自分に合った働き方で誇りを持って仕事ができるようになる手助けがしたいと思いながら,今後も起業家教育の普及発展に努めたいと思っています。