海の環境保全
漁業や漁村のさまざまな役割
漁師さんの仕事=漁業の役割は,魚介類をとったり育てたりして,わたしたちの「食」を支えることです。しかし漁業や漁村には,他にもさまざまな役割や価値があります。
たとえば,新鮮な海の幸が食べられる食堂や民宿で訪れる人をもてなしたり,「食と命の学び」の体験学習や漁業体験を提供したり,都市の人が海辺に親しむ場をつくってくれています。また,海の神事や伝統行事,郷土食など,日本らしい生活文化を守り伝えるという大切な役割もあります。
さらに,海の自然をよく観察し,限りある資源を守り続ける知恵や工夫,努力も注目されています。最近では,「里海」の藻場や干潟,サンゴ礁を守り増やす活動や,海岸の漂着ごみの清掃なども活発に行われています。
漁師が始めた里海づくり
岡山県備前市の日生諸島は,藻場を増やす活動の先駆けとして有名です。経済成長の時代,海の埋め立てや汚染によって,日生では藻場のほとんどが消えてしまいました。そこで30年ほど前,漁師さんたちが海草のアマモの種をまき,藻場を再生しようと立ち上がりました。
この「里海づくり」を始めたのは,水深5mほどの浅い海で「つぼ網」という小型定置網漁を営む人たちでした。「毎日の水揚げと網の手入れで一日中海のそばにいて海を見ていたから,海の環境が変わったことに気づき,原因は藻場だと気づいた」といいます。
今,日生の里海づくりの輪は,消費者の団体やNPO,地元の学校などにも広がっています。漁師さんを中心に多くの人がアマモの種まきに参加して,海の環境をよくしようと力を合わせています。
海の環境活動で広がる人びとの輪
日生だけではありません。日本の海辺のあちこちで,藻場,干潟,サンゴ礁を守り再生させる活動が生まれ,幅広い人たちが参加しています。また,海岸ごみの清掃活動も活発です。最近では,海を汚さないためにプラスチックごみを減らそうという気運も社会全体で高まっています。恵みを得るために利用しながら保全もしていく,持続可能な里海づくりの輪は,ますます広がっていくことでしょう。