SDGsと海の豊かさ
美しい海は豊かな海?
SDGs「目標14」の日本語訳は,「持続可能な開発のために,海洋・海洋資源を保全し,持続可能な形で利用する」です。しかし,これを短くわかりやすく意訳した「海の豊かさを守ろう」という言葉が,よく使われています。
では「豊かな海」とは,どんな海でしょう。見た目に美しい海のことでしょうか。
北海道の積丹半島では,断崖の下に「積丹ブルー」と呼ばれる鮮やかな青い海が広がり,多くの観光客が訪れます。しかし,じつは環境の変化でコンブなどの海藻が消えたため,海が鮮やかな青色に見えているのです。海藻が減ると,魚などの生き物も減ってしまいます。美しい「積丹ブルー」は,生き物の豊かさという点から見ると“さびしい色”なのです。
生物多様性に富む浅い海
広い海に島が点在する沖縄のサンゴ礁の海も,どこまでも透き通って美しいですが,海水が透明なのはプランクトンが少ないためです。
海の食物連鎖の底辺は,植物プランクトンや,藻類などの植物です。海の植物は,川から流れ込む陸の栄養分を取り込み,光合成をして育ちます。そのため,海でもっとも生き物の多様性に富むのは,栄養豊富で海中に日光が届く,陸周辺の浅い海です。ふだんは深海や沖合にすんでいて,産卵のために浅い海にやってくる生き物もたくさんいます。ふ化した子どもたちの食べ物が豊富なことが,その理由のひとつです。
生態系を守ることが大切
わたしたち人間も,生き物が多い浅い海から,おいしい水産物の恵みを受けています。しかし,陸周辺の浅い海は,人間による活動の影響を受けやすい場所でもあります。埋め立てや汚染などのダメージだけでなく,最近は高度な下水処理で水が「きれい」になりすぎたことも問題になっています。水に含まれる栄養分を取り除きすぎ,アサリやノリの不漁を招くといわれているのです。冬の雨の少ない時期に,わざとダムを放流して栄養豊富な水を海に流し,養殖ノリの生育を助けている例もあります。
「海の豊かさ」を考えるうえでは,絶妙な自然環境のバランスが保たれていることが重要です。そして,多様な生き物が複雑に影響し合う「生態系」が維持されていることが,海洋資源の「持続可能な利用」につながります。