日本財団

海・川の仕事人

コラム

01

海と私たち

「里海」と浅い海の大切さ

 最近,「里海」という言葉がよく聞かれます。人が利用しながらぜんしてきた農山村の自然を「里山」とびますが,「里海」はその海ばんです。
 海のせいたいけいにとってもっとも重要な場所は,陸に近い浅い海です。浅い海には太陽の光やさん,そして陸から流れる栄養がたっぷり。そうるいがしげる,サンゴしょうがたが広がり,多様な生き物を育みます。そこは人びとが大切に利用してきた「里海」でもあります。

海の中の細かい地名

 ふくけんとうじんぼうさんたちは,「海の中の岩を手でなでまわすとかいそうがよく育つ」と言い伝えています。人が手を入れることでかいそうに太陽の光がとどき,せいたいけいのバランスが整えられるのかもしれません。かいそうにはさまざまな種類があり,日当たりや水深によって生える場所がちがいます。また,同じかいそうでも場所によってしゅんひんしつちがうそうです。さんたちは岩に細かく名前をつけて頭の中の地図に入れ,たくみにしゅうかくしてきました。
 サンゴしょうにも細かく名前をつけて漁をする人たちがいます。おきなわけんの宮古島のサンゴしょうで,もぐりであみって魚をむ漁のりょうたちです。この漁の親方は,数百ものサンゴしょうのポイントが地名とともに頭に入っているそうです。漁では,しおかんまんと流れ,風向きなどに合わせ,あみる場所を決めます。魚をとりつくさないよう,一度漁をした場所はしばらく休ませるので,毎日魚をとるためには多くの場所を知っておく必要があります。
 海辺の人びとは里海を自分の庭のように知りつくし,せいたいけいをよく観察しながら守り,大切に利用してきたのです。

おそうやまう海

 海は多くのめぐみをあたえてくれますが,ときにはそうなんさいがいももたらします。そのため,わざわいをける習わしが伝えられています。
 たとえば,海の神様はあまり美しくないがみで,じょせいを漁船に乗せるとしっしてや不漁になると信じられてきました。また,包丁など金物を海に落とすこと,船の上で魚をくさらせることなども,不漁につながるときらわれました。今でもこうした習わしを守っている漁船があります。海辺の人たちは,海をおそうやまいつつ,海とともにらしているのです。

助成:公益財団法人 日本財団
協力:NPO法人 共存の森ネットワーク,愛南漁業協同組合
取材・執筆:大浦 佳代/イラスト:友永 たろ,川島 星河,広野 りお