※このページに書いてある内容は取材日(2022年11月04日)時点のものです
ユニークな屋外広告とトリック3Dアートを手がける
私は東京都にある「興和サイン株式会社」の社長を務めています。興和サインは、屋外広告をメインに手がけている会社です。SNSで話題になるような巨大看板から、見る人が驚くようなトリック3Dアートの看板まで手がけています。
ビルの正面に大きく設置したネオン看板が、映画で使われたり、人気ミュージシャンが写真を撮ったりして、とても有名になったこともあります。また、人気ユーチューバーの動画で、エレベーターの床に穴が空いているようなトリック3Dアートをしかけることに協力したこともあります。これもかなり反響があり、動画自体も600万回以上再生されています。
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なによりも大切なのは安全であること
屋外広告を手がけるうえで、「安全できちんとしたものを作ること」はとても大切です。特に屋外広告というのは、どんなに奇抜で目立つものを作っても、万が一壊れたり、風で飛んでしまって人にケガをさせたりしてはいけません。そのため、「屋外広告士」などの特殊な資格を持った業者しか設置ができません。よりクリエイティブでおもしろく、変わったものでありながら、広告物として事故を起こさず安全に設置できていることを第一にしています。看板をつくるときは、風への対策はもちろん、雪が降った場合にかかる重さなども計算に入れて考えます。
広告の未来を考え、トリック3Dアートを手がけるように
トリック3Dアートを手がけ始めたのは、「広告」の変化を感じてからです。例えば、昔はお店を探すときは「タウンページ」という電話帳を見て探したり、実際にお店の看板を見たりするというのがお店を選ぶ手段でした。しかし、インターネットが広まり、どんどん社会環境が変化したことで、お店を選ぶときも看板ではなく、ネットで検索した情報をもとに選ぶ人が増えてきました。看板の役割も変わり、よりSNSとの親和性が求められる時代になってきたのを感じました。
トリック3Dアートを選んだ理由は、人が看板の世界の中に入ることができるからです。普通の看板とは違い、トリック3Dアートだったらみんな自分が看板の世界の中に入って写真を撮りたくなりますよね。そうしたら今度は、撮った写真をSNSにアップしたりして拡散する人がたくさんいます。これからの看板の役割を考えたときに、これは強みになると思い、トリック3Dアートを手がけ始めました。
3Dソフトを使ってシミュレーションしながら作り上げる
トリック3Dアート看板は、3D画像の処理やデザインを専門とするスタッフたちと一緒につくっていきます。もともとゲームクリエイターで、アート作家として活躍しているスタッフもおり、トリック3Dアートに必要な画像を作るのはお手の物です。
普通の看板に関しては「こうしたい」という具体的なイメージを持っているお客さまも多いですが、トリック3Dアートに関してはそもそもどういうことができるのかがわからない人も多いです。そのため、まず、トリック3Dアートでつくれる構造から説明していきます。今は3Dソフトを使って、実際に設置したらどうなるかをシミュレーションして見せることもできるので、お客さまと一緒にイメージを共有しながら作っていくことができます。
看板は街の中のコミュニケーションツール
「看板」というのは、誰もが目にするものです。現存する最古の広告は、紀元前11世紀ごろから築かれた都市の遺跡である、トルコのエフェソス遺跡にあるものとも言われています。今、広告にまつわる仕事というのはたくさんあります。例えば、インターネットのWEBページの製作やデザイン、チラシや冊子のデザインの仕事があります。それらと看板製作の違うところは、作ったものがリアルに空間の中に浮かんで、人々の目に留まるということです。
2004年に「景観法」という法律ができました。それ以降、屋外にある看板は「風景を壊す悪者である」と思われることがあります。実は「戦後の東京の復興はネオンから」と言われるくらい、昔はネオンの光や看板というのは人々の希望の光でした。時代は変わっても、看板が街の中に存在するということはいつまでも変わらない。だから、街の中に、人を笑顔にしてつながりをつくる「コミュニケーションツール」としての看板が存在するのだと思います。そうやって自分が描いたものがリアルの空間に残るというのは、素晴らしい仕事だと思っています。