よい車を,手ごろな価格で,地元の人に提供したい
私は,東京都北区で,ワイジェイオートという自動車販売会社を経営しています。ワイジェイオートで手掛けているのは,主に,「中古車の買い取り・販売」「新車の販売」の仕事です。
中でも多いのが,中古車の買い取り・販売の仕事です。中古車は,地元のお客さまから依頼を受けて買い取るか,もしくは,オークション場と呼ばれる中古車専門の市場のようなところで仕入れています。
地元のお客さまから仕入れる場合は,中古車を買い取って新車を納入することがほとんどです。「家族が増えたのでもっと大きな車に買い替えたい」「釣りやキャンプなど,より趣味に適した新車を購入したい」,そんなご相談をお客さまからいただいて,不要になった車の価値を査定しつつ,ご要望に合った新車を紹介することが多いのです。中古車の査定は,車種,色,走行距離,汚れや傷の程度など,さまざまなポイントをチェックしながら進めていきます。車の人気度や状態を判断し,買い取り価格を割り出して,その価格にお客さまが納得してくだされば売買の成立となります。
買い取った車は,オークション場に出品するか,自宅兼事務所の1階にある駐車スペースに展示して販売しています。駐車スペースに展示するのは,私たちが選び抜いた,本当によい車だけです。地元の方に,価値ある車を,手ごろな価格で提供したい。そんな思いを持って,日々,中古車の買い取りと販売に向き合っています。
新車については,主に国産のものを販売しています。私は以前,大手自動車会社で新車や中古車を販売する営業の仕事をしていました。そのときの知識や人脈を生かし,数ある新車の中から,お客さまのニーズに合った車を提供するようにしています。
高い戦略性が求められる,オークション場での中古車売買
仕事をしていて「面白いな」と感じるのが,オークション場での中古車売買です。オークション場は,いわば“中古車の株式市場”のようなもの。毎日,さまざまな中古車が売りに出され,その情報が発信されています。ときには,なかなか出回らない珍しい車や人気の高い車が,手ごろな価格で売られていることも。掘り出し物を見つけて購入し,タイミングよく,またオークション場で販売すれば,買値以上の売値が付いて,大きな利益が生まれることもあるのです。
利益を生むような売買を行うには,なによりも“目利き”が重要です。あらゆる車の価格や評価などを頭に入れておいて,知識や経験をもとに,「相場より低価格で売られている車」や「これから人気が高まりそうな車」など,将来,高値が付く可能性が高い車を見つけ出します。こうして手に入れた価値ある中古車を,世の中の動きや流行などを見て,需要が高まる時期に売りに出しています。
よい車を見つけたときや,それが予想以上の高値で売れたときは大きな手応えを感じます。こうした仕事は,自動車の販売業というよりも,証券会社などの金融機関が行う投資業務に近いイメージかもしれません。知識,駆け引き,時流を読む力が試される,戦略性が高い仕事です。
仲間との関係を大切に,チームで仕事を回していく
ワイジェイオートでは,なじみのお客さまから頼まれたときは,自動車の修理,車検なども受け付けています。こうした場合,実際に修理を行うのはワイジェイオートではありません。お客さまからお預かりした車を外部の板金塗装会社などに託して,そこで,車体の傷やへこみをきれいにしてもらったり,部品を入れ替えてもらったりしているのです。
修理に対応してくださる協力会社は,現在,約10社ぐらいです。どの会社の社長さんも,親しい人ばかり。若いときに同じ自動車会社で一緒に働いていた人や,知人の紹介で仲良くなった人などが多く,協力会社というよりは気の置けない仲間といった雰囲気です。「おやじさん,ちょっと車の修理頼めないかな?」「おう,任しておけ!」,そんなノリで,いつも助け合いながら一緒に仕事をしています。
ワイジェイオートは従業員3名のとても小さな会社です。自宅1階の事務所で小ぢんまりと営んでおり,だからこそ,外部の仲間と必要に応じてチームを組み,協力しながら仕事をしていくことが欠かせないのです。修理の受け付けは私たちが担当し,実際の修理業務は高い技術と広い作業場を持つ外部の仲間たちが担当する。こうして役割を分担し,仕事を回し合うことで,お客さまが求めるサービスをスムーズに提供できています。
人と人とのつながりが,仕事を広げていく
私がもっとも大切にしているのが,人とのつながりです。協力会社だけでなく,地元の経営者や,お年寄り,子育て世代,若者など,さまざまな人と,常につながりを持つよう意識しています。なぜなら,人とつながることによって情報が入ってくるからです。「あの人がこんなことで困っていたよ」「なにか新しいことを始めようとしているみたいだよ」,こうした情報が,車の買い取りや販売につながることも少なくありません。地元の北区王子法人会にこまめに顔を出したり,近所の人に声をかけるなどして,積極的にコミュニケーションを取るようにしています。
その他,ボランティア活動にも意欲的に取り組んでいます。地元の警察の防犯協会の会長を務めたり,地元の青少年教育委員会,西が丘自治会に役員として参加したり。子どもからお年寄りまで多くの人が,私の顔を知り,親しみを感じて,地域の憩い場のような感覚でワイジェイオートに集まってくれたらいいなと思いながら活動をしています。
特に,子どもに対しては強い思いを持っています。私自身がふたりの子どもを持つ父親だからというのもあるのですが,なんとなくモヤモヤしている思春期の子たちや,寂しい子,構ってほしいと感じている子どもたちの居場所を作ってあげたい。溜まった気持ちを吐き出せるような場所を提供したいという思いがあるのです。地域の子どもがここに集まり健やかに育ち,そしていつか「ワイジェイオートで車を買いたいなあ」と思ってくれたら,これほどうれしいことはありません。
人とのつながりを積み上げることによって得られる情報と信頼は,決してお金で買うことができない財産です。仕事にもよい効果をもたらします。だから私は,地域でのコミュニティ活動をライフワークとして大切にしているのです。
お客さまの都合に合わせて,フットワーク軽く対応する
仕事をしていて大変だと感じるのが「時間が読めないところ」です。ワイジェイオートでは,決まった営業時間を設けずにサービスを提供しています。夜9時にお客さまに「車の相談がしたい」と呼ばれることもありますし,お正月に「車が故障したので急いで修理を頼みたい」と連絡が来ることもあります。こうした依頼にできる限り対応するようにしているため,なかなか予定が立てられないのです。
「だったら,営業時間を決めてしまえばいいんじゃない?」,そう思う人もいるかもしれませんが,それでは,この世界で生き残ることは難しいと考えています。私たちのお客さまは,大手の自動車ディーラーでは実現できないような,安価で,小回りの利くサービスを求めていらっしゃる方がほとんどです。「いつでもフットワーク軽く対応してくれる,地元の,信頼できる自動車会社」だからこそ,ワイジェイオートを選んでくださっているのだと思うのです。
その期待に応えるためにも,できるだけお客さまに合わせて動きたいと思っています。大変と言えば大変ですが,一方で,お客さまが喜んでくださったときは何物にも代えがたい喜びを感じます。
父親との言い合いがきっかけで,自動車会社に就職した
私が車に興味を持ったのは,16歳ぐらいのときのことでした。当時は,いい車を持っていると女性にモテるという時代でしたから,モテたい,カッコつけたいという思いで車に興味を持つようになり,買った車をカスタマイズするようにもなりました。
車を仕事にしようと思ったのは20歳ぐらいのときです。就職活動もせずにのんびりしていたら,大手の自動車会社に勤める父から「就職はどうするんだ!」と詰め寄られ,大げんかになってしまって。車が好きだったこともありますし,父を見返してやりたいという気持ちもあって,勢いで「自動車会社に就職してやる!」。後日,通常の就職活動時期がとっくに終わった2月でしたが,自動車会社の本社に勝手に出向いて,突然「面接してほしい」と頼みこみ,これがきっかけで大手自動車会社に就職することになりました。
入社後は新車販売の営業を経験し,それから,中古車販売の営業部門へと異動しました。異動した当初は,「中古車販売か。地味だな……」と,少し憂鬱な気持ちだったことを覚えています。ところが,やってみるととても楽しくて。自分の目利きでよい車を探し,そして提供するということにやりがいと面白さを感じて,26歳のとき,早々に「独立しよう」と決意しました。勤めていた会社を退職し,ワイジェイオートを立ち上げて,それから約20年間,自動車一筋で仕事をしています。
将来の夢は「社長になること」。変わり者だった子ども時代
子どものころは「人と同じことが大嫌い」な変わり者でした。例えば,工作の時間に椅子を作ることになったのですが,私だけ脚を短くしたり引き出しを付けてみたりして,「普通じゃない椅子」を作ったことがありました。他にも,「校舎を写生して」と言われたときに,校舎だけでなく人を入れて絵を描いてみたり,みんなで野球をやるとなったときに新しいルールを提案したり。「青木,ちょっと変だよね」「普通じゃないよね」と言われることが多く,それが快感だったと記憶しています。
「人と同じことが大嫌い」だと思うようになったのは,今思うと,祖母の影響が大きかったのではないかなと思います。幼いころから祖母に「人と同じことをしていてはダメだよ」と言われて育ち,小学生のころには,「よし,人と違う人生を歩んで一旗揚げるぞ」「将来は社長になるぞ」という夢を持つようになりました。
それからは,タレント活動をしてみたり,イベントサークルをやってみたり……。中学・高校と,いろいろ模索して,挫折や回り道を経験し,気が付いたら昔の夢だった社長になって,現在に至っています。
「一生懸命」ではなく「一所懸命」。背伸びせず,普通にやっていってほしい
私は「一生懸命」という言葉が嫌いです。この言葉を見たり聞いたりすると,まるで「一生,命懸けで頑張り続けなさい」と言われているように感じてしまう。そんなことはできるわけがありません。ずっと頑張っていたらストレスが溜まってしまうし,いつか張り詰めた糸が切れてしまうし,そのうちに壊れてしまいます。だから,「一所懸命」にやってほしい。一生,命懸けで頑張るのではなく,「ここだ」と思ったときに集中してやればいいのです(「一所懸命」は,もともとは「一所(一か所)の領地を,命を懸けて守る」という意味の言葉ですが,私は「一所」を「ひとつところ」「ひとつのポイント」と解釈して,「一所懸命」という言葉を大切にしています)。無理に背伸びをするのでなく,あくまで普通に,ただひとつところに集中する。それで最後に笑顔があれば,それだけでいいんじゃないかなあと思っています。
よく地元の小中高校生が私のところに「失恋した」とか「部活でうまくいかない」とか相談に来るのですが,そういうときも,「一生懸命頑張っちゃったんでしょ。背伸びしてきたんでしょ,無理してきたんでしょ。それが原因なんだよ」と話しています。だって,まだ足りない,もっと頑張らなきゃと自分を追い詰めても,苦しくなってストレスになるだけですよね。頑張らないで自分を信じて,今のまま,素のままでいいんです。そして,頑張りすぎて悩んで辛い人に対しては,そういう人は自分がどうしていいかがわからなくなっているのだから,「大丈夫だから,頑張ろう」ではなく,何度でも話を聞いてあげて,相手の気持ちになってアドバイスをすることが大事です。
人は肩の力を抜いて自然体でいれば笑顔になれる。そして,自分を好きになれる。笑顔になると,周りに笑顔の人が集まってきます。そうやって,みんなで幸せになると,よいことが生まれ,やがてよい社会になっていくのだと思います。