※このページに書いてある内容は取材日(2022年09月29日)時点のものです
医師の処方箋に従い、薬を調剤し、患者さんに渡す仕事
薬剤師という仕事は、医師が患者さんを診察して必要な薬の種類や量を決めて発行した「処方箋」に従い、薬を揃えて患者さんにお渡しする仕事です。私たちのような、病院から処方される薬を揃える役割の薬局を「調剤薬局」といいます。
指定された種類、分量の薬を正しく揃えるのはもちろん、時には何種類かの薬を混ぜて飲みやすくしたり、患者さんの体重に合った薬の量に調整してお渡ししたりすることもあります。処方箋に書かれた指示に疑問を感じたとき、病院や医師にその内容が正しいか問い合わせる「疑義照会」は特に大切な作業です。処方箋は人間が記入するものですから、どうしても記入ミスなどが発生することがあります。薬の種類や量が本当に正しいのかをきちんとチェックし、疑問を持ったらきちんと確かめて事故を防ぐのも、薬剤師の仕事です。
また、「粉薬が飲みづらい」「以前この薬を飲んだら具合が悪くなった」「今、ほかの薬も飲んでいるけど飲み合わせは大丈夫か」など、薬に関する悩みや不安を抱えている方もいらっしゃいます。そういう相談を受けたら、私たちから医師に相談し、患者さんが安心して飲める形に薬を変更することもあります。
時代の変化とともに広がっている、薬剤師の役割
私が代表をしている調剤薬局では、基本的な営業時間は朝9時から夕方18時までです。出勤をしたら掃除をしたり、調剤に必要な機械を立ち上げたり、患者さんを迎える準備をします。
以前の調剤薬局は「来られた患者さんに薬を処方する」という作業が基本だったのですが、新型コロナウイルスの流行が始まってからは、自治体によって「自宅療養の方に薬を届ける」という役割も加わりました。また、高齢の方の中には体が不自由だったり、寝たきりだったり、なかなか病院に通うことができない方もいらっしゃいます。そういう方のご自宅に伺い、往診した医師の指導に従って薬を処方し、薬の飲み方の指導をするという仕事も近年加わりました。例えば飲み忘れを防ぐため、その日に飲む薬をカレンダーのポケットに入れておく「お薬カレンダー」などを作ってアドバイスしたり、前回出した薬をきちんと飲んでいるか飲み残しをチェックしたり、体調の変化はないか確認したり。地域の方々の健康をいろいろな形で守るのが、薬剤師の役割です。
どんなに忙しくても、病院への問い合わせは大事な仕事
実は今、全国的に「薬が足りない」状況になっています。そのため、医師が処方した通りの薬を用意できず、代わりに別の薬を出してもらわないといけないということも増えています。そのため、病院に問い合わせる回数は以前よりも増えています。 本来の「薬の種類と量が適切か」というものも含め、この問い合わせという作業はときに時間がかかるので、早く薬を受け取って帰宅したい患者さんはイライラしてしまうこともあります。しかし、患者さんの命を守るためには絶対になくしてはいけない作業ですし、「まあいいか」と1度でも思ってしまったら、夜眠れなくなるほど後悔することは分かっています。患者さんにご説明をしながらお待ちいただくしかないのですが、難しさを感じる瞬間ですね。 また、新たに判明した病気や、新しい薬が次々と登場するので、私たち薬剤師も知識をアップデートしていかなくてはいけません。薬剤師の団体や製薬会社が主催する勉強会などに参加したり、地元の高齢者の方々を担当するケアマネジャーさんに、どんな状況の方が多いか、病気やお悩みを抱えている方が多いかなどのお話を聞いたりしながら、日常的に勉強をしなければいけないのも大変なところではあります。
患者さんに近い立場だからこそできることがある
私たち薬剤師の仕事は、裏方のように思われるかもしれません。でも、日々患者さんと直接接する立場にいる分、やりがいもあります。例えば患者さんに薬の説明をして「そうか、この薬はこういう理由で自分には必要なんだね。よく分かりました、ありがとう」と感謝をされたとき。また、「病院での採血の結果が来たんだけど、実は数値の意味がよく分からない。でも診察のときには聞けなくて……」という悩み相談を受けたときや、薬の説明でなかなか満足できなかったり不安を抱えていたりする部分に、私たちが説明をすることで満足してもらえたときなどは、この仕事をしていて良かったな、と思いますね。 薬剤師をしていると、「気になることはあるけれど、お医者さんには相談しづらい」と思う人が多いことに気づかされます。また、複数の病院に通われている場合、症状や処方されている薬の内容がそれぞれの病院同士では共有されていないことがほとんどです。お薬手帳などの記録を見たり、患者さん自身に既に飲んでいる薬の内容を確認しながら、処方された薬の飲み合わせをチェックしたりすることも。そういった細かな部分をフォローできるのは、患者さんと近い立場にいる薬剤師だからこそだと思います。
「疑問の放置が患者さんの健康や生死に関わる」を実感した出来事
仕事の中で気をつけているのは、やはり「どんなに細かな疑問でも、絶対に確認する」ということです。実は処方箋の書き間違いというのは、みなさんが思う以上によく発生しています。すべての問い合わせが書き間違いが原因というわけではありませんが、病院に問い合わせを1回もしない日というのはありません。私たちも処方ミスを防ぐため、調剤薬局の薬剤師はほとんどの場合「調剤をする役割」と「調剤された薬をチェックする役割」の2人体勢で仕事を行い、患者さんの命や健康に関わるような処方ミスがないように心がけています。特にこの「チェックする役割」は、経験をいろいろと積んだベテラン薬剤師が行う事が多いです。 実は私がまだ薬剤師になって数か月のころ、当時働いていた薬局で医師の処方箋にミスがあったにもかかわらず、少し疑問を持ちながらも「医師がこう書いているんだし……」とその薬を用意してしまったことがありました。その時はチェックを担当していた上司の薬剤師が気づき、ものすごく怒られた経験があります。それ以降、どんなに忙しくても疑問は絶対に放置せず、必ず確認する、というのを心がけています。
実はいろいろなところで活躍している薬剤師
今の関口薬局はもともと私の祖父が始めたもので、私で4代目です。子どものころから調剤薬局という家業の中で育ったので、薬剤師は身近な職業ではありましたが、「絶対に薬剤師になりたい!」と思っていたわけではありませんでした。ただ、高校生の時に理系科目が得意だったこと、なかでも特に化学が好きだったということもあり、薬学部への進学を考えるようになりました。
薬剤師になるには、大学の薬学部に進学してカリキュラムを修了したあと、薬剤師の国家試験に合格する必要があります。薬学部は私の時代は4年制でしたが、今では6年制になっています。一般教養から薬や医学に関する幅広い知識を学ばなければいけないので勉強は大変ですし、留年率も高いです。先ほどお話したように、資格を取った後も常に勉強を続けなければいけない仕事でもあります。
卒業後は私のように調剤薬局だったり、病院やドラッグストアに就職する人が多いです。また、製薬会社で薬品開発に従事したり、公務員として厚生労働省の薬の認可を出す部署や、役所の衛生課などに就職する人もいます。中には、麻薬取引の捜査官になる人もいます。
下町の環境が育んだコミュニケーション能力
幼いころは活発で、よく先生から注意を受けるような落ち着きのない子どもでした。私が生まれ育った荒川区の西尾久という場所はいわゆる「下町」で、高齢者の方から子どもまでたくさんの人たちに囲まれて、にぎやかに育った実感があります。いたずらをして近所の人たちから怒られる、というのもしょっちゅうでした。今、いろいろな年齢の患者さんたちとコミュニケーションを取ることが苦にならないのは、そういう環境で育った影響が大きいかもしれません。薬剤師は、患者さんとのコミュニケーションがとても大切な仕事ですから、それは今の仕事に役立っているなと思います。また、生まれ育った地域で薬剤師をしているので、一人一人の顔をしっかり覚えていられるというのもメリットかもしれません。ご近所の方の顔を見たら、すぐにその方がどんな薬を飲んでいるか、アレルギーがないかはパッと思い浮かぶことが多いです。実際にお薬を出すときに、そういう記憶と情報が役に立ちます。
「どうやって生きていくか」を頭の片隅に置いて欲しい
今、自分の娘にも常に言い聞かせているのですが、自分が「どうやって生きていくのか」ということを早い段階から考えておくと良いと思います。それは「いい大学に入る」とかそういうことではありません。例えば、勉強して資格を取るのか、それとも技術を身に着けて生きていくのか、どういう風に生きていくのかといったもっと大きなことです。小学校や中学校の時点で決めてしまう必要はないと思いますが、このことをなんとなく考え続けて欲しいです。そうすれば、なにか自分がやりたいなと思ったことや、向いているなと思ったことが現れたときに、それを「仕事」と結びつけることができると思います。基本は毎日楽しく学校での生活を送ってもらいたいのですが、ほんの少しだけこのことを頭の片隅の置いておいてもらえれば、将来につながること、やりたい仕事を見つけやすくなると思います。