※このページに書いてある内容は取材日(2023年11月07日)時点のものです
企業の「もったいない」を、誰かの「ありがとう」にする
私は、企業から物品を提供していただき、物品を必要とする団体に寄付するためのサービスを運営する「株式会社StockBase(ストックベース)」という会社を経営しています。
企業などでは、災害に遭って自宅に帰れなくなってしまった従業員や、避難してきた人たちの食料として、保存食を大量に保管しています。災害用に用意された保存食にも賞味期限はあるので、賞味期限が近くなると、古いものを捨てなければならないことがあります。まだ安全に食べられるものを、「賞味期限が近いから」という理由だけで捨ててしまうのはもったいないですよね。そこで私は、企業が持っている保存食などを提供してもらい、必要としている誰かに寄付して「譲ってくれてありがとう」という思いに変えるためのサービスを考えました。そして、大学在学中だった2021年4月に今の会社を起業しました。企業から提供いただく物品、お米や保存水などの備蓄食料のほかに、未使用のノベルティ(企業が宣伝用に無料で配布する文具やグッズ)などもあります。寄付先は、全国にあるフードバンクや子ども食堂などを展開する福祉系のNPO法人のほか、大学などの教育機関が中心です。起業から2年経った今、これまでに約80社の企業から物品を提供いただき、全国の約300の団体に寄付するなど、たくさんの方々にサービスをご利用いただいています。
私たちは、物品を提供してくれる企業から「サービス利用料」をいただくことで、会社を運営するために必要な収益を得ています。また、寄付先への「配送料」も物品の提供企業に負担いただいています。物品の廃棄にかかる廃棄物処理料金は、StockBaseに支払うサービス利用料・配送料の合計金額と比べても、大きな違いはありません。企業は、同じくらいの金額を支払うことで、”廃棄ではなく寄付”という選択ができるのです。一方で、寄付を必要とする団体は、当社のウェブサイトから必要な物品を選び、無料で受け取ることができるというのが、このサービスの仕組みです。
サービスの仕組みを作り、会社を成長させるための計画を立てる
私の経営者としての仕事は、大きく3つあります。
1つ目は、サービスをよりよいものにするための仕組みを作ることです。例えば、物品を提供してくれた企業に、寄付された物品がどのように活用されているかをお知らせする方法を考えたり、寄付品の転売を防ぐためのルールを整えたりすることです。このように、サービスを作った後も、やらなくてはならないことはたくさんあります。サービスを利用した企業や団体からの要望をもとに、一緒に働いている仲間や物品を運ぶ運送業者などの取引先とも相談しながら、サービスを安心してご利用いただけるよう、随時、改善しています。
2つ目は、サービスをいろいろな人に知ってもらうことです。起業当初は、企業や団体に直接、連絡し、当社のサービスで解決できる課題はないか、アプローチすることもありました。今は、イベントや展示会に参加して、当社のサービスに興味を持ってくれた企業や団体にアピールする機会を作っています。
3つ目は、会社をさらに大きくするための計画を立てることです。例えば、捨てられる予定だった備蓄用のお米を紙の商品に作り替えるといった、「アップサイクル」という方法で、「もったいない」をなくすサービスを展開できないかと考えています。このように、提供できるサービスを今よりも増やし、会社をさらに成長させる計画を立てています。
全てが手探りの会社経営、起業家同士のつながりも大切な学びに
起業当初は課題も多く、大きなトラブルに見舞われたこともありました。一番、印象的だったのは、何十トンもある食料品の受け取り方法の連絡に行き違いがあり、寄付を希望していた団体に受け取っていただけなかったというトラブルです。このときは、自分たちで車を借りて食料品を回収し、ほかに受け取ってくれる方を探しながら夜通し配り歩くといった、大変な経験でした。もちろんその後は、物品の受け渡しまでの流れを見直し、物品を確実にお渡しするための仕組みを作りました。
また、大学生のときに起業したので、会社経営の方法やビジネスマナーのような基本的なことがわからず、全て手探りでした。そこで、起業家の先輩たちからアドバイスをいただいたり、起業家向けの学習会に積極的に参加したりすることで、仕事の進め方を一つずつ覚えていきました。
「『もったいない』をなくす」という理念に共感してくれる人が増えたことを実感
多くの課題を乗り越え、スムーズにサービスを提供できるようになった今は、お褒めの言葉をいただくことが多くなりました。食料品の寄付を受け取った団体などから「食事を十分に取れない方々に配布できて助かった」といった言葉を、物品を手にした方々の写真と一緒にいただくと、とても励みになります。
そうした言葉や写真をレポートにして企業に届けると、「寄付をしてよかった」という感想をいただけます。当社のサービスを通して「受け取れてよかった」「寄付をしてよかった」という思いの循環が生まれていくことが、何よりうれしいですね。
また、こうした実績を積み上げていくことで、私たちのサービスを、ビジネス系のイベントやウェブメディアなどでたくさん取り上げていただけるようになりました。「『もったいない』をなくす」という当社の理念を伝え、それに共感してくれる方がいると実感することも、大きなやりがいにつながっています。
「自分はどうしたいか」を軸にして、進むべき道を選ぶ
会社を経営していると、重要な決断をしなければならないことがたくさんあります。はっきりとした正解が見えていることもあれば、どうすることが正解なのかがまったくわからないこともあります。決断に迷いそうなときに私が大事にしているのは、「自分がどうしたいか」という原点に立ち返って、それを軸にして考えることです。
私がなにより実現したいのは、「『もったいない』をなくす」ことです。そのためには、会社を成長させ、より多くの人にサービスを届けなくてはなりません。だから、事業を大きくするために資金を借りるかどうか、など、会社を経営するための判断が必要なときには、「『もったいない』をなくすために、さらに会社を成長させるにはどうしたらいいか」という軸で、進むべき道を選んでいます。そして、選んだ道が正解だったと言えるよう、努力することも欠かせません。
ボランティアでの気づきがビジネスアイデアを生んだ
昔から起業をしたいと考えていたわけではありません。子どものころに見た医療ドラマの世界に憧れ、「医療に関わる仕事がしたい」と考えていました。高校生になってからは「医療機関の経営を支援する」という形で医療に関わることを志すようになり、大学では経営学などを学び、医療系メーカーなどに就職したいと思っていました。そんな中で起業を意識したのは、大学3年生のときでした。
大学3年生のとき、企業で余った新品の壁掛けカレンダーや卓上カレンダーなどを高齢者施設に届けている方に出会い、そのお手伝いをするというボランティアをしていました。私はそのとき、自分では普段スマートフォンのカレンダーアプリを使っているから、紙のカレンダーはあまり必要ないように感じていました。しかし、高齢の方はカレンダーに直接メモをしたり、薬を貼り付けて飲み忘れを防いだりと、いろいろな用途で使っていると知りました。そこで、「誰かにとってはいらないものでも、それを必要としている誰かがいる」ということに気づいたのです。
ちょうど同じ時期に、大学の「起業プランニング論」という授業で、ビジネスコンテストに応募するという課題が出されました。そこで、ボランティアでの気づきを生かし、当社のサービスにつながるビジネスアイデアを、授業を受けていた仲間とつくって応募したところ、3つのコンテストで受賞したのです。このことが起業への後押しになり、大学3年生のときに大学を休学して、一緒にコンテストに応募した仲間とともに起業しました。
「自分は自分、みんなはみんな」世界が広がり、個性を出す大切さを知った
今は明るくポジティブに物事を考える性格ですが、昔は自分の意志は出さず、友達に合わせて行動するような性格でした。中学から高校までバスケ部に所属し、部長を務めていたのですが、そのころも自分を出すより仲間を支えるタイプの部長だったと思います。
そんな性格が変わったのは、大学に進学し、授業やサークル活動を通して自分の世界が一気に広がったことがきっかけでした。また、大学で知り合った仲間たちはみんな個性豊かで、自分の考えやこだわりを大事にしている人ばかりだったのです。そんな仲間と授業や遊びを通して関わっていくうちに、自分の考えや価値観をアピールしていくことを、楽しいことだと思うようになりました。小さいころから両親には、「自分は自分、みんなはみんな」と言われていましたが、大学生になってようやく自分らしさを出す大切さを知ったように思います。
日常の「なんでだろう」が、将来の目標につながっていく
この記事を読んでいるみなさんの中にも、自分で会社を作ってみたいと考えている人がいるかもしれません。一方で、「将来の目標が見つからない」と悩んでいる人も少なくないと思います。どんな人でも、将来のことを考えるときに、まず始めにやってみてほしいことは、「自分が解決したいと思う課題を見つける」ということです。
では、課題の見つけ方はどうすればいいのかと思いますよね。そんなときは、日常の「なんでだろう」を探すことから始めてみましょう。例えば、電車に乗っている人や街を歩く人たちの顔を見て、「なんでこの人は悲しそうなんだろう」「この人はなぜうれしそうなんだろう」と考えてみてください。または、テレビや動画の合間に目にする広告を見て、「なんでこの商品が売られているんだろう」と調べてみるのもいいでしょう。日常の中にある「なんでだろう」を深く考えれば、課題が見つけられるかもしれません。そうやって見つけた課題を、自分ならどのように解決するかを考えることで、誰かの役に立つサービスを思いついたり、自分の目標を見つけたりすることができますよ。
自分のやりたいことが見つかったら、あとは勇気をもって一歩踏み出してみることです。きっと成功する、という気持ちを大事にして、失敗を恐れずにチャレンジしてみてください。