仕事人

知事の仕事は大きく分けると，以下の３つに大別されます。第一は，お支払（しはら）いいただいた税金（ぜいきん）を使って，県民の皆（みな）さんが幸せに暮（く）らしていくためにどう配分するか，また企業（きぎょう）や団体（だんたい）の方々（かたがた）にお手伝いいただいて，どのように有効（ゆうこう）に予算を使っていくのかを考えること。第二は，県民の皆（みな）さんがやりたい仕事に関して，法律（ほうりつ）上の許可（きょか）や認可（にんか）を出すこと。第三は，県や地域（ちいき）がさらに繁栄（はんえい）するように，知名度を上げ，注目を集めるような広報（こうほう）活動やセールス活動の先頭に立つことです。三重県知事の仕事としては，例えば尾鷲（おわせ）市は屋久島（やくしま）に次いで日本で２番目に雨が多く，台風の被害（ひがい）も受けやすい地域（ちいき）なので，風水害を含（ふく）めた防災（ぼうさい）対策（たいさく）に力を注いでいます。また，三重県は海岸線が1100キロもあることから津波（つなみ）対策（たいさく）にも常（つね）に取り組んでいます。

知事の日常（にちじょう）業務（ぎょうむ）は実にさまざまです。ある日の様子は，午前8時半に登庁（とうちょう）し，すぐに看護師（かんごし）さん確保（かくほ）のための予算についての会議，続いて来年度の予算について職員（しょくいん）とディカッション。昼食後はベトナムの総領事（そうりょうじ）をお迎（むか）えして会議。次いでメディアからの取材を受け，その後，地域（ちいき）の観光協会の方々（かたがた）と打ち合わせ。さらに夜も団体（だんたい）の皆（みな）さんの会合に出席したり，挨拶（あいさつ）したりと仕事は続きます。また，東海４県の知事さんや市長さんとの会議に出席するなど，広域（こういき）の連携（れんけい）に関する仕事もあります。ただ，どのような仕事をしていても，私（わたし）の考えの基本（きほん）にあるのは，三重県民の暮（く）らしが良くなること，そして幸せになることです。そのためにまず三重の良さを多くの方々（かたがた）に知ってもらうため，認知度（にんちど）のアップとPRには特に力を注いでいます。

知事の仕事で苦労するところは，どんなことにも賛成（さんせい）の人と反対の人がいて，それでも最終的には，どちらかに決めなくてはいけないということです。例えば，県では，視覚（しかく）障害（しょうがい）者の方が盲導犬（もうどうけん）を連れてレストランなどに入ることを推進（すいしん）しているわけですが，他のお客様が嫌（いや）がるという反対の意見も出てくるわけです。このように100%の方から賛成（さんせい）が得られる政策（せいさく）はないのです。ですから，何かを決める場合は，反対側の意見を良く聞き，どのように説明すれば納得（なっとく）していただけるかということを考えます。政策（せいさく）を実行するにあたり，いろいろな場所に説明に伺（うかが）いますが，選挙で選ばれた知事は私（わたし）一人。代わりはいないのです。健康管理も大切ですね。

私（わたし）は知事になって二期目をむかえましたが，一期目の４年間でさまざまな現場（げんば）を1,000カ所ほど訪問（ほうもん）しました。また，「みえの現場（げんば）・すごいやんかトーク」という名称（めいしょう）で，地域（ちいき）で頑張（がんば）っている皆（みな）さんと対話をし，地域（ちいき）の実情（じつじょう）把握（はあく）に努めてきました。このトークイベント開催（かいさい）は，４年間で100回となりました。さらにツイッターやフェスブックでも県民の皆（みな）さんの声を常（つね）に広く聞いています。そんな意見の中から「三重が前より元気になった」とか「三重が注目されるようになってうれしい」とか「県政（けんせい）が身近にかんじられるようになった」という声が多くなってきました。これは私（わたし）にとってとてもうれしいことです。さらに，障害者（しょうがいしゃ）の皆（みな）さんの雇用（こよう）促進（そくしん）事業に特に力を注いで来たわけですが，障害者（しょうがいしゃ）の皆（みな）さんから感謝（かんしゃ）の言葉をいただき，このときも嬉（うれ）しかったですね。

知事の仕事も行政（ぎょうせい）の仕事も，当然ですが，一人では何もできません。県庁（けんちょう）の職員（しょくいん）の皆（みな）さん，団体（だんたい）や企業（きぎょう）の皆（みな）さん，そして県民の皆（みな）さんの協力が常（つね）に必要です。ですから，私（わたし）の得意分野の仕事は当然しっかりやりますが，自分が不得意なところは，周囲の皆（みな）さんに協力していただき一緒（いっしょ）に仕事を進め，最終的には全員で結果が出せるようにしています。私（わたし）はまだ40歳（さい）で，全国の現職（げんしょく）の知事さんの中で一番若（わか）いわけですから，知らないことは知らない，できないことはできないとハッキリ言うことにしています。自分一人で抱（かか）えこんで，無理な仕事をしてしまうと，県民の皆（みな）さんに迷惑（めいわく）をかけてしまいます。ですから，皆（みんな）で力を合わせて仕事を進め，そしてどんなことも前向きに考えるというのが，現在（げんざい）の私（わたし）のポリシーです。

大学生の時から官僚（かんりょう）や政治家（せいじか）を目指していたわけではありません。就職（しゅうしょく）活動のとき，いろいろな民間企業（きぎょう）の試験も受け，いくつかの省庁（しょうちょう）もまわりました。その中でたまたま出会った面接官（めんせつかん）の面白い質問（しつもん）に感動し，ここに行きたいと思ったのが経済（けいざい）産業省でした。そして経済（けいざい）産業省で働き始め，政策（せいさく）立案に携（たずさ）わり，政治家（せいじか）と共に働く機会が増（ふ）えてきました。そんな時，当時の政治家（せいじか）の行動に物足りなさを感じたり，違和感（いわかん）を覚えたりしました。そして，これでは日本は変わらないと思い始め，政治家（せいじか）を志（こころざ）すことになったのです。三重県知事になろうと思ったきっかけは，三重を歩き，じっくり観察してみると，食べ物も自然も人々（ひとびと）の暮（く）らしもとても素晴（すば）らしく，この素晴（すば）らしい三重を，もっと多くの人へ知らせたいと思ったからなのです。

小学生になったころは，通知表にも書かれるほどの泣き虫でした。一人っ子で寂（さび）しがりやで，甘（あま）えん坊（ぼう）だったからでしょうか。それが小学３年生くらいから，変わってきました。良いことをして，できるだけ多くの人にかまってもらいたくなったのです。そのころから負（ま）けず嫌（ぎら）いにもなってきました。その二つの点が私（わたし）の原点になっているような気がします。小学５年で塾（じゅく）へ行き始めたのですが，最初の模試（もし）の成績（せいせき）で，14クラスの下から３番目のクラスに振（ふ）り分（わ）けられたのです。そのとき，負（ま）けず嫌（ぎら）いの気持ちに火がつき，頑張（がんば）って勉強して希望の中学に入学しました。そして，そのころから，勉強以外でも自分の個性（こせい）を発揮（はっき）するようになり，ソフトボール部では４番でキャッチャーでしたし，高校では生徒会長にもなりました。

皆（みな）さんには，自分を育ててくれた人に感謝（かんしゃ）の気持ちを持ってほしいです。それはお父さんやお母さん，おじいちゃんやおばあちゃん，または周囲の大人の人かもしれない。自分がここにいるのは自分を生んでくれた人，育ててくれた人のおかげなのです。腹（はら）が立つこともあるかもしれませんが，感謝（かんしゃ）の気持ちを忘（わす）れずに，自分の道へチャレンジしてほしいのです。自分の道を歩みだして分かるのは，どんなチャレンジも結局，自分一人ではできないということ。いつも親や家族や友人や周囲の大人達が，どこかで支（ささ）えてくれているのです。それは，私（わたし）の仕事においても同じです。自分の親や家族に感謝（かんしゃ）できない人は，仕事をしても上手くはいきません。
それから，もう一点，しっかりとした生活習慣（しゅうかん）を身につけることは，とても大切です。私（わたし）も体調管理のために，朝走ったりして体を動かしています。皆（みな）さんも体を鍛（きた）えて，自分をコントロールしながら夢（ゆめ）を実現（じつげん）させてください。