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東京都に関連のある仕事人
1969年 生まれ 出身地 東京都
野老ところ 朝雄あさお
子供の頃の夢: 建築家
クラブ活動(中学校): 水泳部
仕事内容
「つなげること」をテーマにもんもんようせいさくしています。
自己紹介
ようしょう時よりけんちくを学び,がしらしん。2001年9月11日より「つなげること」をテーマにもんようせいさくを始め,じゅつけんちく,デザインのきょうかいりょういきで活動を続ける。たんじゅんがく原理にもとづいてじょうやコンパスでさいげんのうもんもんようせいさくや,同様の原理をおうようした立体物のせっけいせいさくも行っている。
出身大学・専門学校

※このページに書いてある内容は取材日(2018年06月06日)時点のものです

「つなげたい」という思い

「つなげたい」という思い

わたしは,もともとはけんちくを勉強していました。今はもんもんようせいさくを中心に活動しています。自分のせいさくしたもんようが,折り紙になったり,ちょうこくになったり,平面から立体まではばひろいジャンルを手がけています。
もんようを作り始めたきっかけは,2001年9月11日にアメリカで起こっただいなテロけんでした。そのときに大きなだんぜつたりにし,ぜつぼう感を感じたんです。もんようというのは,それぞれのもんもんとがくっついていたり,あるきょたもったり,いくつかのようでできているのですが,ほんてきに「つなげる」もの。何かを「つなげる」ことが希望になれば,そのような願いからせいさくを始めました。
こういったことを言葉で説明するのはなかなかむずかしいので,自分は「かたち」でひょうげんする方法を選んだのかもしれません。

美をつくり出すためのルール「りつ

大切にしていることは,どのようなはんだんじゅんにおいて美をつくり出せるかということです。ほんてきには,がくてきせつ(=ほうそく)にしたがうのがわたしはんだんじゅんになっています。手を動かしていろいろな図形をえがく中で,せつというか決まりがわかってくることがあります。せいさく中に発見する動かしようのないもののそんざいから,自分が作図するためにみちびしたルールをわたしは「りつ」とんでいます。
例えば,青森に伝わる「こぎんし」というでんとうてきしゅうがあるのですが,これはたてに対してすうの目を数えてしていく,という決まりがあります。こういった「りつ」があることで,しゅうの方法を他の人に伝えやすくなり,共有できるわけなんですが,すばらしく数学的なことをかれらはしていると感じます。でんとうてきしゅう法)でいうと,例えばいきによっては目の数がぐうすうの場所もあり,そのことでいきごとのちがいというものが生まれる。それもまた,すばらしいことだと思っています。
ただ,数学的なせつしたがってさえいれば,必ず美しいものができるとはかぎらないんです。そこがむずかしいところですね。

作品を通じて,さまざまな人と語り合える喜び

わたしの作品はがくてきもんようほんとしていますが,がくというのは一つの「共通言語」になると思います。自分の伝えたかったことが伝わるともちろんうれしいし,たとえばわたしが思いもつかないアプローチで,自分の作品がかいせきされたり,ちがうものの見方をしてくれたりする人もいます。ときにはそれが数学者の人であったり,子どもたちであったり。わたしが作品を作っていなかったら,そういった人たちと話す機会はなかったのではないかと思うと,それもまたうれしいですね。作品を通じて,今まで知らなかった人とつながることができるのは,自分にとっての喜びです。

ふうをすれば,つながることができる

工夫をすれば,つながることができる

東京2020大会エンブレムは,「わ(輪/和)」を表したい,と始めから思っていました。なにかバラバラなものが輪をなす,円をなすというのを形にしたかったんです。
わたしのデザインしたエンブレムは,長方形のパーツの角の部分,つまり「点」でつながっています。「点」というのはそもそも面積がゼロなので,「点でつながる」というのはじゅんしているように思うかもしれません。線と線や面と面でくっついていなくても,いつもは角を立てている人たちも,ある種のふうをすればつながることができるのではないか。そういうことを表したいと思いました。
「わ(輪/和)をなす」ことには,さまざまな方法がある。角ばった長方形も,つながった輪になれるんだよ,と。ちがいはあってもスポーツを通じて人と人がつながることができる,それをひょうげんしたつもりです。

大切なのは「15のパーツをいた」こと

東京2020大会エンブレムのほんとなっているのは「12角形」です。実はこのデザインを考え出す前から「多角形をどうやってぶんかつしていくか」ということにはきょうがあり,4角形,6角形,8角形など,さまざまな数でぶんかつすることをためしていたんですね。ぐうすう多角形はひし形でぶんかつすることができます。
このエンブレムは,45のパーツでできています。一番大きな正方形が9,残りの2種類の長方形が18ずつ。この組み合わせをけんしょうしてくださった方がいるのですが,オリンピックエンブレムは50万通り以上,パラリンピックエンブレムは300万通り以上あるそうです。
ほんの12角形の中をすべてパーツでめようとすると,パーツがあと15,つまり全部で60必要になります。もしも60使った場合,円の中をパーツでめる組み合わせは200億通り以上になるそうです。
このせいさくのプロセスでは,「15のパーツをく」というのが重要なポイントになっています。そしてものすごい数のパーツの組み合わせがあるので,とてもすべてを自分で列挙してかくにんする,ということはできません。でもその中で,「美しい」と思えるデザインに出会えた。ひとりの人が地球上のすべての景色を見られないのといっしょで,ある意味こういう出会いはいちいちといいますか,カンやほんのうのようなものです。せいさくする中で,そういうものは大切にしています。

「見立てる」ことができるのががくもんようりょく

「見立てる」ことができるのが幾何学紋様の魅力

東京2020大会エンブレムのデザインは「何をえがいたのか」というしつもんを,これまで数多く受けてきました。分かりやすい答えを求められているのを感じましたが,じっさいには,具体的な何かをイメージしてせいさくしているわけではありません。花に見える人もいるかもしれないし,ガッツポーズをしている様子に見えるかもしれない。見る人によって自由に「見立てる」ことができるのが,がくもんようりょくだと思っています。
また,「目の見える人と,見えない人の共通言語になれたら」という思いもありました。例えば,このエンブレムがでこぼこしたエンボス加工(紙や皮などにでこぼこしたようを作る加工法)のようなものになったときに,「じている輪」と「開いていいる輪」は,さわるだけでかんたんにそのちがいをにんしきできますよね。じっさいにエンブレムをおうとつひょうげんしたグッズも作られているので,自分の思いが伝わっているようでうれしかったです。

今あらためて感じる,数学のおくぶか

例えば,ひし形をテーマに作図を始めると,そこから何万,何億ののうせいがあるわけです。そこでエンドレスにやり続けることになる。やりながらだっせんしていくこともあるし,それが作品として形になるのは10年後かもしれない。もちろん,それで自分がこんらんすることもたくさんあります。
そもそも,一生かかっても自分がわからないことというのは世の中にたくさんあって,例えばおうごん(※)ひとつにしても,だれかがそれをしたんだよなあと思うと,その深さにゾッとすることがあります。
わたし自身が子どものころ,あまり勉強をしていなかったことも大きいかもしれません。だからこそ今,数学的なもののすばらしさや,深さというのをあらためて勉強している感じです。そのゆたかさを知るにつれ,ちゅうはんなものを作ったら数学をけがすことになるのではないか,という気持ちにもなり,気がまります。

(※)おうごんとは,西洋で古くから美しいとされてきたりつのこと。古代ギリシャで発見され,げんざいでもさまざまなデザインに使われている。

数学は「かっこいい学問」

数学は「かっこいい学問」

わたしは算数が数学になったとたん,急に苦手になり,数学の時間を楽しめない生徒でした。今思うのは,そういったものを無理に好きになる必要はないけれど,もしかしたらそのすばらしさや深さに気づいていないだけなのかもしれない,ということです。
例えば音楽にしても,プロの音楽家になれる人は少なくても,音楽を楽しむことはだれにでもできる。絵をいたり,スポーツもいっしょですよね。プロフェッショナルになれなくても,楽しむことはできるわけです。数学も,数学自体を続けて数学者になるという人は本当にひとにぎりですが,そうでなくても,数学を学ぶことで人間の英知をかいることはできます。今,勉強をしている人に伝えたいのは,わたしたちはとんでもなく「ゆたか」なものを目の前にしているということです。わたし自身,そのときには気づくのがむずかしかったのですが。
数学がなかったら,今の世の中はありません。いろいろなことのはいに物理というものがかくれていたり,科学が世の中をささえているということを知ってほしいし,それらの中のひとつが数学なわけです。そんなゆたかでかっこいい学問があるんだ,というのを,少しでも知ってもらうきっかけがあればいいな,と思っています。

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取材・原稿作成:東京書籍株式会社