仕事人

社会にはいろいろな仕事があるよ。気になる仕事や仕事人をたくさん見つけよう!

神奈川県に関連のある仕事人
1993年 生まれ 出身地 神奈川県
茂手木もてぎ 敦史あつし
子供の頃の夢: 研究者
クラブ活動(中学校): ハンドボール部
仕事内容
エネルギー問題や地球かんきょう問題のかいけつ,科学じゅつはってんを目指し,国の機関としてさまざまなぎょうや大学の研究開発をえん,リードする。
自己紹介
身近な最新じゅつに関心があり,スマート家電やデジタル小物を見つけると,ついしくなってしまいます。また,体を動かすことが好きで,休日はジムやボルダリングに通っています。
出身大学・専門学校

※このページに書いてある内容は取材日(2021年01月18日)時点のものです

新エネルギーやロボットの開発をえんする

新エネルギーやロボットの開発を支援する

わたしは,「こくりつけんきゅうかいはつほうじん しんエネルギー・さんぎょうじゅつそうごうかいはつこう」(NEDO,ネド)というしきで,ロボットやAIに関する研究開発を,プロジェクトマネージャーとしてえんしています。
国立研究開発法人は,国がぜいきんを使ってやるべきことのうち,研究・開発に関するものをになしきです。その中でもNEDOの事業は,「新エネルギー」と「産業じゅつ」の2つの分野に特化しています。もともと1973年に発生した石油(原油産出国からのきょうきゅうきゅうげきり,石油のかくが上がったことで世界中のけいざいこんらんした出来事)がきっかけでできたしきということもあって,最初は石油に代わる新エネルギーの開発えんがメインの事業でした。そこに1988年から産業じゅつの分野が加わり,ロボットの開発やそのために使える材料,最近だとIoT(モノのインターネット)じゅつの開発えんなども手がけるようになりました。
NEDOはけいざいさんぎょうしょうの所管するしきで,新しいじゅつの研究だけにとどまらず,研究の成果を社会の中で生かし,けいざいや産業そのものをかっせいすることまでを目指しています。また,そうした開発えんを通して,しょがいこくに日本のじゅつりょくの高さをアピールし,日本全体としてのじゅつりょくを向上させていくことも目標です。
わたしは2017年にNEDOにしゅうしょくし,それからずっと「ロボット・AI部」というしょで,ロボットや人工のう(AI)分野の研究開発をえんしています。

ドローンを安全に飛ばすための計画をじゅつめんからサポート

ドローンを安全に飛ばすための計画を技術面からサポート

ロボット・AI部には今,約140名のしょくいんがいて,その中でロボットけいの仕事にたずさわっている人は約40名。つねにいくつものプロジェクトが同時進行で動いています。
わたしがこれまでにたずさわった仕事としては,例えばドローンを街中で安全に飛ばせるよう,こうくうのようにかんせいする仕組みの開発えんがあります。たくさんのドローンが好き勝手に飛んでいたら,しょうとつしてしまうけんせいがありますよね。そこで,しょうとつふせぐためのうんこうルートを計算して管理できるような仕組みをつくろうとしているのです。また,ドローンが近くにある飛行物を自らけんしてかいできるようにするためのじゅつの開発などもえんしています。
社会の中で役立つテクノロジーを安全に使うために必要なじゅつの開発は国がしゅどうすべきですし,ぎょうせいからの要望もあります。国は,今後ドローンを運送業などではばひろく活用していくためのロードマップ(進行計画案)をつくっています。NEDOではそれに沿って,例えば「2025年までにドローンを街中で飛ばすのであれば,2021年時点ではこんなじゅつが開発できていないといけない」というように,じゅつてきな観点で計画を区切って開発を進めています。国やぎょうの要望をもとに具体的な事業の計画を立て,進めていくのがこのしきやくわりなのです。

産業用ロボットに関する新事業をたんとう

産業用ロボットに関する新事業を担当

わたしは今,プロジェクトマネージャーとして,自動車工場などでせいひんの組み立てをするのに使うような産業用ロボットの開発えん事業を進めています。「かくしんてきロボットけんきゅうかいはつばんこうちくぎょう」という名前のこのプロジェクトは,2019年に計画を練ってろんを重ね,2020年にスタートしたばかりです。産業用ロボットのアーム(うで)のハンドリングそうやロボットをえんかくそうするためのじゅつきびしいかんきょう下でも使える新素材の開発など4つのないように分かれ,わたしがチームリーダーをつとめて同じしょの2人のメンバーとたんとうしています。
プロジェクトマネージャーの仕事はまず,事業全体の計画を立てることから始まります。今回の事業は,けいざいさんぎょうしょうと日々ろんをしている中で,産業用ロボットの開発えんが必要だという要望が上がり,具体的にどこをどうえんしたらよいか,計画を立案しました。えんないようや目標が決まったら,次は事業を進めるぎょうや,大学などの研究機関 を集めます。事業がスタートした後は,けいざいさんぎょうしょうや,参加してくれているぎょうや研究機関の方のところにげんじょうかくにんしに行ったり,要望を聞いてりょうにまとめたり,場合によっては,しんちょくじょうきょうおうじて事業全体の目標を見直したりもします。

事業のほねみをつくることが,マネージャーの重要な仕事

事業の骨組みをつくることが,マネージャーの重要な仕事

立ち上げ時に事業計画のばんをつくり上げることは,プロジェクトマネージャーのとても重要な仕事です。
中でも大事なポイントが3つあります。まず1つ目は事業自体の目標せっていをすることです。今回の事業は5年間の計画ですが,目標がボンヤリしていると進め方を見失ってしまうことがあります。そこでたいせいがあって,5年後にじつげんするのに高すぎず低すぎない目標を考え,いろいろな分野のせんもんと何度もろんを重ねて固めていきました。
2つ目はNEDOといっしょに事業に取り組んでいくメンバーの選出です。この事業では,じっさいに産業用ロボットやその部品をせいぞうしている民間ぎょうにたくさん参加してもらいました。ただ,プロジェクト名にもある “かくしんてき”なロボットを開発するためには,大学などで行われている,すぐれた研究も生かしていきたい。そのように考えた結果,民間ぎょうと研究機関とをバランスよく組み合わせた「さんがくれんけい」の形でメンバーをこうせいすることになりました。
3つ目は,予算の配分です。今回のようにたくさんの研究機関やぎょうが関わる場合,決められた予算をどこにどのくらいればうまく事業が進むのかを考えなくてはいけません。また,事業を進めるためには,毎年,予算をかくする必要があるのですが,なかなか思う通りに出してもらえないこともあります。そういうときにプロジェクト自体のどうしゅうせいや調整をしていくのも,プロジェクトマネージャーの大事な仕事です。

さまざまな意見をそうごうてきに見て,問題の根底にあるものを考える

さまざまな意見を総合的に見て,問題の根底にあるものを考える

仕事をする中でむずかしさを感じるのは,研究のえんとしてお金を出す側のNEDOしょくいんの立場でぎょうや研究機関の方と話をすると,どうしても本音を語ってもらいにくくなってしまうことです。そのため,相手が本当に考えていることをできるだけ聞き出せるよう,聞き方や話し方をしきして会話をするようにしています。また,わたし自身がもともと農学部出身でロボットのせんもんではなく,じゅつてきな部分のかいむずかしいこともあるので「今の話はこういうかいで合っていますか?」など,自分のかいしゃくがズレていないか,できるだけ相手にかくにんしながら話をしています。
たくさんのぎょうや研究機関の方の話を聞いていると,さまざまな観点の意見や問題が出てきます。みなさんの話をそうごうして,本当に問題になっていることや,その問題の根底にあるのが何なのかを考えることも大切です。NEDOは予算を出すしょうちょうぎょう・研究機関との間に立って,はしわたしをするポジションですから,ぎょうや研究機関の側に予算じょうきょうてきせつな説明をしながら,しょうちょうにはそれぞれのぎょうや研究機関の要望と,NEDOとして事業をどう進めていきたいと考えているかをしっかり伝えていく必要があります。そうすることで両者の関係をきちんと取り持てるよう,いつも心がけています。

大事にしているのは,日々のじょうほうしゅうしゅうとコミュニケーション

大事にしているのは,日々の情報収集とコミュニケーション

じゅつえんするしきで働いているので,にちじょうてきにロボットやAIに関するじょうほうしゅうしゅうをしています。ゲームやスマート家電などの新しい電子機器は,もともと好きなのもあって集めています。日本のじゅつ開発をどうえんしていくのかを考えるには,国内だけでなく,世界の動向を見ることも欠かせません。海外のじょうほうは自分から取りに行かないと手に入らないものも多いので,積極的にじょうほうへのアンテナをめぐらせるようにしています。
同時に,多くの人と関わる仕事ですから,コミュニケーションをとても大事にしています。特に今はしんがたコロナウイルスのえいきょうでなかなかちょくせつ,顔を合わせて話ができないため,NEDO内のチームのメンバーですら,何をしていて,どこまでぎょうが進んでいるのか見えにくいじょうきょうです。その中でどう意思つうをしていくかは,大きな課題です。
仕事をしていてやりがいを感じるのは,事業に参加してくれたぎょうや研究機関の方に「NEDOの事業で研究ができてよかった」と言われるなど,成果が出たりよろこんでもらえたりしたときです。わたしたちは社会のためになる事業に取り組んでいきたいと考え,日々,仕事をしています。しかし,たずさわった事業がすべて世の中に出せるまでの形になるかというと,やはりそうはいきません。その中で,えんしたじゅつせいひんにつながったという話を聞くと,いいえんができたのかなとうれしくなります。2017年には,以前関わったでんどうくるまいすがたロボットがせいひんされ発売されました。そこでせいひん後に,NEDOのホームページでせいひんの話をしょうかいするため,開発したぎょうの方に開発を聞きに行ったとき,せいひんまでの苦労話といっしょかんしゃの言葉もいただけて,とてもモチベーションが上がりましたね。

部活でまとめ役をしたけいけんが,チームプレーの仕事でも生きる

部活でまとめ役をした経験が,チームプレーの仕事でも生きる

中学・高校時代は部活でやっていたハンドボールに熱中し,ほぼ毎日練習の日々でした。大学でもハンドボール部に入っていました。部活ではまとめ役になることが多く,高校のときは部長,大学のときは副部長をつとめました。強力なリーダーシップがあるタイプではありませんでしたが,周りをつねに見て,気をつかうせいかくだったと思います。なやみをかかえていそうな部員や下級生には,特によく声をかけていました。今やっている,マネージャーとしてプロジェクトを動かす仕事もチームで取り組むものですから,だんからしゅうを気にかけて話を聞くのは,今も昔も変わらず大事なことだと感じています。
NEDOは,大学院で同じ研究室にいたせんぱいしゅうしょくしたことで知りました。当時,農学部でいねの研究をしていて,研究に関わる仕事をしたいと思いながら,自身が研究者として一つのテーマだけに集中するのは自分のせいかくに合っていないと感じていました。NEDOの事業は農学部とは全くことなる分野ですが,新エネルギーからロボットまで多様なテーマに関われること,研究者をえんできることがりょくおうを決めました。
最近はロボットを使った「スマート農業」にきょうがあり,新しい事業として仕事にできないかと考えています。たまたま他の仕事で農業ロボットに関わりきょうをもったのですが,わたしは農学部出身ですから,これも何かのえんかもしれませんね。

だれかの意見を100%信じるのではなく,一歩はなれて考えてみて

誰かの意見を100%信じるのではなく,一歩離れて考えてみて

NEDOの仕事をしていて感じるのは,物事を少しはなれたところからかんして見る(=広いで見る)ことの大切さです。例えばニュースでも,あることがらけんに対していろいろな立場の人が自分なりのてんで意見を言いますが,そのどれが本当に正しいのかは,なかなかわからないこともよくあります。他人の話をうのみにするのではなく,少し“うたがってみる”こと,自分でも「何が本当か」を考えながら聞くことが大事だと思います。
どんな仕事をするにしても,「この人の言うことはすべてちがいない」という思いこみをしたまま物事を見ていると,正しい方向に進めなくなってしまいます。わたしの仕事は国のぜいきんあずかって行う事業で,「どうしてこんな事業をしているの?」と聞かれたときに,だれに対してもきちんとした説明ができなくてはいけません。そんなとき,特定のだれかの意見だけを信じて進めましたというのでは,せっとくりょくがありませんし,自信をもってお話できなくなってしまいます。どれほどえらい人の意見だったとしても,だれか一人の話だけを正しいとするのではなく,きちんと自分の頭を使ってかいしゃくし,言葉にするのは,とても重要なことです。みなさんも,さまざまなじょうほうをもとに,自分でかいしゃくしたり,自分で考えたりできるようになってください。

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取材・原稿作成:渡部 彩香(Playce)・東京書籍株式会社/協力:横浜銀行