※このページに書いてある内容は取材日(2019年09月18日)時点のものです
2万8000人のランナーが参加する市民マラソン
私は「横浜マラソン組織委員会」で,「横浜マラソン」の事務局として大会の準備・運営を行っています。この事務局は,横浜市と神奈川県のほか,横浜でさまざまなスポーツ事業を行っている「公益財団法人横浜市体育協会」が中心となって運営していて,私は横浜市体育協会の職員として従事しています。
横浜マラソンは「誰でも参加できるマラソンの開催を」という市民の要望によって誕生しました。1981年に開催された第1回の参加者は2000人足らずでしたが,現在は約2万8000人のランナーが参加するフルマラソン大会へと成長しています。種目は,42.195kmを走るフルマラソン,距離が短い1/7フルマラソン,車いすのランナーが参加できる1/7フルマラソンと生活用車いすで介助と一緒に参加できる2kmマラソンに分かれており,いずれも湾岸エリアを中心とした横浜市内を駆け抜けます。
大会本番はたった1日ですが,そのために私たちは1年かけて準備を行っています。ランナーや沿道で応援する人たちだけでなく,街全体が安心・安全に,そして楽しくその日を過ごせること。それが私たちの目指す「マラソン大会の成功」なのです。
警察や首都高速関連会社に協力をお願いする
事務局は約30名のメンバーが6つのチームに分かれて大会の準備を行っています。大会を支えるボランティアの活動をとりまとめるチーム,企業に声をかけて大会に賛同する協賛社を集めるチーム,参加者管理や関連イベント,大会時の応援パフォーマンスなどランナーへのサービスに関する企画調整を担当するチーム,ランナーやスタッフ,沿道の応援者等の疾病に対応する救護チーム,経理など事務手続きを行う総務チーム,そして私も一員である,競技運営と会場運営を担当するチームです。私たちのチームの役割は,ひとことで言うと,「ランナーが安全に走れる環境を整えること」です。
横浜マラソンは街の中を走るため,コースが決定したら,まずは警察に出向いて一般車道の使用許可を取る必要があります。さらに,首都高速道路もコースの一部に含まれているため,首都高速の運営会社にも許可申請を行います。ランナーが走る時間は道路を通行止めにするため,自動車を別の道に誘導することになるので,あらかじめ歩道橋など,ドライバーから見やすいところに横断幕を張るなどして,通行止めや迂回のお知らせも行います。ほかにもポスターやインターネットなどを利用して大会の告知を行うことで,当日の混乱を少なくする工夫をしています。また,当日,交通整理や警備の人員がどれくらい必要で,どの場所に配置するのか。そうした警備計画を作成し,警察を含めた関係者との調整を行うのも私たちの仕事です。
コースを調整することも
私たちの仕事の内容は表舞台を支える裏方としての業務が中心です。大会を運営するうえで問題になりそうな点を洗い出し,理解を求めて説明に足を運ぶ日々です。警察,市役所,企業,沿道の商店など,そうした調整を行う相手が多いため,苦労する部分もあります。
たとえば2019年大会は,一部の区間でコースを変更しました。横浜市の湾岸エリアは何年もかけて街の再開発が続いており,次々に新しい商業施設ができるため,毎年コースを再検討する必要があるのです。新しい商業施設へやってくるお客さんが通る道とコースが重ならないよう調整し,またどうしても重なる場合はお客さんの迂回路を設定するなどして混雑を解消します。
ちなみにコースを変更したときは,変更した部分の距離をあらためて測定します。ある部分を増やした場合,ほかの部分を減らさなければなりません。これも私たちの仕事です。横浜市陸上競技協会の測定員立ち会いのもと,総距離が42.195kmとなっているかどうか距離を測り確認を行いました。
ランナーにとって魅力あるコースにすることで,横浜マラソンを走ってみたいというランナーが増え,大会の注目度や経済効果も高まります。今後もよりよいコースにするため,検討は続くでしょう。
参加した人たちの笑顔が見たい
11月の本番に向けて,7月と9月に横浜マラソンのプレイベントを開催しました。ランニング講座やゲストを招いてのトークショーにたくさんの人が集まり,みなさん,楽しそうに過ごしていらっしゃいました。そんなふうに参加者の笑顔が見られることは,スタッフにとってのいちばんの喜びです。
私は2019年の4月にこの事務局に入ったばかりなので,まだ大会本番を経験しておらず,当日をどのような気持ちで迎えるのか,想像もつきません。当日は車いす種目の担当として,スタート地点での立ち会いをする予定です。プレイベントのときのように参加者の笑顔が見られたら「一生懸命,準備してきてよかった」と思えるのでしょうが,いまは不安と期待が半分ずつ入り交じった状態で,目の前の仕事に専念しています。
いちばんの心配事は当日のお天気です。雨天決行ですが,荒天の場合は中止となる場合もあります。実際,2017年大会は台風の影響で中止となりました。ランナーやお客さんの安全を考えると,やむを得ない決断でした。ボランティアスタッフを含め,何千人もの関係者が1年という時間をかけて準備してきた大会ですから,なんとしても晴れてほしいと願っています。
ランナー目線でものごとを考える
この仕事に取り組む上でいちばん大切にしているのは,つねにランナーの目線で考えることです。コースは安全かつ魅力的か,更衣室や給水ポイントの数は足りているか,スタート時やゴール後の誘導はスムーズか。事務局の都合だけでものごとを決定せずに,どんなこともランナーの気持ちになって計画するようにしています。言うまでもなく,マラソン大会の主役はランナーのみなさんです。「また来年も横浜マラソンを走ってみたい」,参加したランナーにそう思ってもらえるような大会を作り上げたいと考えています。
また,警察や官公庁,一般企業まで,さまざまな立場の人とお話をする機会が多いので,よりよい印象をもってもらえるように意識しています。新人の私は,仕事でお目にかかるほとんどの方が初対面ですから,笑顔で元気のいい挨拶を心がけています。
スポーツに関連する仕事に就きたかった
私は子どものころからスポーツが大好きでした。大学では,スポーツ科学部で選手の心理や指導法などを学びました。そして卒業後,しばらく家業を手伝った後,好きなスポーツに関連する仕事に就きたいと思い,就職活動を始めました。
就職サイトを利用して,スポーツ用具メーカーやアスレチックジムなど,スポーツに関わる企業を探している中で,横浜市体育協会のことを知りました。それまで体育協会についてほとんど何も知らなかったのですが,調べていくうちにだんだん興味をひかれるようになりました。さまざまなスポーツ大会やスポーツ教室の運営を通じて,市民の健康づくりをサポートするという仕事は,私のやりたいことと一致していたのです。就職活動を通じて,ひとくちにスポーツに関わる仕事と言っても,世の中にはさまざまな仕事があることを知りました。
当初は,体育協会が管理する日産スタジアムを担当できればと考えていました。中学生のとき,陸上競技部の全国大会で訪れた思い出の場所だったのです。でも,配属されたのはマラソン事務局。マラソンの経験もない私は当初,戸惑いもしましたが,いまは忙しくもやりがいのある充実した日々を過ごしています。
小中学校を通じてハンドボールをプレー
子どものころから体を動かすことが大好きだった私は,小学生のとき友人に誘われて,地域のハンドボールチームに入りました。周りのみんながサッカーやソフトボールをプレーする中で,人とは違う競技に挑戦してみたい気持ちがあったのです。ルールもまともに知らなかったのですが,やってみるととても楽しくて,以後,学校のクラブ活動とは別に,中学を卒業するまでハンドボールを続けました。
私の出身地である愛媛県には,小学生がプレーするハンドボールチームは2チームしか存在しませんでした。そのため,全国大会の地区予選は初戦が決勝戦です。5,6年生のときには全国大会や交流試合で,他県への遠征を何度も経験しました。いまとなってはよい思い出となっています。
いつも子どもたちのことをいちばんに考えてくれるチームの監督は,怒るときはしっかり怒るけれど,普段はとても優しく,メリハリがしっかりついている性格でした。とても尊敬できる方で,子どもながらに「将来は監督のような大人になりたい」と思ったものです。そんな監督と出会えたのもハンドボールのおかげです。
好きこそものの上手なれ
いまも私はスポーツが大好きです。好きという気持ちがあったからこそ,ハンドボールや陸上といった競技を長く続けることができたし,大学での学びにもつながりました。現在の仕事は大変なこともありますが,やりがいを持って楽しく取り組めています。その原動力は,スポーツが好きという気持ちです。スポーツは人生を豊かにしてくれるもの。気分がどんよりしたとき,自分で体を動かせばスッキリするし,またスポーツを観戦することでも楽しい気持ちになります。
みなさんにお伝えしたいのは,私にとってのスポーツのように,何か一つでもいいから自分の好きなものを見つけてほしいということです。勉強,絵,料理,遊びなど,何でもいいのです。「好きこそものの上手なれ」ということわざにあるように,好きなことであれば自然と熱中して努力をするので,上達も早くなります。もしかしたら,それが将来の仕事につながるかもしれません。
なかなか好きなものが見つからないという人は,好奇心を持っていろいろなことにチャレンジしてほしいです。最初はそれほど興味をひかれなくても,実際にやってみると大好きになるかもしれませんよ。