※このページに書いてある内容は取材日(2023年12月05日)時点のものです
企業の業務をサポートするITシステムを作る
私は「有限会社奥進システム」という会社で、プログラマー兼システムエンジニアとして働いています。奥進システムでは、企業の業務を改善したりサポートしたりするためのITシステムの開発や、ホームページの制作などを行っています。
奥進システムの大きな特徴は、働く人の多くに何らかの障がいがあることです。全12名中、10名に身体もしくは精神の障がいがあり、私自身にも、頚髄損傷という身体障がいがあります。脊髄の一部が傷ついており、神経が切れている胸から下を動かすことができないため、車いすで生活をしています。仕事はデスクワークですが、腕を伸ばしたり指を使ったりすることが難しく、パソコンはマウスの代わりにトラックボールを使ったり、手袋と手の間に挟んだペンを使ってキーボードを操作して文字を入力したりしています。そのほかにも、車いすで移動しなくて済むよう、外部との会議はオンラインで行うなど、さまざまな工夫をしながら、日々、仕事をしています。
技術部のプロジェクトリーダーとして、チームをまとめる
私は奥進システムに初めて入った社員として20年近く働いており、現在は技術部のプロジェクトリーダーを務めています。プロジェクトリーダーとしての主な業務は、お客さまとやりとりをしたり、社内のチームをまとめたりすることです。お客さまとやりとりしてシステムの設計図を作り、それを社内で共有して、スタッフが作ってきたものをテストした後、お客さまへ納品するところまでを行っています。
私たちの会社が主に手がけているのは、お客さまが業務をよりスムーズに進めたり、効率良く行ったりするためのITシステムです。たとえば過去には、見積もりを簡単に作成できるシステムや、ショッピングサイトなどを作りました。これらはすべてお客さまの要望に応えて作るオリジナルのシステムで、設計の段階からお客さまと相談しながら一緒に取り組みます。また私は、プロジェクトリーダーとして仕事をする一方で、プログラマーとして実作業をすることも多くあります。
業務時間は8時半から17時半までです。オフィスには車いすで、電車を乗り継いで1時間20分ほどかけて通勤しているため、体力的に大変だと感じることもあります。でも現在は、オフィスへ出勤するのは週2日で、週3日は在宅勤務をしているため、体の疲れをそこまで溜めずに働くことができています。
スタッフみなと協力しながら、それぞれが働きやすい環境をつくる
私は奥進システムの一人目の社員なので、入社して以来、社長の奥脇と相談しながら「どうしたら働きやすくなるか」を考え、実践してきました。たとえば、オフィスはバリアフリーになっており、デスクもオーダーメイドで作ってもらった、車いすでも使いやすい、高さがあるものを使用しています。また、私は障がいの影響で汗をかくことができず、体内に熱がこもって体温が上がってしまいます。そうなるとボーッとして頭が働かなくなるため、自分のデスクに扇風機を設置してもらい、体温調整ができる環境も整えてもらいました。
また私には、仕事以外の面で自分にできないことがあります。たとえば、お昼ごはんを電子レンジで温めたり、上着を脱ぎ着したりすることです。サポート可能な他のスタッフが入社する前は社長に手伝ってもらっていて、社長が出張などでいないときには在宅勤務に切り替えていました。今は、技術部のスタッフたちが当番制でサポートをしてくれています。当番が決まっていると、こちらとしても頼みやすくなり、とても助かりました。
奥進システムにはさまざまな障がいや特性のある人たちがいるので、それぞれが働きやすくなるように試行錯誤しながら、社内のみなが協力し合って、環境を整えたり仕組みづくりをしたりしています。
一人一人の特性に合わせたコミュニケーションを意識
発達障がいのほか、パニック障がい、うつ病といった精神障がいのあるスタッフもいるため、一人一人の特性に合わせてコミュニケーションを取ることを心がけています。たとえば、精神的に落ちこみやすいスタッフに対して何かを指摘するときには、直球で言うのではなく、やんわり伝えるようにしたり、締め切りをプレッシャーに感じてしまうスタッフには、はっきりした納期を伝えないよう配慮したりしています。また、プログラムの組み方にスタッフの癖が出てしまうことがあるのですが、人によって差が出ると後からメンテナンスなどがしづらくなるため、スタッフに調整を依頼することがあります。その際にも相手の気持ちをよく考えながら、“否定された”とスタッフが感じてしまわないように話すことを意識しています。
また、当社として大きめのプロジェクトの場合は、3、4人でチームを組んでいますが、メンバーに仕事を割り振るのは私の役割です。技術部のリーダーを務めるもう一人のスタッフとも相談しながら、メンバーの誰かが同時にたくさんの仕事を抱えてしまわないように調整したり、誰にどの仕事を頼むのが適切なのかを考えたりして、社内でうまく仕事が回るように工夫しています。
「働けること」が仕事を続ける大きなモチベーションに
私が働く上で大切にしているのは、とにかくお客さまに喜んでもらう仕事をすることです。そのため、自分たちが作ったシステムに対して、お客さまから「助かった」「使いやすい」という言葉を直接いただけたときには、大きなやりがいを感じます。
しかし私は、この仕事が自分に向いているのかどうか、今でもわかりません。私は高等専門学校(高専)時代に事故に遭って障がいを負ったのですが、外に出て働きたい気持ちが強くあり、職業訓練校に通っていました。そこでさまざまなことを学んでいるうちに、スピードも求められる事務のような仕事は、体を思うように動かすことが難しい自分にはどうしても限界があると感じ、プログラミングを学んで仕事にしようと決めました。そのため、今の仕事をしようと思わなければ、パソコンを触ることすらなかったかもしれません。
私にとってプログラマーやシステムエンジニアの仕事は、障がいがある体で戦っていくためにはどうすれば良いのかを考えた結果、選んだ道です。それでも20年近く仕事を続け、経験を重ねてきた今、お客さまに喜んでもらえることが何よりのやりがいになっています。そして「働けていること」自体が、自分が仕事を続けていく上で大きなモチベーションになっているのだと思います。
職業訓練校で社長と出会って入社
私が奥進システムで働くことになったのは、職業訓練校でプログラミングを学んでいたときに、先生が社長の奥脇を紹介してくれたことがきっかけでした。社長は当時、システムエンジニアとしての能力があっても、時間や場所の縛りがあると働くことができないような人材を探していました。その中で声をかけていた場所の一つに、職業訓練校があったようです。
実習を経て、社長と面接をさせてもらった結果、入社することになりました。働き始めたのは24歳のときで、会社といっても、最初は事務所もありませんでした。社長の知り合いの会社に場所を借りて2、3週間に1回だけ出勤し、そのほかの日は在宅で仕事をしていました。しかし、翌年にもう一人社員が入ってきたことを機に事務所を構えることになり、その後は少しずつ社員が増えて、現在は12名になっています。今は中途採用のスタッフばかりですが、今後は新卒採用もしたいという話が出ていて、私も若いスタッフと接したり教えたりすることが今以上に増え、新しいチャレンジをする機会も出てくるかもしれません。
これからも働き続けられたらと思う一方で、頚髄損傷のある自分の体に限界も感じ始めています。記憶力が低下したり長時間座るのがつらかったりと体の衰えるスピードは健常者よりもはやく、床ずれができやすいなどのリスクも抱えています。自宅で家族のサポートをずっと受け続けることも難しい可能性があり、今後は働ける時間なども限られてくるかもしれません。それでも、社長と相談しながら仕事を続ける方法を模索していけたらと思っています。
事故に遭って絶望していたとき、高専の先生が世間に引き戻してくれた
小学生のころは、家に帰ってランドセルを置いたらすぐに公園に行き、友達とサッカーや野球をして遊んでいました。中学でもサッカー部に入るなど、活発な子ども時代を送っていたと思います。
高校は、地元で通える学校の中に自分の学力にちょうど合うところが見つからなかったこともあり、高等専門学校(高専)に入学しました。そこでは化学を学んでいたのですが、化学科の卒業生は工場などで働く人が多く、「自分もそのような仕事に就くのだろう」と漠然と考えていました。ところが在学中、プールに飛びこんだ衝撃で頚髄を損傷し、障がいを負いました。医者から「一生寝たきりになる」と宣告されたときには、本当に絶望を味わいました。その後、1年くらい入院し、高専には戻らないつもりでいたのですが、担任の先生が校内にスロープをつけるよう交渉してくれるなど、私が「戻りません」と言えなくなるくらい熱心に手を尽くしてくれました。最初は正直、周囲にどう思われるか気になっていたのですが、先生がさまざまな配慮をして、多少強引にでも世間に引き戻してくれたことは、本当にありがたかったです。高専の先生も、その後に出会った奥進システムの社長も、私は人との出会いには本当に恵まれてきたと感じます。
誇りを持って働く、身近な大人の姿を見てほしい
私が働き始めて感じたのは、世の中には自分の希望通りの仕事ができている人はそう多くないということです。大人になるにつれて、自分の「やりたいこと」と「できること」との間に溝ができてしまうのは、自然なことだと思います。しかし、自分の「やりたいこと」を仕事にできている人が全員幸せかというと、そうとも限りません。逆に「できること」を仕事に選んだとしても、自分の仕事に誇りややりがいを持っている人や、家族のために踏ん張って働いている人がたくさんいます。みなさんには、そうした大人たちの姿を見てほしいです。夢を持つことはもちろん大切ですが、家族をはじめ身近に働いている大人たちの背中も見ながら、成長していってもらえたらと思います。
何かしらのハンディキャップや特性があっても、少しの配慮があれば働ける人はたくさんいます。私が今の会社と運良く出会って働けているように、障がいがある方々には、ちょっとした出会いを大切にしてほしいです。そしてもし働けるチャンスがつかめたら、ぜひチャレンジしてみてほしいと思います。