社会にはいろいろな仕事があるよ。気になる仕事や仕事人をたくさん見つけよう!
※このページに書いてある内容は取材日(2006年10月20日)時点のものです
清潔(せいけつ)でおいしい牛乳(ぎゅうにゅう)をしぼるためには,まず,健康な牛を育てることが第一。酪農家(らくのうか)の仕事は,牛乳(ぎゅうにゅう)を出してくれるメス牛の健康を守るため,食と生活の世話を行うことなんですよ。牛舎(ぎゅうしゃ)の清掃(せいそう),牛のベッドとなる敷(し)きワラの取替(とりか)え,餌(えさ)やり,乳(ちち)しぼりを朝と夕方の2回行います。毎日,牛舎(ぎゅうしゃ)を清潔(せいけつ)に保(たも)つことは,牛の病気を予防(よぼう)したり,搾乳(さくにゅう)を衛生(えいせい)的に行うためにとても大切だからです。また,牛の糞尿(ふんにょう)から牧草の堆肥(たいひ)(肥料(ひりょう))作りも行います。糞(ふん)を水分調整するために,ワラなどを混(ま)ぜて発酵(はっこう)させてそれが堆肥(たいひ)になります。尿(にょう)も貯蔵(ちょぞう)タンクにためて肥料(ひりょう)として利用します。牧草も栽培(さいばい)していて,肥料(ひりょう)まきをして,1年に2,3回牧草を刈(か)り取(と)ります。
朝,午前5時頃(じごろ)に起床(きしょう)して,酪農家(らくのうか)の一日が始まります。まず,牛舎(ぎゅうしゃ)で牛たちの糞(ふん)や尿(にょう)の掃除(そうじ)をし,ワラを取(と)り替(か)えた後に餌(えさ)をやります。乳(ちち)しぼりの準備(じゅんび)をして順番にミルクを搾(しぼ)っていきます。搾(しぼ)り終わったミルクは,2日分のミルクと一緒(いっしょ)に,集乳(ちち)に来たタンクローリー車が計量し,検査(けんさ)を行います。この後の過(す)ごし方は季節によって色々(いろいろ)です。牛たちの健康チェックを行って病気の牛を獣医(じゅうい)さんに診(み)てもらったり,子牛が生まれるように授精(じゅせい)士さんにお願いして人工授精(じゅせい)を行うこともありますよ。糞尿(ふんにょう)を堆肥(たいひ)にする作業や,牛舎(ぎゅうしゃ)の周りの手入れを行い,牧草地の手入れもします。夏場は午前10時頃(じごろ)から放牧させ,その間に休憩(きゅうけい)を取ります。午後5時頃(じごろ),放牧に出ていた牛を牛舎(ぎゅうしゃ)に入れます。そして6時頃(じごろ)に再(ふたた)び掃除(そうじ)と餌(えさ)やり,乳(ちち)しぼりを行って一日が終わります。
牛舎(ぎゅうしゃ)の外の仕事を説明しましょう。餌(えさ)用の牧草は刈(か)り倒(たお)した後,かきまぜて乾燥(かんそう)させ,ラップを巻(ま)きます。これは牧草を丸くまるめて,家庭で使うサランラップのような伸(の)びるものでぐるぐる巻(ま)きにする作業です。直径は145cmくらい,重さは牧草の水分によって300~500kgぐらいになります。ラップした牧草は,破(やぶ)けないように慎重(しんちょう)に積み上げます。ラップを巻(ま)いた牧草は,中で発酵(はっこう)して飼料(しりょう)になるんですよ。質(しつ)のよい牛乳(ぎゅうにゅう)を出すには,この牧草を上手に育てることが大事なんです。そのためには牧草の肥料(ひりょう)をよくする,いい堆肥(たいひ)にする,すなわち“いいうんこ作り”につながります。それには,健康ないい牛にいいうんこを出してもらわなくてはいけない。こうしたいいサイクルをどう人間が手助けしながらやっていくか,ということが重要であると感じています。
初めの頃(ころ)は,親の元で言われるがまま仕事をしていました。牧場の仕事について3年経過(けいか)した頃(ころ)からでしょうか,段々(だんだん)と自分に任(まか)されるようになりました。今では,自分のやり方で仕事をできるようになり,酪農(らくのう)という仕事が少しずつわかってきました。しかしその分,当然,様々(さまざま)な課題にもぶつかりました。課題にぶつかって,どうしたらいいか考えてそれを改善(かいぜん)し,そして何かの結果が出るといった変化を自分が身をもって経験(けいけん)するとき,この仕事へのやりがい,おもしろさというものを感じますね。
そもそも自分の家が牧場だったので,幼(おさな)い頃(ころ)から牧場の手伝いは毎日当然のようにしていたんです。しかし,朝は早いですし,特に冬の北海道の朝というと,マイナス30度近くになってものすごく寒いです。そのような厳(きび)しい環境(かんきょう)でのきつい仕事なので,当時は,牧場の仕事があまり好きではなかったんです。でも,高校を卒業してからいざ将来(しょうらい)の職業(しょくぎょう)について考えた時,自然と昔から携(たずさ)わってきた牧場の仕事を継(つ)ぐ,という選択(せんたく)をしていました。
牛の餌(えさ)には大きく分けて,牧草と,様々(さまざま)な原料を使用して栄養分を調整した配合飼料(しりょう)があります。配合飼料(しりょう)には輸入(ゆにゅう)とうもろこしなど,遺伝子(いでんし)組(く)み換(か)え作物の心配があるんですよ。だから,できる限(かぎ)り自然な形で牛を育てたいと思って配合飼料(しりょう)の量を減(へ)らすことにしました。ところが,牛の乳(ちち)量が減(へ)って乳(ちち)の成分も薄(うす)くなり,収入(しゅうにゅう)が減(へ)ってしまってすごく悩(なや)みました。そして行き着いたのが,栄養の質(しつ)を高めた牧草作りでした。牧草は長く伸(の)びすぎると栄養が失われていくので,なるべく早く刈(か)り取(と)ることや,牧草の肥料(ひりょう)をいいものにするなど,質(しつ)のよい畑の土を作ることから再(さい)出発しました。配合飼料(しりょう)を買ってしまえば簡単(かんたん)ですけど,買うお金を牧草地の土壌(どじょう)分析(ぶんせき)に使って,牧草に足りないものを補(おぎな)うものを考えて試したりと,配合飼料(しりょう)になるべく頼(たよ)らないやり方を考えながら牛を育てています。
子どもの頃(ころ)は,とにかくやんちゃな子で,将来(しょうらい)はF1のレーサーになりたいと思っていました。大自然に囲まれた田舎(いなか)に育ったので,周りにはこれといった遊び場所やおもちゃもなく,遊ぶもの一つとっても自分で作って遊んでいましたよ。そういったこともあって,身の回りにあるちょっとしたものから「こんなものができるんじゃないか」と自分で考えて作り出すという作業が大好きでしたね。
人生は色々(いろいろ)なことに直面し,時には失敗をすることもある。でも,失敗してこそなんぼ,ということがあると思っています。その失敗をどう乗(の)り越(こ)えていくか,そこがすごく大事で,そこから見えてくるものも多いですよ。「いつか失敗してしまうかも・・・」という不安を抱(かか)えながら毎日を過(す)ごすより,先に失敗することで,失敗というものがどんなものかわかった方が前向きにもなれる気がするんです。失敗して初めて生まれる“変化”というものを,自分の中で楽しめるようになればしめたものではないでしょうか。失敗を恐(おそ)れず,どうせやるなら楽しくやってほしいなと願っています。