「登記」をはじめ,法律に関するさまざまな業務を行う
私は東京都千代田区にある「A.I.グローバル」という会社で司法書士の仕事をしています。この会社は,日本全国に11の支店があり,約40人の司法書士が資格を持って働いています。私の働く東京本部には12人の司法書士がいて,それぞれに仕事をお手伝いしてくれる「補助者」がつき,4,5人のチーム単位で動いています。
司法書士の主な仕事は「登記」業務です。なかでも私は「不動産登記」を専門に扱っています。例えば,土地や建物の売買をする際は,所有権を売主から買主に移す必要がありますが,この所有権移転にあたって「登記」の手続きが必要になります。これを司法書士が代行して行います。誰でも登記をすることはできるのですが,法律の知識が必要で,複雑で大変な作業です。これを本人の代理で請け負う資格を持っているのが,私たち司法書士です。
その他の業務としては,会社を経営するために必要な法律上の業務を担う「企業法務」,簡易裁判所で行う訴訟に必要な手続きをしたりや書類を作成する「裁判業務」,借金に対する法的アドバイスを行う「債務整理」,高齢者や障がい者の方々の財産を守り,身上監護(被後見人が適切に生活できるように,介護保険や病院など「身の上」の手続きをする)をするために法律行為を代わって行う「成年後見」,誰かが亡くなった時に遺された財産についての法的手続きやアドバイスを行う「相続手続き・相談」などがあります。弁護士の仕事と重なる部分もありますが,民事事件や刑事事件などの紛争を解決へと導く弁護士に対し,登記を中心とした業務を行うのが司法書士という違いがあります。
目に見えない「権利」を目に見える形にする
主な業務となる「登記」には,家や土地の売買時に必要な「不動産登記」や,会社を作る時に必要な「商業登記」などの種類があります。法務局(通称「登記所」)には,公の帳簿である「登記簿」があり,ここに,「不動産登記」であれば土地や建物の所在・面積や所有者の住所・氏名などの情報が記載されています。この「登記簿」に情報を記載するのが「登記」の手続きです。
「不動産登記」の場合,例えばAさんがBさんの家を購入したいとすると,Bさんが「Aさんに売る」と承諾すれば,法律上はAさんのものになります。しかし家の名義がBさんのままだと,Aさんとしては安心して暮らせませんよね。このため,“所有権が移った”ということを登記簿に記載する必要があります。このとき,その建物の所有者の住所や氏名だけでなく,いつ購入したのか,銀行などからお金をいくら借りて購入したのかなどの情報も正確に登記簿に記録します。こうした手続を経ることで,Aさんは安心して「この家は自分のものです」という権利を主張することができるのです。不動産登記は売買される家や土地が「誰のものか」「どんなものか」を明らかにするための「名札」をつけてあげるようなものですね。
「所有権」は目に見えませんが,登記を行うことで,公のものになります。つまり,登記をすることで,所有者の利益と安全が守られることになります。司法書士は人々の権利と財産を守る,責任のある仕事なんです。
書類作成だけではなく,外出も多い
仕事は基本的に朝9時から夜6時までです。出勤したらまずは一日の予定を確認して,メールの確認や返信をします。一日のうちの3,4時間は,オフィスで見積書や申請書類などの資料を作成しますが,登記のための申請書類を提出するために法務局へ行ったり,打ち合わせのためにお客さまの所へ行ったりと,外出することも多いです。
不動産登記に関する打ち合わせでは,土地や家の売り主側に本当に所有権を買い主側に渡して良いかの意思確認や,買い主側に銀行などの金融機関にお金を借りて購入するための資料の確認作業などを行います。一案件にかかる時間は2週間から1か月程度で,私の場合は常にチームで15件くらいの案件を担当しています。忙しい時は30件ほど抱えていることもありますね。
たくさんの人と会うので,コミュニケーション能力も必要ですし,法的なアドバイスを求められた時に,的確に意見ができるよう,打ち合わせの前の事前準備はしっかりとしていくように心がけています。
完璧にできて当たり前
登記簿に記録する内容に間違いがあったり,捺印をもらい忘れたりするなどのミスは司法書士には「あってはならないこと」です。常に気持ちを引き締めて,作成した書類を1文字1文字繰り返し確認し,誤字脱字などの不備がないかをチェックしています。
また,登記が完了した際,正しく記録されたことを証明する「登記識別情報(※昔でいう「権利証」に当たるもの)」という重要な書類が発行されます。登記識別情報には登記の申請者だけに渡されるパスワードが記載されており,万が一それを紛失してしまった時には何千万,何億円もの大きな損害になってしまうこともある重要書類です。私たち司法書士はこのような重要な書類を多く取り扱うため,書類の紛失や不備は許されません。緊張感と責任感を持って仕事をしています。
完璧にできて当たり前,という司法書士の仕事は厳しく大変ですが,だからこそ,スムーズに登記ができたときや,難しい案件をやり終えた後の達成感は大きいですね。
信頼を得るために「当たり前のこと」をきちんと
正確な書類を作り,お客さまの代理として登記申請を行う司法書士の仕事は,とても責任のある仕事です。そのためお客さまから信頼されないと仕事を依頼してもらえません。挨拶や時間,約束を守ることは社会人として当たり前のことですが,その「当たり前」を徹底してできるように心がけています。また,登記に関する法律はどんどん改正されていくので,常に勉強を継続することも大事なことですね。
スムーズに家や土地の売り買いができて売り主も買い主も双方満足に取引を終え,「ありがとう」と言われることが私のやりがいであり,幸せでもあります。お客さまの幸せを生み出すために,「人(買い主・売り主),もの(土地・家),意思(本当に売りたいかどうか)」の確認をしっかりと行い,スムーズに取引できるよういつも気をつけています。
「絶対合格する!」強い意志で難関試験を一回でクリア
私は大学卒業後,新聞社に就職して事務の仕事をしていました。しかし30歳を超えて将来を考えるようになり,何か資格をとって,家庭と子どもを持っても一生活躍できる職業に就きたいと思いました。その時に興味を持ったのが,法律の専門家である司法書士でした。
司法書士になるためには,国が行う司法書士試験に合格することが必要です。司法書士試験はとても難しい試験で,法律についてたくさん勉強しなければなりません。それでも「絶対合格する!」という強い目標を掲げて,仕事を続けながら,職場までの移動時間や,家に帰ってからも机に向かうなど,毎日5時間以上勉強していました。私の人生で最もたくさん勉強した一年間でした。おかげで,一回で合格することができたんです。その後,今の会社に入って働くことになりましたが,司法書士はこれまで勉強してきた知識をストレートに生かせる職業なので,積み重ねてきた努力を生かして仕事ができているというやりがいは,日々感じています。
計画を立てて進めることが好きだった子ども時代
私は人見知りもせず,外で遊ぶことも家で読書や勉強をすることも好きな子どもでした。宿題は朝,早起きをしてやる習慣がついていて,学校が終わった後は,友達と外で遊んでいました。勉強する時はしっかりとメリハリをつけて取り組んでいましたね。要領は良い方だったと思います。
性格は真面目で,夏休みはまず宿題の計画を立てることから始めていました。「毎日どの教科を何ページ進める」など,毎日やる宿題のページ数も詳細に決めて,その通りに進めることが楽しかったんです。だから夏休みの宿題は溜めこむことはなく,最終日には余裕ですべて終わっているような子ども時代でした。「目標を定めて達成させる」という習慣は,司法書士試験に向けて勉強を始めたころにも生かされていたと思いますし,今の仕事にも必要なことです。そういう意味では,今に繋がっているといえるのかもしれません。
未来の自分のために,今,力を蓄えておこう
自分の好きなことや,将来やりたいことを見つけるのは大変かもしれません。でも見つかっていなくても,あせる必要はありません。私のように30歳を過ぎてから本当にやりたい仕事が見つかることもあります。
でもいざ目標が見えたとき,それまで何も努力をしていなかったとしたら,土台がゼロの状態から頑張るのはかなり大変なことですよね。いろんな趣味に興味を持つのもいいし,たくさん本を読むのもいい,計画を立ててそれに沿った行動をしてみるのもいい。なんでもいいから,未来の自分のために今できることを一生懸命やって,力を蓄えておくといいと思います。蓄えたものは,本気で頑張りたいと思った時の自分の力となり,助けとなってくれるはずです。若いうちに,自分のやりたいことを実現できるための土台を一つ一つ積み上げていってください。