※このページに書いてある内容は取材日(2025年12月15日)時点のものです
進路に悩む子どもたちを支える「キャリア教育」
私は東京都にキャンパスがある武蔵野大学で大学教員をしています。主に、教育に関連する心理学を専門としています。
心理学というと、精神疾患がある方や、学校にうまくなじめない子どもたちなど、心に悩みを抱える方の支援やカウンセリングで活用されるイメージが強いと思いますが、それだけではありません。子どもが学び、育っていく中で役に立つ知識がいろいろとあります。また、学校に通う子どもたちに対して必要な支援やカウンセリングの中には、「将来どんな仕事をすればいいかわからない」といった「進路の悩み」も存在しています。
現在の日本には、進路の選択肢が多種多様に存在しており、その中から自分の職業や役割を選ばなければいけないことに、難しさを感じる人は多いと思われます。そのため、子どもたちが自分の将来のイメージを十分に思い描けず、進路について悩むことも、自然なことになっています。
私は、そのように生きていれば誰もが向き合うことがある悩みや葛藤、つまり「生きていくための悩み」に寄り添っていきたいと願っています。そのために、大人がどのように関わっていけばいいかを考える「キャリア教育」の研究を行っています。
未来の教員やカウンセラーを養成するほか、社会貢献活動も
私が大学教員として行う業務は、主に授業と研究です。
私が現在所属している大学では、学校の先生になりたい学生に対し、「教育心理学」や「教育相談」という分野を教えています。週に3~4日ほど授業があり、1日のうちに2~3コマの授業を行っています。以前在籍していた大学では、カウンセラーになりたい学生のために、「公認心理師」や「臨床心理士」といった資格を取得するための授業を受け持っていたこともありました。
研究のほうでは、「子どもが自主的に自分の進路を選べるようにするには、どのような支援や教育が必要か」をテーマにさまざまな研究をしています。一例としては、大学生へのキャリア教育が、キャリア形成の意欲に与える効果を測定するため、キャリア教育科目の授業を受ける大学生に対してアンケートを実施し、回答データを集計・分析するという研究をしています。こうした取り組みを通して得た研究結果を論文にまとめ、研究成果として学術学会で発表しています。学会でほかの先生方の研究発表を聞くことや、研究書を読んで最新の知見を入手することも、研究活動の一つです。
また、社会貢献活動も大学教員の大切な役割です。自治体の教育委員会の依頼を受けて、地域の先生方や保護者の方に対して教育相談の研修会を行ったり、子どもとのコミュニケーションのポイントをお伝えしたりするなどの取り組みも行っています。
多忙な日々は、効率的なスケジュール管理とリフレッシュで乗り切る
私たち大学教員は、勤務時間の決まりがない、裁量労働制という働き方をしています。働く時間が自由である一方で、オンオフの切り替えが難しい点が大変なところでもあります。
私の場合、心理学系の学術学会が8月~11月ぐらいに開催されることが多く、この時期は、平日に授業を行いつつ、その合間に研究発表の資料を作り、週末は全国各地で行われる学会に参加するなど、忙しいスケジュールをこなすことになります。
加えて、12月~1月になると、学生の卒業研究や修士論文などを確認・評価する仕事も発生します。そこに、学術系の雑誌記事の執筆や講演会、研修会などの依頼も入ると、スケジュールの整理が難しくなってしまいます。
そこで、スマートフォンやパソコンなどのカレンダーアプリで予定を管理する、原稿の依頼を整理するなどして、効率的にスケジュールを管理しています。また、気持ちの面でも余裕をもって業務を行えるよう、プライベートの時間もしっかりと確保しています。私は家族と過ごす時間が好きなので、家族とともにのんびり過ごすことで、リフレッシュできる時間を作っています。
学生の将来の不安を希望に変える
教育に関する授業をしていると、「子育てにあまり興味がなく、子どもを育てることを怖いと感じている」という学生をときどき見かけます。私自身も今でこそ3人の子の親ですが、若いころは、「自分でもちゃんと子育てができるのかな」と不安に思っていた時期がありました。
そこで、私自身が心理学を学ぶ中で、これを知ることで心が楽になった「発達の理論」と「学習の理論」という理論を、教育心理学の「発達と学習」という授業の中で教えています。「発達の理論」は「人は、どのような段階を踏んで、心身を成長させていくのか」を知る理論、「学習の理論」は「人が集団や社会でうまく生活するために必要な振る舞いをどのように覚えていくのか」を知る理論ですが、この2つの理論を学ぶことで、子どもの発達と学習状況に応じた指導や支援など、適切な関わり方がわかるようになります。私自身も、これらの理論を学ぶことで、子どもとの関わり方の具体的な方法がわかり、「なんとか子育てできそうだ」と思えるようになったのです。
この授業を行うときは、私が実際に子育てで体験したエピソードも交えて話しています。困難に思うことがある中でも、自分にとって子どもたちの成長がどれだけうれしかったかを話したところ、学生たちはその様子を見て、「楽しそうだな」と思ってくれたようです。学生から、「子育てをしてみたいと思いました」という感想をもらったときには、大学で心理学を教えていてよかったなと思いました。
「そうせざるを得ないから、そうする」という視点を大事に
私の授業を受ける学生に対して、授業のはじめに必ず伝えているのは、「『人はそうせざるを得ないから、そうする』という視点を持って子どもの行動を見てみると、子どもの気持ちに近づける」ということです。「そうせざるを得ないから、そうする」という言葉は、私の大学の恩師から教えてもらったもので、私自身がこの仕事をする上でのポリシーにもしている言葉です。
例えば、社会的に見てよくない行いをしてしまった子どもがいたとして、「そういうことをしてはいけないよ」と注意できる大人は世の中にたくさんいると思います。 でも、心理学を学んだ人ならば、「この子にとって、よくない行いをせざるを得なかった何かとは、なんだろう」ということも考えて、子どもの立場に立って理解しようとする視点を持てるとよいと思っています。
こうした視点は、子どもだけでなく、大人に対する理解にも活用できると思います。決めつけや思い込みを避け、「その人にとってそうせざるを得ない何か」を理解しようとすることは、心理学を学んだ者の基本的な姿勢として大事にしたいですね。
「多くの子どもたちが笑顔で過ごせるように」という思いが、心理学を志すきっかけに
私は高校生のとき、生徒会に参加しており、学校の先生方といろいろな話をする機会がありました。話をする中で、先生は学校全体のことを考えなければいけないため、状況によって生徒一人一人に関わることが難しいこともあるのだなと感じていました。
そうした経験から、「子どもたち全体に向き合っていると関われないような生徒と関わっていける仕事は何か」と考えていたときに、高校の家庭科の授業でスクールカウンセラーという仕事があることを知りました。そこで、一人一人の思いに向き合うスクールカウンセラーになりたいと思ったのが、心理学を学ぶきっかけとなりました。
大学ではスクールカウンセラーになることを目指して、心理学を中心に学んでいきました。しかし、スクールカウンセラーは「学校生活で困っている子どもたちや保護者、先生方を直接支援できる」点がやりがいである一方で、自分一人の力で支援できる人々の数には限りがあると感じるようになりました。
そこで、自身が教員という立場で心理学を教え、知見を生かして子どもたちと関わる仕事に就く若者を育てたほうが、将来的には多くの子どもの笑顔につながると考え、大学教員を目指すようになりました。
体の成長とともに、心も成長した小学生時代
私は幼いころから本を読むことが好きでした。よく読んでいたのは、偉人の伝記やギリシャ神話、『ズッコケ三人組』シリーズのような児童書でした。作品に触れていく中で、言葉に親しみを持つようになり、将来はコピーライターのような言葉を使う仕事をしたいと思っていたこともありました。
ただ、幼いころはほかの友達よりも体が弱く、よく保健室で過ごしていました。そのため、小学校生活にあまりなじめず、学校に行き渋っていたこともあります。当時の担任の先生にも気に掛けていただくことが多かったかもしれません。
転機が訪れたのは小学校6年生のことです。学校で毎朝授業が始まる前にサッカー教室が開かれていたので、参加するようになりました。運動することでだんだん体力がつき、活発に学校生活を送れるようになりました。
その後、中学校や高校では生徒会の役員に推薦されて挑戦しました。周囲の期待に応えることで、自分の居場所が広がっていき、学校が好きになっていきました。体が弱かった幼いころと比べて、心身ともにかなり大きく成長をした時期でした。
自分の人生の舵を取れるのは、自分しかいない
現在、日本の社会は豊かで、将来の選択肢がたくさん存在しています。本当は、将来を自由に選べるのは幸せであるはずなのです。しかし同時に、「やりたいことは何?」と問われることを苦しく感じたり、「社会に出るまでに自分の進路を選ばなければいけない」ことを難しく思ったりする若者が多いことも、現状としてあります。
そうした状況の中でも、自分の人生の舵取りをするのは自分しかいません。ですから、みなさんには、自分が人生の主人公だと思って生きてほしいと思います。もちろん、すべてが自分の思う通りにいかないこともあります。その時々の流れに身を任せたほうがいいこともあるかもしれません。それでも、自分の人生の大事なことを決めるのは、自分自身であってほしいのです。
自分が思う向きに船を進めていくために取り組んでほしいのは、勉強や運動に精一杯取り組んで、舵取りに必要な能力を身につけることです。ここぞというときに、自分の力で自分が進みたい道を切り開けるよう、今できることを精一杯、頑張ってください。








