※このページに書いてある内容は取材日(2019年06月10日)時点のものです
病院や学校の空調工事を,設計から施工まで
私は東京都足立区にある,産栄空調という会社で経理の仕事をしています。夫は産栄空調の社長です。産栄空調は,主に,学校,病院,警察署,消防署といった公共施設,工場やビルのエアコンや換気機器(換気扇など)を取り付けている会社です。
「エアコンの取り付け」というと簡単に聞こえるかもしれませんが,実際は,どの部屋のどの箇所にエアコンを取り付ければ効率よく冷暖房を運転させることができるかを考え,その裏にある複雑な配管を設計し,最適な材料や技術者を集め,そして安全に空調工事を完了へと導く,責任の大きな仕事です。工事期間はそれぞれの現場で違いますが,1件につき半年から2年程度です。外部から集めた技術者と一緒にチームをつくって工事を行うことがほとんどです。
産栄空調の特長は,なんといっても働く人の性格と腕がいいところです。社長をはじめとする11名のスタッフ全員がお客さまの立場に立って,多少の無理難題ならば「なんとかしよう!」と前向きに受け入れつつ,日々の業務に向き合っています。また,設計,配管,スケジュールの管理や現場での施工業務を,ち密かつていねいに行っているところも評価していただいています。東京都,足立区から何度も優良工事業の表彰を受けました。
「任せておけば安心だよね」,そう言っていただける人間力と技術力を持ったスタッフがそろっている,それが私たち産栄空調の強みだと思っています。
会社にかかわるすべてのお金を動かす「金庫番」
私が担当しているのは,産栄空調の経理業務です。経理というのは,会社のお財布を握っている,いわば「金庫番」のようなもの。さまざまな仕事の売上,人件費,経費などを漏れなく把握して,社長と一緒に,出た利益をどのように使うかを考えていきます。従業員のお給料を上げたり,がんばった社員をボーナスでねぎらったり,ITシステムを導入するなど設備投資に使ったり,貯蓄したり……。私たちが「利益をどのように使うか」で,従業員のモチベーションが上下し,会社の未来も変わっていきます。経理というのは会社の経営に直結する,とても面白い仕事だなあと実感しています。
日々のお金の動きを把握するだけでなく,1年間のお金の動きを予測し,計画するのも,経理の大切な仕事です。前年度の売上や利益をまとめた「決算書」という資料を参考にしながら,今後1年間の見通し,ビジョン,予算計画をつくっていきます。「〇月は大きな売上につながる新築工事案件が入ってきそう」とか,「この月は少し仕事が落ち着きそうだから,新しいお客さまとの仕事に挑戦しよう」とか,「毎月〇円程度なら,無理なく会社の貯蓄を増やすための積立ができそう」とか,そんなことを考えながら,向こう1年間の「お金にかかわる目標」を設定していくのです。その後,目標を達成できたか,達成できなかった場合,その原因はなにか,どうすれば達成できるかなどを,毎月,細かく振り返っていきます。1日,1か月,1年,長短さまざまなスパンでお金を見つめ,会社の成長をサポートしています。
社員とコミュニケーションを取りながら
経理の仕事をする際,大切にしているのが,社員とのコミュニケーションです。経理というと難しい顔でお金の計算に向き合ってばかりいる堅い仕事,と思われがちなのですが,数字を押し上げるのもお金を持ってくるのも,結局は人です。顔を突き合わせて人と話をしながら,社員の欲しているもの,必要としていることなどを聞き出して,気持ちよく働いてもらうためにお金を使うことを心がけています。
また,人には「遊び」が欠かせません。ただがむしゃらに働いているだけでは,息が詰まって苦しくなってしまいます。若いうちは友だちや恋人と過ごす時間も欲しいでしょうし,子どもを持つお父さんやお母さんは,わが子とたっぷり遊びたいことでしょう。働いた分だけお金をもらい,しっかり休んでリフレッシュする,当社の社員には,そういうメリハリのある生き方をしてもらいたいなと考えています。こうして人の心が豊かになると,会社も潤うと思うのです。
キツイと言われている建設業だからこそ,そして大手ではなく小さな会社だからこそ,もっともっと働きやすい環境を整えていきたい。そんな思いを持って,社長と二人三脚で,出た利益をみんなで分け合えるような経理と経営を行うよう心がけています。
不景気や天災で思いがけない苦労をすることも
いままででいちばん苦労したのが,今から10年ほど前の世界的な不景気のときでした。仕事が激減し,会社の預貯金も少しずつ目減りしていきました。そこで銀行にお金を借りるための交渉を行うことになったのですが,業務拡大のための融資でなく,危機をしのぐための,どちらかといえば消極的な融資のお願いだったため,なかなか貸してくれるところが見つからず,苦労しました。
社会情勢の変化や震災などの天災によって発生する避けようのない不景気は,いつやってくるかわかりません。こうした不測の事態にしっかり対応できるよう,日ごろからコツコツと会社に預貯金をつくっておくことや,銀行などとの信頼関係を保っておくことが欠かせません。会社になにかあったときこそ,経理の腕の見せ所。思いがけないトラブルやイレギュラーな事態が起きたとき,お金の面で困ることがないようにしておくことも,私たちの役目なのです。
お金は与えられるものではなく,自分の手で生み出すもの
小さいころからお金の扱い方を考えることが好きでした。理由は,家が貧しかったからです。母親の方針で食べ物だけは贅沢に与えてもらっていたのですが,それ以外は自分でどうにかしなければ手に入らず,お年玉やお小遣いをコツコツ貯めて「欲しいものができたとき」に備えていました。
高校生のときに郵便局でのアルバイトを始め,次はお弁当屋さんで働いて,というふうにして貯め続けたアルバイト代で短大に進学し,二十歳のときには自分で車を買いました。
こうした経験を通して知ったのが,お金を生み出す喜びです。「お金は誰かに与えられるものではなく,自分でつくり出すことができるものなんだ!」と気づいて,働いて稼ぐこと,貯蓄すること,運用することが,ますます楽しくなりました。自分で働いて貯めたお金で,自分の欲しいものを買い,自分のやりたいことをやる。この達成感って,ものすごいものがありますよね。昔から一貫して,自分の裁量で目的を持ってお金を動かすことが好きでしたし,それは経理の仕事をしている今も変わりません。
小さな会社で経験したお金の苦労が,経理としてのスキルアップに
短大を卒業後,大阪の大企業に就職しました。が,会社が大きすぎて社員の声が届きにくく,制約やルールが多いことも気になって,すぐに転職を決意しました。小さな会社を探して,事務職員として働き始めました。事務仕事をしているうちに経理の仕事もするようになり,そこで,会社の経営をお金の面で動かしていく経理という職種に面白さを感じるようになりました。ところが,その会社の経営が傾いて,お給料が払えないような事態になってしまって。資金繰りや社内外への説明に,それはもう,とても苦労したことを覚えています。
その後,当時の産栄空調社長の甥である夫と出会って結婚し,まずは夫の弟が経営する運送会社で一般事務として働き始めました。このとき役に立ったのが,前職での経験です。お金に関するさまざまな困難,トラブル,交渉事を目の当たりにしていたため,知らず知らずの間に,「人生の宝」と言ってもいいぐらいの知識や経験,対処法のようなものが身に付いていたのです。運送会社で起こるさまざまな困難にも落ち着いて対処することができ,また,先を見通してリスクを回避する提案や行動を起こすこともできて,苦労したかいがあったなと思いました。
こうした対応が評価されたようで,夫が産栄空調の社長になると同時に,私も経理として産栄空調で働くようになりました。
目的を持ってお金を貯めて,好きなことに挑戦しよう
私はこれまで,大手上場企業,不動産会社,運送会社など,さまざまな企業で事務や経理の仕事をしてきました。会社のお金に関するトラブルに直面し,苦労したことも少なくありません。
しかし,だからこそ心から思うのです。楽しかったことだけでなく,苦労したことや辛かったこと,すべての経験が,のちの人生をつくる糧になるのだと。好きなことがあってチャンスがあったらどんどん飛びこんでほしい。いろんな分野で経験を積んで,自分のなかの引き出しを増やしてほしいなと思っています。
それから,ぜひ,目的を持ってお金を貯めてほしいですね。ただお金を貯めるのではなくて,必要なときに使うために貯めてほしい。お金は,自分の夢をかなえるための道具です。例えば,貯めたお金で新しい本を買えば,その本を読むことによって知識を増やすことができます。得た知識を使うことで目標に近づき,さらに大きなお金を得られることもあります。海外に留学したっていいし,おいしいものを食べ歩くというのでもいい。ぜひ貯めて,使って,増やすことの楽しさを感じてほしいなと思います。