仕事人

社会にはいろいろな仕事があるよ。気になる仕事や仕事人をたくさん見つけよう!

東京都に関連のある仕事人
1982年 生まれ 出身地 東京都
子供の頃の夢: 料理人,数学者,アーティスト
クラブ活動(中学校): 生活科学同好会
仕事内容
あらゆるしょくぎょう分野に,社会を変えていく原動力となるしきとスキルを持つユニバーサルデザインコーディネーターをやす。
自己紹介
きょうを持ったものは,何年かかろうが,自分なりにわからないことがなくなるまでてっていして調べ続けます。きょうの対象はんはばひろく,10年以上前からけいぞくして研究しているものも。つねじょうほうしきのアンテナをり続けています。休みの日は,夫や80代の親友と,しゅじつえきねた旅行に出かけます。が広がりおもしろいんです。
出身高校
東京大学教育学部附属高等学校(現:東京大学教育学部附属中等教育学校),ノバスコシア州立Cornwallis高等学校(カナダ)
出身大学・専門学校

※このページに書いてある内容は取材日(2018年08月29日)時点のものです

悲しむ人をらすために考えた「しょうがいしゃ」という表記

悲しむ人を減らすために考えた「障がい者」という表記

わたしは「ユニバーサルデザインコーディネーター」を育成する仕事をしています。「ユニバーサルデザイン」は,しょうがいのにかかわらず,すべての人にはいりょしたデザインのことです。そもそも「バリアフリー」とか「ユニバーサルデザイン」というのは,だれか一人の人がすごくいっしょうけんめいがんばって考えて作り出したものが,いっぱんに広まっていくというものです。たとえば,点字ブロックを考えた人がいて,それを世界のいろいろな人が取り入れていって,今いろいろなところに点字ブロックがあるわけです。それと同じように,「しょうがいしゃ」という単語の「がい」の字をひらがなにするという表記は,わたしといろいろなしょうがいしゃの人とでいっしょに考えて,けんしょうして,その後いろいろな自治体やぎょうさいようされ,いっぱんてきになって,今はパソコンで打ってもちゃんとへんかんされるようになりました。
もともと使われていた「害」という漢字にはマイナスのイメージがあるため,「害」という字が入っている言葉でばれるのがいやだと感じている方がたくさんいたのです。かといって,昔使われていた「がい」というむずかしい漢字を使うと,音声読み上げソフトで読めなくなってしまう。そうやっていろいろな人の意見を聞いて,「がい」の字をひらがなにするのが,悲しくなる人がいちばん少ないということになりました。

ユニバーサルデザインを考える上で大事なこと

ユニバーサルデザインを考える上で大事なこと

わたしがユニバーサルデザインを考える上で大事にしていることは4つあります。
1つはこまっている人自身が気づけていない問題点を見つけて,その人たちにとっていちばんのあることをきわめるということ。たとえばおうだん歩道には,目が見えない人のために,音が出る機械がありますが,見えていないから,そこにあることに気づけない。気づけないからそもそも使えない。そういうふうに,“こまっている人自身が気づけないこと”を見つけることを大切にしています。
2つ目は,じっさいに目的が達成できるのかかくにんすること。以前調ちょうをしたときに,街についている点字の約1わりしか,ぜんもうの人が使えていないということがわかりました。そもそも見えない人が点字のある場所にたどりつけないから,れられないのです。だから,たどりつけてちゃんと使えるようになるにはどうすればいいのか,チェックをします。
3つ目は特に大事にしていることで,そのデザインが他の方のたんになっていないか,てっていてきにチェックすることです。たとえばくるまの方にとって,道路の歩道にだんがあるとえるのが大変なのですが,ある自治体で車道と歩道のだんをフラットにしたところ,ぜんもうの方が車にひかれてしまうというえてしまいました。だれかのためにやったことが,他のだれかのたんになってしまう。そんなことが起きないよう,こちらもチェックします。
4つ目は,これら全部をみんなで考えたり,また,せんもんだけではなくて,いっぱんの利用者にも使ってもらったりすることです。ここに点字があるのでさわってみてください,というのではなく,本当につうごしている中で,気づいて使えるのかということをてっていてきにチェックするということを心がけています。

かたけられないお母さんがかたけられるようになった

片付けられないお母さんが片付けられるようになった

ユニバーサルデザインコーディネーターのこうしゅうは高校生から受けられます。以前,「家が散らかっていて,ずかしくてともだちべない」という問題に取り組んだ高校生がいました。その本人はすごくきちっとしているのですが,お母さんがかたけを苦手としていたそうです。おたまはここ,などと付せんで全部場所を決めて整理してみても,1週間もするとまたぐちゃぐちゃになってしまうというかえしで,お母さんと親子ゲンカばかりかえしていたそうです。
かたけられないのは,お母さんのせいかくの問題だと思っていたけど,ユニバーサルデザインコーディネーターのこうしゅうを受けてから考えてみると,お母さんは実は昔ケガをしてしまったため,かたがちょっと不自由で,重いものを持ったり,手をばしたりといった作業ができないということに気づきました。よくけんしょうしてみると,自分は1つの動作で取れるけど,お母さんは4アクションくらいかかってしまうということもわかりました。そこで,お母さんも1アクションで全部かたけができるように配置などを変えたところ,かたけられるようになって,おともだちも家にべるようになりました。何より,その子はお母さんとケンカをせずにいつも楽しく会話ができるようになったのがすごくうれしかったそうです。

メガネやコンタクトレンズと同じように

今,しょうがいしゃ手帳を持っている方は,人口の10%くらいですが,これからこうれいしゃえるということもあり,人口の半分以上がしょうがいしゃというじょうたいになってきます。そうすると,「こまっている人を助けてあげましょう」というやり方は,もう成り立たなくなると思うんです。しょうがいがあっても問題なく,だれせいになることなく生活ができるように,社会のほうを変えないといけません。
そのときに重要になるのが,「しょうがいは人にあるのではなく,かんきょうが作り出す」という発想です。よくたとえとして出すのが,メガネやコンタクトレンズです。わたしも今,コンタクトレンズをしていますが,わたしは目が悪いので,もしも世の中にメガネやコンタクトレンズがそんざいしなければ,じゃくというかくしょうがいしゃです。でも,メガネやコンタクトレンズを使えるので,わたししょうがいしゃではないのです。同じように,足がなくても,くるまを使うことでどこにでも行けるなら,くるま利用者はしょうがいしゃではありません。今,しょうがいしゃだと言われている人が,しょうがいしゃでなくなるということは,これからすごく重要な発想だと思いますし,どの分野でも必要になってくることだと思います。ぎゃくに,ようつうなやまされてにちじょう生活が大変な方とか,今,見えていないしょうがいしゃの方を見つけることも大事だと思います。

5年間続いたいじめがなくなった理由

5年間続いたいじめがなくなった理由

学生のころは,ともだちなやみ相談に乗ることにちゅうになっていました。勉強のこと,ともだちのこと,いじめられていること,わすものが多いこととか,両親がこんしたこととか。そういったむずかしいことについて,ともだちいっしょに取り組むのも,ともだちが喜んでくれるのもうれしかったですね。
中学生のときは,体育以外は全科目学年トップで,けいおうだいがくに17さいで初めて入学をきょされたくらい,勉強ができたのですが,小学生のころは正反対でした。知的にしょうがいがあると思われていて,特別なクラスにうつるか,学校でもけんとうされていました。ひどいいじめにもあっていて,親ともうまくいかない,そんな期間が5年間続きました。でも,小学5年生になったときに,たまたま,わたしにもできる方法があるのではないかと,全力で相談に乗ってくれた人がいたのです。その結果,小学2年生の算数もけなかったのが,1週間後には100点が取れるようになりました。それから全科目で学年トップになって,ピタッといじめられなくなって,ぎゃくに人気者になったり,いじめていた人たちが卒業のときにあやまりに来たりするようになりました。親友もできて,人生がすごく変わりました。
問題は,いじめられたことではなく,5年間続いてしまったことです。続いてしまったげんいんを特定できればかいけつできるということがわかりました。わたしの場合は,たしかにはじめはいろいろできなかったのでしょうけど,それで自分はダメだと,がんばってもできないとあきらめてしまっていたのです。どうせかいできないと思いながら先生の話を聞いているので,かいできなかった。でも,自分にもかいできるかもしれないと思って聞いてみたらかいできたんです。自分はできないと思っていたことがげんいんだったなとかいができたことで,問題をかいけつすることができました。

みんなといっしょに同じ場所を使うために

大学時代,数学を教えているぜんもうの先生がいらっしゃいました。その先生にお話を聞くと,大学に来るときはいつも,前日からぜっしょくをしてきているとのこと。なぜかと聞いてみたら,男女のトイレの差がわからないから,ちがえて女子トイレに入ってしまって,セクハラと言われてかいされたらこまるからということでした。その先生は本当にせてしまっていて,これはなんとかしなければと,いろいろな場所に先生が気づけるような方法を研究して,点字をつけました。ぜんもうの学生もいたので,そういう方たちにもわかるような仕組みを作りました。最後はキャンパスに来たことがないぜんもうの方を集めて,行きたい場所に行けるかどうかというけんしょうも行いました。
その結果,10年った今も,すごく助かっているよと言ってもらえますし,先生もじゅぎょうの前日でも三食,ご飯を食べられるようになりました。いちばん大きいのは,それまでは学生のボランティアだんたいに助けてもらっていたけど,自分でできるようになったことだということでした。先生がおっしゃるには,バリアフリーの場所は使いたくない。みんなといっしょに同じ場所を使いたいのだということでした。「ユニバーサルデザイン」という言葉にそこで出会いました。どんなものをっていても,自分も周りも幸せになれるような仕事ができれば,だれもが幸せになれるチャンスを手に入れられるのではないかなと思います。

やりたいことやできる方法を自分で考えてさがすことが大事

やりたいことやできる方法を自分で考えて探すことが大事

わたしが中学生くらいのころは,やりたいことを聞かれても,本当にそれがやりたいことなのかわからなくて,すごく不安でした。でも今思うと,考えるということ自体にすごく意味があったのだと思います。自分はこんなことをしているときが楽しい,ぎゃくにこれはあんまり好きではないなど,少しずつ答えが見えてくると思います。できないことがあっても,このやり方は自分には合っていないのだと思って,別の方法をさがすことが大事だと思います。わたし自身,教えられた方法は合わなかったけど,考えてやってみたらできるようになったことがたくさんありました。そういうことがあると自信になって,生きているのが楽しくなるので,ぜひやってみてください。
最後に,みなさんがどんなしょくぎょうについても,ユニバーサルデザインには取り組むことができるので,心のかたすみとどめておいていただけたらうれしいです。自分のやったことで,社会が変わったり,だれかを幸せにできたりするのは,すごくうれしいことだし,自信にもなります。ぜひチャレンジしてみてください。

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私のおすすめ本

宮入 賢一郎,実利用者研究機構
この本に書いてあるようなことを「知らない」だけで,本人は全く悪気なく,あるいは,思いやりのつもりで,すでに困っている人をさらに追い詰めている場面をたくさん見てきました。たとえば,聴覚障がい者は全員手話を使えると思いこんでいる人はとても多いです。本当は聴覚障がい者の85%は手話を使えないので,他の手段も必要です。自覚なく,人の辛さに追い討ちをかけるようなことはしたくないという人は,ぜひ読んでみてください。
ヨーナス・リッデルストラレ,シェル・ノードストレム
ぶっ飛んでいる日本かぶれのスウェーデンの学者が本気で書いた本です。社会人になったとき,はじめは全員,社会人の少数派になります。自分よりも年上の人のほうが人数が多いからです。だから,私たちやその前の世代の人たちが,世界中でどのような体験をしたのか,みんなの知っている大人以外の人の体験をのぞいて見られる点がオススメです。

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取材・原稿作成:東京書籍株式会社