※このページに書いてある内容は取材日(2017年06月07日)時点のものです
日本で出版される数多くの書籍・雑誌の流通を組み立てる
私はトーハンという出版総合商社に勤務している会社員です。トーハンは,本や雑誌を作る出版社と書店・コンビニエンスストアなどの小売店をつなぎ,流通ネットワークを構築している出版業界の総合商社です。実はみなさんが本屋さんで手に取っている本や雑誌は,私たちのような卸売の会社が間に入り,届けられた商品なのです。現在日本には,約3,500社の出版社と約13,500社の書店,約55,000店のコンビニエンスストアがあり,トーハンを含む21社の出版販売会社でつないでいます。
日本で年間に出版される新刊の点数は約8万点,雑誌は約数億冊あり,毎日さまざまな書籍や雑誌がトーハンに届きます。その中で私は,物流の担当をしていて,書籍や雑誌を仕入れ,書店やコンビニエンスストアに仕分けて店舗に届けるという作業の計画を立てる部門に所属しています。
トーハンには,桶川SCMセンター,上尾センター,東京ロジスティックスセンター等の6つの物流拠点があります。センターの中には,ベルトコンベヤがずらっと並び,書店ごとに「どの本や雑誌をどのくらい配る」という指示が出ていて,間違いがないように仕分けをしています。
思いがけず起こる物流の課題を速やかに解決する
私は東京都新宿区にある本社勤務で,物流の中でも主に雑誌が担当です。雑誌物流は,西台,上尾,戸田と3つの作業所があり,なかでも私は上尾センターでコンビニエンスストアのための物流を担当しています。ふだん本社に出勤することが多いのですが,朝8時頃出社して,今挙げられている課題を改善するためにデータの集計をしたり,現場の担当者に説明をするための資料を作ったりしています。基本的に,毎日同じ作業をするルーティーンの仕事ではありませんので,課題が発生したら解決していくという,ある種の柔軟性と瞬発力が必要な仕事です。そのために,必要があれば上尾センターに行き,調査や計画を説明するための打ち合わせを重ねて,現場を改善していくことが私の役割です。特に急ぎの仕事がなければ,18時か19時頃には退社をしています。
楽しみに待っている読者のために,発売日に雑誌を届ける
私たちと取り引きがある書店とコンビニエンスストアを含めると約35,000店にものぼります。毎日多くの書籍や雑誌が入荷しますので,すぐにお店に向けて出荷しなければいけません。かなりの量の商品数ですが,基本的には入荷したら1日で作業を終えます。私が担当している上尾センターでは,コンビニエンスストアのベルトコンベヤ作業に200人以上の人がかかわっています。雑誌の場合,月刊誌だと毎月の1日,20日前後に発売される点数が多く忙しくなります。また,週刊誌だと月曜日,水曜日の作業は過密なスケジュールで進められています。その月の1日,20日が月曜,水曜と重なる場合,現場は大忙しになるわけです。例えば,『週刊少年ジャンプ』は月曜日発売と決まっていて,楽しみに待っている読者が全国にいます。私たちはそれに間に合うように,センターから遠く離れた北海道や九州などのお店から作業を進めて,無事全国で一斉発売できるように計画しています。
常に課題が尽きない出版流通は,専門性が高い仕事
多くの書籍・雑誌を日々流通させるため,物流の課題は常に発生します。その中には,至急解決しなければいけない課題から,現在使っている設備が使いづらくなった場合はどのようにするかという長期的な課題までさまざまです。作業効率やコスト,設備のメンテナンスなどを総合的に考えて,作業方法を変えるために,現場でテストをすることもあります。シミュレーションでうまくいっても,実際の現場ではなかなか思った通りのことができない場合もあり,課題は尽きません。現場で作業する人には,長年の職人的な勘を持っている方も多く,新しい方法がなじまない場合もあります。その場合はどうすべきか悩むところです。一方で,お互いに知識を出し合って考え,課題を解決できたときや現場の人たちと分かり合えたときは,仕事のやりがいを感じます。物流は専門性が高く,ベルトコンベヤなどの機器やシステムについて詳しい社員は,社内でも少ないのが特徴です。私も社内で物流について質問されることが多く,専門的な知識を生かせることが仕事のモチベーションにもつながっています。
自分の目で現場を見ることが課題解決の近道に
出版物流についてはまだまだ勉強をしている最中ですが,食品の物流を見る機会があり,多くの気づきや発見を得ることができました。食品物流ならではの工夫を今の仕事に役立てられるのではないか,と考えると気持ちが盛り上がりました。やはり私の仕事において大切なのは,物流の現場です。実際に自分の目で現場を確認することを大切にしています。現場に直接足を運び,実際に担当している方たちと話すことは,課題解決の近道だと思っています。自分の目で見て認識することで,頭の中で考えていたときとは違う課題解決方法を見つけ,新たな発見をすることがあります。また,作業方法をより良くしたり変更したりする場合は,現場の状況を正確に把握した上で,変更案を作ることが大切です。直接現場の方々と顔を合わせることで,信頼関係を築いていけると思っています。
大学3年生の時の偶然の出会いが今につながっている
就職活動をしていた大学3年生の頃は,専門商社に就職したいと考えていました。トーハンと出会ったのは,商社について調べているときに偶然見つけて興味を持ったからです。その頃は,そもそもどういう仕事がしたいということもなく,入社試験を受けたのですが,採用担当者の方がいろいろ話を聞いてくれて,こういう人たちと一緒に仕事をしたい,と思ったのがきっかけです。入社をしたら,営業担当になるのかなと思っていましたので,物流を担当することになり驚きました。今,入社6年目になりますが,6年間ずっと物流に携わっています。最初の2年半は桶川センターで書籍の物流,その後1年間は雑誌の返品作業,そして現在の部署に異動になり,雑誌の送品作業を担当して1年半がたちました。はじめは何も知識がなく,まさに一から学び,もがきながらいろいろ教えてもらって,仕事を学んでいるところです。書籍と雑誌の両方の流れがだいぶ分かってきたという感じですが,物流の仕事は奥が深く,もっとたくさんのことを学び,より良い物流を構築していきたいです。
本を読むのが苦手だったからこそ,おもしろさに気づけた
実は子どもの頃は,本を読むのが苦手だったという記憶があります。特に,読書感想文は大の苦手でした。「エルマーと16ぴきのりゅう」(福音館書店)も読むことができなくて,必死で16匹のりゅうの名前を書いたことを覚えています。読書が好きになったのは中学生の頃。朝の10分間読書で,たまたまおもしろい本を見つけて,そこから本を読むようになりました。とにかくゲームが好きな子どもで,放課後は部活の卓球に打ち込み,家に帰ったらゲームをするという毎日。勉強は得意ではありませんでしたが,社会が好きで特に日本史には興味を持っていましたね。昔から疑問を持ったら,とことん調べることが好きで,それは今の仕事にも役立っていると思います。
好きなことを見つけて,早いうちに将来を考えてほしい!
私自身,子どもの頃からやりたいことを見つけたり,熱中したりすることが苦手でした。でも,誰でも自分が好きなものや大切にしたいものは何かしら持っていると思います。そういうものをすぐに見つけてしまう人もいれば,私のようになかなか気づくことができない人もいるのではないでしょうか。一度立ち止まって,今,好きなものは何だろうとか,やりたいことは何だろうと考えてみてください。それは,大人になっても変わらずに,ずっと自分の人生についてまわるものです。私ももう少し早いうちに,自分の将来のことを考えておけばよかったと思うことがあります。自分のやりたいことや将来について真剣に考える時間を少しでも持つと,将来の選択肢が大きく広がると思います。