※このページに書いてある内容は取材日(2018年08月30日)時点のものです
回復途中の患者さんのお手伝いをする
私が今働いているのは,回復期のリハビリテーション病棟です。たとえば,脳出血や脳卒中,大きなケガをされて救急車で別の病院に運ばれた方などが,回復してきたらこちらに転院してリハビリを行います。もちろん,最初に運ばれた先の病院でもリハビリはするのですが,さらに続けて行うために,こちらに入院されるんです。入院患者さんの病棟のほかにも,自宅から通ってリハビリをする方のための病棟もあります。
私は,患者さんが食事やお風呂,トイレをうまくできるようにお手伝いや指導をしています。退院しておうちに帰ったときに必要になる動作や動き方がありますよね。たとえば食事をするときは,食べ物を口元に持っていって,口に入れて,噛んで,飲みこんでという動きが必要になります。また,一番大きいのがトイレの問題ですね。どの方も,トイレにだけは自分で行きたいとおっしゃいます。患者さんがご自身でできることをなるべく増やすために,お手伝いや指導をするのです。
退院されるときの患者さんの表情がうれしい
以前,若い方で,こちらに入院したときには,ほぼ寝たきりの状態で,ぼうこうに直接管を入れて袋に排尿するといった状態の方がいらっしゃいました。その方はとにかく食べることが好きな方だったのですが,食事を飲みこむと肺炎を起こしたり,詰まったりしてしまうかもしれないということで,そのときは管で栄養をとっていました。しかし退院のときには,自分でごはんを食べて,多少お手伝いは必要ですが,自分の力でトイレに行けるようになっていたんです。車椅子に座ってご家族とお話をしたり,お風呂のときは,鏡を見ながら,自分でひげを剃れるようになったりといった変化を見ると,回復のお手伝いができたと思います。周りの職員とうまく協力ができたというのもうれしいですし,何よりも患者さんご自身やご家族が,泣いて喜んでいらっしゃるんです。悲しい涙ではなく,うれしくて泣いている。そういう姿を見ると,この仕事をやっていてよかったなと思いますね。
毎日リハビリを続ける中で,大変なこと
この仕事では,早番,遅番,日勤,夜勤と起きる時間がバラバラで,寝る時間も早くなったり遅くなったりと,睡眠時間が不規則になってしまうことは大変ですね。またこの病院は,365日,休みなく毎日リハビリがあります。入院期間が長くなってくると,それがつらいとおっしゃる方もいらっしゃいます。患者さんの気持ちの変化にも波があって,すごくやる気があってがんばれる時期もあれば,気持ちが落ちてしまって,「リハビリをしても前のようにはできないから,もういい」とおっしゃるときもあります。そういうときに軽々しく患者さんに「リハビリをすればできる」とは言えなくて,ただ,患者さんのお話を聞くことしかできないときもあります。そんなときは,やっぱりつらいなと思いますね。
「ありがとう」と言われる仕事
たとえばどこかで買い物をしたときに,「ありがとう」というのは店員さんのほうですが,介護の仕事は,こちらが仕事をして,「ありがとう」と言ってもらえる仕事なんですね。そんな仕事は限られていると思うので,そこは魅力だと思います。自分が誰かの役に立っている,何かできているという手応えを感じることができる仕事です。
患者さんにとっては,ここが人生の分かれ目というか,リハビリがうまくいっておうちに帰れるかどうかの分岐点なんですね。私たちがそこを忘れてしまうと,おうちに帰れたはずの方も帰れなくなってしまう。責任重大ですが,よく言えば,誰かの人生にそこまで関われる仕事は,なかなかないと思うのです。だからこそ,そこを大事にしないといけないと思って日々がんばっています。
患者さんに接するときは,患者さん一人一人,思っていることも感じ方も違うので,あくまでも個人と個人として関わっているということを忘れないようにしています。ときには,その方にとってちょっときついかなということを,あえて言うこともあります。この人には背中を押すようなことを言ったほうがいいなとか,今はこの人のお話を聞く時期だなとか,その方にあった声のかけ方やお手伝いの仕方をするようにしています。
祖父のために何もできない悔しさから介護の道へ
中学生のころの毎日の過ごし方が,今の仕事につながっている
中学生のころは,音楽が好きで吹奏楽部に入っていました。他にもサッカーをしたり,読書をしたり,いろいろなことに興味を持って,自分の好きなことを探しているような日々でした。多感で,いろいろなことが気になってしまう中学生でしたが,そんな中学生のころの過ごし方が,今の仕事にも生きているなと思います。
介護の仕事は,細かいことの気づきの連続です。患者さんの気持ちの変化や,できるようになったことなど,ちょっとしたことに気づけるかどうかが,すごく大切になってきます。中学生のころは,クラスの友人同士の親密さの変化や,自分の心境の変化など,わずかな差ですが,昨日はすごく楽しかったけど,今日は楽しくないのはなぜだろう,といったことを毎日考えながら過ごしていました。いろいろなことについて,ちょっとした楽しさや,細かいところを気にするような生活を送っていたのが,今の仕事にとってはよかったかなと思います。
今までしてきてもらったことをお返しできる仕事
介護の仕事は大変そうだとよく言われます。私も,友達から「大変じゃない?」と言われています。確かに大変なこともあるのですが,それ以上に,楽しいことやうれしいことがあって,そして何より自分自身が成長できる仕事だと思うのです。みなさんも生まれてから,育ててもらってきた中で,多分周りの人からさまざまなお手伝いをしてもらってきたかと思います。介護は,いろいろできなくなってしまった方に,それを逆にお返しできる仕事だと思っています。イメージにとらわれず,少し前向きに,介護ってなんだろうと考えてもらえたらうれしいですね。
私自身は,介護の仕事のかっこよさを少しでも伝えられたらと思っています。外部の方だけではなく,一緒に仕事をしているスタッフにも,介護ってこんなにすごいところがあるんだよ,ということを知ってもらいたいという気持ちで毎日働いています。