※このページに書いてある内容は取材日(2017年06月19日)時点のものです
システムやアプリを作る会社
私は,IT関連の会社「ナチュラルスタイル」を自分で起業し,経営しています。私の会社は,ホームページのシステムをより便利にするためのプログラムツールや,企業などで使うシステム,一般の人たちが使うスマートフォン用のアプリなどを作って販売しています。また,ウェブサイトを作ったり管理・運営するのも私たちの仕事ですね。社員は現在27名で,コンピューターのシステムをつくるプログラマーと,絵を描くグラフィックデザイナー,事務作業をする人,営業をする人がいます。私自身もプログラマーとして働いています。
コンピューター上で動くシステムやスマートフォンのアプリなどは,「プログラミング」をして作ります。プログラミングというのは,「この順番でこう動いてほしい」という命令をコンピューターに伝えることです。プログラムは,英語と数式を混ぜたようなさまざまなコンピューター言語を入力して作っていきます。この作業をする人のことをプログラマーといいます。コンピューターは,人間が手や頭を使ってやるととても時間がかかる計算や作業でも,短時間で仕上げてくれます。みなさんは気づかずに生活しているかもしれませんが,世の中にはコンピューターが溢れていて,電化製品やテレビゲームなど,さまざまなものがプログラミングされた動きをしながら,みんなの仕事の手助けをしたり,生活を豊かにしているんです。
自らプログラムを作るほか,プログラミング教室も
私の会社では,主に企業から「こんなシステムを作ってほしい」という依頼を受けて,それを作ることが多いです。作業はチームに分かれて行いますが,社長である私が細かく口を出すことはほとんどなく,基本的にはそれぞれのチームリーダーに仕事のやり方などすべてを任せています。私の仕事の多くは,「世の中にこんなものがあった方が便利だろう」と思うソフトやプログラムを,誰かから頼まれて作るのではなく,自分で考えて一人で作ることです。
ノートパソコンを使っているので,会社の中に特定の机はなく,空いた会議室で仕事をすることが多いです。また,会社にいなくても仕事ができるので,最近は会社の近くに,自分専用の部屋を借りて,こもりっきりになって作業をしています。
2014年には,子どもたちがプログラミングについて学ぶ場を提供する「PCN(プログラミング・クラブ・ネットワーク)」という組織を立ち上げました。プログラムがこれだけ生活の一部になっている現代で,子どもたちがプログラミングのしかたを知らないまま大人になってしまうと,時代の流れに乗り遅れてしまうのではないか,と危機感を抱いたことが発足のきっかけでした。その活動を通して,いろいろなところで子どもたちにプログラミングを体験してもらう教室を開いています。日本だけでなくベトナムやモンゴルなどの外国にも出張に行って教えているんですよ。そのため,今は1か月に2日ほどしか休みがない,忙しい毎日を送っています。
やりたいことがたくさんある
私の会社で作っているコンピューターソフトやホームページなどは,昼夜関係なく利用されるものがほとんどなので,24時間体制でトラブルに対応しています。私たちが作ったシステムに問題があった場合は,すぐにプログラム上の問題点を見つけて解決するようにします。さまざまな失敗や問題はないに越したことはないですが,もし起きてしまった場合も「この失敗を生かして技術を磨こう」と前向きにとらえるようにしています。
私が1人で作業をする場合,1つのシステムを作るのにだいたい2~3か月かかります。そのためには,ある程度まとまった時間をかけて取り組まなければなりません。今,取り組んでみたいプログラムのアイデアがいくつかあるのですが,最近では子どもプログラミング体験の活動に力を入れ過ぎていて,なかなか取り掛かれないのが悩みですね。今年の4月には,プログラミングの仕事があまりにも溜まっていたので,新しい予定は一切入れないように決めて,作業部屋に3週間ほど一人でこもりっきりになって作業をしました。やりたいことがいっぱいあるので,そうやって時間のやりくりをしなければならないのも大変ですね。
自分で考えて作ったものを世に出したかった
プログラムは計算式やコンピューターへの命令文で出来上がっていますが,それを組み上げる際にはそれぞれのプログラマーの個性が強く出るんです。例えば「このボタンを押すと絵が動く」という“ゴール”は一緒なのですが,そこに行きつくまでの命令のしかたや使う計算式などは,人によってまったく違います。「スマートだな」とか「ごちゃごちゃしていて分かりにくいな」とか,打ちこまれたプログラムを見ると,プログラマーの考え方や力量が分かって楽しいんです。スマートなプログラムは,アプリやソフトを使うときに,コンピューターにかける負担が小さくてサクサク軽快に動くので,プログラマーはみんないかにスマートにするかを常に突き詰めていきます。私の場合は,朝9時にプログラミングを始めて,気がついたら夜8時になっていたりと,お昼ご飯を食べるのを忘れるくらいに,時間が経つのがあっという間です。
私は29歳のときに前の会社から独立して起業しました。だれかからの注文を受ける仕事だけでなく,自分が考えて作ったものを世の中に出したかったからです。社長となった今では自分の好きなものを開発して,世の中に売り出していくことができます。誰の許可も取ることなく自分の好きなものを作れる今の立場は,すごく楽しいです。もちろんその分の責任は重いんですけどね。
将来を担う子どもたちにプログラミングを
私の会社の社員たちには,一つのことだけにとらわれて視野を狭めることがないよう,いろいろなことに挑戦してほしいと思っています。だから,全員がお客さまからの問い合わせの電話に対応するし,売り上げの計算もしています。また,なるべく楽しい雰囲気で仕事をしてほしいので,業務以外にもユニークな取り組みをしています。例えば一年に一回,社内でミニ四駆の大会を開催しています。速いマシンを完成させるために試行錯誤しながら,毎年夢中で取り組んでいますね。あと夏に一日だけ「クールビズ」を実施しています。涼しい格好ではなく,かっこいい(クールな)格好をする日のことです。みんな和服で仕事をするんですよ。
私個人としては,プログラミング教育にもっと力を入れたいと思っています。2014年にイギリスでプログラミング教育が必修科目になったのを皮切りに,アメリカや中国でも必修になりました。しかし日本で必修科目になるのは2020年から。つまり,他の国でプログラミング教育を受けた子どもたちが大人になって世界で活躍するころに,ようやく日本の教育が始まるんです。これでは世界の中で日本が完全に後れを取ってしまいます。私の子どもが今ちょうど小学生なので,プログラミング教育をしっかり受けさせることは親の義務だとさえ思ったんです。そこで,プログラミングに関する必要最低限の機能だけを備えたてのひらサイズの機械「IchigoJam(イチゴジャム)」を使ったプログラミング教室を始めました。最初は個人から始めた教室が反響を呼んでどんどん大きくなり,今では会社全体で力を入れています。
13歳で出会ったプログラミング
私が13歳のある日,父親が中古のコンピューターを買ってきたんです。当時のコンピューターには今の「Windows」のようなOS(オペレーティングシステム)がなく,電源を入れると黒い画面に白い文字が画面いっぱいに表示されました。「ここに書かれている英語みたいなものは何だろう」と不思議でしかたありませんでした。本屋でコンピューターの本を読んで,その文字がコンピューター言語だと知りました。その本には「ブロック崩しゲーム」ができるプログラムも載っていて,自分でゲームを作れることに衝撃を受けました。さっそく本を買ってもらい,夢中になってコンピューター言語を入力しました。これが私の最初のプログラミング体験ですね。
その後,国立福井高等専門学校に進学しました。専攻は電気工学で,授業でプログラミングを学んだのは半年間くらいでしたが,寮の友達がプログラミングをしていたのを見て,教えてもらいながら,趣味で簡単なゲームを作るようになりました。
高専卒業後に大学へ編入し,続く大学院時代にはプログラミングをするアルバイトをしていました。そこでは,インターネットで不動産情報を検索できるサイトを作っていました。私が大学院を卒業するころは,有名な大企業がどんどん倒産していくような不況の時代でした。だから,就職するのではなく,自分の力でお金を稼げるプログラミングを仕事にすることを決め,仲間と一緒に会社を作りました。そして,その5年後に独立して今の会社を立ち上げたんです。
外ではカブトムシ獲り,家ではゲーム
私が小学生のころは,習い事もしていなかったので,放課後はすべて自由時間でした。山の近くで育ったので,夏休みになるとカブトムシを獲りに出かけましたね。よく獲れる場所を3カ所ほど知っていたので,そこを自転車で回って飽きもせず捕まえていました。友達と遊ぶときには缶蹴りですね。その一方で,家の中でテレビゲームをして遊ぶのも大好きだったんです。当時はファミコンが大流行していて,ロールプレイングゲームをよくやっていましたね。ファミコンの次はスーパーファミコン,そしてプレイステーションでも遊びました。
ゲームが好きだったからこそ,自分でゲームを作れるプログラミングの魅力にハマったんだと思います。たぶんみなさんも「プログラミングができれば,自分でゲームを作れるよ!」と言われたら,興味がわくのではないでしょうか。それと同じような感覚ですね。
夢中になれるものを探そう
みなさんにはいろいろなことにチャレンジしてみて,たとえば,朝から始めて,気づいたら夜になっているくらいに夢中になれることを見つけてほしいです。誰でもきっと見つかるはずです。私の場合は,中学のときに出会ったプログラミングがまさにそれでした。そして,中学生までに夢中になれるものを見つけられれば,そのままずっと続けてほしいと思います。そうすれば将来,自分が心から楽しいと思える仕事にたどり着くのではないでしょうか。私はいつも「やれるところまでやってみよう。やってダメならまた考えよう」と思いながら,仕事に取り組んでいます。だからみなさんも,とりあえず一度チャレンジしてみてください。
そして,ぜひプログラミングをやってみてください。今,人間の使う言葉を理解したり,論理的な推論をしたり,経験から学習したりするコンピュータープログラムのAI(人工知能)の開発がどんどん進んでいます。近い将来,世界中でAIを搭載したロボットが仕事をする時代が来ると思います。ロボットが仕事をするなら,人間は働かなくてもいいのではないかと思うかもしれません。しかし,AIを作るのはもちろん人間だし,それを使いこなしていく必要があるんです。もしみなさんがプログラミングを覚えてAIをより進化させれば,今まで不可能だったことも,どんどんできるようになるかもしれません。そういう可能性をどんどん広げていってくれるプログラミングを,ぜひ体験してみてください。