※このページに書いてある内容は取材日(2022年11月17日)時点のものです
幅広い分野のロボット製作を手がける
メインの仕事はソフトウェア開発、それ以外の業務も
ヴイストン株式会社は自社開発の領域が広く、それぞれの分野でロボットに使うモーター1個から、実際にそれを使って2足歩行するロボットまで、部品作成、デザイン、電子基板の設計など、全部含めて社内でまかなえる体制になっているのが強みです。
ロボットをいくつかの要素に分解すると、モーターや腕の形状構造などのメカの部分、電子基板の部分、そしてそれらを実際に動かすためのソフトウェア、という3つに分類できます。私はその中でも、ロボットを動かすためのソフトウェアを担当しています。
ヴイストン株式会社は事業規模が小さい会社なので、社員は14人です。その中でも開発部隊は7人です。そのために、仕事の範囲は広く、単純にプログラムするだけではなく、全体の製品企画や、実際にお客さまの要望を聞く仕事も行っています。
「心のケア」ロボットの需要の高まり
開発しているロボットの中には、高齢者施設で使われるコミュニケーションロボットもあります。高齢者施設では利用者の方が時間を持て余していることが多く、そのときにはコミュニケーションロボットの出番です。コミュニケーションロボットの中には赤ちゃん型のロボットもあり、ちょっとほったらかされているとだんだん機嫌が悪くなり、泣いたりぐずったりする音声が流れるんですね。でもこれを「ヨシヨシ」と構ってあげると、機嫌が良くなって笑い声が流れます。
介護の現場で必要なのは「どう扱われても壊れない」ということです。施設利用者の方がロボットを使おうとしたときに介護士の方がずっと見ていないといけなかったりすると、結局、現場が大変になってしまいます。でもこのロボットだったら自由に使ってもらっても危険はないので、介護者の負担軽減にもなり、施設利用者の方の精神的なケアにもなります。このロボットは、今、実証実験を進めているものですが、最近は、このような「人を癒やす」、「心をサポートする」ロボットのニーズも増えています。
うまく動かすために実験を繰り返す
一日の仕事の流れは、時期によってやることはバラバラです。メールでお客さまからのお問い合わせが来ることが多いので、大体、朝は問い合わせのメールや提携先の企業の方とやり取りをすることが多いです。日中のメイン業務はロボットの開発になりますが、これも日によってやっていることは違います。パソコンに向かってプログラムしている時間もあれば、ロボットを動かす日もあります。やはりロボットは動かしてみないとうまくいったかどうかわからないうえに、1回動いたから大丈夫ということはありません。ちょっと違う場所に持っていって動かしたら全然ダメで、なぜか時間を置くと動く、ということもよくあるので、時間や場所を変えて繰り返し試しながら、ロボットがきちんと動くか、プログラムの検証作業を繰り返します。
「ロボカップジュニア」出場からロボットにのめり込む
今の仕事に就いたのは、偶然の要素が大きいです。小学校の低学年のころは動物や植物など生物系のほうに興味があったのですが、ある日、大阪の日本橋という電気街にロボットの専門店ができたんですね。2005年ごろだったと思います。そこへたまたま父親に連れて行かれたのですが、そこで「ロボカップジュニアという大会があるので出てみないか」と誘われたんです。「ロボカップジュニア」は、19歳以下の子どもたちを対象としたロボットコンテストなのですが、誘われたので出場してみたところ、スルスルとその年の世界大会まで行けてしまいました。そうすると、大会をきっかけに友達が全国にたくさんできて、毎年その大会に出るようになりました。すっかりロボカップとロボット作りにはまってしまい、大学も理工学部の機械科に進み、ずっとロボットを作り続けて今に至ります。
お客さまが使いやすく、価値のあるロボットを提供する
仕事をするうえで一番大切にしているのは、「お客さまにとって一番使いやすく、お客さまに価値を提供できるものを」という部分です。ロボットについて、日々いろいろなご相談をいただくのですが、例えば、お客さまが大学の先生であればロボットのことをよくわかっていますし、話もスムーズです。しかし、最近はロボットの活用分野が幅広くなっているので、「全然ロボットのことはわからないけれどやってみたい」というお客さまも多くなっています。でもそうすると理想と現実の差というのが大きいこともあります。そういうときは「お客さまが求めているのはこういうことだと思いますが、でもそれは大変ですよ、うまくいかないですよ」というようなことは、ちゃんとお話しさせていただきます。そしてできるだけ、そのお客さまが最終的に一番価値を感じていただけるような形に持っていく、ということを心がけています。
日々知識をアップデートしていく大変さ
ヴイストン株式会社ではロボットを作る場合に、基本的には社内で完結できる体制になっています。しかし、プロジェクトによっては他の企業にも入ってもらい、複数の企業で1体のロボットを作るというケースもあります。そういったときにはシステムが複雑になり、場合によっては自分が全く経験のないシステムを組み入れ、組み合わせて使えるようにしなければいけない、という状況もあります。そういう場合は、技術的なことよりも、他の企業との調整の部分で苦労する、というところが実は多いです。
また、ロボットに関する技術は日々新しいものが出てきている領域で、特に最近は人工知能も絡み、毎日、常識が入れ替わっているような状況です。研究者の方たちはそういった技術を研究して発表してひと区切り、というような状況ですが、私たちはそれを実際に製品に落とし込む作業が必要になる。いつまでも新しいことをどんどん勉強して学んでいかないとついていけないのですが、でもわからないことだらけなんですね。それが大変です。
ロボット製作にはさまざまな知識が強みとなる
今、これを読んでいる人の中でロボット作りに興味を持っている人がいたら、ロボットという分野でも、そうでない分野でも、幅広い領域のものに触れてほしいなと思います。仮にロボットというジャンルの中だけでも、さまざまな方向に深掘りすることができます。今はインターネットで調べたらたくさんの情報が簡単に手に入る時代ですので、世の中にどんなものがあるんだろう、ということをたくさん知ることは、将来に向けて強みになっていくんじゃないかなと思います。
ロボットというものはおそらく、みなさんが思う以上に幅広く使われています。見た目もバラバラですし、目的や領域、分野によって使われている技術や思想も全く違ってくるものなんですね。一見関係ないようなものとも結びついていて、例えば「ロボットと哲学」という研究をされている大学の先生もいます。実際に生きている細胞を使ったロボット、いわゆる「生体部品」という分野の研究も進んでいます。人工知能やロボットが小説や映画の題材にもなっています。こんな時代だからこそ、世の中にどんなものがあるかを広くたくさん知ってほしいなと思います。