※このページに書いてある内容は取材日(2023年11月08日)時点のものです
産業廃棄物を選別して、リサイクルできる資源にする仕事
私は、東京都足立区で「首都圏環境美化センター」という産業廃棄物の「中間処理」を行う工場を経営しています。この中間処理というのは、産業廃棄物を回収し、リサイクルできるものは選別して、資源として出荷するまでの処理のことを指します。産業廃棄物というのは、一般の家庭から出されるごみ以外のごみのことです。例えば、工場などでものを生産するときに出る廃棄物もそうですし、ショッピングセンターやオフィスビル、学校や病院などの施設から出るごみも産業廃棄物です。
主な回収品の一つにペットボトルがあります。ペットボトルはリサイクルされて新たなボトルになったり、衣類や食品のトレーとして生まれ変わったりしていて、そのリサイクル率は約85%と、とても高くなっています。ご家庭でペットボトルを捨てるときはラベルやキャップを剥がし、決められた曜日に回収に出すと思いますが、商業施設などから回収するペットボトルは、ビンや缶の飲料容器と一緒だったり、ラベルやキャップもついたままという状態がほとんどです。このような廃棄物を回収し、選別をし、それらを原料として利用する事業者がリサイクルしやすい状態にして出荷・販売するのが私たちの仕事です。
ペットボトルなどは最新の機能を搭載した機械で選別
私たちがごみの回収を担当している企業は東京都23区内が中心です。効率よく回収できるように、基本的に回収は早朝に行います。回収車は朝3時に出発し、契約しているビルや施設のごみを回収して、大体お昼すぎにごみを処理するための工場に帰ってきます。工場は7つあり、ペットボトル・ビン・缶用の工場や、古紙専用の工場など、それぞれ種類ごとの処理を行う施設になっているので、適した工場に運び、さらに選別・圧縮などの処理を行っていきます。
オフィスから出るものは紙を中心としたごみが多いのですが、紙は再生紙の原料になります。金属やプラスチック系のごみはそれぞれの素材ごとに細かく選別し、やはり原料になります。これらの選別作業は、一部は人の手も使いますが、大半は最新設備を導入した工場で機械化されています。特にペットボトルや缶などは、「光学選別機」という、光センサーを利用してペットボトルを瞬時に判別し選別する機械を導入した自動ラインで処理を行っています。再利用できない可燃ごみや、工場では処理できない粗大ごみは民間の処理施設へと運んでいきます。
今はオフィスなどでペーパーレス化が進み、紙のごみは全体的に減っているのですが、夏になるとペットボトルが増え、一日に処理する数が平均100万本となります。夏の暑い日が続けば続くほど、本数が増えるなど、天気や社会の動きによって廃棄物の量が変化します。
正しく捨てられていないと危険なものもある
これはどんな業種でも共通していると思うのですが、人手不足というのが一番大きな悩みです。それを解決するために、社員が働く環境をよりよくしていく努力は常に行っています。廃棄物の選別処理などにAIを搭載した最新の機械を導入することで、労働時間自体は大きく短縮することができています。
ただ、どうしても人の力で選別しなくてはいけないものはゼロにはならないので、そこは大変です。特に今、大きな問題となっているのが「リチウムイオン電池」です。みなさんが日常で使っているゲーム機やタブレット、ノートパソコンやイヤホンなど、さまざまな充電池で動くものに使われているのですが、これらは、圧力がかかると内部でショートを起こし、発火する危険性があります。しかし、可燃ごみや不燃ごみなどと混ぜて捨てられてしまうことも多く、回収中のゴミ収集車や工場で発火するという事故が多くなっています。私たちの工場でもごみの中にこのリチウムイオン電池が紛れ込んでいて、火事になったことがあります。また、こういった電池を使う製品は安全のため簡単に分解できないようになっていることも多く、電池を取り出すのに苦労することもよくあります。
循環型社会の最初の入口を担う重要な役割
この仕事をしていてやりがいを感じるのは、契約しているオフィスや施設の方から「ありがとう」という声をかけていただけるときです。また、自分たちが循環型社会に貢献している、という実感を持つことができるのも、やりがいにつながっています。
「混ぜればごみ、分ければ資源」という言葉があります。私たちが日常で捨てているものの中には、まだまだ資源として再利用できるものがたくさんあります。しかし、再利用をするためには「再利用するために適した素材の形」にしなくてはいけません。昔は多くの資源がごみとして燃やされたり、埋められたりしていた時代もありました。しかし、プラスチックの原料となっている石油や、金属などはすべて地球から採っている資源であり、限りがあるものです。このまま使い続けていれば、いつか資源は尽きてしまいます。そういったことを防ぐために、資源をリサイクルできる循環型社会をつくる必要があり、そのための最初の入口を担っている仕事だと思っています。
高品質な資源として出荷することの大切さ
私たちが心がけているのは、単に資源を回収するのではなく、高品質な資源として出荷することです。例えばペットボトルをリサイクルして製品にする会社に渡すときは、空のペットボトルを圧縮してまとめた、ブロックの形で出荷します。このとき、ペットボトルの汚れがまだ残っていたり、飲み残しなどの水分が入っていたりすると、でき上がる製品の品質が悪くなってしまいます。そういったことを防ぐには、出荷する時点でなるべくきれいに洗浄されていて、その素材だけにしっかりと分別されている、高品質な資源にすることが大切です。もちろん、設備投資のためのお金や手間はかかりますが、取引している事業者の方に喜んでいただくためにも、ここは大事にしています。
最近では食品のパッケージフィルムなどが高機能になり、同時にプラスチックもさまざまな種類が増え、選別がさらに細分化されるようになりました。また、海洋プラスチック汚染が生態系に与える影響などから、プラスチックの使用を減らしたり、リサイクルを増やしたりといった動きが世界的に出てきています。こういった動きに対応できるよう、プラスチック製品を選別するための新たな工場を現在、建設中です。
「これからの時代は売るだけではダメ」という父の言葉から起業
私の父親は、さまざまな商品を小売店へと卸す「卸問屋」を経営していました。父の会社は自動車関連の商品を主に取り扱っていたのですが、父が「これからはものを売るだけではなく、ものを売った後のアフターケアも考えなくてはいけないよ」と口にしていました。例えば自動車用のオイルを売っても、中身を使った後の缶はごみになる。当時は1990年ごろで、環境を汚染する「ごみ問題」が社会問題として注目され始めたころです。日本の景気はよく、ものはたくさん売れるけれども、売れたら売れただけごみも増えてしまう。これからは、ものを売った後に不要なものを回収する、そういう時代が来るよ、と父は言っていました。
私はとにかく自分が商売をしたいという思いがあり、高校卒業後は大学に進まずに父の会社で働いていましたから、そんな父の言葉に「これはビジネスチャンスになるのではないか」と思い立ちました。当時はまだ私たちのようなリサイクルをメインにする事業者はそこまで多くなかったのですが、先輩業者の方にアドバイスをいただき、1994年に現在の会社を創業しました。
ものを売ることの楽しさを幼いころから実感
リサイクルへの目線と意識を常に持ってほしい
みなさんには、普段からリサイクルへの意識をぜひ持っていただきたいなと思います。家庭から出るごみでも、例えばコンビニのお弁当などに使われているプラスチック容器は、汚れていれば「可燃ごみ」ですが、さっと洗ってきれいにすれば、立派な資源になります。日常の中に資源があるということに、ぜひもっと注目してみてください。少し手をかけただけで、ただのごみではなく、新たな製品に生まれ変わらせることができるのです。この喜びをぜひ知っていただきたいです。
また、私たちは日々さまざまな「壁」にぶつかっています。選別をしたくても選別しづらい製品が出てきたり、新たな素材が出てきたり。この仕事をしていると、ごみを出さないためには「製品づくり」の段階でリサイクルしやすくなるような工夫をしなければいけないことがよくわかります。しかし、今の日本では製品を「作る側」と「廃棄する側」との連携がなかなか取れていないのが現状です。これからの時代を生きていくみなさんには、ぜひ、このことを知っていただければと思います。