社会にはいろいろな仕事があるよ。気になる仕事や仕事人をたくさん見つけよう!
※このページに書いてある内容は取材日(2006年06月15日)時点のものです
サッカーの試合(しあい)で,ピッチ(グラウンド)に立つ選手(せんしゅ)は22人。では,この22人を支(ささ)えるために,どれだけの人たちが動(うご)いていると思いますか? 50人? 100人? いえいえ,そんなものじゃありません。実際(じっさい)には,1000人を超(こ)す人たちが,裏(うら)で働(はたら)いているのです。例(たと)えば,埼玉(さいたま)スタジアムのホームチームである浦和(うらわ)レッズ戦(せん)では,浦和(うらわ)レッズのスタッフ,警備員(けいびいん),客席(きゃくせき)を案内(あんない)するボランティアの方,お医者(いしゃ)さんやトレーナー,選手(せんしゅ)や観客(かんきゃく)を運(はこ)ぶバスの運転手(うんてんしゅ),試合(しあい)をテレビで放送(ほうそう)するためのスタッフ,新聞記者(きしゃ)やカメラマン,試合(しあい)会場を設営(せつえい)する人,広告(こうこく)の看板(かんばん)を取り付(とりつ)ける人,売店の人……。それこそ,数えきれません。
私(わたし)もまた,そのうちのひとりです。浦和(うらわ)レッズにスタジアムを貸(か)す,スタジアムのスタッフとして,「選手(せんしゅ)がプレーに集中(しゅうちゅう)できるように」「試合(しあい)を見に来た人が,心地よく試合(しあい)を楽しむことができるように」と働(はたら)いています。例(たと)えば,試合(しあい)のある日は,朝からスタジアム内を細かく見て回ります。ゴミは落(お)ちていないか,備品(びひん)はちゃんとそろっているか。その後も運営(うんえい)本部(ほんぶ)にいて,エスカレーターはちゃんと動(うご)いているか,選手(せんしゅ)のひかえ室は暑(あつ)くないかといろいろと気を配(くば)り,無事(ぶじ)に試合(しあい)ができるようにするのです。そして,選手(せんしゅ)たちがピッチへとかけ上り,観客(かんきゃく)の大歓声(かんせい)に迎(むか)えられた瞬間(しゅんかん)。それは,私(わたし)にとって,「選(えら)ばれた22人の選手(せんしゅ)たちを,無事(ぶじ)に舞台(ぶたい)へと送り出(おくりだ)せた」という感動(かんどう)の瞬間(しゅんかん)です。それは,何度(なんど)味(あじ)わっても,うれしいものです。
試合(しあい)を直接(ちょくせつ)見ることはありません。選手(せんしゅ)たちと会うことはもちろん,サインをもらうこともありません。それは,私(わたし)がサッカーに興味(きょうみ)がないからじゃない。むしろ,私(わたし)はサッカーが大好(だいす)きです。Jリーグができたときから,私(わたし)は浦和(うらわ)レッズの熱烈(ねつれつ)なサポーターでしたし,息子(むすこ)のサッカーに付き合(つきあ)ううちに,審判(しんぱん)の資格(しかく)までとったほどです。「それなのに,なぜ選手(せんしゅ)に会わないの?」と思われるかもしれませんね。無理(むり)して会わないようにしているのではないのです。私(わたし)はサッカーが好(す)きですが,それ以上(いじょう)に,「サッカーの役に立(やくにた)ちたい」という気持(きも)ちが強いのです。だから,選手(せんしゅ)に会いたいという気持(きも)ちより,これから試合(しあい)に向(む)かう選手(せんしゅ)に余計(よけい)なストレスを与(あた)えたくないという気持(きも)ちのほうが大きい。選手(せんしゅ)が試合(しあい)だけに集中(しゅうちゅう)して,最高(さいこう)のプレーをし,それを観客(かんきゃく)に心ゆくまで楽しんでもらうようにする。それが,今の私(わたし)にできる「サッカーの役に立(やくにた)つ」ということなのです。
野球(やきゅう)をするなら甲子園(こうしえん),ラグビーなら花園を目指(めざ)すように,埼玉(さいたま)でサッカーをする人たちにとって,「埼玉(さいたま)スタジアム2OO2」はあこがれのスタジアムです。サッカー専用(せんよう)スタジアムで,陸上(りくじょう)競技(きょうぎ)用のトラックがない分,ピッチと観客(かんきゃく)の距離(きょり)がとても近くなっています。それは,サポーターの声援(せいえん)がよりはっきり選手(せんしゅ)に届(とど)くということ。そんな埼玉(さいたま)スタジアムを,日本代表(だいひょう)のジーコ監督(かんとく)も「セインピスタ(ポルトガル語でトラックのない競技場(きょうぎじょう))」と親しみをこめて呼(よ)び,日本代表(だいひょう)の重要(じゅうよう)な試合(しあい)のほとんどを埼玉(さいたま)スタジアムで行ってれました。
そんなスタジアムを貸し出(かしだ)すというのが,私(わたし)の仕事(しごと)になるのですが,だからこそつらいこともあります。それは,みんなにスタジアムでプレーをしてみたいというお願(ねが)いをされても,お断(ことわ)りをしなくちゃいけないというつらさです。天然芝(てんねんしば)のピッチは,毎日使(つか)うことができません。試合(しあい)を1回するたびに,一週間は休ませなくちゃならないのです。断(ことわ)られた人が「もう二度(ど)と頼(たの)むものか!」と思うのではなく,「いつかあのスタジアムでプレーができるようにがんばろう!」と思ってもらえるように。心をこめて,お断(ことわ)りをしています。ほかにも,土日は休めない,時間は不規則(ふきそく)とつらいこともあります。でも,この埼玉(さいたま)スタジアムで,サッカーの役に立(やくにた)てているという喜(よろこ)びのほうが大きいですね。
スタジアムをサッカーの試合(しあい)に貸し出(かしだ)すほかに,もうひとつ,私(わたし)には大きな仕事(しごと)があります。それはスタジアムを使(つか)ったイベントをすること。先ほども言いましたが,サッカーの試合(しあい)ができるのは限(かぎ)られた日だけ,一年で60日ほどです。だから,他(た)の300日をどうやって,埼玉(さいたま)の人たちに楽しんでもらうかを考えているのです。そこで,フリーマーケットや,ピッチでの結婚式(けっこんしき),普段(ふだん),一般(いっぱん)の方が入れない,選手(せんしゅ)エリアや貴賓室(きひんしつ)などが見学できるツアーなどを行っています。一からアイデアを出して,手づくりでイベントをつくり上げていく。サッカーとはまた違(ちが)う楽しさが,イベントにはあります。
私(わたし)はサッカーが好(す)きだと言いましたが,昔(むかし)はテニスに熱中(ねっちゅう)していました。しかも,生徒会(せいとかい)などにも立候補(りっこうほ)するような,何かと目立ちたがりな子どもでした。今の時代(じだい)はモノや情報(じょうほう)がたくさんあって,私(わたし)が子どもだったころと環境(かんきょう)はかなり違(ちが)うけれど,子どもたち自身(じしん)はそんなには変(か)わらない。何かにあこがれたり,夢(ゆめ)を見たり。だから,もし夢(ゆめ)を見たら,それにトライをしてみてほしいなあと思います。成長(せいちょう)するにつれて夢(ゆめ)は変(か)わるし,夢(ゆめ)が破(やぶ)れることもあるかもしれない。それでも,夢(ゆめ)に向(む)かってがんばったということは,無駄(むだ)にはならないと,そう思うのです。