リニア中央新幹線の新しい駅をつくる大規模工事を担当
私は、JR東海の土木担当として、東京―名古屋―大阪間を結ぶリニア中央新幹線の中間駅「神奈川県駅」(仮称。以下同じ)の施工管理を担当しています。施工というのは実際の工事を行うことですが、建設工事は、設計図をもとに、施工を担当する施工会社が中心となって、さまざまな施工方法を用いて進めていきます。工事がきちんと計画通りに進むように管理をし、施工方法が適切かを判断するのが、私の仕事です。そのために、周辺地域の住民の方々や行政、施工会社、社内といった関係各所と日々、調整・確認しながら、工事を進めています。
神奈川県駅は、神奈川県相模原市の橋本駅前に建設中で、リニア中央新幹線の中間駅で唯一、地下につくられる駅です。2019年から駅をつくるための準備工事を進めており、現在(2023年6月時点)、大規模な地面の掘削を行っています。工事を効率的に進めるために、掘削するエリアの広さや地質や地下水位などの特徴に合わせて掘削の方法も変えています。施工方法によって、使用する重機や作業で注意すべき点が異なるので、間違いがないように注意しながら、日々の施工管理をしています。
安全を第一に、工事を進めるための計画を考える
施工管理の仕事は大きく3つに分かれます。「安全管理」、「工程管理」、「品質管理」です。
まずは「安全管理」です。施工会社から提出された工事計画をもとに、地域住民の方々や通行人の方々、交通車両などの安全がきちんと守られ、法律や決められたルールに沿った計画になっているかを確認します。例えば、道路や線路の近くでクレーンを使用し荷物を吊り上げて旋回させるときに、歩行者や線路の安全が確保されているのか、決められたルールを守り計画されているのか、といったことを確認します。特に神奈川県駅の工事現場は、住宅地や交通量の多い道路、電車の線路が近くにあるため注意すべき点が多く、計画の検討に時間がかかることもあります。
次に「工程管理」です。工事は、あらかじめ決めた工事期間内に完成させる必要があるため、スケジュール通りに作業が進んでいるか、毎日、確認しながら進めています。でも、天候が悪くて作業が進まなかったり、掘っているときに思わぬものが埋まっているのに出くわしたりすると、工事が遅れてしまうこともあります。その場合は工程を見直して、作業の順番を組み替えたり、使う機械を変えたりして、スケジュールに間に合うように調整します。このときに遅れを取り戻そうと、安全性に欠けた計画になっていないかを確認することは、JR東海の担当者としてとても大切なことです。
最後に「品質管理」です。工事現場に行って、構造物が設計図や決められた基準通りにつくられているかを確認します。例えば、駅の土台に使われるコンクリートの中に入る鉄筋が、設計図通りの寸法や数量になっているかなどを、現場で計測して確認します。地下を掘るときには、周りの土が崩れてこないように、「支保工」と呼ばれる仮設の鋼材の支えを入れて工事を進めていますが、支保工に不具合が出ると、周辺地盤にも影響するので、工事中は常に計測して、問題ないか確認する必要があります。また、万が一、周辺への影響が出た場合に気づけるように、掘削している期間は、地盤が沈下していないか、定期的に計測結果を確認します。今後は駅の構造物の工事に移っていきますが、リニア中央新幹線にはレールはなく、軌道の側面に電磁石コイルの入った「ガイドウェイ」が敷かれるなど、これまでの鉄道と異なる設計方法でつくられます。品質を管理するには設計のことも理解しないといけないので、設計担当の先輩方とも連携して進めていきます。
工事現場の中にも外にも目を向け、説明する責任
神奈川県駅の建設工事は、10ヘクタールにおよぶ神奈川県立相原高等学校の跡地を中心に行っています。とにかく広大な現場で何種類もの工事を同時に行っているため、日々、状況が変わる中で安全管理や工程管理を行う必要があります。リアルタイムで現場の状況をよく分かっていないと計画の変更にもきちんと対応できないため、週に数回は現場に足を運び、施工会社の方と一緒に状況を確認するようにしています。
また、建設作業には周辺地域の住民の方々や行政、施工会社、社内と、本当に多くの人が関わっているため、それぞれの意見を受け止め、方向性を調整しながら仕事を進めることも必要です。工事を管理する立場として、問題や疑問点があれば施工会社に指摘することもありますし、現場の中だけでなく周辺地域への影響にも目を配り、必要に応じて状況を説明しなければいけません。例えば、住民の方や自治体に説明している工事内容に変更があった場合、どのように分かりやすく説明すればみなさんに納得していただけるかということも考えます。
関係各所と協議する際、相手に納得してもらうためには、自分の中できちんと状況を整理し、かみ砕いた言葉で分かりやすく伝えることが大切です。自分なりに整理して分かりやすく説明できるよう、いつも努力しています。
現場でのやり取りを通して、コミュニケーションの取り方を一から学んだ
施工会社など関係各所とのコミュニケーションで私が大切にしているのは、現場を見て話すことです。最近はチャットや電話でやり取りすることも増えましたが、実際の現場を見て話さないと気づかないことが多いからです。図面では通行人が移動するためのスペースが十分あるように見えても、現場で見てみると距離が足りないことに気づいた、といったこともありました。
私は入社1年目から神奈川県駅の工事に関わっており、今年で6年目になりますが、コミュニケーションの取り方は、現場での経験を通して自分なりに学んできました。最初のころは施工会社にどのように問題や疑問点を指摘すればいいかも分からず、現場の状況も知らないでお願いしたら「そんなこと、できるわけないよ!」と怒られたこともありました。それからはただお願いするのではなく、現場の状況を確認し、問題や疑問点をなぜ感じたか考えて伝えることを意識しています。
また、工事を計画通りに進めるためには、スピード感をもって仕事することも大事です。作業時間が少しずれただけでも、簡単に1か月の遅れが生じてしまいます。だから自分のところで作業を止めないように、自分が確認するものや判断するものはすぐに確認や判断を行い、分からないことがあればすぐに上司や先輩に相談するようにしています。
大がかりな作業が無事に終わったときに感じる、この仕事のやりがい
大がかりな作業が安全に完了したときには、やりがいを感じます。「仮土留め」(地盤が崩れないように地中につくる仮の壁)をつくる作業では3、4か月の間、周辺のマンションの近くで工事をしたので、無事故で終えることができるよう、毎日ドキドキしながら過ごしていました。また、もともと道路がある場所で工事を行うために、道路を付け替えて通行人の方々のための仮の道路を新たにつくったときも、通行人の方々との距離が近いところでの作業だったので、とても緊張しました。このような大がかりな作業が無事に終わった瞬間は本当に安心しますし、リニア中央新幹線の工事が着実に前進していることを実感します。
約3年半続いた準備工事は2023年中に一部終わり、その後いよいよ駅のメインとなる構造物をつくる工事が始まる予定です。私は構造物の工事に関わるのはこれが人生初で、とても楽しみですし、より一層、気合いが入ります。
小さな微生物への興味から一転、大きな構造物の面白さに気づく
私が土木分野に興味を持ち始めたのは、高等専門学校(以下、高専)への入学がきっかけでした。高専では、構造物の建設だけでなく、環境問題を解決するための技術研究なども勉強します。
私はもともと、環境問題に役立つ微生物の研究がしたくて高専に入学したのですが、土木の勉強をしていくうちに、構造物のほうに興味が向いていきました。私が惹かれたのは、普段何気なく目にしたり利用したりしている構造物が、実はすごく緻密に計算されてつくられているところです。例えば巨大な東京スカイツリーが地震などに負けず倒れないためにはどのような構造になっているのかなど、土木を勉強していくとどんどん分かるようになっていくのが楽しかったです。
学生のころはまだ鉄道の仕事に興味がありませんでしたが、インターンシップで鉄道会社の仕事を体験したときに、土木が鉄道の建設に深く関わっていることを知り、鉄道の仕事に興味を持ち始めました。それからいろいろな会社を調べる中で、リニア中央新幹線の計画を知り、東京―名古屋―大阪という日本の主要都市を結ぶ仕事にぜひ自分が勉強したことを生かしたいと思って、JR東海への入社を決めました。
パズルやプラモデル作りに夢中になった子ども時代
子どものころは図工の授業が好きで、授業の課題を家に持ち帰って作るほどでした。休日にはよく段ボールで工作したり、パズルやプラモデルを作ったりするなど、とにかくものづくりが大好きでした。しかし手先が不器用だったこともあり、たくさん失敗もしました。プラモデルに色を塗るとき黒色の上にほかの色がうまく乗らなかったり、想像したものと全然違うものができあがったり……。でも自分が想像したものに近づけるために、何度もトライすることをあきらめませんでした。仕事でも問題にぶつかるたびに「こうしたほうがよかったかな」と思う場面がたくさんあります。常にいいものを目指して、自分が納得いくまで改善点を考えるところは、子どものころの経験からつながっているのかなと思います。また、今までやったことのないものにチャレンジしたいという好奇心も、子どものころから変わりません。大人になった今も、興味を持った水彩画を新たに始めるなど、挑戦することを楽しんでいます。
大変なことを乗り越えるために「自分で決めること」を大切にしてほしい
これから将来の進路を選択していくみなさんに伝えたいのは、「自分で決めること」を大切にしてほしいということです。自分なりの理由や考えを持って進学先や就職先などを選択していけば、大変なことや辛いことがあっても乗り越えることができるからです。私自身、自分がやりたい研究に挑戦できる環境や自由な雰囲気が魅力的で、呉工業高等専門学校に進むことを決めました。入学を機に親元を離れて寮生活をしたときには、ホームシックで苦しい思いもしましたが、自分で入学を決めたということが励みになって悩みを乗り越えられた経験があります。そして、中学生のときに自分で決めたことが今の仕事にもつながっているので、すごく重要な決断だったんだと、働きだしてから思うようになりました。今も仕事で大変だと感じたときには、最初に自分がこの道を選んだときの理由や感じていた魅力をふり返ることで頑張ることができています。
リニア中央新幹線ができれば、今よりも短い時間でいろいろな場所に行けるようになり、今までは通えなかったところからでも職場や学校に通えるようになるなど、みなさんの将来の選択肢が大きく広がるのではないかと思います。将来、みなさんが活躍するのを支えられるよう、なるべく早い開通を目指して頑張ります。