※このページに書いてある内容は取材日(2019年01月16日)時点のものです
どんな建物をつくるかを考え,開発を進める
私は戸田建設株式会社という建設会社で,不動産企画・開発の仕事をしています。不動産企画・開発とは,土地を買って,その土地にどんな建物や施設をつくったらよい街になるか考えたり,すでに持っている不動産をどう活用したらよいかを考えたりして,開発を進めていく仕事です。
私が現在担当しているのは,自社である戸田建設本社ビルの建て替え計画です。東京駅の東側にある京橋という街にあり,この建て替え工事を含む開発プロジェクトは「京橋プロジェクト」と呼ばれています。この「京橋プロジェクト」は,私たちの会社の本社ビルと,隣に建つ永坂産業という会社のビル,そしてその周辺の道路整備などを含めた開発計画です。永坂産業さんのビルは2019年7月に,戸田建設の本社ビルは2024年に完成する予定で,私はプロジェクトを取りまとめる「プロジェクトマネージャー」をしています。
社内でこのプロジェクトに関わっているのは約50人で,設計や工事,お金のことを考える部署や営業の部署など,さまざまな人が関わっています。また,それ以外にも工事に関するたくさんの会社にも協力してもらっています。さらに,新しく建つビルには文化施設も入る予定なので,文化や芸術を専門とする,さまざまな外部の協力会社や専門家とも連携しています。社内外の人たちとプロジェクトを一緒に進めていくのが,私の仕事です。
さまざまな人と会いながら,物事を決めていく
私はプロジェクトマネージャーとして,さまざまな人と会って話をしながら,「どんなビルにしていくか」や,「どこにどれだけお金をかけるか」といったことを決めていきます。
今回の開発プロジェクトの場合,まずは全体構想を描き,ビル建設に必要な土地を買うために,その土地の持ち主の方たちと売買の交渉をするところから仕事が始まります。そして,何階建てでどんな施設のあるビルにするか,ビルを建てた後にどのようにして運営していくかといった計画を立てていきます。さらに道路のつくり方などについても役所と交渉をします。いろいろ決まったら,工事を経て完成,という流れになります。
今回,新しく建てる地上28階,地下3階の本社ビルは,上部はオフィスになりますが,下部にはイベントホールやミュージアム,そして,若手の芸術家やクリエイターを支援するための施設などの文化施設が入ります。私たちの会社は建設会社ですし,アートに関しては詳しくなく,ギャラリーを運営したこともありません。まったくつながりがなかったところから,アーティストやギャラリストといった専門の方たちにたくさんお会いして,この「京橋プロジェクト」に興味をもって,企画や運営に協力してくれる人をずっと探してきました。2年くらいかけて,ようやく協力してくれる方が見つかりそうです。
オフィスの一部に戸田建設の本社が入り,それ以外はほかの会社にオフィスとしてお貸しすることになります。このオフィスも,どんなふうにつくればテナントの会社さんが使いやすいかなど,考えながら設計していきます。できるだけ,私たちが進めている文化事業や社会貢献活動に共感していただけるような会社さんにお貸しできればと思っています。
相手の立場を想像して希望を伝える
たくさんの人と一緒に話し合いながら仕事をするのは,大変なこともあります。相手の方にも立場があるので,それを想像できないままに,こちらの希望だけを伝えるとうまくいきません。相手の立場を考えて,そのうえでこちらの希望を伝えることが必要です。
また,今回のプロジェクトには,さまざまな外部の専門家も関わっていますが,専門家の方に任せるだけではなく,自分たちも考え主体性を持って動かないと,プロジェクトは進みません。特に大事な話し合いのときには,必ずプロジェクトマネージャーの私も一緒に行って,お話しするようにしています。
また,一般的な工事では,発注者,設計をする会社,実際に工事をする会社はそれぞれ違います。でも,今回のプロジェクトは,自分たちの会社のビルを建てるので,これらをすべて戸田建設で行うことになります。発注者は戸田建設ですが,設計や工事を行うのも,戸田建設の中の部署です。同じ社内なのでスムーズに運ぶ面もありますし,同じ会社の身内だからこそ,話をまとめるのが難しい面もあります。例えば,今回,設計部としても,せっかく新しくできる本社だから立派なものにしたいという思いがありますが,立派なものにしすぎると,予算がふくらんでしまいます。ちょうどいいところを探るのですが,お互いに主張があり,お互いに同じ会社の中の人間なので,みんなが納得する結論を見つけるのに苦労することもありますね。
地域の人たちと一緒に街をつくる
私が現在,手がけているプロジェクトは,規模が大きく,やりがいを感じています。建物が建ったあとも,地域と連携して,この場所を文化芸術の拠点として盛り上げていくつもりです。建物をつくるというよりは,ひとつの街をつくっているような感覚です。
京橋は,江戸時代から続く歴史のある街で,先祖代々,ずっと長く住んでいる方もいます。そういった方たちと一緒に街のにぎわいをつくっていきたいなと思っています。戸田建設では,もともと地元の方々との交流は大切にしていて,地元のお祭りである「山王祭」には,毎回,会社ぐるみで参加をしています。私はこのプロジェクトに関わることで,よりいっそう,地域のつながりの大切さを実感しました。山王祭では私もハチマキを巻いて,会社のみんなと一緒におみこしを担いで盛り上がっていますよ。
また,私は会社に入って最初の2年間は現場監督として,現場で働いていました。だから,建設現場に出て,実際に工事をしている人たちと打ち合わせをするのは今でも楽しい時間です。作業を進めるスピード感や,いいものをつくろうと頑張っている感覚が合うんですね。
まずは自分で体験することで,説得力が生まれる
普段から,「必要とされる人」に,さらに,「一緒に仕事をしてよかったと言ってもらえるような人」になりたいと思ってきたので,とにかく一所懸命に取り組むことをモットーにして,一緒に仕事をする上司や同僚への敬意や感謝を忘れないようにしています。自分にできることは何かを常に考え,状況を判断して臨機応変に行動することも心がけています。
また,どんなことも自分で動いて,経験することで初めて,ほかの人への説得力や巻き込む力が生まれます。そのため,まず自分で動いてみる,経験してみるということを大切にしています。作業のどんなところが大変なのか,実際に自分でやったことがあれば,人に指示するときにも,ちゃんと伝えることができます。今のプロジェクトでも,外部の人との話し合いを部下や外部の会社に任せきりにせず,最初はまず私が自分で動くなど,「まず自分でやってみる」ことを心がけています。
都市計画の仕事をしたいと建設会社へ
高校生ぐらいのころから古い民家建築や寺社仏閣への興味が湧き,さらにヨーロッパ旅行で目にした中世の街の美しさに惹かれて,大学は建築学科に進みました。街に愛着を持って大切にしている人がいるという文化や歴史を,ヨーロッパ旅行で感じることができました。
学生時代は,将来は都市計画や建築設計に携われたらと思っていました。街や建物といった大きなものづくりで,誰かの役に立ちたかったのです。戸田建設に採用されて,まずは,現場監督を2年経験し,それから設計の仕事を約10年経験したあと,経営の視点から人や事業のマネジメントができるようになれたらと思い,会社の制度を利用して,大学で改めて経営の勉強をしました。その後,管理本部という,会社の経営を考える部署に入り,そこで「不動産事業部」という部署の立ち上げを担当しました。それまでは,建築や土木で別々に存在していた不動産の事業をまとめて,ちゃんとお金を稼ぐための部署として独立させました。しばらくして,その自分で作った不動産事業部に移ることになり,現在,手がけている京橋プロジェクトに携わるようになりました。
小さいころから自分で手を動かすのが好き
小学生のときは特に目立たない子でした。ぜんそくもあって運動はあまりできなかったのですが,勉強だけはがんばって中学受験をしました。受験が終わるまでは遊ぶのを我慢していたので,その経験のおかげで粘り強い性格になったと思います。また,小学生のときから父の日曜大工を手伝っていたためか,ものづくりや,自分で手を動かすことが好きになりました。
実は私が今住んでいる家は,自分で設計しました。自宅のメンテナンスも基本的に何でも自分でやります。ベランダのデッキを直したり,塀を塗り替えたり。家を建てるときは最初から100%を目指すのではなく,8割ぐらいの完成度を目指して,あとは住みながら,100%,120%の空間になるよう,自分でどんどん住みやすくなるような工夫をするのがいいんです。建てて終わりではなくて,その後もどうすればより住みやすくなるかを考えるというのは,今,携わっているプロジェクトでも同じかもしれません。今のプロジェクトでも,建てた後にどう地域を盛り上げていくかが大事になりますから。
いろんな“初めて”に挑戦してみよう
誰にでも“初めて”があります。“初めて”に直面しても食わず嫌いをせずに挑戦して,たとえ小さくても,できたときの喜びを知ってもらいたいです。私も大学に入ったときに弓道を始めてみたり,着物の着付けができるようになったり,新しいことに挑戦することが好きです。
また,どんなことからも学びや気づきは得られます。一見,意味がなさそうな作業をするように言われたとしても,それをやることの意味や目的,工夫の仕方などを自分なりに考えながら取り組むと,思ってもみなかった楽しさが見つかると思います。
建設業界は,きれいな仕事ばかりではないし,暑かったり寒かったり大変ですが,こんなに大きなモノを作ることができる仕事はほかにありません。また,そのビルを建てるために大勢の人やお金を管理して,ものを調達して,順調に進むようにする「プロジェクトマネジメント」の業務については,建設業界が一番,やりがいがあると思います。スーパーマンになりたい人は,ぜひ建設業界を目指してみてください!