※このページに書いてある内容は取材日(2025年09月03日)時点のものです
消費者のみなさんに日々安心して食事をしていただくための、縁の下の力持ち
私は、食品衛生管理に関わるサービスを提供する「BMLフード・サイエンス」という会社で社長を務めています。会社は、東京都新宿区にある本社のほか、全国に5つの事業所と4か所の検査センターがあり、約460名の従業員が働いています。
「食品衛生管理」は、食品の製造や提供を行う施設などで、食品への異物混入や食中毒などの食品事故を防ぐために行うものです。当社は、消費者のみなさんが飲食店で安心して食事をしたり、購入した食品を安全に食べたりするためになくてはならない、縁の下の力持ちのような役割を担っています。
私たちが提供するサービスは、大きく2つに分けられます。1つ目は、食品衛生のコンサルティングです。企業やお店の課題に対して、専門的な知識と技術をもとにアドバイスや支援をします。例えば、飲食チェーンの各店舗やホテルの厨房、食品を作っている工場へ行って衛生状態を点検したり、良好な衛生状態を保つための方法を提案したりします。さまざまな食品に貼る食品表示項目(原材料、栄養成分、アレルギー品目など)の確認や表示案の作成も私たちの仕事です。
2つ目は検査です。食品そのものや食品を取り扱う人が食中毒の原因となる細菌やウイルスを持っていないかを検査し、食中毒事故のリスクを減らします。また、作られた食品がどれくらいの期間にわたって安心して食べられるかを検査し、賞味期限・消費期限を設定するためのデータとしてお客さまにご報告することもあります。
食品事故は、食に関わるあらゆる業態のお客さまにとって大きなリスクになるため、飲食店や食品会社、食事を提供する施設が増えるほど、私たちのニーズも高まります。特に近年はお客さまも順調に増えていて、現在は3,000社以上のお客さまと取引をしています。
従業員みんなが能力を発揮しやすい社風をつくる
私は朝8時ごろに出社し、18時ごろに退社しています。業務のうち、外出する日は約3割、社内で仕事をする日が約7割です。外出時はお客さまのところへあいさつに行くことが多く、その際、日頃のお礼を伝え、お困りごとをヒアリングしたり、よりよい衛生管理の方法について提案をしたりします。また、全国にある事業所や検査センターに行くことも少なくありません。これらの時間は、お客さまや、各事業所と検査センターで働く従業員との信頼関係を築くための大切な機会になります。
社内にいるときは、従業員と会議や打ち合わせをすることが多いです。ありがたいことにお客さまから新規にご相談をいただくことが多いので、お客さまがどんなサービスを求めているのか、そして当社がどのようにサービスを提供するのかなど、みんなで意見を出し合って、必要なことを決めていきます。
私の最も大事な役目は、経営方針の決定と実行です。特に私は、企業理念の浸透と社風づくりを大切にしています。企業理念とは、「私たちはなんのために働くのか」という会社の共通目的です。従業員みんなが企業理念を理解することで、同じ目標に向かって協力し合うことができ、一人一人の力を足した以上の力を発揮することができます。言いかえると1+1=2、ではなく3にも4にもパワーアップできるのです。当社では、「食と商品に関する消費者の安全・安心に貢献し、食品衛生業界で信頼され選ばれるNo.1企業になろう」という目標を掲げています。
加えて、従業員が能力を発揮しやすいように、風通しのよい社風づくりにも力を入れています。当社にはいいアイデアや成果を出したり、お客さまに感謝される仕事をしたりした従業員を表彰する定期イベントや、あいさつ運動があります。これらは私が入社したときにも制度としては既にあったものの、活発には行われていませんでした。私は、せっかくいい制度があるのだから、むしろみんなで楽しみながら本気で取り組んでいこうと、粘り強く工夫をしてきました。今では以前に比べれば、おのおのが意見を発信しやすく、お互いがほめ合う社風がつくられてきたと思っています。
速く、正確で、安定した水準のサービスを求められる
会社として大事にしているこだわりは、スピーディーかつ正確な検査やサービスを常に提供していくことです。場所や人によって変わらないサービスの質を保つことは非常に大変です。例えば、全国に店舗を展開している飲食チェーンを点検する場合、どの店舗に対しても同じ基準で点検しなければなりません。点検のマニュアルやチェックリストを作り、サービス水準を一定に保つようにはしていますが、やはり人の目で点検するため、どうしても細かいところでブレが生じてしまうことがあります。こうした場合は、点検する従業員一人一人への指導、あるいは注意点をタイムリーに情報共有することで、微修正を繰り返しながらサービス水準を確保していきます。
また、従業員の日報、つまり活動記録を読むという仕事もあります。このことで、業務の状況やその人の仕事ぶりが手に取るようにわかります。それに、もし仕事上で悩んでいることや困っていることがあれば、その兆しも伝わってきます。私にとっては適切な判断や仕事ぶりの評価をするための大事な情報源ですが、より働きやすい会社にしていくためのヒントになる点でも重要だと思っています。日報には私からのコメントも書き込むことができますから、社内では「交換日記」のようなものだと説明しています。日報を読んで気づいたこと、注意したいことが見つかったとき、本人への伝え方には気をつかっています。従業員からすると、社長に呼ばれてほめられればうれしいし、注意されたらその日一日、気分が落ち込んでしまうでしょう。そのためほめるときは直接伝え、注意したいことがあるときは、注意したい本人の最も身近な上司に伝えて、上司から間接的に指導してもらうようにしています。
目立たなくとも、確実に社会に貢献できる
食に関わるあらゆる業態のお客さまから頼りにされていると実感できることがやりがいです。お客さまは、提供する料理や食品に異物が混入したり、食中毒が起こってしまったりすると、瞬く間にSNSで拡散されてしまうリスクがあります。ブランドイメージが下がり、消費者がその会社の作る食品を選ばなくなることで業績に大きな悪影響が出ることもあります。そのような食品事故を未然に防ぐために、お客さまは食品安全に真剣に取り組まれています。また、私たちは、食品事故が起きてしまったときの検査や対処方法のアドバイスも行います。お客さまが本当に困っている際に相談を受けてお手伝いできたときには、私たちの仕事の価値を本当に実感することができます。
食品衛生管理をお手伝いする仕事は、消費者のみなさんには見えづらい部分ではありますが、食に関わる多くのお客さまから寄せられるニーズに専門技術でお応えする、とてもやりがいのある仕事だと思います。
長く続く会社になるために、関わるみんなを幸せに
私は経営者として、できる限り会社が長く存続することを目指しています。一時的に大きな利益を出すことを求めるのではなく、ほどほどの利益は出し続けながら、なるべく長く続いていく会社にしたいと考えます。当社は今年(2025年)で創業53年目ですが「目指せ100年企業」を社内のスローガンの一つにしています。
そのために大切にしているのは、常にステークホルダー(利害関係者。会社に関係する人や団体のこと)の幸せを追求していくことです。まずは、従業員とその家族の幸せです。どれだけ利益を上げたとしても、従業員が幸せを感じられなければ、定着することもままならず、いずれ会社も立ち行かなくなります。結局、いくらもうけても、ブラック企業では長く続かないのです。次に、お客さまの幸せ、すなわち社業の発展への貢献です。そして、協力会社の従業員の幸せもあります。例えば、検査の検体を運んでいただく運送業の方たちは当社の事業にとって不可欠な存在です。また株式会社である以上、株主の意向にも応える必要があります。加えて、地域社会での役割も考えなくてはなりません。実際、一中小企業が地域に大きな貢献をすることには限界がありますが、地域の福祉や教育に資することを積み重ねていきたいと思っています。例えば、地元の障害者施設の方々が作ったクッキーを買って社内イベントの賞品にするなど、間接的な貢献も心がけています。会社を長く続けていくためには、このようにステークホルダーの幸せをバランスよく追求していくことが、絶対に不可欠であると考えます。
尊敬する上司に紹介されたから、迷いはなかった
この会社に来る前は金融機関で働いていました。以前そちらでお世話になった上司が当社の親会社で働かれており、子会社である当社への入社についてお声がけをいただきました。尊敬していた方からのお話だったので、不安に思ったり迷ったりすることもなく、入社を決めました。
今までの仕事とはまったく異なる内容であり、また、専門的な技術や知識が必要とされる事業であったため、入社後はコツコツと一から勉強する必要がありました。しかし、私自身食べることが好きで興味を持って学べましたし、当社には優秀で教えることが大好きな従業員が多いため、わからないことを聞くと根拠を示しつつ丁寧に教えてくれました。
社長に就任してからも、人との縁を大事にしています。従業員には、せっかく縁あってこの時代に同じ会社で一緒に働くのだから、のちのち振り返って「この会社でみんなと働けてよかった」と幸せに感じてもらえるように全力で頑張ることが経営者である私の役割だと公言しています。そのために、普段から従業員のいい面を見つけるように努力し、決して人の好き嫌いをつくらないように心がけています。
中学1年生のときの決断
子どものころから、根は素直な性格でした。親や先生の言うこともよく聞く、いわゆる優等生だったのではないでしょうか。今、振り返って印象深い思い出は、中学1年のときの水泳大会です。私は小学生のころからまったく泳げない、いわゆるカナヅチでした。そのため中学生となり、体育の一学期最後の授業が水泳の全員参加の全クラス対抗リレーであると聞き、反射的に「休んでしまおう」という思いが頭をよぎりました。しかし「泳げないことよりもそのことから逃れるために休むことのほうがよっぽど恥ずかしいことではないのか。泳げないなら泳げないまま、リレーに出ればよいのではないか。そして、そのあとで泳げるように努力すればよいのではないか」と思い至り、悩んだ末に出場することにしました。
結果は案の定、泳いでは立ちを繰り返す状態で、私が原因でクラスの順位も最下位になりました。その直後は、自分のみっともない姿が恥ずかしく、リレーで負けてみんなにも申し訳なく、顔から火の出る思いでしたが、一方で、何となく清々しく感じた自分もありました。結局、その夏休みは一人で公営プールに通っては我流での練習に励むことになります。そのかいもあって、ようやく、クロールを覚え、苦手なことの一つをクリアーすることができました。今になって考えると、「ありのままの自分でいいではないか。格好をつけて取り繕うのはやめよう。自分の努力で何とかなることだったら、逃げずに真正面からぶつかってクリアーしよう」という人生観につながる出来事だったように思います。
人を喜ばせることで、「縁と運」を引き寄せる
私は、人生は「縁と運」が大事だと思っています。人生には、自分の努力だけではどうにもならないことや、頑張っても思い通りにならないことがたくさんあります。でも、縁と運があれば、最終的にはそれでもよかったと思える結果につながる気がするのです。しかし、縁と運をつかむための決まった方法はありません。だからこそ、みなさんも縁と運を引き寄せることにつながると思われる行動をとってみてください。
その一つが、「人に喜んでもらうこと」です。自分の好きなことをすることはもちろん大事です。しかし、自分が楽しいことをするのと同様に、周りの人にも喜んでもらうことをするのが、縁と運につながる秘けつのように思います。例えば、身近な例にあいさつがあります。元気よく気持ちのいいあいさつをする人は好感を持たれて、相手も心を開いてくれるのではないでしょうか。あいさつすることが日常化すれば、近所の方やマンションですれ違った人ともあいさつを交わすようになるかもしれません。そこから新しい縁が広がっていくこともあるかもしれません。あいさつに限りませんが、みなさんの一番身近な存在であるご家族や友達を喜ばせるために自分は何をしようか?という視点から行動することを心がけるといいと思います。








