仕事人

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東京都に関連のある仕事人
1989年 生まれ 出身地 愛知県
宇野うの 由希子ゆきこ
子供の頃の夢: 画家
クラブ活動(中学校): 将棋部
仕事内容
文字を作る。
自己紹介
同じことを続けてじっくりやるのが好きなので,お茶とおかたわらに置いて,ずっと文字を作っています。お休みの日も遊びで文字を作ってみたり,文字に関連する本を読んだりしていることが多いです。
出身大学・専門学校

※このページに書いてある内容は取材日(2018年11月07日)時点のものです

画面や印刷物で使われる「フォント」を作る

画面や印刷物で使われる「フォント」を作る

わたしは活字デザイナーの仕事をしています。書体をデザインする仕事で,書体デザイナーともいいます。「書体」とは,ある一定の様式でデザインされた文字のこと。パソコンやスマートフォンで画面に文字をひょうしたり,紙に印刷するときに使う「フォント」を作ったりする仕事というと,わかりやすいかもしれません。仕事の大半は書体のせいさくですが,時々,商品ロゴのデザインや,しょせきの題字デザインのらいを受けることもあります。いずれにしても,「文字をデザインする」ことがわたしの仕事です。
これまでに手がけた書体はみんちょうたいや教科書体,丸ゴシック体など。大学の卒業せいさくでは古筆(平安時代からかまくら時代に書かれた主にの書道作品)を題材にした筆文字けいの書体を作りました。

日本語では9000〜2万3000字ほどの文字をせいさく

日本語では9000〜2万3000字ほどの文字を制作

日本語は,ひらがなとカタカナ,漢字,英数字のじったふくざつな言語です。このため日本語の書体デザインでは,一つの書体につき9000〜2万3000字ほどの文字をせいさくします。和文(日本語)とおうぶん(英数字)ではたんとうが分かれており,和文の中でも漢字と両(ひらがな,カタカナ)でたんとうが分かれていることが多いです。わたしは和文たんとうです。
わたししょぞくしている会社では,漢字は書体ごとにたんとうデザイナーがいます。漢字は数が多いので,1人のメインデザイナーのもと数人でたんとうしたり,外部スタッフに手伝っていただいたりしてせいさくします。
新しい書体を作る場合,最初に,その書体はどういうデザインなのか,とくちょうや太さはどうするのかというコンセプトを立て,試作をします。漢字は「ほん12文字」から作ります。これは会社で決めている文字で,フォントメーカーごとにほん文字やせいさくの流れはことなります。ほん12文字は,たとえば「永」「東」「国」「愛」「酬」「鬱」などで,それぞれ「じゅんとなる文字のこうせいようが多くふくまれる」「画数がきょくたんに多い・少ない」「たてせん/横線がきょくたんに多い」などのとくちょうを持っており,これらの文字の形を定めると,その書体のデザインほうしんがあるてい固められるようなものを選んでいます。
ほん12文字でおおよそのデザインのほうこうせいが定まると,今度は400字にやします。これを会社では「たね」とよんでいます。同時進行での試作も進めているので,種字ができたらいろいろな文章を組んでみたりして,文字のバランスはおかしくないか,どこか一文字だけが大きく見えたり小さく見えたりしていないか,きょくたんに黒く見える文字はないかといったことをチェックしていきます。
種字400字まではメインデザイナーが1人でせいさくすることが多いです。400字の種字ができたら,種字にふくまれる「木へん」「さんずい」などの「へん」や「つくり」などをパーツとして利用しながら,せいさくチームの他のデザイナーや外部スタッフも加わって,一気に漢字をやしていきます。
全部で数千字以上の漢字を作らなくてはならないため,一つの書体が完成するまでには,1年半から2年ぐらいの年月が必要です。一つの書体をせいさくしている間に,別の書体デザインの仕事が入ることもあります。そういうなかでデザインがぶれていかないようにすることが,大変なところです。せいさくメモを小まめに残しておき,ちゅうだん期間があったときにはそれを全部読み返してからさいかいするようにしています。

自分には,だれかのために作ることが向いている

自分には,誰かのために作ることが向いている

子どものころから絵をくのが好きで,絵画の勉強をしようと思ってじゅつ大学を目指していました。絵画では自分の内なるひょうげんが大切だと思いますが,わたし自身は自分の内なるメッセージを伝えたいというタイプではなく,絵画にはあまり向いていないと感じるようになりました。そんななかで出会ったのが「デザイン」でした。「デザイン」にはクライアントやユーザーという相手がいて,ある問題や課題をかいけつするのがしゅです。だれかのため,何かのために作るということだったら楽しくやれるかもしれないし,自分に向いているのではと思い,デザインを勉強するためにじゅつ大学に入りました。
大学に入学すると,まず,数学や英語などもふくめたいっぱん教養のじゅぎょうを受けるのですが,どの分野をいくつ取らなくてはならないとは決まっていなかったので,日本じゅつに関わるじゅぎょうをたくさんしゅうしました。そのなかに書道史のじゅぎょうざっていたんです。書道のけいけんはありませんでしたが,おもしろそうだなと思い,深く考えずにじゅぎょうを取りました。そのじゅぎょうで,先生がの書のはんをたくさん見せてくださったんです。それまでは習字の時間に書く「新しい朝」みたいなものしか見たことがなかったので,の書を初めてちゃんと見て「きれいだな」とすごくきょうを持ちました。
さしじゅつだいがくには,1年次に教育として書体を作るじゅぎょうがあったのですが,そこで古筆の書体を見よう見まねで作ってみました。書道のけいけんがなかったので,いいと思う古筆の作品をひたすらなぞってみることから始めたんですが,それがすごくおもしろくて。もっと上手になりたいと思って,書体デザインに関する本を読んだり,関連するイベントにも参加したりしました。そのうち,書体についていろいろ聞くというざっかくおうしたことをきっかけに,作品をいろいろ見ていただけるようになり,そのまま今の会社にしゅうしょくしました。活字デザイナーはしゅうが少ないので,幸運だったと思います。

人の心を動かす「言葉のやりとり」をささえる仕事

人の心を動かす「言葉のやりとり」を支える仕事

書体のデザインは,一つのことにじっくりと取り組み,かえし同じことをおこなうのが好きな人に向いている仕事だと思います。わたしは子どものころ,絵をいたんですが,まずしたきをしてそれをなぞり,さらにそれを何度もなぞりながら,線をどんどんきれいにしていくことをかえしていました。同じことを続けてじっくりとやるのが好きという意味では,活字デザイナーに向いていたのかもしれません。
書体は,本やパッケージ,広告,ポスター,ウェブサイトなどに使われるものですが,ほんてきに,使われても何かれんらくが来るものではないので,書店や街なかで自分が作った書体が使われているのを見つけると,びっくりしますし,とてもうれしいです。
書体作りにおいて,わたしは自分の好みというより,だれが見ても「きれい」と思えるものを作りたいと思っています。だから,「自分の作った文字を読む人がいる」ということが,自分の力になっていると感じています。
インターネットにしても本にしても,言葉のやりとりには文字が使われます。わたしは「言葉のやりとり」から力をもらった「いい思い出」が多くて,だれにとっても文字がそういうそんざいであればいいなと思うのです。活字デザイナーは,人を力づけ,心を動かすような,そういう言葉のやりとりを手伝う仕事であったらいいなと考えています。

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私のおすすめ本

清川 あさみ/最果 タヒ
この本に私が学生時代に作った書体「こうぜい」が使われました。文字は本来主役ではないので,書体が使われたといって本を紹介するのはおこがましいと思うのですが……。やっぱりとてもうれしいので宝物です。清川あさみさんの美しい絵札とともに,百人一首の和歌と最果タヒさんの素敵な言葉に触れられる本です。
雪 朱里
もし「文字を作る」というお仕事に興味を持ってくださる方がいらっしゃったら,この本をおすすめします。
取材・原稿作成:雪 朱里(取材)/竹内 信平(撮影)