社会にはいろいろな仕事があるよ。気になる仕事や仕事人をたくさん見つけよう!
※このページに書いてある内容は取材日(2014年11月19日)時点のものです
私(わたし)はみなとみらいにある横浜(よこはま)美術館(びじゅつかん)で「学芸員」という仕事をしています。美術館(びじゅつかん)にはさまざまな作品が展示(てんじ)されていますが,その作品を選んだり,お客様に作品の説明をしたり,展覧会(てんらんかい)の内容(ないよう)を考えたりするのが私(わたし)たちの主な仕事です。横浜(よこはま)美術館(びじゅつかん)の所蔵品(しょぞうひん)には,横浜(よこはま)が開港した150年くらい前から現在(げんざい)までの絵や版画(はんが),工芸,写真などの数々(かずかず)の作品があります。どれも貴重(きちょう)な作品で,古く壊(こわ)れやすいものもたくさんあります。それを取(と)り扱(あつか)うためには,美術(びじゅつ)品の専門(せんもん)的な知識(ちしき)が必要になるため,学芸員の資格(しかく)を持っている人がこの仕事を担当(たんとう)します。私(わたし)たちの美術館(びじゅつかん)には10名くらいの学芸員がいて,それぞれの担当(たんとう)があり,仕事を分担(ぶんたん)しています。そして様々さまざまな仕事のなかでも大きな仕事が展覧会(てんらんかい)です。展覧会(てんらんかい)には,美術館(びじゅつかん)の所蔵品(しょぞうひん)から,テーマにあう作品を選んで展示(てんじ)する「コレクション展(てん)」と,日本各地や海外の美術館(びじゅつかん)から作品を借りてきたり,現代(げんだい)の作家さんと協力したりして開催(かいさい)する「企画展(きかくてん)」があります。多くの人に作家や作品について知っていただくために展覧会(てんらんかい)の企画(きかく)を考え,それを実現(じつげん)させるとともに,ずっと先の世代の人たちも,同じように作品を鑑賞かんしょうできるように,大切に守っていくのが,私(わたし)たち学芸員の仕事です。
横浜(よこはま)美術館(びじゅつかん)は10時から18時まで開館しています。私(わたし)たちは朝9時30分に出勤(しゅっきん)して最初に開館の準備(じゅんび)を行います。お客様がいらっしゃる前に,展示室(てんじしつ)で作品に異常(いじょう)がないか確認(かくにん)します。また,美術(びじゅつ)品専用(せんよう)のハタキで作品の周りのほこりを掃除(そうじ)したり,部屋に設置(せっち)されている温湿時計(おんしつどけい)を確認(かくにん)しながら,決められた温度と湿度(しつど)になっているかを毎日確認(かくにん)します。これは作品を守るために,とても大切な仕事なんです。そのあとの仕事は毎日違(ちが)いますが,所蔵品(しょぞうひん)の整理をしたり,作品の解説(かいせつ)を書いたり,デザイナーや上司と相談をしながら展覧会(てんらんかい)のチラシや展示室(てんじしつ)に出す解説(かいせつ)パネルを作ったりします。また,他の美術館(びじゅつかん)から作品の貸出(かしだし)のお願いがあったときにはその対応(たいおう)をします。これから行う展覧会(てんらんかい)の準備(じゅんび)で,作家のアトリエにお邪魔(じゃま)して下書きやスケッチを写真に撮(と)り,展示(てんじ)作品との関係を詳(くわ)しく調べるような調査(ちょうさ)や研究もします。学芸員は美術館(びじゅつかん)の作品に関するいろいろな仕事を行っています。
企画展(きかくてん)があるときには仕事がとても忙(いそが)しくなります。大きな規模(きぼ)の企画展(きかくてん)を作るには,2~3年前から準備(じゅんび)を始めます。はじめは,作品を貸(か)していただくお願いをするために,他の美術館(びじゅつかん)や所蔵者(しょぞうしゃ)に企画(きかく)の内容(ないよう)を説明します。お借りする作品を実際(じっさい)に受け取りに行くのも学芸員の大事な仕事です。大切な作品なので,移動(いどう)させても安全なのか,梱包(こんぽう)はどのようにするかを,その場で確認(かくにん)します。移動(いどう)するトラックの揺(ゆ)れや事故(じこ)も心配なので,一緒(いっしょ)に乗って持ち帰ります。お借りする作品には,作品の所蔵者(しょぞうしゃ)や,作家やそのご家族の思いがつまったものもたくさんあります。壊(こわ)さないように慎重(しんちょう)に行わなければいけないので,とても緊張(きんちょう)する仕事です。いよいよ展示(てんじ)の準備(じゅんび)がはじまると,作品の設置(せっち)のやり方や(設置(せっち))場所を考えたり,展示室(てんじしつ)のどの位置に壁(かべ)を立てるかや,壁(かべ)の色なども決めたりして,図面を書きます。それを工事の担当者(たんとうしゃ)に渡(わた)して会場の工事をお願いします。作品を美しく見せるのはもちろんですが,作品を守るための安全性(せい),人や車椅子(くるまいす)が通る幅(はば)はきちんととってあるかなどを,同時に考えることが必要です。それが終ると,美術(びじゅつ)作品取扱(とりあつか)いの専門(せんもん)のスタッフと協力して,実際(じっさい)に作品を展示(てんじ)していきます。他にも,図録(カタログ)を作る作業があります。展覧会(てんらんかい)の内容(ないよう)の説明や展示(てんじ)作品の写真とその解説(かいせつ)を,すべて一冊(いっさつ)の本にまとめる作業です。作品が多いときには完成まで半年以上の時間がかかりますし,夜遅(おそ)くまで仕事をすることもあります。大変な仕事ですが,企画展(きかくてん)を成功させると,その苦労の大きさ以上の大きな達成感を感じるので,私(わたし)はこの仕事が大好きです。
企画展(きかくてん)では,作品を貸(か)してくれた美術館(びじゅつかん)の学芸員や所蔵者(しょぞうしゃ)の皆(みな)さんと知り合う機会がたくさんあって,美術(びじゅつ)作品について私(わたし)の知らなかったお話しを聞けるなど,とても勉強になります。展覧会(てんらんかい)を実現(じつげん)するためには,美術館(びじゅつかん)のなかの他の部署(ぶしょ)のスタッフや,工事の担当者(たんとうしゃ)やデザイナーなど,いろいろな人と協力することが大切です。展覧会(てんらんかい)の仕事は新鮮(しんせん)なことが多いのでとても楽しいですし,私(わたし)は仲間と協力して作り上げる企画(きかく)展示(てんじ)に取り組むことが大好きです。学芸員になって良かったと感じることのひとつは,様々(さまざま)な作品を実際(じっさい)に見ることができることです。展示(てんじ)作業が進んで,作品をひとつずつ壁(かべ)にかけてライトを照らすと,会場がどんどん形になっていきます。作品の見え方も素敵(すてき)になっていきます。展覧会(てんらんかい)が始まってお客さんが楽しく鑑賞(かんしょう)している様子を見ると幸せな気分になりますね。学校の授業(じゅぎょう)で,横浜(よこはま)市内の小・中学校の皆(みな)さんが横浜(よこはま)美術館(びじゅつかん)に見学に来ることがあります。皆(みな)さんにたくさんの美術作品(びじゅつさくひん)を見てもらって,たくさん質問(しつもん)してもらえたら嬉(うれ)しいですね。
私(わたし)は作品の調査(ちょうさ)や展示(てんじ)作業の時は必ず右の写真のような道具を持ち歩いています。白い手袋(てぶくろ)は実際(じっさい)に作品を触(さわ)るときに使います。手の汚(よご)れや脂(あぶら)がつかないようにするためです。作品の素材(そざい)や状態(じょうたい)によっては,ウエットティッシュで手を清潔(せいけつ)にし,素手(すで)で触(さわ)ることもあります。作品に近づくとき,口にマスクをつけることもあります。次に展覧会(てんらんかい)の準備(じゅんび)で必要になるのですが,展示室(てんじしつ)で会場や作品のサイズを測(はか)るためにメジャーも持っています。長い直線を測(はか)るための固いものと,作品を直接(ちょくせつ)測(はか)るための柔(やわ)らかいものを用意しています。作品の横に貼(は)るための付箋(ふせん)(メモ帳)と鉛筆(えんぴつ)も持ち歩いています。他の学芸員がメモを見て,展示(てんじ)に関する細かい注意や確認(かくにん)をすることができます。その他には,作品に負担(ふたん)を与(あた)えないLEDのライトや,カッターも持ち歩いています。作品はどれも貴重(きちょう)なものばかりですので,その扱(あつか)いにはいつも最大の注意を払(はら)うようにしています。
私(わたし)は子どもの頃(ころ)は,学芸員というお仕事を詳(くわ)しくは知りませんでした。学芸員を目指したのは,いちど大学を卒業したあと,他の仕事をしていた時期です。その頃(ころ),仕事がお休みの日には,よく美術館(びじゅつかん)に行きました。美術館(びじゅつかん)は素敵(すてき)な空間だなと思い,こういう場所を提供(ていきょう)できる仕事をしてみたいなと考えはじめたんです。調べていくと,どうやら学芸員という人がいて,それには資格(しかく)が必要だと知り,美術(びじゅつ)大学で再(ふたた)び勉強をする決断(けつだん)をしたんです。そして,学芸員の資格(しかく)を取ることができて,今の仕事にたどりつくことができました。美術館(びじゅつかん)は,人の感性(かんせい)を磨(みが)く機会を提供(ていきょう)する場だと思っています。展覧会(てんらんかい)を開くだけでは意味がありません。いろんな人が見に来てくれて,それぞれの人がいろんなことを感じて,感想を語りあったり,考えたりすることに意味があると思うんです。そのような人の対話とか人が何かを感じるきっかけづくりみたいなことを,自分が取り組んだ展示(てんじ)の中で大切にしたいなと思っています。自分が担当(たんとう)するイベントの企画(きかく)をするときや,説明の解説文(かいせつぶん)を書くときは心がけています。
子どもの時は,自分から友達に声をかけて,男子とも女子とも走り回っているような,元気な子でした。何をするかきちんと決めてから,行動したいタイプでしたね。得意な科目は,国語と美術(びじゅつ)です。手先が器用なほうでしたので,美術(びじゅつ)には力をいれていました。また,文章を書くのも好きで,解説(かいせつ)を書くのも楽しいですね。色々(いろいろ)な方に分かりやすい文章にするには,国語力は大切ですね。これからももっと勉強していきたいです。
美術館(びじゅつかん)は,普段(ふだん)遊んでいる公園や学校,またデパートなどとは違(ちが)う,特別な時間を過(す)ごせる場所だと思います。作品を見たときに自分が思うことを,自由に感じてほしいなと思います。慣(な)れていないと行きにくいかもしれませんが,気軽に美術館(びじゅつかん)に足を運んでください。また,普段(ふだん)の生活では失敗を恐(おそ)れずにいろんな経験(けいけん)をしてほしいです。私(わたし)は,大学を卒業してからしばらくは他の仕事をしていましたけど,学芸員資格(しかく)を取得しました。資格しかくを取った後,すぐには美術館びじゅつかんで働くことはできませんでしたが,前の仕事や,アルバイト,ボランティアなどの,すべての経験(けいけん)を認(みと)めてもらって,今の仕事に就(つ)くことができたのだと思います。失敗をすると,もちろん落ち込(おちこ)みます。私(わたし)もそうです。でも,それが本当に失敗で終わるのかは自分次第です。ぜひ,いろんなことにチャレンジしてほしいです。