※このページに書いてある内容は取材日(2018年09月26日)時点のものです
データを収集・分析して選手とコーチをサポート
私は,フェンシング男子エペ日本代表のスポーツアナリストです。選手やチームの目標を達成するために,戦略データを収集・分析し,選手とコーチをサポートする仕事です。
スポーツアナリストは,日本では10年ほど前から知られるようになった職業で,サッカー,ラグビー,バレーボール,バスケットボール,バドミントン,水泳など,幅広い競技で活躍しています。プロスポーツや世界大会などトップ選手が集まる現場では,データをもとにして戦略を立てることが重要視されており,スポーツアナリストの果たす役割はとても大きなものになっています。
試合の動画を撮影してデータ化
フェンシングには「フルーレ」「エペ」「サーブル」という3つの種目があり,その中で私は「エペ」を担当しています。剣で相手の体を突く際,ポイントを得られる有効面が種目によって異なります。エペの場合,頭のてっぺんからつま先まで,全身が有効面となっています。
私の仕事は,動画で試合を撮影するところから始まります。試合後,動画をパソコンに取り込み,専用のソフトウェア「スポーツコード」を使ってプレーをデータ化します。具体的には,いつ,誰が,どこで,何をしたのか,それによって得点したのか,それとも失点したのか,プレーの1つ1つに目印となるタグをつけていきます。データ化することで,選手の得意なこと,苦手なこと,試合運びのくせなどのプレースタイルがあぶり出されていくのです。
最初は選手に協力してもらっていた
エペという種目のルールはとてもシンプルです。とはいえ分析すべきデータは豊富で,たとえば攻撃手法だけで17種類もあるのです。データをまとめる際は見逃しなどがないよう注意を払っています。以前は,動画を見てもそれが攻撃なのかフェイントなのかはっきりとわからないときもあり,選手に見てもらって判断するようにしていました。また,特殊な攻撃手法や剣の使い方など,専門的なことは本やネットで調べてもわからず,選手から教わることがたびたびありました。
最近は試合を見慣れたおかげで,スムーズに作業を進められます。慣れないうちは20分の動画にタグづけするのに1時間以上もかかっていましたが,いまでは30分ほどでデータをまとめられるようになりました。
選手にデータを活用してもらうために
スポーツアナリストの仕事はデータを集めて分析するだけではありません。その情報を選手や監督に役立ててもらうために,わかりやすく伝えなければなりません。私自身はフェンシングの経験がないため,選手に情報をわかりやすく伝えるのにとても苦労しました。
選手によっては「気合いと感覚でやるから」と,データを当てにしない人もいます。そうした選手に「かならず役立つから」と,いきなり数字だけ示しても,なかなか聞き入れてもらえません。この選手にはこういうタイミングで伝えたらいいかな,こんなふうに説明すれば興味をもってもらえるかな,といったことを考えつつ,選手と接するようにしています。
いちばんいいのは,選手のほうから「最近勝てないんだけど,こんなデータはないかな?」と声をかけてもらえるようになることですね。データの説明をするときは,選手の頭がデータでいっぱいになってしまう場合があるので,情報過多にならないよう気をつけています。
選手とコーチをつなぐ役目
仕事をするうえでいちばん大切にしているのは,選手やコーチとの関係を大事にすることです。選手やコーチには,それぞれ思っていることを相手にうまく伝えられないケースがあります。そこで私が選手とコーチの間に入り,相談役になることを心がけています。選手がコーチに言えないことを代弁したり,コーチが考えていることを選手にわかりやすく伝えたりして,両者をつなぐことも私の役目だと思っています。
勝利がいちばんうれしい
いちばんやりがいを覚えるのは,私の収集・分析したデータが選手の役に立ったときです。データを参考にした選手が,「こう戦おう」と思った通りにプレーできて,それが勝利につながったときには,私自身,とても大きなやりがいを感じます。過去に対戦して負けてしまった国との対戦前には,とくに念入りに準備を行います。選手と一緒に動画やデータを分析して対策を練り,努力が実って勝利できたときは本当にうれしいものです。
大学の授業がきっかけに
私は大学までクラシックバレエをしていました。バレエの世界は厳しく,ケガをしたダンサーは退団せざるを得ないということがよくあります。大学では環境情報学部という学部で学んでいたのですが,自分のダンサーとしての経験と,大学で学んだデータ分析と解析の知識を生かし,選手の調子を管理して,コーチとの間に立つ仕事ができないかと考えるようになりました。
そんなころ,日本スポーツアナリスト協会理事の千葉洋平さんが「スポーツのデータサイエンス」という授業のゲストで来られて,お話を聞く機会があったのです。そこで初めてスポーツアナリストという仕事を知りました。「これこそ私のやりたかった仕事だ」と思い,授業が終わったあとに千葉さんに気持ちを伝え,フェンシング日本代表のデータ分析を手伝うことになったのです。
学校の授業に真剣に取り組もう
みなさんの中には学校での勉強に対して,「どうして,いまこれをやらないといけないんだろう? これがいったい何の役に立つんだろう?」と思っている人もいるでしょう。でも,しっかり集中して勉強できるのは,学校へ通っている間だけです。どの科目にも無駄な学びはありません。学校の勉強をしっかりすることで,仕事を選択するときに「この仕事には,あの学びが生かせるかも」と判断できるようになるのです。将来の夢が既にある人はもちろん,まだ決まっていない人も,どうか学校の勉強に真剣に取り組んでください。