訳:意志あるところ道はできる
※このページに書いてある内容は取材日(2017年04月12日)時点のものです
経営や経理のサポートをする士業
私は,従業員12名の「o-hama税理士事務所」の所長をしています。そのうち3名が税理士の資格を持って働いています。税理士の仕事は,会社や個人の「税金」に関する相談や書類の作成を行うことです。会社の経営や経理をサポートするためには,会社と顧問契約を結び,顧問先へ毎月訪問しています。そこで,会社の収支(お金の動き)の状況が見える会計資料や税務署への決算報告書の作成を毎年お手伝いしています。会社によって決算期を決めることができるので,各会社の決算月に合わせてサポートしています。決算とは,会社が1年間に一度期間を区切って,お金の動きがどれだけあったかを計算することです。各会社で記録している書類を見て,会計のルールや税金の法律に合っているかどうかを確認していきます。その他にも税金や経営の相談を受けます。個人に対しては,税務署に提出する確定申告書の作成や相続税の相談を受けます。税理士1人で15件~20件ほどの相談に対応しています。
税金の法律が変わるたびに勉強が必要
お客様の相談内容の中には,税金以外の相談も多いです。たとえば,会社の職員が気持ちよく働くことができるように給与の計算,健康保険や年金などの社会保険の手続きについての相談もあるため,一人で解決できないものもあります。お客様のために最善を尽くし,可能な限りみんなで情報を共有しています。また,みなさんが納めている税金は,私たちの「健康で豊かな生活」を実現するために,国や地方の活動の財源になっています。そのため,毎年のように税金の制度の一部分を強化したり制限を軽くしたりなどの見直しがあり,そのたびに対応する必要があります。
みなさんは,どれくらい税金の種類があるか知っていますか。給料や宝くじに当たったなど収入にかかる税,家や車などの財産にかかる税,みなさんがコンビニでお買い物をする時に払う消費税など,なんと50種類ほどもあります。これらの税金の制度は,大きく変わる年もあれば,少しだけ変わる年があります。大きく変わった年といえば,2014年に消費税が8%になりましたね。その時は,税の計算をするコンピューターのシステムを変えたので大変でした。それを怠るとお客様が税務署に申告する書類が正確なものではなくなり,ご迷惑をかけてしまします。また,税金の法律が変わるとお客様の「税」に関する相談が増えるので,常に勉強しなければいけません。これから2,3年後には,消費税が10%になる話もありますから,これからも勉強が必要です。
将来をイメージしていなかった子ども時代
私が子どもの頃は,おとなしくて周りへ自分の思っていることを伝えることが苦手でした。周りの大人から「将来の夢は何?」と聞かれたら「パイロット」と答えていました。その頃,友だちの中で人気のあった職業は,医者やスポーツ選手でした。中でもパイロットは,周りの友だちの中でも“なりたい職業ベスト3”に入っていた職業でした。テレビドラマなどの影響もあって,当時はもっとも輝いて多くの子どもたちの憧れの仕事でしたよ。でも,本気でなりたかった訳ではなく,なんとなく答えていたというのが正直なところです。今考えると,目にしやすい職業や,子どもにとって憧れるような職業を言っていたので,周りからの影響を受けやすい子どもでしたね。それは将来を意識したことがあまりなく,自分が大人になるとか,自分自身が「働く」というイメージが分からなかったからだと思います。
このままじゃダメなんだ!
大学は経営学科を選びました。父親が会社を経営していたこともあり,自分自身が頑張った分だけ仕事の成果や会社の成長を感じられる経営の仕事に興味があったからです。
経営学科に入ったけど,それでもしっかりと将来のことを考えられませんでした。なんとなく「父親の会社を継ぐのかな」としか思っていなかったので,「今を楽しんでおこう!」と遊んでばかりで,大学にあまり行っていませんでしたね。
そんなある日のこと,父親の会社が倒産してしまったのです。「いつか考えれば大丈夫」「その時が来てから真剣になっても間に合う!」そう考えて先延ばしにしてきた“時”が,突然目の前に現れました。
「このまま先のことを考えずに遊んでばかりいてはいけない」と思い,大学2年のときに真剣に将来のことを考えましたよ。その時に「税理士」という仕事があることを知り,税理士の資格を取るために大学受験の時の勉強よりも必死で勉強しましたね。この職業に興味を持った理由は2つあります。1つ目は,大学で学んでいることが活かせる“経営”をサポートする仕事であること。2つ目は,「資格」という武器を持っていたほうがいいと思ったからです。そう考えたのは,父親のことが大きく影響していると思います。
やっぱり“経営”をしてみたい!
大学卒業後,真剣に税理士の資格試験に受かりたいと思い,自分自身を奮い立たせるためにも東京でバイトをしながら,寝る間も惜しんで勉強しましたね。真剣に取り組んだかいもあり,東京に行った翌年には試験に受かることができました。合格した時は,心底嬉しかったです。
資格を取った後は,東京や那覇の会計事務所に就職し,税理士の仕事の経験を積みました。経験を積み重ねるごとに,自分自身が経営することに思いがつのり,独立する決心をしました。もちろん,父親の倒産があったので,父の苦労する姿を見て家族の不安な気持ちも経験してきたので,独立することに怖さはありました。でも,その辛い経験をきっかけに税理士の資格を持つことができたことと,そのとき働いていた那覇の会計事務所から,私が受け持っていた顧客を「君が独立するなら譲っていいよ」と言ってくれたので,覚悟を決めて独立をスタートすることができました。はじめはスタッフもいない状況から一人で仕事をする状況でしたね。
お客様との信頼関係が大切
独立後はわずか3件のお客様から始めましたが,お客様を増やすためには,信頼されることが必要でした。たくさんの人と会うことができる青年会議所や商工会議所などに参加してネットワークを広げ,医療関係の相談を得意としていたので,新しく開業する病院を新聞広告などから情報収集しましたね。まずは自分自身を知ってもらい,信用していただいたうえで,税理士としてサポートできることを伝えていきました。地道な活動を通して,少しずつではありますが,お客様が増えていきました。
お客様との信頼関係を築くうえで私が大切にしていたことは,必ず本人と会うようにしていたことです。これは今でも仕事をするうえでとても大切にしています。お客様がどのようなことをしてほしいと考えているのかを知るためには,やっぱり直接会ってお客様の表情を見ながら話すことが必要だと思います。また,お金の動きをチェックするとき,少しの間違いも許されません。ミスが起きてしまうとお客様にとっては経営の痛手になることもあり,お互いの信頼関係もなくなってしまいます。だからこそ,慣れている仕事であっても凡事徹底を心がけ,お客様との信頼関係を大切にしています。
いろいろな人生に関わることができる仕事
税理士の仕事は,個人や会社などいろいろな人と会う機会が多く,また,それぞれのお金の動きなども見ることができるので,その部分からお客様の人生に関わることができる仕事だと思います。私がこれまで関わってきたお客様の中には経理が全くできず,私が手伝ったことがあります。そのお客様は今では地域に信頼され,店舗も増えて何十億もの売り上げを出すまでになりました。このように会社の成長の歴史を間近で見られるのは嬉しいですね。反対にこれまで関わってきた会社の中には,潰れてしまう会社もありました。順調に成長していく会社もあれば,思った通りの未来をつかむことができなかった経営者もいます。
税理士のやりがいは,なんといっても会社の経営者の「これから会社をこんな未来にしたい!」という夢を聞くことができ,その夢を叶えるために寄り添ってお手伝いができることです。関わっている会社が成長していくのを一緒に体験できることは,私自身の成長でもあり喜びでもあります。
体験することも大事!
私もそうでしたが,自分がやりたいことや夢を探すのはなかなか難しいと思います。本や文字で学ぶ知識だけでなく,いろいろなことに興味や関心を持って,自分で実際に触ったり,体験したりすることが大切だと思います。勉強をする,友達と遊ぶ,親の手伝いなど日常生活を送る中で “したいこと”“するべきこと”の中から疑問を持ったり,体験したりすることで自分がやりたいことが見つかると思います。みなさんは,まだやりたいことが決めきれない状況かもしれませんが,いずれは自分の将来を決める時が必ずやってきます。その時に,今まで体験してきたことが,将来を決める選択肢の一つになるかもしれません。何が将来に結びつくかは,誰にも分からないので選択肢を増やしておくのはいいと思いますね。そうやって,いっぱい将来のことで悩んでいる中で,必ず自分の進む道が見つかりますよ。