花を仕入れ,お客さまに売るための準備をする
私は東京都足立区で「ベル・フローラ」という花屋さんを夫と一緒に経営しています。私は生花やフラワーアレンジメントなどを担当しています。
生花の仕入れがある日は,まず朝一番に市場に花を仕入れに行くところから仕事が始まります。都内にも何か所か生花の市場はあるのですが,私が通っているのは東京都中央卸売市場の一つである北足立市場です。市場に行く日は朝5時ごろに起き,6時すぎに自宅を出発。7時に市場がオープンするので,その時間に合わせる形です。市場に着いたら,生産者さんからどんな花が出荷されているかを,セリに出される前にチェックしていきます。仲卸業者さんから買うこともありますし,自分でセリに参加し,鮮度を直接自分の目でチェックして買うこともあります。
100本から200本単位で花を仕入れ,お店に戻ってくるのは大体10時ごろ。仕入れがある日は11時にお店を開けるので,開店前までに花を商品として売るための準備をしていきます。無駄な葉っぱを取ったり,バラのトゲを取ったり,長持ちさせるための「水揚げ」という作業があります。水揚げは花の種類により,必要な作業が違い,例えば花によっては茎を熱湯やミョウバン液に漬ける必要があったり,ハサミではなく叩いたり,手で茎を折ったりするものがあります。花は生産者さんが出荷するときは,全部開ききった状態ではないんです。仕入れてきてから,こういった下処理をすることできれいに花が開き,お客さまに販売できる状態になります。とても大切な作業です。
注文品を作ったり,レッスンを行ったりすることも
仕入れは通常だと月曜日と金曜日,忙しい時期には月・水・金の週3回,行います。仕入れがない日は,9時ごろお店に着き,準備をして,10時に開店します。店では,花を買いに来られた方への対応はもちろん,注文された花束やリースなどを作る作業をしています。
基本的にはオーナーである夫と2人でお店を回しており,切り花とアレンジメントは私の担当,夫はお店のウェブページの作成やインターネットでの問い合わせへの対応,観葉植物や蘭などの「鉢物」の植物の仕入れ・販売や,お客さまへの配達を担当しています。また,お店では私が講師を務めるフラワーアレンジメントとプリザーブドフラワーのレッスンを水・木・日に開催しています。月替りで作る題材を決め,1〜4人の生徒さんとお店で作っていきます。来られる方に楽しんでもらえるよう,どんなものを次のレッスンのテーマにするか,季節に合わせた題材を考えていくのも仕事の一つです。
他にも,レストランなどで手作りの結婚式を挙げられる方が最近は増えてきているので,そういった方々からブーケや会場装飾などの注文が入ることがあります。お客さまのイメージやリクエストをお聞きし,当日着られるドレスのデザインや花嫁さんの雰囲気などに合わせながら,ブーケのデザインやプランを考えていきます。
水を扱う仕事なので,冬場は辛いことも
水を扱う仕事なので,やはり冬場の水の冷たさは厳しいです。冬は空気が乾燥するので手荒れもひどくなる時期ですが,私たちはハンドクリームを使うことができません。ハンドクリームを塗ってしまうと,花束のラッピングに使う透明セロファンに汚れがついてしまうからなんです。だから冬場はどんなに手荒れが辛くても,ケアできるのは夜,自宅に帰って寝る前だけ。ハンドクリームを塗って,綿の手袋をして寝るようにしています。
仕入れた状態の花はボリュームがあるので,持ち運ぶのはとても大変です。また,毎日,陳列されている花の水を替えたり,水の入った状態のものを入れ替えたりするので,かなりの重さのものを持ち運ぶことになります。花に囲まれて華やかな仕事に見えるかもしれませんが,実は結構,重労働なんです。
生花店は,年間を通して需要がある仕事です。1月は成人式の髪飾り,3月は卒業式,4月は入学式。5月は母の日,6月は結婚式が多くなります。7月,8月はお盆,9月はお彼岸があるので,仏花の需要が高まりますね。12月になるとお正月の準備でまた忙しくなります。一番忙しいのは3月と12月で,この時期は休みがなかなか取れないことも多いですね。
お客さまに喜んでもらえるのが何よりの原動力
一番やりがいを感じるのは,お客さまに喜んでもらえたときです。自分が作ったアレンジメントや,おすすめした花がお客さまに喜んでもらえた,その瞬間はとてもうれしいですね。アレンジメントはお客さまの予算とイメージを聞いて花を選んでいき,最後にラッピングを選んで完成するんですが,「できました」と言ったときのお客さまの喜びの笑顔,これがやはり日々の「がんばろう」という気持ちにつながっているような気がします。受け取っていただける方にも喜んでいただきたいですし,でき上がったものに満足してうれしそうな表情をしていただけると,私もうれしいです。
また,結婚式の装飾とブーケを担当したときには,結婚式当日の写真を後日持ってきてくれるお客さまもいます。「よかったです」と言ってもらえると,その一言がもう本当にうれしいですね。
花屋さんは「心に残るもの」に関われる仕事
花というのは,人と人とが気持ちを伝えられるものだと思うんです。人にプレゼントする花には,「喜んでもらいたい」という気持ちがこもっていますよね。だから,どんな花を贈れば,贈られた方に喜んでいただけるのか。それをお客さまの言葉の中からなるべく引き出せるよう,いつも心がけています。中には,「どんな花束を作ったらいいかよくわからないからおまかせで」というお客さまもいます。男性に多いのですが,そういうときは贈る相手の雰囲気や好みなどを聞いていき,コミュニケーションをとりながらアレンジメントを作るようにしています。そうすると,最初は「おまかせ」と言っていた方が,最後には真剣にラッピングの色を選んでいる,なんていうこともよくあるんです。贈られる方の笑顔を想像すると,こちらもうれしくなりますね。
お客さまによく言われるんですが,花は「ずっと心に残るもの」なんですね。例えばプロポーズされたときに渡された花束が一生忘れられないとか,二十歳の誕生日のときに両親からこういう花束をもらったとか……。そんな,心に残り続けるものに関わる仕事だからこそ,一つ一つの作業を大切にしていきたいと思っています。
生花店で生まれ育ち,自分の店を持ちたいと思うように
もともと,母親が生花店を経営していたんです。それで,幼いころから花に囲まれた生活をしてきましたし,自然と花に関する知識も身につきました。実家が生花店だと,忙しい時期には手伝うことが当たり前ですし,例えば花が欠けてしまって売り物にならないものなどは自宅に飾ったりもしていたので,生活の中に常に花があるのが当たり前だったんです。そんな生活の中,働く母を見ながら,自然と「私だったらこんなお店にしたいな」という気持ちが湧いてきたんです。いつか自分の店を持ちたい,そんな気持ちが高まり,高校卒業後は生花店に就職を決めました。
就職した店は店舗での販売もありましたが,赤坂や銀座の飲食店に飾る花を扱うのがメインの業務でした。切り花などを積んで車でお店に行き,開店前にお店の中を飾り付けるという仕事です。たくさんのお客さまに見られますし,装飾にも華やかさが必要だったので,そこで働いていた経験はとても勉強になりました。
その後,結婚,出産を機にその生花店は退職したのですが,子育てが一段落をしたとき「自分はこれから何をしていこうか」と考え,「自分のお店を持ちたい」という昔からの夢に思い至りました。ブランクもあったので,再度,花の勉強などをしながら,夫と一緒に6年前に今のお店をオープンしました。
毎朝,教室に飾っていた一輪の花が原体験
中学校のときには電車通学をしていましたが,ラッシュの時間帯を避けて早めに学校に向かうと,朝一番に教室に着くことが多かったんです。でも,教室がなんだか寂しく感じられることがあって。私は家に花があるのが当たり前の生活だったので,やっぱり花が一輪あったほうがいいなと思ったんです。それで,家から花を持っていって,先生の机の上に花を一輪,飾るというのを卒業まで,毎日続けたんです。なんとなく始めたんですが,そうすると先生も喜んでくれるんですよね。花で人に喜んでもらえるという原体験は,そこにあるような気もします。
学校では,美術の授業はとても好きでした。高校のとき,美術の先生は「色使いがいい」など,私のことをいろいろ褒めてくれることが多くて。あのときに自分のことを認めてくれる,褒めてくれる先生がいたということはとても大きかったと思います。また,美術の授業で学んだ色彩の合わせ方や,色使いを褒められたことが,今の仕事にも大きく影響していると思います。
あきらめず,どんなことにもチャレンジしてほしい
私は自分のお店を開きたいという夢を子どものころから持ち,それを実際に実現できました。やはり「継続は力なり」で,一つのものごとを続けていくことは大きな力になります。また,どんなことでもチャレンジして,一歩前に進む力を持つことも大事です。みなさんも,好きなことがあったら,あきらめずに,どんどんチャレンジしてください。
また,どんなことでも“楽しむこと”を大切にしてほしいです。私も今,仕事をしていて,もちろん辛いこと,大変なことはあります。でもやっぱりお客さまに合わせてアレンジメントを作ったり,お話をしたりするのがとても楽しいんですね。好きなことを仕事にできたからこそ,楽しむことができているのかもしれません。ぜひ自分の好きなこと,楽しめることを見つけてほしいと思います。