病院と介護施設の清掃では気をつけるべきことがたくさん
私たちの仕事は、清掃業、わかりやすく言うと「さまざまな場所を掃除すること」です。一言で清掃業といっても、会社によって清掃する場所は違っていて、私たちは、病院と介護施設の清掃をしています。
「その場所をきれいにする」という意味ではどの清掃業者も同じですが、病院や介護施設は、他の場所と大きく違うところがあります。例えば、病院は「病気やけがを治療中の方がいる場所」ですし、介護施設は「高齢の方が生活をしている場所」です。どちらも、感染症や少しのけがが深刻な状況へとつながる人が多くいらっしゃいます。そのため、他の場所を清掃するのに比べて、注意しなくてはいけないことが増えてきます。例えば、感染症への対策もその一つ。私たち自身が入院・入居している人たちにうつさないことはもちろんですが、入院している人の中には、すでに感染症にかかってしまっている方もいますので、その部屋の清掃をするときには、私たちが移動することで施設に感染を広げてしまうことがないように、部屋ごとに道具を変える、ゴミや汚れたものの処分に気をつける、手洗いをしっかりするなど、さまざまな部分に気を配っています。
「人がいる状態で清掃する」というのが最大の特徴
感染症の他にも気を付けることはあります。清掃に使った水がこぼれていたら、高齢の方が滑って転び、骨折をしてしまうかもしれません。また、それをきっかけに寝たきりになってしまうかもしれません。その場所で生活される方の健康や安全を守るためにも、いろいろと気をつけなければいけないことが多い仕事です。
また、商業ビルやマンションなどの清掃を担当する業者の場合、その施設を訪れる人がいない夜間や休業日時間帯に清掃することが多いですが、私たちが担当している介護や病院施設では、「その場所で入院している、生活している」方々の目の前で清掃する、というのも特徴です。そのため、きちんとノックをして部屋に入る、入院・入居されている方に挨拶をするといったマナーも心がけています。また、研修ではベッドに寝ている方からどう見えるか、入院・入居されている方のストレスにならないように清掃するときに気をつけることも学びます。そのため、この仕事は、掃除や片付けが好きなのはもちろんですが、アドバイスされたことをきちんと守れる「素直な人」、そして「人に喜ばれることをするのが好きな人」に向いている仕事だと思います。
診察に使う場所は開始前に清掃、その後に患者さんのお部屋へ
勤務時間は担当する場所によって違います。病院からは「診察室は診療が始まる前に掃除をして欲しい」と頼まれる事が多いので、朝の7時くらいから病院に入って清掃をします。診察室や処置室、待合室やロビーなどが終わると、今度は患者さんが入院している部屋を、1部屋ずつ清掃していきます。入院設備のある大きな病院の場合、途中に休憩をはさみ、終了は15時くらい、入院設備がない小さな病院の場合はもっと短時間で清掃が終わります。 清掃を担当するスタッフは自宅から直接清掃の現場に向かい、そこから帰宅するという働き方になります。本社に勤務するスタッフもいて、新しく入った方への研修などを担当します。私自身は、会社経営者でもあるので、会社の経営面をチェックしたり、スタッフが働きやすい環境を考えたり、スタッフの声を聞いたりと業務は多岐にわたります。
表には出ないけれど、医療や介護の現場を支える大切な仕事
新型コロナウイルスが流行したことで、病院や介護施設での感染対策には、これまで以上に気をつける必要が出てきました。ただ、これまでも、感染症の予防や、手洗いに関する研修は徹底して行ってきたので、結果として、私たち自身の身を守ることにもつながりました。
もちろん、病院や介護施設という場所で働く以上、病気になる可能性は高まります。実際、働いているスタッフの中にも、家族から「病院で勤務するのは危ないのでは」と言われた人もいたようです。しかし、そのスタッフは「病院で医師や看護師の方が一生懸命働いている中、ここを離れるわけにはいかない」と、勤務を続けてくれました。
病気を治療するのは医師ですし、そのサポートをするのは看護師ですが、私たちは清掃を通して彼らが安心、快適に働くことができる環境を整え、支える仕事です。表に立つ、目立つような仕事ではないかもしれませんが、人々を支える大切な仕事をしているという責任感は感じています。それだけに、患者さんや入居者さんから「ありがとう」とお礼の言葉をいただいたときの喜びも大きいです。
大変な現場でも「笑顔で働く」ことを心がける
私たちの会社では、「ABCD+E の行動指針」というものを掲げています。「A=あたりまえのことを」「B=バカにしないで」「C=ちゃんと」「D=できる」、それにプラスして「E=笑顔で」。この「笑顔」というのがとても重要だと思います。とくに私たちは病気やけがの治療をしていたり、高齢で体が思うように動かなかったりと、さまざまな状況にある人たちと接する仕事ですから、みなさんと気持ちよく接することができるよう、「笑顔でいること」を心がけるようスタッフには伝えています。 また、「嫌な仕事ほど笑顔でやろう」というのも心がけています。医療や介護現場では、清掃が大変な現場も多いです。例えば認知症を患う方の中には、自分の排泄物を触ってしまったり、部屋を汚してしまったりする方もいます。私も実際にそうした部屋の清掃を担当したことがありますが、臭いや汚れもひどく、体力的にも精神的にもとても大変です。しかし、そんな状況でも笑顔を絶やさず、一生懸命清掃を担当してくれるスタッフたちには、本当に頭が下がります。
夫の急死から会社を引き継ぐことに
この会社は、私の亡き夫が立ち上げました。夫が急死したことで、私が経営者を引き継ぐことになりました。 私自身は、栄養士の学校を出たあと、病院で栄養士として働いていました。しかし、病院での勤務ですから「死を目の当たりにする」ことは避けられません。若かったこともあり、それがつらくなった私は退職しました。その後、母の友人が務めている証券会社に転職し、経理部に配属されましたが何か違うと思い、2年で退職。今度はダイビング仲間の友人に誘われ、シーツや制服など、医療関係のリネン類のリースを取り扱う会社に転職しました。そこでは営業部に配属され、その後、資材部創設に伴い移動し、会社で扱う品物の仕入れの仕事をしていました。その会社で同僚だった夫と結婚し、子育てをしながら勤務を続けていました。 1990年に夫はこの会社を立ち上げて独立、しばらく私は元の会社に勤めていましたが、会社も少しずつ大きくなってきたので、3年ほどあとに経理として夫の会社に入社し、手伝うことになりました。 夫が亡くなったのは2003年のこと。この先どうするか途方に暮れましたが、夫が作ったこの会社には、働いてくれているスタッフがたくさんいる。その人たちを守らなくてはいけない……その一心で経営を引き継ぐことにしました。
人と接すること、喜ばせることが好きな子どもでした
小さいころは、自分で言うのもおかしいかもしれませんが「しっかりした」子どもだったと思います。両親が会社を経営していたのですが、会社は板橋区の大山に、自宅は埼玉県の朝霞市と、かなり離れた場所にありました。そのため私は大山の小学校に通うことに。朝は両親と一緒に車で移動し、会社の近くにある小学校に通い、学校が終わったら6駅先にある保育園に通っていた弟を小学生だった私が電車に乗って迎えに行く。そして両親の仕事が終わったら両親と弟と一緒に帰る……という生活でした。 そんな毎日でしたが、学校では友達も多く、小学生のころには友達が電車に乗って、私の家まで遊びに来たこともありました。とても楽しかったのを今でも覚えています。人と接することが好きなこと、周りの人を楽しませることが好きだという点は今も変わっていないですし、仕事をする上でも役に立っているのではと思います。
全力で向き合えば、どんなことも無駄にはならない
私がみなさんに伝えたいことは「どんなことでも無駄にはならない」ということです。ただ、無駄にしないためには、自分で選んだことにちゃんと全力で向かうということが重要なのではないでしょうか。
もしも「学校に行きたくない」と思う子がいるなら、それは自分で決めた"選択"です。でも逆に「学校に行く」と決めたなら、それもまた自分で決めた"選択"なのだと思います。勉強でもいい、部活でもいい、友達との関係でもいい。自分で「やる」と決めたことを全力でやったなら、その経験は必ず無駄にならないはずです。仕事に関しても同じで「これをやりたい」と思ったなら、それに向かって全力で進んでみてください。たとえ最初に思った職業に就くことはできなくても、あなたがやりたいと思った本質の部分は、どんな仕事にもつながってくるものだと思います。