訳:沖縄の方言。稲穂の実が重くなるほど頭を垂れるように,人も経験や富を得るほどに謙虚でありなさいという意味。
※このページに書いてある内容は取材日(2017年06月12日)時点のものです
「沖縄の文化」を発信する
私が働いている「ゆいまーる沖縄株式会社」という会社は,沖縄で企画・生産されたモノを作り手の職人さんから仕入れて,ホテルやお土産屋さん,飲食店に販売しています。それから,私たちが運営しているお店「ゆいまーる沖縄 本店<Storage & Lab.>」やWEBでも個人のお客さま向けに販売しています。
毎日の生活を少し楽しく,豊かにしてくれる「沖縄の宝物」を見つけて,より多くの人へ伝えていくのが私たちのお仕事です。
アイテムは,琉球ガラス,沖縄の方言で「やちむん」と呼ばれる陶器,シーサー,琉球藍染を使った小物,その他の染織物,かりゆしウェアや沖縄の出版社が出している本や雑誌があります。そういった昔から愛され続けてきたアイテムだけでなく,例えばマンゴーのお酒や島豆腐のチップスといった,まだ広く知られていない沖縄の良いモノを発見して紹介しています。他にも,錫という金属を使う錫細工などの工芸も古くから受け継がれてきました。そういった沖縄の人にもまだあまり知られていない文化を伝えるトークイベントや,また実際にモノづくりをしてみたいというお客さまのために,作り手が直々に教えてくれる体験イベントも開催しています。
人と人,人とモノを結ぶお仕事
私たちのお店では,来店したお客さまには「いらっしゃいませ」の代わりに「こんにちは」という挨拶でお出迎えしています。単にモノを売るお店というよりも自分や友達の家に遊びに来ている,そんなふうに気軽に来てくれる場所にしたいと思っているからなんですよ。お店の中には沖縄に関係する本や雑誌が読めるライブラリースペースもあって,お客さまがゆっくりくつろいでくれています。
お店にある一つひとつのモノには沖縄が世界に誇る歴史や技術がつまっています。例えば,「やちむん」に描かれている魚の模様は子孫繁栄を願う意味が込められていたり,壷の模様を下描きなしで勢いよく指で直接描かれていたりします。ときには作り手の人となりや作品作りの思いも,お客さまへ伝えています。作り手とお客さまが直接お会いできることは少ないですから,私たちがその気持ちを少しでも代弁できればと思っています。店名の「ゆいまーる」というのは沖縄の方言で,人と人が助けあう心を表す言葉です。「ゆい」には結ぶという意味があります。このお店で出会った本やモノから,また私たちやお客さま同士の出会いからさまざまなつながりが生まれ,お店で結ばれて,モノに愛着を持ち大切に受け継いでいきたい,もっと沖縄の文化を知りたいと思ってくれたら嬉しいですね。
伝え方次第で相手の気持ちが変えられる!
小さい頃から沖縄の文化や工芸品に魅力を感じていたかといえば,そうではありませんでした。中学生くらいまでは,母が経営していたさしみ屋さんを継ぐんだろうなとぼんやり思っていましたね。ちなみに,沖縄では魚を切り身にして販売するお店のことをさしみ屋さんと呼ぶんですよ。
学校の勉強は嫌いではなかったのですが,授業は退屈だなと感じることがありました。高校2年生になって,受験勉強のために予備校に通うことになり,そのときの先生の教え方が,今まで受けてきた授業とは全く違い,衝撃をうけたんです。単に英単語と日本語の訳だけではなくて,その単語が生まれたアメリカの文化背景と関連付けて教えてくれたことで,学ぶことがすごく楽しくなりましたし,もっと学びたい!という気持ちにさせてくれました。その先生と出会ったことで,私もこんなふうに楽しく勉強を教えられる先生になりたい!と思い,学校の先生になることを目指しました。今,振り返れば,このときから何かを「伝える」ということに興味を持ったのかもしれませんね。伝える内容は同じでも,伝え方次第で受け取る人の気持ちを変えられることに気づけたのは,今の仕事にも生かされています。
「伝えること」に悩んだ
大学進学後,教員免許を取得して,念願だった高校の先生になりました。授業ではさまざまな工夫を重ねて,生徒も楽しんで勉強してくれましたし,私自身も楽しかったです。
ただ,学校の先生の仕事って勉強を教えるだけではないんですよね。みなさんも先生に悩みや,卒業後の進路を相談することがありませんか。私も生徒からそんな相談を受けて,周りにはこんな仕事があるんだよ,その仕事に就くためにはこんな勉強や資格が必要だよ,とアドバイスをすることがありました。でも,その情報は,本やTVから得た知識でした。私の生きた経験ではなく人づての情報だけでは,生徒は納得できないし,生徒のこれからの人生に大きく関わるアドバイスがこれでいいのかなと疑問に感じたんです。
それに気づいたときに,学校の先生を続けるのではなく,社会経験も積みながら,自分が生まれ育った沖縄のことをしっかり学び,今活躍している人たちにも触れ合える,そしてその魅力を子どもや大人たちに伝えていける人になりたいと思い,それができる仕事は何だろうと探しました。現在の会社のは,私がやりたいこととぴったりなんです。就職するときは,会社のことを調べたり,新聞に載っていた記事を読んだりして,じっくり考えてこの仕事を始めました。
沖縄の文化を未来に受け継ぐ
私が生まれ育ったところは,沖縄本島北部の今帰仁という小さな村でした。そこは地域の伝統的な豊年祭といったお祭りが今でも続いています。お祭りのときには地域の住民が全員関わり,私も踊り子として参加しましたが,当時は身近すぎて,村に代々伝わってきた祭具や伝統文化の魅力に気づきませんでした。
また,今帰仁村は昔は芭蕉布とよばれる織物の産地で有名でしたが,今ではその技術を受け継ぐ人がいなくなり,文化が途絶えてしまいました。そのことを知ったのも今の仕事を始めてからでした。文化が途絶えるということは,作り手の働く場所もなくなるだけでなく,私たちの生活の彩りが失われてしまうことだと思います。
この仕事では,丁寧に作られた沖縄の素敵なモノに日々触れることができます。それに「沖縄の魅力を伝えたい」という共通の思いを持ったたくさんの人と出会い,新しい仕事を生み出せることがとても楽しいです。沖縄が昔から大切にしてきたモノや,地域や島独特の文化を受け継ぎ,目に見えない文化や思いを伝え,語り合い,これからも広げていくことが私の仕事だと思っています。
一つの商品を作りあげるということ
沖縄の文化を後世に伝えていくためにも,今ある工芸品をアレンジして新しい魅力を発信しています。手仕事で一つひとつオリジナルの商品を作ることもしています。
「aimun」という,琉球藍(沖縄で育てられた藍という植物)の染料を使い,沖縄の民家の塀によく使われている花ブロックをモチーフにした模様を染めたバッグやストールがあります。このブランドは約1年の期間をかけて,作り手さん,デザイナーさん,カメラマンさんと何度も何度も話し合いを重ね,試作品もたくさん作って,商品を生み出しました。例えばバッグを作るときには,現代の生活にもマッチするようにスマートフォンやノートパソコンを入れやすい大きさにしようかとか,洋服に合わせやすいデザインはどちらだろうとか,みんなでアイディアや意見を出し合いました。ふつう,藍染はグラデーションを生かした商品が多いのですが,このブランドでは「抜染」という,模様をはっきりさせる技法を使っています。難しい技法なんですが,デザインを生かせるのはこれしかない!とみんなで決めました。博物館や美術館で飾られる「見る」工芸品ではなく,「使う」工芸品として,そして年代や性別を問わず,お客さまに長く愛される商品にするために作りあげていきました。試行錯誤しながら完成し,お客さまにお披露目できるときはとても嬉しかったです。
モノづくりを支えるために
私たちの使命は沖縄の文化を伝えることです。お客さまを喜ばせるだけでなく,作り手が心を込めて作った作品を商品としてしっかり売って,作り手にお金が行きわたるようにしないといけません。商品がたくさん売れますと,作り手は安定した生活ができます。作品を作り続けることができ,もっと新しい作品を作りたいという気持ちにもつながるんですよ。
商品を単純にお店に置いておくだけでは売れません。例えば,実際に使っている様子がイメージしやすいようにお皿に料理を盛った写真をプロのカメラマンに撮ってもらったりするなど,その商品の魅力が最大限に伝わるような工夫も常に心がけています。それから,県外へ発送をしたときに包装が壊れてしまわないか,お皿は積み重ねて収納しやすいか,といった細かいポイントも大切なことです。
売り上げを考えるときには計算式や数字がたくさんでてきます。実は私は算数や数学がとても苦手で,会社に入ったばかりの頃は売り上げのことを考えるのがイヤだったんです。でも,続けていくうちに仕組みが分かり,沖縄の文化を伝えることにつながる大切なことだと気づいて,投げ出さないで頑張っています。今でも苦戦することがありますが,そんなときは先輩や同僚,会社を通して知り合った多くに人たちに助けてもらいながら取り組んでいます。
何になりたいかではなく何がしたいか
みなさんはよく「何の仕事に就きたいの?」「何になりたいの?」って聞かれると思います。そんなとき,例えばお医者さんになる,と答えている人がいるとします。では,お医者さんになって何をしたいでしょうか。例えば,病気になる前に防ぎたいのか,それとも,今病気にかかっている人が少しでも楽になるための手助けをしたいのか,とか。そこまで考えると,実は『したいこと』ができるのは栄養士さんだったり,リハビリの仕事だったりと,お医者さん以外の道が見えてきたりもします。
それから,やりたいことをするためには,時には苦手なことやイヤなことをしなくてはいけない場合もあります。それはやりたいことをするために必要なことですので,逃げずに挑戦してみてくださいね。
何がやりたいかまだ見つかっていない子は,学校という場所だけでなく,いろいろな人と出会って話していくうちに,やりたいことの形がはっきりしてくると思います。
みなさんには仕事の名前だけで決めるのではなく,自分か何がしたいかという目的をもって探してほしいですね。