※このページに書いてある内容は取材日(2023年06月28日)時点のものです
山梨リニア実験線の構造物を検査・修繕する
私は、JR東海リニア開発本部山梨実験センターに所属し、山梨リニア実験線の土木分野を担当しています。山梨リニア実験線での走行試験は1997年に先行区間18.4キロメートルで開始し、その後の延伸更新工事を経て2013年には総延長42.8キロメートルが完成し、日々、リニア中央新幹線の開業に向け、超電導リニアの走行試験が行われています。
リニア中央新幹線にはレールはなく、側面にコイルの入った「ガイドウェイ」が敷かれます。ガイドウェイやガイドウェイにかかるトンネル、橋梁(「橋」の専門的な呼び名)などの工事・メンテナンスが土木分野の担当になり、ガイドウェイ、トンネル、橋梁の3つのチームに分かれて各構造物を担当しています。
その中で私が担当しているのは、橋梁などの構造物のメンテナンスです。コンクリートの傷など、構造物の状態が最初の状態から劣化してしまうことを「変状」といいますが、構造物の維持管理のために、こうした変状がないかを検査し、もし変状があった場合には修繕計画を立て、修繕工事を行う、というのが私の主な仕事です。
橋梁の修繕工事だけにとどまらず、幅広い業務を担当
橋梁の検査や修繕工事だけでなく、検査や工事を進めるにあたって使いにくい設備などがあれば、より良いものを提案して、作業環境を改善するという仕事も担当しています。たとえば、検査や工事のために、ガイドウェイの側壁に登ることもありますし、山梨リニア実験線は山間部にあるので、山の斜面に登ることもよくあるのですが、そうした作業をする人がケガをしないよう、階段やはしごを取り付けたりしています。
そのほかに、土木作業と工事用車両の運行を全体的に統制する「指令業務」も担当しています。「土木作業を今から始めて問題ないか」「今、ガイドウェイの中に工事車両が入って問題ないか」などを、いろいろな部門と確認・調整する仕事で、1日につき3、4人で交代しながら担当しています。確認や調整がしっかり行えていないと、リニア車両と工事車両がぶつかる、工事車両と作業員がぶつかるなど、大きな事故につながってしまう可能性もあります。安全を守る責任重大な仕事なので、指令業務を担当する日は、いつも以上に気を引き締めて業務にあたっています。
専門知識を身につけるため、勉強の日々
橋梁の土木工事は、室内で行う業務と外の現場に出向いて行う業務の2つに分けられます。室内で業務をする場合は、工事の内容を指示するための書類である「示方書」を作成したり、会議を行ったりしています。会議では、ガイドウェイ、橋梁、トンネルのチーム全員が集まり、それぞれの検査結果を共有し、その結果をもとに、今後の修繕工事の方針やスケジュールなどを話し合って決めています。
外の現場に出向くのは、建造物の検査や修繕工事を行うときです。自分たちの目で見て、建造物に変状がないかを確認する「目視検査」のほか、コンクリートを検査するときには、ハンマーのような道具を使ってコンコンとコンクリートを叩き、音の違いで変状を見つける「打音検査」という検査も取り入れています。超電導リニアのガイドウェイは、新幹線や在来線が走る金属のレールとは違い、大部分がコンクリートでつくられているため、検査の基準や見るポイントも、新幹線や在来線とは全く違います。
実際の検査や工事の作業は外部の施工業者に発注して行ってもらっているのですが、最終的な責任は私たちの会社にあるため、私たちも検査や工事の現場に立ち会います。現場での私の役割は、示方書で指示した通りに作業が行われているかや、工事スケジュールに遅れが発生していないか、作業が安全に行われているかなどを確認することです。土木分野の知識をしっかり持っていないと、責任を持って検査や工事完了の最終判断を行えないため、日々の勉強が欠かせません。
私は入社2年目で、今の職場に配属されて約1年経ったところです。まだまだ経験が浅いこともあり、先輩に教えてもらいながら、いろいろな知識を学んでいる最中です。また、将来的には「コンクリート診断士」や「技術士」といった資格を取る必要もあるので、仕事以外の時間にもできるだけ勉強しています。一方で、現場での経験や勉強を重ねるにつれて、自分でも判断できる場面が増えていくため、日々、自分の成長を感じられることは、この仕事の魅力の一つです。
不規則な勤務時間にも、季節や天候にも負けない体力が必要
ところでみなさんは、鉄道施設の検査をしている場面を見たことがありますか?もしかしたら、見たことがない人もいるかもしれません。日中は線路の上を電車が走っていたり、多くの人が駅を利用したりしているため、みんなが寝ている夜の間に作業をするケースが多いんです。私の場合も同じで、朝から夕方まではガイドウェイの上をリニア車両が定期的に走っているため、長い時間を要する大きな検査や工事は夜の間に行っています。
夜間の勤務と日中の勤務が入り混じることもあり、生活リズムを整えるのに苦労することもあります。また、季節や天候に関係なく、外での作業に行かなければなりません。現場ではケガを防ぐため、分厚い防護服を着て、ヘルメットをかぶる必要があるため、夏場は特に大変です。自分はもちろん、作業する人たち全員が熱中症にならないよう、細心の注意を払っています。逆に冬場には、雪が30センチ以上積もった中で作業をすることもあります。私は北海道出身のため、寒さや雪には慣れっこですが、慣れていない社員や作業員さんの中には、苦労している人もいるかもしれません。
こうした中で仕事を続けていくためには、健康でいることが何よりも大切です。しっかりと寝て、ときには思いきり遊んで気持ちをリフレッシュしながら、体調管理には人一倍気をつけて、これからも頑張っていきたいと思っています。
世界初のプロジェクトに携わっていることが大きなモチベーションに
体力的に大変なところはありますが、リニア中央新幹線という世界初のプロジェクトに携われていることは大きなモチベーションになっています。山梨リニア実験線の維持管理が主な仕事ではありますが、リニア中央新幹線の開業後に実際に導入する設備についての実証試験を行う際に、土木の立場から協力することもあります。実際に私も昨年(2022年)、防音壁の設備改良プロジェクトに携わり、実用化に向けての課題を明確にできたことがありました。自分が携わった実験結果が、実際に開業した後の設備にも生かされるかと思うと、とてもうれしかったことを覚えています。
日々の仕事の中でやりがいを感じることもあります。たとえば、山梨リニア実験線内で使用している鍵について、場所によって施錠に多くの時間を要することがありました。そこで、私自身で予算や優先順位なども考慮しつつ、施錠方法を見直しました。それが業務の効率化につながったということで、社内の表彰制度で賞に選ばれたんです。自分で課題を見つけ、改善に取り組んだ結果が認められたことはもちろん、土木分野以外で働く人たちからも「ありがとう、便利になったよ」と声をかけてもらえたことが何よりもうれしかったです。今後も社員のみなさんの役に立つことを見つけていこうと思うきっかけになりました。
吹奏楽を通して身につけた協調性が、今の仕事に生かされている
土木の仕事は一人ではなく、たくさんの人と協力して行う仕事です。協力会社の作業員の方に指示を出して、作業を行ってもらうことも多いので、みなさんに気持ちよく仕事をしてもらえるよう、挨拶をしっかりしたり、他愛ない話をしたりしながら、楽しい現場になるよう心がけています。すぐに誰とでも仲良くなれるのが私の長所なので、コミュニケーションについて苦労することはほとんどありません。
そんな私ですが、実は子どものころは人見知りでした。今のように初対面の人とのコミュニケーションにも臆することなく、多くの人と協力しながら仕事を進めていけるのは、小学校5年生から大学院を卒業するまで続けていた吹奏楽のおかげだと思っています。吹奏楽は、大人数で一致団結して、一つの音楽をつくり上げていくものなので、協調性が何よりも大事です。今の仕事も、自分のつくりたいものをしっかりと相手に伝え、相手の意見も尊重しながら、たくさんの人と協力して大きな構造物をつくり上げていきます。協調性を身につけられたという点で、吹奏楽に一生懸命取り組んだ経験は、私の財産と言えると思います。
日本の大動脈を支える仕事に魅力を感じ、入社を決意
今はすっかり土木の魅力にはまっている私ですが、子どものころはゲーム制作者になりたいと思っていました。中学校を卒業した後に工業高等専門学校に入学したのも、ゲーム制作について学びたかったから、というのがきっかけでした。でも、実際に入学してみたら、多くの人の生活基盤を支えている土木の面白さに気づき、どんどん勉強しているうちに、大学院まで行ってしまいました。
土木分野の魅力に気づいて以来、将来も土木業界で働きたいとは考えていたものの、具体的にどんな会社に就職したいのかは決まっていませんでした。そんなとき、大学にJR東海の社員が説明に来てくれて、話を聞く機会がありました。JR東海は、日本の交通の大動脈である東海道新幹線を運営しています。その新幹線を、土木分野の技術者として縁の下から支えられる仕事にとても興味を持ち、より多くの人々の生活を守りたい、生活を豊かにしたいという思いから、JR東海に就職することに決めました。
就職後はリニアプロジェクトに配属され、開業前の現在はまだ多くの人々の生活を支えているという実感がないというのが実のところです。ですが、今の取り組みが将来的には多くの人の生活の豊かさにつながると思うと、胸が高まります。将来、みなさんに超電導リニアに乗っていただいたとしても、時速500キロメートルのものすごいスピードで走るため、防音壁やトンネル、橋梁などの土木設備をじっくりと見ることはできないかもしれませんが、「超電導リニアが走っているのは、土木分野の技術と人が支えているからなんだ」と、少しでも想像してもらえたらうれしいです。
やりたいことがわからなくても焦らずに
私は大学院を卒業する直前まで、自分が何をやりたいのかわかりませんでした。ですからみなさんも、やりたいことがわからなくても焦らず、自分が楽しいと思う分野や自分が得意だと思う分野を見つけて、突き進んでみてほしいです。それが結果として将来の仕事につながらなくても、何かに全力で取り組み、努力した経験は決して無駄にはならないはずです。
そのうえで、みなさんの中に、土木分野に興味を持ってくれる人が少しでも増えたらうれしいです。特に、土木分野で働く女性はまだまだ少ない現状があります。実は、山梨実験センターの土木分野に女性が入ったのも、私が初めてでした。体力的にも筋力的にも、男性にかなわないこともありますが、女性だからこそ気づける視点もあるはずです。超電導リニアに限らず、土木分野全体でもっと女性活躍の場を広げていきたいと思っていますし、私自身も女性がより働きやすい環境を目指して、日々、提案や改善に取り組んでいるところです。将来、一緒に土木分野を盛り上げていってくれる仲間を心からお待ちしています。