社会にはいろいろな仕事があるよ。気になる仕事や仕事人をたくさん見つけよう!
※このページに書いてある内容は取材日(2006年09月19日)時点のものです
最近はだんだんと見かけることが少なくなってきましたが,庭のある家がありますよね。私(わたし)は,その庭を造(つく)ったり,手入れをする仕事をしています。庭というのは,一度造(つく)ったら終わりではなく,草も木もどんどん成長するので,伸(の)びすぎた枝(えだ)や葉を切ったり,栄養のある土を足したりします。それだけではなくて,その家に住んでいる人が歳(とし)を取ったときには,庭のでこぼこを減(へ)らして歩きやすくするために,庭の石を取り除(とりのぞ)いたり,置き直したりすることもあります。庭師(にわし)の仕事は,庭がなくなるか,庭師(にわし)が引退(いんたい)するまで,ずっと続いていくことが多いのです。
私(わたし)は,海外で日本庭園を造(つく)ることが夢(ゆめ)だったのですが,6年前,旅行中に知り合いになったニュージーランドの人から頼(たの)まれて,その夢(ゆめ)が実現(じつげん)することになりました。ところが,その庭は300坪(つぼ)(60m×20mくらい)もあって,すぐに完成するような広さではなかったので,毎年,日本での仕事があまり忙(いそが)しくない2月と8月にニュージーランドにでかけて,3年もかけて完成させました。日本庭園には,いくつもの技法(ぎほう)があって,例えば,庭のすみっこに少し背(せ)の高い植物を植えて庭の端(はし)を見えなくすることで,実際(じっさい)よりも庭に奥行(おくゆ)きがあるように見せたりします。そのような日本庭園の技法(ぎほう)は用(もち)いながらも,庭に植える植物はニュージーランドの植物を用いました。そうすることで,ニュージーランドの人にとっても馴染(なじ)みの深い植物で出来た庭になり,普段(ふだん)から庭の手入れがやりやすくなるからです。日本とニュージーランドの良さを組み合わせた庭はとても評判(ひょうばん)が良く,現地(げんち)の新聞や雑誌(ざっし),テレビにも取り上げてもらいました。
この仕事を始める前には海運(船で人や荷物を運ぶ)会社に勤(つと)めていました。55歳(さい)くらいの頃(ころ),60歳(さい)になったら今までと違(ちが)った仕事をしようと考えていたのですが,妻(つま)が草花を育てるのが好きで,また,小さい頃(ころ)に母の手伝いで土いじりをした記憶(きおく)も手伝って,次第に「庭を造(つく)る」という仕事に興味(きょうみ)を持ち始めていました。そんな時,造園(ぞうえん)の専門(せんもん)学校の募集(ぼしゅう)案内を見かけて,一度しかない人生だからと思い,転職(てんしょく)を決心しました。
造園(ぞうえん)の専門(せんもん)学校では,毎日朝9時から夕方4時まで勉強しました。木や草花の種類や特性(とくせい),害虫の種類や駆除(くじょ)の方法,また,西洋庭園と日本庭園では使う材料や技法(ぎほう)も異(こと)なります。きちんと理解(りかい)するためには,造園(ぞうえん)の歴史を知ることも大切ですし,もちろん実技(じつぎ)も必要です。この学校で6ヶ月間勉強した後,造園(ぞうえん)高等職業(しょくぎょう)訓練校に1年間(週2日朝9時から5時まで)通い,造園(ぞうえん)設計(せっけい)事務(じむ)所で図面の書き方を習い,民間の造園(ぞうえん)の会社で見習いをしてから独立(どくりつ)しました。木を切ったりすることを早く始めたい人は,造園業(ぞうえんぎょう)の会社に就職(しゅうしょく)して働きながら覚えるという選択肢(せんたくし)もありますし,大きな公園などを造(つく)りたいと思うならば大学で勉強することもおすすめします。 でも,造園(ぞうえん)に一番重要(じゅうよう)なことは技術・知識以上にセンスです。ですから,勉強だけでなく,色々な場所に行き,見たり触(さわ)ったりして実際(じっさい)に体験(たいけん)することがとても大切になります。
どうしても1人でできない仕事は仲間にお願いして手伝ってもらうこともありますが,だいたいは1人で仕事をしています。1人で仕事をしていると,何か失敗したり,できあがりが気に入らなかったとしても,とことん気が済(す)むまでやり直すことができるので,お客さんも私(わたし)も満足する庭をつくることができます。そして,お客さんが,想像(そうぞう)していた以上の良い庭ができたと「喜びの声」をあげてくれる時が,私(わたし)にとっても一番嬉(うれ)しい瞬間(しゅんかん)です。この仕事は,自分も楽しみながら,そこに住んでいる人にも喜んでもらえる,とても素敵(すてき)な仕事です。そしてこの関係は毎年続いていくので,他のものづくりとはまた違(ちが)った喜びなのだと思います。
この仕事は外でする仕事ですので,暑さや寒さの厳(きび)しいときは苦しいですし,雨が降(ふ)ると仕事ができません。雨のときには,終わった仕事の請求書(せいきゅうしょ)を発行したり,材料を買いに出かけたり,道具を磨(みが)いたりして過(す)ごしますが,雨が続くと,仕事のスケジュールが厳(きび)しくなるので,長雨の後は何日も働き続ける場合もあります。重い石や,土の入った袋(ふくろ)を抱(かか)えて,何度も階段(かいだん)を上るのも大変で,去年は忙(いそが)しく働きすぎて,1週間入院してしまいました。
私(わたし)は子どものころとても好奇心(こうきしん)が強くて,いたずらも大好きでした。買ってもらったばかりのおもちゃを分解(ぶんかい)して壊(こわ)してしまったり,遊びに出かけてはいたずらやケンカをしていたので,母がよく近所の方に謝(あやま)ってくれていたそうです。ただ,こうやって好奇心(こうきしん)を持って前向きにいろいろなことに挑戦(ちょうせん)していたからこそ,できることも増(ふ)えていったし,見える世界も広がってきたのだと思います。子どもの頃(ころ)になりたいと思っていた職業(しょくぎょう)に就(つ)くのも良いですが,成長していく中で,やりたい仕事を見つけたり変わったりしていくのも良いことだと思います。いつも好奇心(こうきしん)を持って,前向きに生きていれば,いずれやりたいことが見つかり,実現(じつげん)すると思います。