依頼に合わせ,レシピを考えて記事にまとめていく
料理のレシピを考え,試作してレシピを完成させ,記事にまとめていくのが私の仕事です。依頼の内容はさまざまですが,Webサイトで連載される料理の記事を執筆したり,お皿などのテーブルウェアを作っている会社に頼まれて,公式サイトに掲載するレシピを作ったりするほか,料理学校からの依頼でレシピを考えたり,家電メーカーからの依頼で,その調理家電を使ったレシピを考えたりすることもあります。
基本的には,レシピを考えるところから記事の完成までを一人で担当することが多いのですが,ときには料理研究家の方と一緒に記事を作っていくこともあります。そういった場合は,料理研究家の先生が考えたレシピを文章でもらい,私が読みやすく書き直したり,言葉を整えたりします。ほとんどの料理研究家の方はライターと組むことが多いのですが,私の場合は一人でそれらができるので,仕事を自分のペースで進めていくことができます。私のように一人でレシピ開発と文章を担当するライターは珍しく,同じことをやっている人はあまりいませんね。
試作を繰り返しながら,レシピを完成させていく
仕事の進め方としては,まずは仕事の依頼が来るところから始まります。「季節に合わせたレシピを考えてほしい」「この調理器具を使ったレシピを開発してほしい」「この食材を使ったレシピが知りたい」といった,さまざまな依頼が来ます。その後,レシピを考え,あとはひたすら同じ食材,同じ料理の試作を繰り返していきます。例えば,材料の切り方はどうしたらいいか。調味料の量はどのくらいが適量か。火にかける時間はどのくらいがいいか。そういったことを確かめながら試作をして,レシピを完成させます。頭で考えていたように仕上がらなくて,材料が足りなくなってスーパーに買いに走る,なんていうこともよくあります。その後,完成したレシピをもとに料理を作り,カメラマンさんに撮影をしてもらい,記事にまとめるという感じです。
また,日によっては料理研究家の方のところに取材に行ったり,食材を探したりするほか,撮影で使う小物や食器をレンタルショップに借りに行くこともあります。研究のためにお店に食べに行ったり,デパートの食品売り場などを巡ったりすることもあります。原稿は自宅で書くこともありますし,お仕事をしている会社に行って,そこで書くこともありますね。
ニーズに合わせて自分ならではのレシピを作り上げる苦労
料理はみなさんが作っているものですし,料理研究家の方もたくさんいます。その中でいかにオリジナリティを出していくか,リクエストに応えていくかということはなかなか大変です。例えば,仕事で忙しくて,ゆっくり料理をする時間が取れない方も多くいらっしゃいますよね。そのため,レシピとしてはいかに簡単に作れるか,作る時間を短くできるかを求められることが多いんです。そういうときは,例えば途中でコンロではなく電子レンジを使ったり,うまく工夫して普通なら2工程かかるところを1工程でできるようにしたりといった,いろいろと試行錯誤が必要になります。おいしく,簡単な料理のレシピを完成させるためには,やはり何回も試作をしなくてはなりません。ずっと同じ料理を作り,試食を続けるのはとても大変です。
また,うちの子どもにはアレルギーがあり,小麦粉や卵が食べられません。そのため,特定の食材を使わない分野の料理を勉強するうち,自分の仕事でもそういう料理が得意になってきました。ただ,素材などが限られた条件の中でどうやっておいしいレシピを作り出すか,そこは苦労しますし,その分やりがいもあるところです。
「食事」の大切さと魅力を伝えられる仕事
私は,「ご飯を食べる」ということを,普段の生活の中でもとても大切にしています。例えば疲れていても食事を「おいしい」と感じられたり,忙しい日々の中で,そのおいしさにホッとすることができたり。そうやって,食事が助けになることは多いと思うんです。自分自身がそう思っているので,それを人に伝えられるのはこの仕事の魅力だと思います。だからSNSなどで自分のレシピについて「作ってみました」「おいしかったです」という写真つきの投稿がされているのを見ると,本当に嬉しいんです。
また,子どもたちが試作のときに「おいしい」と言ってくれたり,「もう少しこうしたら」と言ってくれたりすることもあります。こうやって子どもたちと関わりながら仕事ができるのも,この仕事の魅力です。
あれこれ試作する時間はとても大変ですが,その分,レシピが完成していざ撮影!という時間はとても楽しいですよ。自分の頭の中で料理の完成図やスタイリングを考えているのと,カメラマンさんに実際にきれいに撮ってもらうのはまた別物です。撮影し終わったらみんなで「これおいしいね」とワイワイしながら料理を食べるのも,とても好きな時間の一つです。
自分が食べたくないものや,食べさせたくないものは作らない
仕事を受ける上で,「自分が食べたくないものや,子どもに食べさせたくないものは作らない」ということはモットーにしています。なるべく添加物は少なくしたいですし,自分が普段使わず,なるべく料理に使いたくないと思っているものは,仕事でも使いません。「写真に映えるようにカラフルにしてほしい」というオーダーが来ることもありますが,そういうときも,着色料など人工の添加物は使わず,野菜を使ってカラフルにするなど,工夫していますね。
あとは,レシピを読んで作っても写真の通りにならない,自宅で再現できないレシピにはならないように心がけています。見栄えが良くても,読んだ人が作ることができないレシピだと意味がありませんから。食材もなるべく,スーパーで手に入って誰でも作りやすいもの,というものを心がけることが多いです。
「料理好き」が,いつしか本格的に仕事に
私はもともと,教育系の出版社で書籍の編集業務をしていました。2003年からフリーランスになり,2007年に子どもが生まれたことをきっかけに,子育てや料理など,ライフスタイル系の雑誌の記事を書く仕事をするようになりました。すると「料理が好きなら」とレシピも含めた仕事をいただくようになり,「料理ライター」として活動を始めたんです。
もともと料理はすごく好きだったんですが,仕事としてレシピを自分で作るのは,最初は緊張しましたね。でも,やってみたらとても楽しかったので,それ以降はレシピ開発も含めて手がけるようになりました。
自分で決めることや調べることの多い仕事ではありますが,フリーランスでやってきた期間も長かったので,いろいろな人にいろいろな仕事を頼まれる中で積み重なってきた経験が今,役立っています。仕事をする中で,成長してきた感じですね。
父親への料理で「誰かのために作ること」の喜びを知った
両親の離婚もあり,子どものころは転校が多かったです。小学生のときに2回,中学生のときには4回も転校しました。
料理をするようになったのは,小学校3年生のときに父親と一緒に暮らすようになってからです。父親はまったく料理ができず,私が代わりに食事を作るようになりました。そんな日々を送る中で「誰かにおいしいものを食べてもらいたい」という気持ちが強くなっていき,いつも生活の中心に料理がありました。
子どものころからお芝居の仕事をしていたので,自分はもちろん役者になるんだろうと思っていたのですが,高校生になったくらいのころ,「このままこの仕事をしていくのだろうか」と考えるようになったんです。もともと本が好きで図書館にしょっちゅういましたし,文章を書くことも好きだったので,そちらの仕事をしてみたいなと思うようになりました。
料理ライターとしては,自分が料理に関して「何もわからない」ところからスタートしたので,いつか子どもにもわかりやすい料理のレシピ本を手がけるのが夢です。最初は本当に肉の種類も,何を買えばいいかもわからないし,本を読んで料理を作ってみても失敗ばかりでした。子ども用の料理本はたくさんありますが,自分で買い物をするところからスタートする本は,なかなかありません。そういう本をいつか作れたら,と思います。子ども向けの料理教室も,いつかやってみたいことのひとつです。
信頼できる人や場所をたくさんつくっておいてほしい
これを読んでいるみなさんに言いたいのは,「やりたくないことは,やらなくていい」ということです。「夏休み明けに子どもの自殺が多い」というニュースを見ると,誰かに「助けて」と言えない,周りにSOSを言えない人が多いのかなと思い,胸が痛くなります。私自身,つらい経験をしたこともありますが,信頼できる友達や周りの大人に,そのつど救われてきましたから。
よく「つらかったら逃げろ」と言いますけど,逃げるのもひとつの大きな選択なので,結構難しいことだと思うんです。だからそれよりもまず,つらいときには声に出して,周りに言ってほしいなと思います。
言葉で自分の気持ちを説明できる力も,とても大切だと思います。そのためにも,本はたくさん読んでほしいですね。物語でもなんでも,読むことでたくさんの事例を知ることができ,自分の周りだけじゃない広い世界を知ることができる。言葉をたくさん知ることは,周りとのコミュニケーションにも役立ちます。そういったことで,救われることもあるのではないでしょうか。