※このページに書いてある内容は取材日(2019年01月29日)時点のものです
障害福祉施設の建設現場で,現場監督として働く
私は村本建設株式会社に所属し,今は奈良県奈良市にある,県立の障害福祉施設の建設現場で,現場監督として働いています。
私は入社3年目で,これまで総合病院やコミュニティセンター,認定こども園などの建設現場で現場監督として働いてきました。今回の現場はまだスタートしたばかりで,今は基礎工事を行うために整地をしている段階です。現場監督は私を含め4人いますが,現在,私は工事現場を外部から仕切るために建てる仮囲いや建物を建てるための足場,工事に使用するための電気や水道設備の設置など,「仮設工事」と言われる準備工事を担当しています。現場に出て,どのような工事が行われているかを確認し,記録用に写真を撮りながらチェックし,報告書類にまとめていきます。足場や仮囲いの設計図を自分で作成したり,測量をしたりすることもあります。この先,工事が進んでいくと,また別の作業を担当していくことになります。
職人さんたちの作業がスムーズに進むよう調整する
現場には朝7時半に出勤し,8時から始まる全体の朝礼のあと,その日の工事を担当する工種の方たちと,その日の工事箇所や作業内容を確認していきます。その後は現場を確認したり,報告や確認用に現場の写真を撮ったりするほか,事務所で書類や図面を作る作業も行います。今回は仮設工事の図面以外は専門の方に任せていますが,現場によっては「施工図」という実際に作業をするための図面を,設計図を元に自分たちで作成することもあります。そういう場合,現場で変更が発生したら,修正図面も自分たちで作成します。一日の作業が終わるとまた職人さんたちと作業の進捗の確認をし,職人さんたちが帰った後に報告書などをまとめて帰宅,というのが大体の一日の流れです。
工事が進むにつれ,さまざまな職種や業者の方々が関わることになります。たとえば基礎工事の段階では土木工,掘削工,杭打ちや仮設工事のための鳶の職人さんなど。建物本体を建てる躯体工事では鉄筋工,型枠工,コンクリート工などの業者さんが入ります。躯体ができ上がったら内装工事に入ります。間仕切りなどのほか,水道や電気などの設備工事も進めます。最後に床を貼り,家具を入れて終了ですが,これらもすべて,それぞれの職種の方が担当します。
作業が大詰めになると,さまざまな作業を同時進行で行わなくてはいけません。しかし同時に同じ場所で別々の作業はできないので,それぞれの業者さんのその日の作業がバッティングしないよう,毎日それぞれの作業の進行を確認して,細かい作業工程を決めていきます。いろいろな複雑な要素の組み合わせを考えながら管理するので,まるでパズルのようです。
体力的な面では悔しい思いをすることも
現場の職人さんたちは,私よりも年上で,はるかに経験もある方が多いです。しかし私は年下ではありますが,立場上,現場監督として現場を統括し,職人さんたちをまとめなければいけません。言葉づかいや説明の仕方などには気をつけ,しっかりと自分の考えを持ったうえで説明できるように心がけています。
また,女性であるということで,苦労する点もあります。たとえば現場監督といえども,ときどきは力仕事をする場面もあります。サッシなど注文した材料が現場に届いたときに,運んだりすることがあるんです。そんなとき,どうしても男性に比べると体力差があり,「みんなはできているのに自分はできていない」ことに対し「だから女は」と言う人はいませんが,それをつらく感じることもあります。基本的にはみんな優しく助けてくれますが,だからこそ悔しく思うことは多いです。
また,どうしても屋外にいることが多い仕事なので,冬は寒く,夏はとても暑いです。そこもまた,この仕事で苦労するところです。
足場が取り払われるときにはテンションが上がる
施工現場に発注者の方やオーナーさんが来られて,うれしそうな反応をされたときは,私も喜びを感じます。入社1年目で担当した現場で,発注者さんが作業中の現場を見ながら「すごいなあ」とか「めちゃくちゃでき上がってきてるなあ」など,とてもうれしそうに言ってくださったことがありました。その言葉を聞いたときは,1年生ながらとてもうれしかったです。
また,認定こども園の建設に関わったときは,一番最後に「開園式」という形で,園児や保護者さんだけでなく,その工事に携わった設計者,私たち施工担当者も含め,関係者全員を集めて遊戯室でセレモニーが開催されました。そのときの子どもたちや保護者の方々の喜ぶ顔は忘れられません。この仕事をしていてよかったなと思いました。
また,個人的に好きな瞬間は,工事が進んで足場を解体し,建物の全景が見えたときでしょうか。基本的に躯体工事中は建物は足場で覆われているので,建物の全景は完成予想図でしか見ることができないんです。足場がすべて取り払われて全景が登場するときは,一番テンションが上がる瞬間ですね。
自分できちんと理解をし,細部までこだわる
どんな作業にしても,細かいところまでこだわることを心がけています。たとえば施工図を自分で描くときは,細部まで描くのはもちろん,ぱっと見て分かりやすい図面になるよう工夫しています。図面にはある程度の決まりはありますが,色の使い方や数字の置き方などは自由です。また,工程をよりわかりやすくするため,ときには工事の順番ごとに図解をすることもあります。こうした「理解しやすくする」ための工夫は作成者しだいなので,工夫のしどころです。
入社したてのころは,自分自身もよく図面のことを理解しないまま時間をかけず,大雑把に描いてしまっていたこともあり,後から自分で職人さんに指示するときに困ってしまったこともあります。丁寧に描いていけば自分自身できちんと理解することができますし,後から指示するときにもスムーズにいくことがわかり,以降,気をつけるようになりました。ですので,わからないことはそのままにせず,理解できるまで調べたり,先輩に聞いたりするようにもしています。
また,現場では常に笑顔でいることも心がけています。やっぱりみなさんには気持ちよく仕事をしてほしいですからね。
小学生のときに接した女性設計士がきっかけで,今の道に
小さいころから図工や技術など「ものを作ること」が好きな子どもでした。また,小学校6年生くらいのときに実家をリフォームすることになったのですが,担当の設計士の方が女性だったんです。父がその設計事務所の所長さんと仲がよかったので,遊びに行くといろいろな模型やパース(建物の外観や室内を立体的に描いた完成イメージ図)を見せてくれたり,私の住む家のパースも描いて見せてくれたりもしました。そのときに,子どもながら「すごく楽しそうな仕事だな」と思い,建築の道に進むことを決めました。
大学では建築コースに進み,最初は設計者を目指していたんですが,当時の先生に「現場監督として現場の管理をしておいたほうが,将来,設計をするにしても絶対に役に立つし,自分のためになる」と言われたんです。それで現場監督として現場の管理ができる今の会社に入社を決めました。実際に現場監督として働いていて,先生の言ったことはその通りだなと感じています。今は現場監督として一人前になることが目標ですが,長期的な目標としてはこの経験を生かし,設計の道に進みたいと思っています。いつか自分の家を設計するのが夢です。
建設関係の仕事をしている父とも話が弾むように
幼いころは,基本的にとても活発な子どもでした。小学校のときにはバレエや塾など,習いごとをいろいろやっていたので,毎日,何らかの習いごとに通っていましたね。父の友人たちが家に遊びに来たり,一緒に旅行に行ったりすることが多い家庭だったので,年上の人たちと接することには慣れていたと思います。今,現場で自分よりも年上の人たちと接するうえで,このことはとても役に立っていますね。
父は建設業に関わる仕事をしていて,周りにも同じ業種の方が多かったので,私にとって建設業は身近な世界でした。土木と建築でジャンルこそ違いますが,父は私が今この仕事をしていることがうれしいようで,特に専門的な用語や内容を私と話せるということがうれしいみたいですね。父とはもともと仲がいいんですが,仕事を始めてから,さらにコミュニケーションが増え,話が弾むようになりました。
「もっと勉強しておけばよかった」と後悔しないように
自分が中学生のころ,まわりの大人からよく言われたのは「勉強はしておきなさい」という言葉でした。当時は「勉強なんてしなくても大丈夫」と思っていたんですけど,今になって思うのは「もっと勉強をしておけばよかった」ということです。みなさんも,今,周囲から「勉強しなさい」と言われることが多いかもしれません。でも,そうした言葉を流してしまうのではなく,ちゃんと受け止めて,本当に勉強をしなければいけないときにはしてほしいなと思います。後悔しても後から戻ることはできないので。
私が今,特に後悔しているのは,英語をきちんと勉強しておくべきだったなということです。以前,現場でフィリピン人の方々と作業をしたこともありますが,今後,建設現場もそうですし,他の仕事でもさまざまな国籍の方と関わる機会は増えると思います。そういう意味でも,英語などの外国語を身につけておくことは,ぜひおすすめしたいです。
また,仕事をしていたら,ときにはつらいこともありますが,親には心配をかけたくないし,なかなか話せないこともあります。そういうときに助けてくれるのは友達なんですよね。今,私が相談できる相手もやはり中学校時代,高校時代から仲のいい友達です。ですから,みなさんには友達を大切にしてほしいなと思います。