社会にはいろいろな仕事があるよ。気になる仕事や仕事人をたくさん見つけよう!
※このページに書いてある内容は取材日(2016年12月15日)時点のものです
私(わたし)は,作詞(さくし),作曲をするシンガーソングライターです。5歳(さい)からピアノを習い,大学生のときに自分の曲をつくるようになりました。プロとして事務(じむ)所に所属(しょぞく)し,レコード会社からCDアルバムもリリースしています。CDアルバムは,レコーディングといわれる収録(しゅうろく)を行い,スタッフと一緒(いっしょ)につくりあげていきます。新しいCDをリリースするときには,各地のラジオ局へ行ったり,テレビに出演(しゅつえん)したりといった宣伝(せんでん)活動も行います。アルバムをリリースしてからは,発売記念のライブツアーを行います。みなさんと距離(きょり)が近いところで,ピアノの弾(ひ)き語(がた)りをすることもありますね。このように,ライブをするタイミングは,CDのリリースと合わせることが一般(いっぱん)的ですが,私(わたし)の場合は,スタッフと相談してCDをリリースしていないときでも,ライブを行うことがよくあります。ライブをすると今までに出会えなかった人と巡(めぐ)り合う可能(かのう)性(せい)があるので,大切にしたいですね。
作詞(さくし),作曲の方法は人によってさまざまですが,私(わたし)の場合は,曲をつくってから詞(し)を考えることが多いです。作曲するときは「さあ今から曲をつくるぞ」と身構(みがま)えるのではなく,ぶらりと街を歩いているときや,お風呂(ふろ)に入っているときなど,何気ない日常(にちじょう)の中でメロディーが浮(う)かんできます。例えば,Aメロと言われる曲の頭の部分が浮(う)かんだら,それをボイスレコーダーに記録しておき,後からBメロやサビといった部分を加えて全体を作ります。作詞(さくし)は,その曲から思い描(えが)く世界観,背景(はいけい),ストーリーといったことをイメージして言葉を紡(つむ)いでいくのです。カメラに例えると構図(こうず)を決めてから,ピントを合わせることに似(に)ています。そこには,あえて言葉にしない余白(よはく)も入ります。早いときはメロディーが浮(う)かんでから1日で曲を作ることもありますが,作った曲をすぐに「完成」と決めるのではなく,次の日,冷静になってから,その曲ともう一度向き合います。そうして,自分が納得(なっとく)した曲をリリースしているのですよ。
自分が好きだったものを仕事にしていると,趣味(しゅみ)とは全く違(ちが)った側面があります。趣味(しゅみ)のときは何も考えないで何気なく過(す)ごす日々(ひび)もあったのですが,プロになってからは常(つね)に音楽のことを考えるようになりましたね。 特にライブで歌うとき,気持ちのバランスをつくっていくことは難(むずか)しいです。どんなに体のコンディションが悪いときでも良いライブにするためにベストな状態(じょうたい)にするには,情熱(じょうねつ)を持ってライブへ挑(いど)もうと考えます。同じライブでも一つひとつの会場は違(ちが)った空間で,参加してくれた方との新しい出会いがあります。自分がなぜ歌いたかったのかという気持ちをその瞬間(しゅんかん)に高めます。初心を忘(わす)れず歌えることの喜びや感謝(かんしゃ)の気持ちをこめるのです。しかし,思いが強すぎても空回りしてしまいますから,勇み立つ気持ちを抑(おさ)えながら,会場の皆(みな)さんにしっかり伝えるということを心がけて歌っています。
私(わたし)の曲を聞いてくださった方から,手紙やラジオでメッセージをいただくことがあります。ある人からは,過去(かこ)に辛(つら)い事があったのだけど,私(わたし)の曲と出会って共感し,気持ちの整理ができましたという感想をいただきました。また,ある人は友人のこと,ある人は故郷(ふるさと)のことと私(わたし)の歌が重なって,その人の深い部分に響(ひび)いたという感想もいただきました。歌っていなければ,こうしてたくさんの人と出会うことが無かったかもしれません。私(わたし)の想像(そうぞう)を超(こ)えたところで,人とつながることができるのは,驚(おどろ)きでもあり嬉(うれ)しさでもあります。シンガーソングライターとして幸せなことです。
感謝(かんしゃ)を忘(わす)れてはいけません。ライブの場合,当日,私(わたし)がステージに立てるのは,お客さんやスタッフの皆(みな)さんなど,たくさんの人の支(ささ)えやつながりから実現(じつげん)しています。ですから,声が枯(か)れたり,風邪(かぜ)をひいたりしてつらいときでも,その日の感謝(かんしゃ)を忘(わす)れないようにしています。たくさんのライブをしてきましたが,うまく歌えていても,気持ちが空っぽでは相手の心には響(ひび)かないのです。歌う技術(ぎじゅつ)が全てではなく,その人の心に届(とど)くかどうかということ,自分の想いを込(こ)めることを一番大事にしています。
私(わたし)の両親は荒井由実さんやイーグルスなどが好きで,赤ちゃんのときから音楽に囲まれた環境(かんきょう)で育ちました。5歳(さい)のときにピアノを始めてから,ますます音楽が好きになって,小学生の頃(ころ)には,ピアノ教室の楽譜(がくふ)だけでなく,弾(ひ)き語(がた)りの楽譜(がくふ)を買ってもらい,ピアノを弾(ひ)きながら歌っていましたね。そして,中学生のときに作詞(さくし)にチャレンジしてみたのですが,思うような詞(し)ができなかったのです。ちょっとした挫折感(ざせつかん)を味わいました。今思えば,詞(し)をつくるときには,自分の中の経験(けいけん)や背景(はいけい)といったものが表現(ひょうげん)されます。中学生の自分には早かったのかもしれません。それが,大学生のときに,友人の勧(すす)めで,あらためて作詞(さくし)・作曲に挑戦(ちょうせん)したときは,あっという間に曲が完成したのです。中学,高校を経(へ)て友達との別れもあり,身の周りの変化,世の中の移(うつ)り変わりを経験(けいけん)し,物事が色褪(いろあ)せる悲しさや,郷愁(きょうしゅう)感という思いが曲になったのです。それがシンガーソングライターとしての始まりでした。
皆(みな)さんは,学校生活を送っているとクラスのみんなが言うから,何となく自分も流されるという経験(けいけん)はありませんか。たとえ,友人の意見でも少し立ち止まって自分なりに考えて行動できる人になってほしいです。 学校生活の中で悲しい思いをしたり,つらい思いをしたりすることもあるでしょう。でも,今いるその場所が全てではありません。無理に人に合わせる必要はなく,自分なりの意見や世界を持ってほしいです。そのために本を読んだり,外の世界にも目を向けたりして視野(しや)を広げてください。きっと将来(しょうらい)へつながりますよ。