※このページに書いてある内容は取材日(2019年02月05日)時点のものです
掃除と餌やりを中心に,動物たちの世話をする
私は,北海道の旭山動物園で飼育スタッフをしています。担当獣舎の動物たちの餌やりや掃除をおこないながら,様子を観察し,健康状態を把握して,飼育するのが基本的な仕事です。動物園にはさまざまな獣舎があり,それぞれ担当スタッフが決まっています。担当者がお休みのときには,代番が入ることになっています。私の現在の担当は,シンリンオオカミと北海道産動物舎。それから,代番の担当がトナカイと小獣舎。代番は半年ごとに変わります。北海道産動物舎にはキツネ,アライグマ,タヌキ,ウサギ,リス,モモンガ,テン,カラスなど,いろいろな動物がいるので,担当動物の数は多いほうです。
飼育スタッフの仕事は,朝9時始業ですが,その前にオオカミの様子を見にいくのが私の日課です。9時になると,まず10分ほど飼育スタッフのミーティングがあり,その後は獣舎に行って,動物たちの様子を観察しながら掃除と餌やりをします。来園者の方々が動物たちの食事の様子を見学できる餌やりは,「もぐもぐタイム」と呼ばれる人気イベントです。
12時すぎからお昼休みをとった後,13時からはまた,掃除と餌やりの続きをおこないます。15時30分になると,動物たちの収容と掃除,夕方の餌やりです。こうした流れのなかの空いた時間で,餌の補充,獣医や代番スタッフとの情報共有,事務所での健康カード(動物種ごとに記録するカルテのようなもの)記入といった仕事もおこないます。雪が降れば,担当獣舎の除雪もスタッフの仕事です。終業は17時30分です。
繁忙期は特にありませんが,春と秋の休園期間には獣舎のレイアウトを変えたり,動物たちを紹介する手描き看板を作り直したりと,通常の開園期間中よりも作業が増えます。
動物のお世話が仕事ですから,臭い,汚いが嫌な人は動物園では働けません。動物が怪我をしたときなどは,動物をつかまえなくてはならない場合もあります。大きい動物であれば吹き矢で麻酔をしますが,キツネやタヌキは手で捕まえます。捕まえる技術と度胸も必要です。
手描き看板を作るのも飼育スタッフの仕事
私の担当する北海道産動物舎は,北海道の動物たちがいる獣舎です。このため,園内で餌を調達しています。来園者の方々も巻き込んでどんぐりを拾ってもらったり,園内の木の剪定で出た枝をもらってリスやモモンガのおやつにしたり,カボチャの種を洗ってリスのおやつにしたりします。
とにかく,動物たちを飼育するなかで,彼らが少しでも楽しくなることを考えているんです。野生のなかで食べているものをあげたいというのも,そのひとつ。剪定で出た枝はリスのために確保したのですが,獣舎に入れてみたら,ウサギもかじっていました。「こういうものも食べるんだ!」という発見になりました。
そういう発見があると,手描き看板にまとめて獣舎に掲示しています。旭山動物園では,飼育スタッフが各獣舎に手描き看板を掲示して,プラスアルファの動物紹介をおこなっているんです。色画用紙などに手描きで,絵や写真も自分で用意します。
飼育スタッフだから描ける看板で,動物の魅力を伝えたい
手描き看板の内容はすべて各獣舎の担当者に任されており,枚数にも決まりはありません。私自身は,手描き看板を通して,動物の身体の特徴を伝えたいと思っています。たとえば,北海道産動物舎のユキウサギは,夏と冬で毛の色が変わります。また,思った以上に足が長く,後ろ足が大きいんです。それは,ふかふかした雪の上を歩いても埋もれないようにそうなっているんだよ,というような内容をまとめています。飼育を通して見えてくる,担当動物たちの「ここがすごい」「こんなことするんだ!」「おもしろい!」ということを来園者に伝えていきたい。それによって来園者から「これまでこの動物には興味がなかったけれど,今日動物園で見てみて,かわいいと思った」「楽しかった,勉強になった」という反応をもらえると,すごくうれしいですね。
飼育スタッフの仕事では「伝えること」が大事だと考えています。私は旭山動物園の公式SNSも担当しているので,他のスタッフも写真や動画を撮ると私に送ってくれるんです。園内の手描き看板だけでなく,インターネットを通じて情報発信をおこなうことで,来られないけれど旭山動物園のことを気にしているという人たちにも動物たちのことを伝えていけたらいいなと思っています。人間はどうしても,自分たちを中心に環境を考えがちですが,人間もいて,あちこちにいろいろな動物もいて,というのが本来は当たり前の環境です。私たちが情報発信することで,少しでも周りに目を向けてもらえたらうれしいです。
飼育スタッフ歴20年というとベテランだと思われがちですが,新しい動物の担当になると,そのつど一から勉強になるし,動物たちの状況も日々変わっていくので,「これでいい」と思ってしまうことのないように心がけています。
偶然が天職に
小学生のころはペット不可のアパートに住んでいたので,学校からの帰り道,犬を外で飼っている近所の家を,よくめぐっていました。中学生になると,家でウサギを飼い始めました。動物は好きでしたが,就職するまでに一緒に暮らしたのはウサギだけです。
動物園の飼育スタッフになったのは偶然だったんです。高校卒業後,旭川市の職員採用で現業職を受けました。現業職には学校の事務補助員や学校給食の職員,ごみ収集の仕事などがあり,私は学校給食で希望を出していたんです。募集枠が一番多く,採用されやすいのではと考えたのが理由でした。動物園職員の希望はまったく出していなかったので,旭山動物園に配属になったときには驚きました。さらに,旭山動物園の女性正職員としては初めての採用だったんです。当時はまだ,女性は臨時職員しかいなかった。以来20年間,旭山動物園に勤務しています。
いま,将来なりたい職業がある人とない人,いろいろいると思います。目標がある人はそれに向けてがんばればいいし,ない人は焦らなくてもいい。いまはまだ目標がなくても,きっと何かが見つかります。私自身,動物園の飼育スタッフになりたかったわけじゃないけれど,なってみたら,はまりました。たまたまポンと置かれた状況が,はまることもあるんです。だから,少しでも興味のあること,楽しいと思うことに積極的に取り組んでいけば,きっと将来やりたいことにたどりつけるのではないでしょうか。