社会にはいろいろな仕事があるよ。気になる仕事や仕事人をたくさん見つけよう!
※このページに書いてある内容は取材日(2006年11月08日)時点のものです
ソムリエとは,一言でいうと「ワインをはじめとした飲み物のプロフェッショナル」です。レストランで,お客様の料理や好みに合わせてワインをおすすめし,快適 かいてき)に食事の時間を過( す)ごしていただけるようお手伝いをする仕事です。ワインの勉強や,実際( じっさい)に飲んで味を覚える訓練も必要ですし,ワインを合わせる料理のことも知らなければいけません。しかしながら,お客様の前でワインをグラスに注いでサービスするというのはほんの一瞬( いっしゅん)で,それまでに色々( いろいろ)な準備( じゅんび)をしなければいけません。レストラン内の業務( ぎょうむ),ワインの品質( ひんしつ)の管理,グラスを拭( ふ)いたり,倉庫の片付( かたづ)けもします。
仕事の中心はお昼と夜のレストランの営業( えいぎょう)です。準備( じゅんび)では,テーブルクロスを敷( し)き,店内の掃除( そうじ)をします。お客様の予約状況( じょうきょう)の確認( かくにん),前日に売れたワインの補充( ほじゅう),新たに届( とど)けられたワインの整理をし,ワインセラー(ワイン用冷蔵庫( れいぞうこ))の中の決まった位置に並( なら)べます。お店の裏( うら)の冷蔵庫( れいぞうこ)には400種類のワインがありますが,ワインの味,タイプ,畑の種類,ブドウの品種はそれぞれ違( ちが)うので,それらの情報( じょうほう)は全て覚えます。いよいよお昼の営業( えいぎょう)開始。お客様を店内にご案内し,お飲み物とお料理をうかがいます。お客様が何を求めていらっしゃるのかを瞬時( しゅんじ)に見極める「洞察力( どうさつりょく)」を働かせて一生懸命( いっしょうけんめい)サービスを行います。お昼の営業( えいぎょう)が終わると後片付( あとかたづ)け。グラスを拭( ふ)いて使ったものをもとに戻( もど)し,夜の営業( えいぎょう)準備( じゅんび)にうつります。
高校卒業後,ホテルに就職( しゅうしょく)してレストランのウエイターになり,「一流のウエイター」を目指しました。一流のウエイターは,人間的に魅力( みりょく)があり,語学ができ,素晴( すば)らしいサービスができ,ワインと料理の知識( ちしき)も持っていなくてはいけないと思い,ワインの名前を片(かた)っ端( ぱし)から覚え,「ワインの知識( ちしき)とサービス」という,当時,日本ソムリエ協会の会長でいらっしゃった浅田勝美さんが書かれた本を毎日読んで勉強しました。この本で「ソムリエ」を知り,ソムリエになることを決意。色々( いろいろ)なレストランで食事をして料理を研究したり,ワインを買って家で飲み比( くら)べたりもしました。19歳( さい)の時,愛知県岡崎( おかざき)市に住んでいた私( わたし)は,ソムリエ協会の会長さんに会いたくて東京に行きました。浅田さんはとても温かいまなざしで,私( わたし)の思いを真剣( しんけん)に聞いてくださり,一流のソムリエへの情熱( じょうねつ)が更( さら)に高まりました。
20歳( さい)の時,ホテル内でソムリエ課に移( うつ)りました。ソムリエの試験を受けるためには,5年以上の飲食業の現場( げんば)での経験( けいけん)がいるので,3年後に向けて勉強に力が入りました。無事に資格( しかく)が取れ,今度はソムリエのコンクールを受けました。第10回フランスワインアンドスピリッツ全国ソムリエ最高技術( ぎじゅつ)賞コンクール(西日本大会)では準決勝( じゅんけっしょう)に出場し,2年後の,第2回全日本最優秀( さいゆうしゅう)ソムリエコンクール(全国大会)では,東海地区代表として,セミファイナリスト(最終審査( しんさ)12名のうちの1人)になることができました。その後,29歳( さい)の時にフランスに渡( わた)り,パリの三ツ星レストラン「アルページュ」で一年間働きました。現在( げんざい)は,ソムリエの中でもチーフの存在( そんざい)である「シェフ・ソムリエ」としてキャリアを高め,フランス料理のレストランで働いています。
「正直であること」が一番大切なことだと思っています。どんなお客様に対しても,謙虚( けんきょ)な気持ちでサービスできること,お客様を大切にしているということを感じてもらえることが大切です。ソムリエはワインとそれ以外の飲み物,料理など,レストランで口に入るもの全ての知識( ちしき)を持っていなくてはいけません。お客様からのどんな小さな質問( しつもん)に対しても,それに答えられるように日ごろから準備( じゅんび)することが大切です。しかし,一番重要なのは,聞かれて答えるその瞬間( しゅんかん)……お客様に今まで以上に食事を楽しんでもらえるよう謙虚( けんきょ)な気持ちで説明する姿勢( しせい)なのです。ワインの知識( ちしき)がもともとあるお客様もいれば,ワインのことを知らないので質問( しつもん)されるお客様もいます。全ての方がとても大切なお客様。そんな心構( こころがま)えで仕事をしています。
ご注文されたお料理の種類や味との相性( あいしょう),そしてお客様の気持ちを考えながら,どのワインをおすすめするかを自分が今まで学んだことの全てをたどり考えます。そして,おすすめしたワインを「おいしかった」とお客様が心から言ってくださることが,なによりも嬉( うれ)しいです。以前,フランスで働いていたときにお会いしたお客様が,偶然( ぐうぜん),私( わたし)が今勤( つと)めている東京のレストランに来てくださり「以前お会いしましたよね!」と驚( おどろ)きの声を上げられたこともあります。仲良くさせて頂( いただ)いているお客様が,「君がいるからまた来たよ」とふらっと現( あら)われると疲( つか)れも吹き飛( ふと)びます。
小学校3年生だった私( わたし)の強烈( きょうれつ)な思い出。それは,母が以前働いていた職場( しょくば)に連れて行ってもらった日のことです。私( わたし)が小学校1年生ぐらいの頃( ころ),母はあるホテルに勤( つと)めていました。ロビーに初めて足を踏( ふ)み入(い)れたときの感動・・・フワフワのじゅうたん,天井( てんじょう)には光( ひか)り輝(かがや)くシャンデリア。そこをホテルのウエイターがお皿を持って私( わたし)の方( ほう)へ歩いてきました。「かっこいい!」今までの自分の生活とはかけ離( はな)れた「まったく別の世界」に興奮( こうふん)しました。高校卒業後の就職( しゅうしょく)先を考えたとき,母の職場( しょくば)を訪( おとず)れたときの思い出が脳裏( のうり)によみがえってきました。ホテルに就職( しゅうしょく)し,「一流のウエイターになる」と決意しました。
中学生の頃( ころ)は,学校が好きではなく反発し,自分は頭が悪いと思( おも)い込( こ)んでいました。「ここしか行けません」と言われて進んだ高校で,いきなり学年で5番の成績( せいせき)を取り,自分に驚( おどろ)きました。嬉( うれ)しかったのは,高校の担任( たんにん)の先生が「おまえは,努力することによって結果が出せる」と言ってくれたことです。先生の言葉をいつも心に留( と)めて必死で勉強しました。家庭の事情( じじょう)があり大学進学ではなく就職( しゅうしょく)を選びましたが,この先生との出会いは今でも自分の支( ささ)えになっています。
「めあてを高く,できるまでやれ」は,私( わたし)が通っていた小学校の記念碑( きねんひ)の言葉で,今も常( つね)に自分の心の中にあります。目標に達するまで努力し続けることは大事なこと。「ここまでしかできない」と自分の可能( かのう)性( せい)を自分で決めつけてしまったら,そこでおしまいになってしまう。天才といわれる人は別として,誰( だれ)だって一生懸命( いっしょうけんめい),無我( むが)夢中( むちゅう)になって努力すれば,周りの人が「すごいね,よくがんばっているね」と声をかけてくれるような,“頑張( がんば)った結果”が必ず返ってくると思います。