仕事人

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岐阜県に関連のある仕事人
1982年 生まれ 出身地 東京都
中津なかつ 雅美まさみ
子供の頃の夢: 画家
クラブ活動(中学校): 剣道部
仕事内容
土のひょうじょうや自分の思いを伝えるオブジェをつくる。
自己紹介
外出して遊ぶことが好きで,よく子どもと散歩へ行ったり,公園で遊んだりしています。一方で室内でコツコツと作業したり,本を読んだりすることも大好きです。
出身大学・専門学校

※このページに書いてある内容は取材日(2018年09月26日)時点のものです

とうげいの楽しさを伝え,作品をつくる

陶芸の楽しさを伝え,作品をつくる

わたしは,やきの産地であるけんにある「づちももやまとうの里 ヴォイス(VOICE)こうぼう」というとうげいこうぼうで働きながら,たくにあるこうぼうとうげい作品をつくっています。ヴォイスこうぼうでは,とうげいをやってみたい人のための体験コースや,ほんかくてきとうげいを始めたい人を対象にした教室などを行っていて,わたしはそういう人たちへのどうやサポートをしています。
わたしはヴォイスこうぼうしゅうしょくする前に,けんの「とうしょう研究所」でとうげいを学び,卒業するときに『海をはらむ』という作品をつくりました。それからげんざいまで,シリーズで作品をつくり続けています。『海をはらむ』シリーズは,とうげいねんがやわらかいじょうたいのときのひょうじょうを使って,「自分にしかつくれないものをつくりたい」という思いをこめてせいさくしている作品です。とうしょう研究所にいたとき,ねんの表面につけるようを何パターンも考える課題があったのですが,その中でワイヤーを用いてようをつけた土のひょうじょうがとても好きで,この作品を思い付きました。細いワイヤーをはりけてコイルのような形にしたものでねんを切ると,だんめんおうとつができて,かいがらのような美しいようになります。このようを生かす形はどういうものかを考えて作品をつくり,げんざいは8点の作品が完成しています。そのほか,このシリーズの小さな作品をつくって,はんばいもしています。

イメージどおりの作品をつくるために

イメージどおりの作品をつくるために

作品をせいさくするときには,まずつくりたい形をスケッチして,イメージをふくらませます。そして,ようをつける部分とは別に,つくりたい形に合わせた土台をつくっておきます。
ワイヤーでようをつけるさいは,まず20kgのねんのかたまりを,大きくてあつい長方形にします。それをワイヤーで切ってだんめんを開き,イメージに合うものを見つけていきます。ねんようをつけるときは,切った後にねんがどんなひょうじょうになるかをそくしながら,ワイヤーをはばなどを決めていますが,そのひょうじょうはワイヤーでねんを切るたびに,毎回ちがいます。じっさいひょうじょうは,切ってねんを開いてみないと分からないため,イメージどおりのひょうじょうあらわれるまで何度もやり直して,作品にするものを決めていきます。気にいったひょうじょうをつくることができたら,ねんがやわらかいうちにすばやく形にしなければいけません。どうすれば一番美しく見えるかを考えながらねんさわっていると,思いもよらない形ができるときもあります。
ようをつけたねんの形ができたら,あらかじめつくっておいた土台と合体させて,焼き上げます。全体の形を考えるところから完成まで,およそ1か月かけて,1つの作品をせいさくします。

思いを形にするじゅつが必要

思いを形にする技術が必要

『海をはらむ』シリーズの作品は,土台となる部分と,表面に波のようがついた部分とを別々につくった後に,2つを合わせる方法でせいさくしています。この方法だと,形ができてもかんそうさせているだんかいかまで焼いたときに,2つを合わせた部分にひびが入ったり,れてしまったりすることがあります。そのため,土台をつくるさいに,ねんをろくろで回しながら形をつくったり,全体を一体型にしてみたりと,これまでさまざまなつくり方にちょうせんしてみましたが,どうしてもイメージどおりのものをつくることができず,げんざいの方法にいたりました。それでも,今までに「上出来」と思えるものは1つもなく,とうげいおくぶかさを感じています。
しかし反対に,どれだけやってもうまくできないところに,おもしろさがあるとも感じます。もし自分がなっとくできるものが完成してしまったら,ちがうものにきょうを持つようになってしまうかもしれません。「もっとこうできたんじゃないか」「次はこうしたらどうか」と,さらに良いものを求める気持ちが,次の作品につながっているように思います。とうげいには,自分が心からつくりたいと思う“イメージ”と,それを形にする“じゅつ”の両方が必要です。これからも,よりよい作品をせいさくできる方法をさがしていきたいと思います。

作品に思いをこめて

作品に思いをこめて

『海をはらむ』シリーズの作品をてんらんかいに出したとき,あるお客さんがタイトルを見る前に「この作品からは海とじょせいのイメージを感じた」と言ってくれました。作品を見た人に,自分が作品にこめた思いが伝わったときは,大きな喜びを感じます。とうげい作家にとって,作品を多くの人に知ってもらうことも大切なことです。そのため,できた作品はてんらんかいなどに出すようにしています。
げんざいは,けっこんと出産をけいけんし,子育てをしながら作品をせいさくしています。毎日9時から16時までこうぼうきんした後,たくで家事や子どもの世話をし,子どもをかせた後に,作品せいさくに取りかかります。子育てをしながら作品づくりをするのは大変ですが,子どもとごす時間もわたしにとってはかけがえのないものです。毎日,子どもと散歩をしながら,道にく花を「きれいだね」とながめたり,空を見上げたり,子どもといっしょにさまざまなものを見ていると,今まで気づかなかった美しさや喜びを感じることがあります。そうしたらしの中で得た喜びをそうさくにも生かし,作品をつくり続けていきたいと思っています。

つねに原点をわすれず,作品に向かう

常に原点を忘れず,作品に向かう

とうげいの中でも,わたしがつくっているようなオブジェは,じっさいに道具として使ううつわなどとちがい,自分の思いを自由にひょうげんできるものです。にちじょう生活の中で心の内にめていることや言えないことがあっても,作品にはせいげんなく“本当の自分”を出すことができます。だからこそ「これが自分の形」と言えるまで,自分が心からつくりたい作品をつくり続けることが大切だと思っています。
わたしが『海をはらむ』という作品をせいさくしようと思った原点は,ねんのやわらかなしつかんおもしろいという気持ちでした。しかし,てんらんかいなどで多くの人に見てもらおうと思うと,どこかに「自分をかっこうよく見せたい」という気持ちが出てきて,けいそうしょくを加えてしまうことがあります。すると,どうしても自分が一番伝えたい部分が目立たなくなり,大切にしている気持ちが伝わりにくくなります。そうならないためにも,作品をつくるちゅうでは時々立ち止まり,少しはなれて作品を見たり,何をつくりたいのかを自分に問いかけたりして,原点となっている思いをさいにんしきするようにしています。
またこうぼうでは,教室の生徒さんやとうげい体験に参加する人たちに,いいげきをもらっています。とうげいを始めたばかりの人は,とうげいの楽しさやおどろきをなおに感じてくれるので,いっしょにその気持ちを共有し,自分もとうげいを始めたころの気持ちをあらためて思い出しています。

東京から,やきの産地である

東京から,美濃焼の産地である多治見市へ

わたしは東京で生まれ育ちました。とうげいに初めて出会ったのは,高校生のときです。わたしが通っていた高校には,受けたいじゅぎょうせんたくできるせいがあり,その科目の中にとうげいじゅぎょうがあったんです。もともとものづくりが好きだったので,すぐにとうげいが好きになり,大学に進んでからもとうげい部に入部しました。
大学を卒業後は,東京にある,ウェブサイトをせいさくする会社につとめながら,とうげい教室に通っていました。そのころ大学のとうげい部のせんぱいが,けんの「とうしょう研究所」でとうげいを学んでいました。せんぱいは大学時代,とうげい部で茶わんをつくっていたのですが,研究所に進んでからはとうのオブジェをつくっていて,「ここで学ぶとこんなにせいあふれる作品ができるんだ」としょうげきを受けました。そして自分も,やきの産地であるとうげいを学びたいと思い,27さいとうしょう研究所に入学して,2年間勉強をしました。とうげいこころざわかい人や,すでにとうげい作家としてかつやくしている人が,全国からこの学校に通っていて,とてもげきを受けました。卒業してからは,げんざい働いている「ヴォイスこうぼう」にしゅうしょくし,とうげいを教えながら自分の作品をつくる,今のらしをするようになりました。

小さいころからものづくりが好きだった

小さいころからものづくりが好きだった

わたしは小学生のころから図工やじゅつが大好きで,学校や遊びから帰ってくると,すぐに紙とえんぴつを取り出し,夕飯の時間になるまでもくもくと絵をいたり工作をしたりしてごしていました。母も自分で何かをつくることが好きで,いつもカゴをんだりものをしたりしている姿すがたを見て育ちました。母は,わたしが絵をいたり紙や木で工作をしたりすると,必ずその作品をめてくれて,よく家の中にかざってくれました。
高校に入って,せんたくできる科目の中にとうげいじゅぎょうを見つけたときは,まよわず選びました。高校にはとうげい用のかませっされていて,好きな作品をつくることができました。しかし,高校のじゅぎょうでも,大学で入部したとうげい部でも,つくる作品はしゅえんちょうで,ほとんどがどくがくでした。その点,「とうしょう研究所」に入ってからはとなるじゅつしきを学ぶことができ,同じとうげいを目指す仲間といっしょとうげいをする時間が,とても楽しかったです。今でもその仲間とは交流があり,じょうほうを共有しながらおたがいにげきを受け合っています。

ゆめに近い場所で,やりたいことにちょうせんしよう

夢に近い場所で,やりたいことに挑戦しよう

こうぼうとうげい体験をやっていると,よく「わたしようだから,とうげいには向いていないかもしれない」という声を聞きます。しかしとうげいは,おおらかな人がつくる作品や細やかなことが好きな人の作品など,それぞれに良さがあるもので,向き不向きはありません。「一番とうげいに向いている人は?」と聞かれたら,わたしは「とうげいが好きで,ずっと続けられる人」だと思います。だから,とうげいかぎらず,何かをやりたいと思ったら,向き不向きは考えず,まずはどんなことでもちょうせんしてみてください。やりたいと思う気持ちや楽しいと感じる気持ちがあると,思っている以上のことを身に付けることができると思います。
またわたしは,とうげいをするならとうげいを続けやすい場所へ行こうと思い,生まれ育った東京から,焼き物で有名なけんじゅうしました。とうげいが地場産業として根付いているでは,周りにとうげいに関わる人も多く,材料が手に入りやすかったり,とうげいに関わる仕事にけるのうせいが高かったりします。わたしつとめている「ヴォイスこうぼう」は,とうげいかまを作っている「きょうえいでんせいさくしょ」という会社がうんえいをしていて,そこにつとめながら自分の作品を作っている人がたくさんいます。そのほか,じゅつの先生をしながらとうげいを続ける人や,とうを生産するせいとうじょつとめながら自分の作品をせいさくする人など,多くの人がさまざまな形でとうげいをしています。自分の好きなことが見つかったら,その仕事が根付いている場所や身近に感じられる場所に身を置いた方が,ゆめかなえる道が見つかりやすいように思います。

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私のおすすめ本

ミヒャエル・エンデ
『ネバーエンディング・ストーリー』というタイトルで映画化もされた,冒険とファンタジーが詰まった児童文学です。小学校高学年のときに初めて読み,本が好きになるきっかけになりました。分厚い本ですが,友人や家族の大切さや想像することのおもしろさを感じられ,とても前向きになれるので,大人になってからも読み返しています。

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取材・原稿作成:船戸 梨恵(クロスワード)・岐阜新聞社 /協力:株式会社 電算システム