※このページに書いてある内容は取材日(2022年09月01日)時点のものです
オフィス環境に適した観葉植物を選び、コーディネート&貸し出す
私は今、プランツコーディネーターとして働きながら、観葉植物のレンタルや販売を行う会社の経営をしています。プランツコーディネーターというのは、設計士さんやデザイナーさんの要望や、環境、予算に合わせた植物を選び、コーディネートする職業です。
私が経営している株式会社喜芳園では、主にオフィスや店舗の方々に観葉植物のレンタルや販売を行っています。オフィスや店舗を新しく作ったりリニューアルするときに合わせて、「観葉植物などのグリーンを置きたい」という要望がオフィスや店舗のオーナーさんから出ることがあります。しかし、観葉植物といってもどのくらい太陽光が入るか、風通しがいいか、などの環境に合った植物を選んだり、適切に管理をしたりしないと枯れてしまいます。オフィスのデザインや環境など含め、空間に合った植物を選び、レンタルという形でオフィスにお届けして、定期的にメンテナンスを行うのが私たちの仕事です。オフィスビルだけでなく、マンションのエントランスにある植物や、公園や道路脇の花壇などの場所のメンテナンスと植え替え作業を請け負うこともあります。また、「レンタルではなく自分で育てたい」という方もいらっしゃるので、昨年は販売を行う実店舗もオープンしました。
コーディネートデザインから植物の管理まで
毎日のスケジュールとしては、7時45分に出勤し、8時から全体朝礼を行った後に業務を開始します。まずは敷地内にある販売用の植物や、温室に置いてある植物に水やりやメンテナンスを行い、その後は事務作業。昼食後は外出をします。お客さまを訪問したり、依頼されたコーディネートをデザイナーさんやクライアントさんと打ち合わせしたりします。戻ってきたらそのコーディネートの見積もりなどを作成し、18時に業務終了というサイクルです。
お客さまに観葉植物をレンタルした場合は月に2回、私たちが伺って水が足りているか、葉が枯れていないか、良くない成長のしかたをしていないか、虫がついていないかなどをチェックし、水やりも含めてメンテナンスをします。少し調子が悪そうな植物は元気なものと交換し、社内の温室で養生させます。また、観葉植物は卸売市場で仕入れるのですが、東京都内には大田区の中央卸売市場をはじめ、生花や植物を扱う卸売市場が何か所かあります。週に1回は午後からそれらの卸売市場に行き、レンタルや販売に使う観葉植物の仕入れをします。
1年の中でも忙しい時期があり、4月と10月など企業の展示会がよく開催されるシーズンは、展示スペースに置く植物の需要が高まります。また、11月はクリスマスツリーの準備、年末はクリスマスツリーから門松に一斉に変える作業があるので、この時期もかなり忙しいですね。
デザイナーのイメージと用意できる植物とをすり合わせていく
デザイナーさんから依頼をされるときは「この空間に何か植物を置きたい」という要望だけの事が多いので、緑を使ってどんな空間にするかというのを考えるのも私の仕事になります。時々「こんなイメージの植物を置きたい」と明確に決まっているデザイナーさんもいるのですが、その植物と建物の環境が合わないときは大変です。イメージに近く、その環境でも育つような別の植物を提案することもありますし、あくまでもその植物を使いたいというのであれば、私たちが行うメンテナンスの方法を工夫することで解決することもあります。
また、新たに建物や内装を作る場合、私たちが植物を入れ込むのは最終段階になるので、大抵は時間との戦いになります。作り付けの棚などに緑を置く場合も、実際に出来上がった家具の寸法が設計図と違っていることもあるので、調整する作業が発生することもあります。建物ができあがってから「何か寂しいね……」と感じて私たちが依頼されることも多いので、スピーディーな対応が求められることも多いです。
植物を介してコミュニケーションが生まれる喜び
植物を運び込み、すべてが出来上がったときにお客さまに「わあ、きれいだね」「だいぶ変わりましたね」と言っていただけた瞬間は、大きな喜びを感じます。「いい空間になり、上司に褒められました」とか、「訪れた人に『素晴らしいオフィスですね、羨ましい』と言われたんですよ」という言葉をいただけると「この仕事をしていてよかったな」と実感します。 身の回りに植物を置く効能に関してはさまざまなことが言われていますが、私は視覚的な癒やしの効果はもちろん、「コミュニケーションが生まれること」が大きいのではと思っています。例えば「そういえばこの木、うちでも育ててますよ」とか「これ、育ててみたいなあ」とか、交換したときには「あ、この間と観葉植物が変わりましたね」とか、社員さん同士の話のきっかけにすることができます。私たちのレンタルする植物が、いいオフィス環境をつくるお手伝いになれば嬉しいな、といつも思っています。
インパクトのあるものを作るために、日々の情報収集も
植物をコーディネートするときに心がけているのは、「インパクトのあるもの」をご提案することです。例えばつい先日、「エントランスに何か緑を置きたい」という依頼があったので、2m以上の大きな植物から、小さな植物までいくつかの種類を組み合わせ、小さな「森」を作るイメージで植物を入れました。そうやって工夫して植物を置くことで、空間がさらに"変わった"イメージを持つことができますし、お客さまにもより喜んでいただけるのではと思っています。そのためにも、アイデアに使えそうなものの情報収集は日常的にしています。表参道や銀座、丸の内など流行の最先端を行くビルが集まっている場所に足を運んで事例を見たり、インスタグラムなどのSNSで海外のオフィスの写真を参考にしたり。韓国ドラマなど、海外のテレビドラマからヒントをもらうこともありますね。 また、近年は環境問題を意識されているお客さまも多いので、例えば再生材を使った鉢を使用するなど、そういった工夫もしています。
植物だけでなく、幅広い知識が求められる仕事
株式会社喜芳園は、私の父が始めた会社です。父が早くに亡くなってしまったため、その後は私の母が中心となり会社を経営してきました。会社の創業は1967年ですから「オフィス向けの観葉植物レンタル」という職種は、当時は他にはあまりなかったのではと思っています。幼いころから母の働く姿を身近に見て育ったので、自分も家業を継ぎたいなと自然に思うようになりました。
私は大学では家政学部の生活造形学科というところでインテリアやデザインに関係したことを学びましたが、プランツコーディネーターになるにはいろいろな方法があります。例えば大学の園芸学部や園芸学科で植物の知識を身に着け、私たちのような会社に入社し、現場で経験を積むのも1つの方法でしょうし、お花の問屋で働いたり、逆にインテリアデザイン的なことを学んでから植物の知識を身に着けていく、というのも方法の1つです。ただ、仕事をする上で設計図面を渡され、そこから具体的な空間をイメージしなければいけなかったり、内装や建築の素材の話になったりすることも多いので、そういうスキルと知識は必要になります。幅広く知識が求められる仕事ではありますね。
ものを作って遊ぶのが好きな子どもでした
視野を広く持ち、いろいろなものを見てください
これからの時代、環境問題がより深刻になってくるはずです。そんな時代の流れの中、植物に関わる仕事というのは、けしてなくなることはないと思います。植物に関わる仕事がしたいと思っている人がいるなら、ぜひ頑張ってください。
また、なるべく視野を広く持ち、チャンスがあればたくさん海外に行き、いろいろな事例をその目で見てきてください。私は今、コーディネートの参考にするためにいろいろな国のオフィスの写真をSNSで見ることが多いのですが、アメリカ合衆国や韓国といった情報に触れる機会の多い国はもちろん、たとえばブラジルなど日本からは行く機会や、情報の少ない国のオフィスデザインに驚かされることが多いです。SNSやインターネットでいろいろな情報が手に入る時代ではありますが、若いみなさんにはなるべく現地に行って、自分の目で見て確かめて、「これはどうなっているんだろう」と考え、検証してほしいなと思います。