社会にはいろいろな仕事があるよ。気になる仕事や仕事人をたくさん見つけよう!
※このページに書いてある内容は取材日(2009年07月28日)時点のものです
私(わたし)のお寺は禅宗(ぜんしゅう)の中の臨済宗(りんざいしゅう) 妙心寺(みょうしんじ)派(は)です。仏教(ぶっきょう)にはたくさんの宗派(しゅうは)があり,それぞれの宗派(しゅうは)で何に重点をおいて学ぶかというところが違(ちが)いますが,妙心寺(みょうしんじ)派(は)は座禅(ざぜん)(姿勢(しせい)・呼吸(こきゅう)・心を整えて集中すること)を大事にしています。私(わたし)はお寺の仕事とお寺が運営(うんえい)している保育園(ほいくえん)の仕事をしています。お寺の仕事とは,まず葬式(そうしき)・法事などの時にご先祖(せんぞ)様の供養(くよう)をすることです。またお寺は布教(ふきょう)活動の場であり,集会の場であり,自分の修行(しゅぎょう)の場です。禅宗(ぜんしゅう)の僧侶(そうりょ)は,掃除(そうじ)・勤行(ごんぎょう)(お経(きょう)を読むこと)・学問を大切にしています。掃除(そうじ)は修行(しゅぎょう)の一つですし,なんといっても掃除(そうじ)で心が洗(あら)われます。達成感もあります。毎日の積み重ねが大切ですね。勤行(ごんぎょう)では,まず自分のためにお経(きょう)を読み,その次に他の人の幸せを願って読みます。写経(しゃきょう)をすることで,感じ取って体を清めています。学問というと難(むずか)しいですが,人間を形作るための知恵(ちえ)だと思って下さい。さらに,墓地(ぼち)管理の仕事があります。お盆(ぼん)になればお花を入れ,掃除(そうじ)をします。この他にも,布教(ふきょう)活動として法話や講演(こうえん)をしたり,相談を受けたり,保育園(ほいくえん)が終わった後に子どもたちに剣道(けんどう)を教えることもしています。
僧侶(そうりょ)になるための修行(しゅぎょう)中,生活するための空間は一人一畳(じょう)しか与(あた)えられません。起床(きしょう)は,夏は朝3時で冬は朝4時です。私(わたし)たちは一年中,裸足(はだし)です。顔を洗(あら)った後,朝のお勤(つと)めがあります。お勤(つと)めとはお経(きょう)を読むことです。みなさんは精進(しょうじん)料理を食べたことがありますか?精進(しょうじん)料理とは,肉類・魚介類(ぎょかいるい)を使わないで穀類(こくるい)・豆類・野菜だけで工夫して作る料理です。私(わたし)たちが修行(しゅぎょう)でいただく精進(しょうじん)料理は,麦ご飯とみそ汁(しる)と野菜とお漬物(つけもの)です。修行(しゅぎょう)中の2年間で大切なことは座禅(ざぜん)で,朝と晩(ばん)に2時間ずつ座(すわ)ります。そして掃除(そうじ)をします。掃除(そうじ)道具は雑巾(ぞうきん)と竹ぼうきで,草を手で一本一本ていねいに抜(ぬ)きます。月に数回,お経(きょう)を唱えながら家の前に立って食物を受ける,托鉢(たくはつ)という修行(しゅぎょう)もあります。学問も大切なことですので,仏教(ぶっきょう)の教えや歴史などの勉強もしています。
私(わたし)の一日は,朝6時に起床(きしょう)して朝食をとって,お勤(つと)めをすることから始まります。それから保育園(ほいくえん)に行きます。夜は毎日,剣道(けんどう)を教えています。夜,帰ってから翌日(よくじつ)の準備(じゅんび)をします。法事は土日が多いので,決まった休みはありません。8月のお盆(ぼん)と9月のお彼岸(ひがん)は一番忙(いそが)しい時期です。お盆(ぼん)の1週間の間に,前の1年間で亡(な)くなった方のお家を訪問(ほうもん)しています。お寺に来られる方の顔と名前を覚えるのが大変です。毎日会っていれば簡単(かんたん)に覚えられると思うんですが・・・。お経(きょう)は修行(しゅぎょう)中に繰(く)り返し読んでいたので苦労はありませんでした。規律(きりつ)はそんなに厳(きび)しくありませんが,「悪いことはしない」という当たり前のことを当たり前にすることが大切です。
剣道(けんどう)の教室にいる小さい子どもからお寺に来られるお年寄(としよ)りの方まで色々(いろいろ)な年代の方と顔見知りになり,色々(いろいろ)な話を聞けることが,この仕事の魅力(みりょく)だと思います。子どもの考えていることが分かったり,お年寄(としよ)りの方から昔の地理や戦争の話を聞けたり・・・。年代によっての考え方の違(ちが)いや物事の受け取り方の違(ちが)いなど興味深(きょうみぶか)いことを話し合えることが楽しいです。また,小さい時からやっている剣道(けんどう)を教えられるということは,自分の特技(とくぎ)を生かせることができているので,良かったと思っています。
生活の中で心がけていることがあります。禅宗(ぜんしゅう)の中にある『八正道』という生き方です。①言葉を正しく使う ②正しく行動する ③正しい生活態度(たいど)④正しく見る ⑤正しい考え方をする ⑥正しく思う ⑦瞑想(めいそう)(心を集中させること) ⑧努力をする。当たり前のことのようですが,実際(じっさい)にやるとなると難(むずか)しいことばかりです。「正しい言葉」とは,素直(すなお)な心で相手の気持ちになって語ることです。「正しく見る」とは外見ではなく,心を見るということです。正しい判断(はんだん)や正しい見方をするように心がけています。『売り言葉に買い言葉』という言葉がありますが,相手を傷(きず)つけると必ず自分に返ってきますので,話す時にはよく考えて話すようにしています。
就職(しゅうしょく)する時,サラリーマンではない職業(しょくぎょう)に就(つ)きたいと思っていました。この仕事に就(つ)くと決めた時は,父親に強く反対されましたが,説得して,何も知らない状態(じょうたい)で修行(しゅぎょう)に行きました。2年間の修行(しゅぎょう)はとても厳(きび)しかったのですが,お寺の看板(かんばん)を背負(せお)っているという責任(せきにん)を感じて強い決心をして行きましたので,逃(に)げたいと思ったことはありません。それに子どもたちに剣道(けんどう)を教えられるというのは魅力(みりょく)的でした。住職(じゅうしょく)になるためには,お寺に弟子入りをして,得度式(仏門(ぶつもん)に入るための儀式(ぎしき))をして,修行(しゅぎょう)を積んだ後,自分のお寺に帰ってくることが必要です。定年がないので,元気であればいつまでもできますよ。
子どもの頃(ころ)は,元気で明るい子どもだとよく言われていました。体を動かすことが大好きで,小さい頃(ころ)から剣道(けんどう)をしていました。道場が実家の斜(なな)め前にあったので,毎日ずっと寝(ね)ていても竹刀の音が聞こえていました。その時は,将来(しょうらい)警察官(けいさつかん)になって,剣道(けんどう)をやりたいなと思っていました。自分がお坊(ぼう)さんになるとは全く思ってもいませんでした。大学を卒業して,別の仕事で働き始めた後で,この仕事に就(つ)くことを考えました。転職(てんしょく)する時にはとても悩(なや)みましたね。
社会勉強はとても大切です。仕事に限(かぎ)らず,色々(いろいろ)なことを経験(けいけん)して,苦労や楽しさを学んで欲(ほ)しいです。「なぜ,塾(じゅく)に行けるのか。なぜ,楽しく生きていられるのか。なぜ,ご飯が食べられるのか。」当たり前のことを当たり前のことだと思わないで,今いる自分に感謝(かんしゃ)して欲(ほ)しいと思います。そうやって考えるとご両親や,周りの人がいてくれるから生活できているということに気づきます。常(つね)に感謝(かんしゃ)の気持ちを忘(わす)れないようにして下さい。