※このページに書いてある内容は取材日(2017年06月09日)時点のものです
YouTubeに動画をアップして広告収入を得る
私は,自分で撮った動画をインターネット上の動画サイト「YouTube」に投稿して収入を得ている「ユーチューバー」です。福井県に住んでいます。
YouTubeは,13歳以上なら世界中の誰でも動画を投稿し,共有できるWebサイトです。YouTubeに投稿した私の動画は再生される際に広告が流れるようになっており,それを視聴者が見たり,クリックすることでYouTubeの運営会社から広告料が入り,それが収入になります。ユーチューバーは世界にも日本にもたくさんいますが,その収入だけで生活しているのは,ほんの一握りの人だといわれています。私は,2年前まで小さなWeb制作会社を経営しながらユーチューバーとして活動していましたが,今ではユーチューバーとしての収入のみで生活しています。
動画の内容を決めて,撮影し,投稿するのが私の仕事です。内容は,電化製品などの商品のレビューが一番多くて,料理やゲームの実況中継などもやっています。テーマごとにチャンネルを分けていて,「カズチャンネル」「カズ飯」「カズゲームズ」が,私の運営している主なチャンネルです。チャンネル登録をしてくれている人は,3つ合わせて延べ約250万人で,今も増え続けています。動画1本あたりの再生数は,平均で15万回前後です。いろいろな世代の人が見てくれていますが,中でも小中学生のファンが多いようです。福井弁丸出しで笑顔全開の「ありのままの自分」を撮っているので,もしかしたらそこがウケているのかもしれませんね。
撮影から編集まで,自分1人で
現在は,毎日3~4本の動画を投稿していて,1本の長さは5~7分程度です。毎朝6時前に起きて,自宅の一室を使って一人で動画を撮影し,自分で編集しています。編集にはかなり時間がかかるので,撮影した動画をその日のうちに投稿するのではなく,何日か後に投稿します。仕事に関しては,決まった休日というのはなく,毎日何かしらの作業をしていますね。
撮影に費やす時間は,商品のレビュー動画だと10~15分くらいで,棚や机などを作る日曜大工の動画だと30分以上かかりますね。撮影する前に日曜大工の手順を考えたり,紹介する商品の特徴や仕様を調べたりはしますが,原稿の内容や撮影の流れなどは事前には考えず,撮影しながら決めています。
撮影が終わったら,専用のパソコンソフトを使って,動画を編集していきます。話している内容を,視聴者に分かりやすいように文字で書いて「テロップ」にして画面に入れたり,効果音を追加したり,いらない部分をカットしたり,様々な作業が必要です。こうした細かな編集をして,ようやく完成した動画をYouTubeに投稿するのです。
視聴している人は,「好きなことをやっていて楽しそうだなぁ」なんて思うかもしれませんね。もちろん楽しいのですが,動画によっては撮影時間の5倍以上の時間をかけて編集しているので,実は毎日,地味な作業の時間の方が圧倒的に多いんですよ。
動画撮影が心から好きじゃないと続かない
動画を投稿し始めた約7年前は,会社勤めをしていたので,仕事が終わって帰宅してから撮影や編集,投稿をしていました。そのため,毎日の睡眠時間は4時間半程度と,とても短かったですね。会社が休みの土曜日や日曜日も動画の撮影をしていたので,ゆっくり休んだり遊びに出かけることもほとんどありませんでした。私の場合は,動画を撮ること自体が趣味だったので苦になりませんでしたが,こういう作業を心から楽しめない人にとっては辛いことかもしれません。今は,1日でも動画を投稿しない日があると視聴者が心配したり,視聴者数が減ったりしてしまいますので,体調管理に気をつけて,毎日動画を投稿できるようにしています。
YouTubeの動画には視聴者がコメントを記入する「コメント欄」があり,1本の動画を投稿するたび,そのコメント欄に500件近いコメントが書き込まれます。そんな中に「カズさんの動画を見たら元気が出ました」なんていう言葉があるとすごく嬉しいですね。街中を歩いていると,私の動画のファンの人から声をかけられたり,行きつけのカフェでファンが待っていることもあります。また動画投稿がきっかけで他のユーチューバーたちと仲良くなり,全国各地に会いに出かけることもあります。そんなふうに,ネットから飛び出して現実の友達の輪がどんどん広がっていくのも楽しみのひとつですね。
いろいろな人に影響を与えられる仕事
ユーチューバーという仕事の最大の魅力は,自分の好きなことをやって収入を得られるところだと思います。好きなことをして生活できる人生って最高だと思うんです。
ユーチューバーは芸能人ではないですが,紹介した商品が売り切れることがあるなど,ネット社会である現代では影響力が大きいと思います。また,大企業のテレビコマーシャルに起用されるなど,私が始めたころに比べて,ユーチューバーという存在が世間的にも認められている気がします。小さな部屋の中から発信する情報で世の中に影響を与えられるんだ,という感覚が味わえるのも,この仕事のいいところだと思います。
ネットに動画を投稿する人の中には,目立とうとして危険な行為をした動画や悪ふざけを撮った動画を投稿する人がいますが,一歩間違えると,誰かがそれを真似をするなど,世の中に悪い影響を与えかねません。本来入ってはいけない場所に入ってしまうなど,たとえわざとではなくても,投稿した動画の中でやっていることが違法な行為だったという場合もあると思うんです。そのため動画を撮る際には,子どもたちが真似をしても危なくないか,法律やモラルの上での問題はないか,など細心の注意を払うようにしています。
自分が興味のあるものしか撮らない
私が動画を撮り始めたころから守っているルールは,「自分が興味のあるものしか撮らない」ということです。例えば,電化製品の使い勝手などをレビューする動画の場合,ほとんどが自分が欲しいと思った商品を自腹で買って紹介しています。私自身が買って,試してみて,本当にいいなと思って紹介しないと,視聴者も信じてくれないし,楽しんでくれないと思うんです。最近では,私が所属している「UUUM(ウーム)」というユーチューバー向けのマネジメント事務所を通して仕事を受けることもあります。いろいろな企業から,自社の商品を使ってみてPR動画を撮ってほしいという依頼が来ますが,自分の興味が向かないものは基本的に断るようにしています。
ユーチューバーはインターネットがつながっている環境が整っていればできる仕事なので,日本国内でも世界でも,どこに住んでいても問題ありません。ですから,自分が生まれ育ってきて,子どもも育てやすい福井県で続けたいと思います。将来も福井県から出る気はありません。都会も田舎も,場所に関係なく好きなところで仕事ができるのも,この仕事の魅力ではないでしょうか。
一般人でもメディアの送り手になれるのが衝撃だった
高校卒業後に1年間,電気工事士として働いた後,叔父が経営しているホームシアタースクリーンの製造会社に入りました。そこでインターネット販売を担当する部署に配属されたことでコンピューターに興味を持ち,独学でネットやホームページ制作などの勉強をしました。その後,独立して自分でWEB制作を請け負う会社をはじめました。
2010年に,モバイルバッテリーを買おうとネットで調べていた時に,あるユーチューバーが投稿したレビュー動画をたまたま見たんです。一般人が自分で撮影した動画をネットにアップするというYouTubeの仕組み自体を初めて知り,「こんなのがあるんだ!」と,ものすごい衝撃を受けました。同時に,ぜひ自分もやってみたいと強く思ったんです。その動画を見た約1週間後に「カズチャンネル」を作り,「iPod touch」のケースのレビュー動画を初めて投稿しました。そうしたら,その動画に「笑顔が素敵ですね」というコメントが書き込まれたんです。それがとてもうれしかったのを今でも覚えています。
最初は1週間に1本ぐらいのペースでしか動画を投稿していませんでしたが,コメントが書き込まれるのが面白くて投稿数を増やしていきました。そうやって何年か続けるうちに,チャンネル登録者数もどんどん増えてきました。そして今から2年前に,「人生は長くないんだし,楽しい仕事だけやって生活していこう」と考え,WEB制作の仕事をすっぱり辞めて,ユーチューバーを専業にしました。
小さいころは話すのが苦手でおとなしい子だった
意外に思われるかもしれませんが,小学生のころはとてもおとなしい子どもでしたね。友達も少ない方だったと思います。スポーツはあまり得意ではなかったので,休み時間はクラスの子たちと外で遊ばずに,教室でずっと練り消しゴムを作っているような子でした。一人で遊んでいる方が楽しかったんです。勉強も苦手でしたが,好きな科目はありました。小学生のころは図工,中学生のころは技術や美術でした。現在,棚や机を作る日曜大工の動画をたくさん投稿するのですが,考えてみれば,そのころの経験が役に立っているかもしれません。
人前で話すのもずっと苦手でしたね。実は,「毎日話をしながら動画を撮影すれば,人前で話すのが少しは上手になるかもしれない」と思ったのも,動画投稿を始めたきっかけの一つなんです。少しくらい話すのに失敗しても,動画なら編集してしまえば大丈夫だろうと思ったんですね。動画を撮り始めたころに比べたら,確実に話すのもうまくなっています。小さいころから動画の投稿をしていたら,どんなにしゃべり上手になっていたか,と思います。
いろいろなことにチャレンジしてほしい
みなさんには,小さいころからいろいろなことにチャレンジしてほしいと思います。自分の興味のあることを見つけるためにも,いろいろなことをやってみるのが大切ですね。私の場合,撮ったこともない動画に興味を持って,チャレンジしたから今があるんだと思います。今や動画を撮ることは仕事というよりも,生活の一部になっていますね。だから,みなさんも私みたいに夢中になれることを見つけて,それを仕事にすればいいと思うんです。
ユーチューバーは,インターネットが普及し続ける限りなくならない仕事だし,一般人でありながらこんなふうに世の中に対して影響力を持てる仕事は珍しいのではないでしょうか。日本にも大勢いるユーチューバーの中で人気を集めて,動画を見てもらうというのは難しいですが,やりがいもあります。何より,好きなことをやって収入を得られるというのは,とても楽しいことです。ちょっとでも興味があるなら,一度動画を撮ってみるのもいいかもしれません。何事もまずはチャレンジですよ。ただし,動画を撮るときにはモラルとルールを守って,人が嫌がることをしたり,危ないことをしたりはしないようにしてくださいね。