※このページに書いてある内容は取材日(2025年01月23日)時点のものです
セルフネイルにも使ってもらえるハイクオリティなジェルネイルを作り出す
私は「énoi(エノイ)」というジェルネイルブランドと、東京の表参道にある同名のネイルサロンの経営者をしています。「énoi」とは、私が作った造語で、その単語自体に意味はありません。みんなに覚えてもらいやすく、文字にしたときにかわいく見えるように、アルファベットをランダムに組み合わせて作りました。
私のブランドで取り扱っている「ジェルネイル」というのは、ジェル状の合成樹脂でできたネイル用品です。ジェルネイルには、ジェルを塗るブラシ、ジェルを固める専用ライト、固めたジェルを削り取るヤスリやネイルマシン、固めたジェルを溶かす溶剤(アセトン)といった、専用の道具が多いうえ、それらを使いこなす技術が必要です。その分、マニキュアよりもきれいでおしゃれに仕上がり、長持ちします。
énoiの主力商品は、ジェルネイルに細かい鉄粉を混ぜこんで、これを磁石で動かして模様を作ったり、光る位置を調整したりする「マグネットジェル」です。ほかには、カメラのフラッシュなどの強い光を当てると反射してキラキラと輝く素材を混ぜた「フラッシュジェル」など、少し特殊なジェルネイルを取り扱っています。
ジェルネイルは、プロのネイリストに施術してもらうこともできますし、中には自宅で、自分でジェルネイルをして(セルフネイル)楽しんでいる方もいます。そこで、私はハイクオリティなジェルネイルを、プロだけでなく、セルフネイルをする方にも使ってもらえるよう、商品開発から製造・販売まで行っています。
新たなトレンドになることを目指してジェルネイルを開発
私はネイルメーカーとネイルサロンの経営者であると同時に、現役のネイリストでもあります。今でも土日はネイリストとして、月に50~60名のお客さまに施術をしています。平日は経営者として働いているので、忙しい日々を過ごしているのですが、仕事をうまく調節して、しっかり休む日も作っています。
サロンの経営者としては、売り上げや予算の管理、サロンスタッフの技術チェック、採用面接の部分に携わります。ネイルメーカーの経営者としては、会社経営はもちろんのこと、商品開発とイベントの企画運営にも力を注いでいます。
énoiでは新商品の開発は私がすべて行っていますが、特にタイミングは決めておらず、新しい商品のアイデアがひらめいたら行います。私自身がジェルネイルのトレンドを作っていきたいので、何かほかのものを参考にするということはありません。
例えば、「今回はミルキーなカラーを使ったマグネットジェルを作ろう!」とひらめいたら、最初に行うのは、色と色を混ぜ合わせて新しい色を作る「調色」という工程です。コンセプトに沿った100色くらいのカラーサンプルを製造工場に依頼して作ります。その中から、次のトレンドになりそうだと思える色を10~20色、私の直感で選びます。
「誰でもきれいにかわいく完成するジェルネイル」を目指しているので、ジェルネイルの質感や、塗りやすさにもとにかくこだわります。私が納得するものになるまで工場には何度も試作してもらい、最高の商品だと思えるものが完成したら、いよいよ製造開始となります。
SNSやイベントでénoiの魅力を発信
新しくジェルネイルを発売するときに必ず行っているのが、SNSでの発信です。私のインスタグラムアカウントの20万人以上(2025年2月現在)のフォロワーのみなさんに向けてライブ配信を行い、商品の魅力とともに、「とにかく楽しみにしていてね!」という思いを伝えます。そんな思いがみなさんに伝わって、新商品の発売と同時に完売することもしばしばあります。
そして、もう一つ行っているのがイベントの企画運営です。多くの人にénoiのことを知ってもらうため、ネイルイベントへの出展や、énoi単独のイベントである「énoi nail festival(エノイ ネイル フェスティバル)」を年に2回開催しています。このイベントはénoiの商品を直接購入できるイベントであると同時に、ファンのみなさんと私との交流の場でもあるので、ファンのみなさんと直接お話をしたり、一緒にチェキを撮ったりします。毎回、ファンの方がたくさん集まってくれて、楽しくて活気のあるイベントになっています。
さらに、現在は台湾、アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリアに、énoi製品を仕入れて流通させるサプライヤーがいるのですが、énoiが世界でも認知されるよう、海外のネイル用品の展示会にも積極的に参加しています。今後は活動範囲をワールドワイドに拡大させていく予定です。
残高わずか2万円からブランドスタート
実は、énoiはしっかり事前準備をしてスタートしたわけではありませんでした。2021年12月に、当時、代表を務めていたネイルサロンを急に退職せざるを得なくなり、私のお客さまや一緒に働いていたスタッフを受け入れるためのネイルサロンを急いで開業する必要があったのです。そこで、ジェルネイルを開発・販売してサロンの開業資金を作ろう、と考えてénoiを立ち上げることにしました。
もちろん、ジェルネイルの製造・販売にもお金が必要で、その額は800万円以上。ただ、当時の私の口座残高はたったの2万円で、そんな大金をすぐに用意などできません。そこで、まずは母に200万円借りて、残りのお金は銀行で借りることにしました。しかし、銀行でお金を借りるには「ちゃんと返せる見込みはあるのか?」「どうやって売り上げを出すのか?」といった根拠を示さなければいけません。そのため、銀行にお金を借りるのに必要な資料を周りの人たちの協力を得て100枚以上作成し、何度も銀行に足を運んで面談を重ねました。最終的には、銀行から900万円のお金を借りることができました。
ただ、もし商品が売れなかったら、私は1000万円以上の借金を背負うことになります。周りにそんな借金を背負っている知人はいなかったので、「商品が売れなかったら私はどうなってしまうのかな……」という不安もありました。
そんな不安を抱えたまま、無事に商品を完成させ、2022年4月にénoiの通販サイトがオープンしました。ジェルネイルの5色セットを1セット約1万円で用意していたのですが、サイトオープン後わずか1時間で商品は完売!約2800万円の売り上げを達成したのです。借りたお金の返済やサロンの開業を考えると2000万円以上の売り上げが必要だったので、その売り上げを1日でクリアできたことになります。
この結果を見て、これまでの苦労や努力が報われたような気がして、当日のインスタグラムでのライブ配信では思わず涙がこぼれてしまいました。
ファンのみなさんから届くメッセージがモチベーションに
初めての商品が売れた後、ブランド立ち上げの前に抱えていた不安や心配はすっかり吹き飛び、商品の梱包や発送などでとても忙しい日々を過ごすことになりました。その後も順調に資金が集まり、2022年7月には、念願だったネイルサロンをオープンしました。
ジェルネイルの売り上げは現在もとても好調で、énoiの売り上げの9割を占めています。「マロンマグネット」という商品を発売したときは、発売開始わずか30分で1億円の売り上げを達成したり、月の売り上げとして2億円を記録したりしたこともあります。こういうときはさすがに盛り上がります!
今の私が常に目標としているのは「前に発売した製品の売り上げを超えるジェルネイルを作り出す」ことです。生みの苦しみや「前の自分を超えなきゃ」とプレッシャーを感じることもありますが、そんな中でとても励みになっているのが、ファンのみなさんからいただくメッセージです。「今回の商品もとってもかわいいです!」「このジェルネイルはAKINAさんしか作れないです!」といった言葉をいただくと、「作ってよかった!」と心から思えるし、次の商品開発へのモチベーションにもなります。
最近では、ファンのみなさんがénoiのスタッフのことも気にかけ、応援してくれることも多くなりました。私やスタッフのみんなで一丸となって作り上げているブランドなので、「みんなと一緒にブランドを盛り上げているんだ」と実感できることも、とてもうれしく感じています。
お客さまやスタッフに喜んでもらえるように
経営者である以上、今より売り上げを伸ばしたいという目標はあります。ですが、それは自分が稼ぎたいからではなく、お客さまやスタッフに喜んでもらえるようにお金を使いたいと思っているからです。
8名いるスタッフに対しては、みんなが笑って仕事ができるよう、お給料や社員旅行という形で売り上げを還元しています。お給料では、頑張れば頑張った分だけたくさんのお給料をもらえる「完全歩合制」という仕組みを取り入れており、スタッフの約半数は年収1000万円を超えています。また、頑張っているスタッフ全員のために、600万円以上を費やしてハワイへの社員旅行をしたこともありました。
お客さまには、まずは喜んでもらえる商品を作り上げるためにお金を使っています。お客さまが満足できる商品をお届けできるよう、最高の商品になるまで妥協せず、お金も時間も十分に費やして取り組みます。また、イベントを行うときには、スムーズな運営をするための準備、お客さまにプレゼントするノベルティのデザインや手配など、お客さまが楽しめるイベントを目指してスタッフと一緒に準備を進めています。
このように、みんなの喜びにつながることにお金を惜しまず使うために働くことを、経営者としての私のモットーにしています。
ブランドオーナーに必要なのは、「みんなが喜ぶもの」を考える柔軟さと素直さ
現実的なことを言うと、ネイルに限らず、自分のブランドを立ち上げるには、たくさんのお金と、売れる商品を作り出すセンスが必要です。努力だけではどうにもならないことも多いので、誰にでもできるものではないし、決して簡単なことではないというのが正直なところです。それでも、「頑張って自分のブランドを作りたい!」と志す人がいたら、ブランドオーナーとして必要なのは「柔軟さ」と「素直さ」だということを伝えたいです。
私は自分のひらめきを大事にして商品開発をしていますが、「自分が好きなものを作ろう」と思ったことはないんです。いつだって、「みんなに喜んでもらえるものって何だろう?」ということを第一に考えています。だから、「自分が好きなもの」よりも「みんなが喜ぶもの」を考えられる柔軟さと、他人の意見を取り入れる素直さは必要だと思います。
プロダンサーからネイリストの道へ
私は物心がつく前から、水泳やバレエなど、毎日習い事をしていました。習い事の中で特に夢中になったのは、3歳のころからずっと続けていたダンスでした。高校時代にケガをしてしまいましたが、それでも諦めずにダンスに取り組み、高校卒業後は社会人チームでプロのダンサーとして活動していました。全国大会で優勝したり、200以上の国が参加する世界大会で銀メダルを獲得したりしたほか、テレビの歌番組でアーティストの方のバックで踊ったり、フロリダのウォルト・ディズニー・ワールド・リゾートでダンサーとして出演したりしたこともあります。
一方、私はダンサーをしながらネイルスクールにも通っていました。幼いころから美容に興味があり、ネイルをすることも好きだったので、趣味の一環として始めたのです。ある日、当時通っていたネイルスクールの社長さんから「うちでネイリストとして働いてみない?」と声をかけてもらいました。そのときは「誘ってもらったし、ネイリストになってみようかな」という気持ちで誘いを受け、しばらくの間はダンサーとネイリストとを両立しながら過ごしていました。
2つの仕事を並行していくのはとても忙しかったうえに、ケガが悪化してダンサーを続けていくことは難しい状況にもなってしまい、最終的にネイリストに専念するという道を選びました。
今の自分が好きなことを、全力でやってみよう!
今の自分があるのは、幼少期から何かを無理にさせられたりすることなく自由に過ごせていたからだと思っています。両親の教育方針もあり、昔から何かを強制されることはなく、そのときの自分が好きなことに、好きなだけ取り組むことができました。
今の自分が好きなことを精一杯やったほうが、自分の成長にもつながるはずです。何より、今の自分にしか見つけられない「好きなこと」もあるので、今の自分の時間を大事に過ごしてほしいと思います。そして、自分の好きなことが見つかったら、とにかく行動あるのみです!何事も「こういうことをしてみたいな」と思っているだけでは前に進みません。行動をするからこそ自分の可能性が広げられるし、行動して得られた経験や知識は、将来のみなさんの力になると信じています。
人生は一度きりです。みなさんも今の自分の時間を大事にして、好きなことを全力でやってみてください!