社会にはいろいろな仕事があるよ。気になる仕事や仕事人をたくさん見つけよう!
※このページに書いてある内容は取材日(2015年04月22日)時点のものです
私(わたし)の勤務(きんむ)している東産業(あずまさんぎょう)は,主に浄化槽(じょうかそう)の設置(せっち)や維持(いじ)管理を行っている会社で,工事現場(げんば)を担当(たんとう)している社員も沢山(たくさん)います。私(わたし)の仕事は,工事中に危険(きけん)だったり,機材の運搬(うんぱん)が大変だったりする作業場の問題点を見つけ出し,解決(かいけつ)できるような機器を開発することです。開発したものは実際(じっさい)に社内で使用して,何度もテストをしてから全国に販売(はんばい)します。商品開発のパターンは二つです。工事現場(げんば)の作業員から改善(かいぜん)案を聞いて開発を始める場合と,私(わたし)が現場(げんば)へ行って考えたことを提案(ていあん)する場合です。実際(じっさい)に足を運ぶことで,新しい発見をすることもありますので,現場(げんば)を見たり,沢山(たくさん)の意見を聞いたりすることは重要ですね。
商品開発の流れを簡単(かんたん)に説明しますと,工事現場(げんば)からの要望や,私自身(わたしじしん)が気づいた課題点を整理します。次にどのような機器があれば,その課題を解決(かいけつ)できるのか,というアイデアをまとめます。そしてラフスケッチを描(か)き,形のイメージを作り,パソコン上でデザインしてみます。社内で承認(しょうにん)が得られたら,設計図(せっけいず)を作り,製作(せいさく)工場に試作機の製造(せいぞう)を依頼(いらい)するのです。その試作機で,さまざまな実験をします。もちろん,実際(じっさい)の工事でも試験をしたり,意見を聞いて修正(しゅうせい)したりして,完成品となります。早い物では,企画(きかく)から半年ほどで商品になります。これは,他の会社の開発のスピードから比(くら)べるとかなり早いと思います。これほど早く商品開発ができる理由は,工事現場(げんば)で働く人たちが社内に沢山(たくさん)いることで,すぐに試験ができ,意見を聞くことができるからなのです。聞いた意見は,できるだけ早く商品開発へ反映(はんえい)させます。
何と言っても大変なのは,アイデアを出すことです。ヒントを得るために,本を読んだり,ネットで情報(じょうほう)を収集(しゅうしゅう)したり,会社の周囲を散歩しながら考えをまとめたりします。社内で一番アイデアが浮(う)かぶのは倉庫です。あらゆる機材や道具が並(なら)んでいるので,実物の道具を見たり触(ふ)れたりする間に思いつくことは意外に多いのです。社外ではホームセンターが一番です。さまざまな商品が山積みされているわけですが,それらの商品を手に取って思いを巡(めぐ)らせていると,ふと良いアイデアがひらめくことがあるのです。また,自宅(じたく)ではお風呂(ふろ)に入っているときや,家族で会話している時に思いつくこともあります。ですから,新商品のアイデアに悩(なや)んでいるときは,ほぼ一日中,常(つね)に物を考えているような状況(じょうきょう)なんです。
思いついたアイデアを商品にするのは,とても楽しい作業になります。誰(だれ)もこれまでに思いつかなかった物が,徐々(じょじょ)に商品として形になっていく。その過程(かてい)は何度経験(けいけん)してもわくわくするものです。その時の気持ちを例えるならば,今まで全く解(と)けなかったパズルが,次々(つぎつぎ)と解(と)けていく感じに似(に)ていると思います。そして,完成した商品が,現場(げんば)で実際(じっさい)に使われ,作業員の方から「便利になった」とか「効率(こうりつ)が良くなった」と言われたときは,とてもうれしいです。さらに,その商品が売れたりすると,この仕事をしていて良かったと心から思います。今後はさらに現場(げんば)で必要とされるアイデアを出していきたいと思っています。
私(わたし)が商品開発のアイデアを考えている時,常(つね)に思っていることは,他人のマネは絶対(ぜったい)にしないということです。少しでもマネをして楽をしようとすると,その人の発想力はどんどん減少(げんしょう)していきますし,考える力が身につかなくなります。そのような商品を作ると,他愛もない物しかできません。さらに,そのような仕事のスタイルでは,今までに見たことのない新しい商品というものは絶対(ぜったい)に生まれません。ですから,私(わたし)は商品のアイデアを考える時は,先入観を持たずに自分を無の状態(じょうたい)にしてスタートするようにしています。このようにしてゼロからスタートし,これまで誰(だれ)にも考えつかなかった商品を開発できた時,その商品には特別な存在(そんざい)価値(かち)が生まれるのです。
「手に職(しょく)をつけなさい」と私(わたし)の母は子どもの頃(ころ)から話していました。そんな教育方針(ほうしん)の家庭でしたから,家にはエジソンの伝記があって,それを何度も読みましたね。そのこともあって,小・中学生の時は,何よりも工作が好きな子になりました。しかし,高校に入ると,そういう親の押(お)しつけがうるさく感じられるようになり,バイクやロックにはまり,大学も,親の希望であった理系(りけい)ではなく法学部に進んだのです。そして大学を卒業して就職(しゅうしょく)したのですが,その仕事が全く面白くなかったのです。そこで思い出したのが子どもの頃(ころ)の工作の楽しさでした。それで会社を辞め,デザインの専門(せんもん)学校に通い始め,ものづくりの仕事を始めるようになったのです。
我(わ)が家(や)の教育方針(ほうしん)は徹底(てってい)したもので,おもちゃやゲーム機などは一切買ってもらえませんでした。簡単(かんたん)な遊び道具も買ってもらえませんでしたので,ボールが欲(ほ)しいと思った時は,紙を丸め,糸で巻(ま)いてボールを作ったり,ゴルフをしてみたいと思った時は,板を削(けず)り,ゴルフのパターを作ったりして庭で遊びました。木の枝(えだ)から釣り竿(つりざお)も作りましたね。子どもの頃(ころ)は毎日そんな風に遊んでいました。中学に入ると当時流行っていた漫画(まんが)「スラムダンク」の影響(えいきょう)で,バスケット部に入り,バスケ中心の生活になりましたが,それでも図工と家庭科だけは,いつも成績(せいせき)は5でした。
私(わたし)は,ずっと母が言い続けてきた「手に職(しょく)をつけなさい」という言葉の大切さに大人になってから気がつきました。その経験(けいけん)から言えるのは,大人の言うことは,まず聞いてみようということです。後になって,「なるほど」と思うことが必ず出てきます。私(わたし)の場合は,子どもの頃(ころ)からいろいろな物を手作りしてきましたが,今の仕事で,ラフスケッチを描(か)くときや試作品を作るときに,その経験(けいけん)がとても役に立っているのです。また,工場の機械の見えない部分までも想像(そうぞう)できてしまうのも,子どもの頃(ころ)の経験(けいけん)からくるものだと思っています。皆(みな)さんは,大人の話には耳を傾(かたむ)けながらも,これから沢山(たくさん)の経験(けいけん)を積んでください。きっと今の経験(けいけん)が将来(しょうらい)につながるはずです。